妹神と不思議なリモコン その3
妹神の去った後の虚空をしばらく見つめた後、身体を後ろに倒し大きく息を吐く。
いろいろと説明してくれたのはいいが、なんだか非常に疲れた。説明の内容自体もめちゃくちゃな状況を説明されたわけだし、理解というか情報の消化に体力を使わされた気分だった。
とりあえず分かっている情報を整理すると、まず僕の妹が死んでいて生き返るためにあの妹神とやらと契約して自分の存在を燃やした。そうして出来たリモコンを使って妹力とか言うふざけたネーミングのエネルギーを集める必要があって、それを集めるために他の世界の妹を救う必要がある。そして、僕の妹は現在それが出来ない状態にあるため代わりにそれする必要がある。ちなみに『救う』が何を意味しているかは相手によって違う……って、どうすればいいんだ、これ……。
まとめてみると余計訳が分からなくなってくる。いっそ全部冗談でドッキリ大成功と看板を持った人が現れた方がまだ納得がいく。とはいえ、彼女が嘘をついているようにも思えないし、きっと本当の事なんだろうけど……なんか、自分の頭がおかしくなったという可能性が出てきた……。でも、まずは言われたとおりに他の世界を見て回ることに決めた。もし、頭の方に問題があったとしても、僕自身にはどうこうできるわけでもないし。
思ったよりも疲労感があるのでちょっと休もう。その後退職と時間に余裕があれば、また後で世界を移ろう。
10分に満たない程度だが横になってどうするか考えていたが、結局やることがある状態で何もしていないもあれなので、時間の余裕が多いうちに移動することに決めた。
リモコンを目の前に掲げて、ダイヤルを回してスイッチを押しこむ。
謎の空間を通り抜けて、現れる妹の部屋と推定される場所の風景。二回目だがこのリモコンを使って世界を移った場合、とりあえず妹の部屋に転移させられるような気がする。だとすると、微妙に使いづらいような……。
確かにこの設定なら迷うことはないけど、年頃の女の子の部屋に入るのはどうなんだろう。せめて自分の部屋に飛ばしてくれた方がありがたいような……。
そんな文句を言う相手がいる訳でもないし、情報を集めるとしよう。
救うにしたって、どうしたら救ったことになるのか分からないんじゃ動きようがないし、相談するにしたって情報が必要だから、やっておくに越したことはない……アレへの相談は本当に役に立つのか分からないけど。
まずはこの家の中を見て回ろう。良く似ているし、僕の家だとは思うけど、世界が違うし妹もいる。もしかしたら違うようなところもあるかもしれない。
時刻は昼下がり。時間の流れや時差に大きな違いはないようだ。いまは留守のようて誰もいない。時間的に妹はどこか遊びに出ているのかもしれない。
誰もいないので、軽く家の中を見て回ったのだが僕の家と大きく変わった点はなかった。違いといえば、空き部屋が妹の部屋になっている事くらいだ。
結構大事になると思われる情報が一つ。それは玄関付近で見つけた。妹の名前だ。
表札には四つの名前が書いてあったので、妹の名前はすぐに分かった。
深鷹、これは父さんの名前。
清身、これは母さんの名前。
交藍、そして、これば僕の名前。
だから、残る名前は一つだけ。
響香……それが、僕の妹の名前だった。
記憶には全く存在しない。もちろん、その名前はあくまでこの世界での妹の名前であって、他の世界では……つまりは僕の妹の名前とは違うかも知れない。だけども、名前を知ることは大きな情報のはずだ。
あと、もう一つ気になることがあった。
仏壇だ。
仏壇自体は僕の世界の家にもあったが、うちのものとは違いこの世界にのものにはよく見慣れた顔が飾ってあった。
「そっか、この世界では、響香じゃなくて僕が死んでいたってことか」
毎朝、毎晩、鏡の中で見かける顔がそこにはあったのだ。
「思ったより僕と同じ顔をしているな。ということはあんまり僕の世界と大きく変わっていないのかもしれない」
このまま家の中にいてもいいけど、とりあえず外も見て回ることにした。もしかしたら本当に戦争やらなんやら起きているとも限らないし。多分そんなことはないとは思うけど。
外に出るために元の世界から靴だけ持ってこちらに来たが、やっぱりこちらの世界に来るときまず妹の部屋に着くようだ。
さっそく靴を履いて外に出てみたのはいいものの、しばらく歩いてみてもなんの変哲もなく、変哲がなさ過ぎるあまり、途中からただの散歩になってしまっていた。
なんとなく干渉モードで買い物して他の人から認識されていることを試したり、半干渉の状態で物に触れられるかとか試したりはしたので、やる意味がなかったというわけじゃないけど、ちょっとだけ徒労感を感じてたりはした。変に違う世界よりはいいし、同じような世界であると分かったことが大事なので、外に出た意味はしっかりあるとは理解してはいるけど、理解と感覚は別だ。
気を紛らわせるため更に一時間ほど散歩して、夕日が街を染めはじめる頃には、特になにも考えずにたまに歩く散歩ルートを歩いており、いつものルーチンを実行するように帰路を辿って家に帰って来た。
家まで付いた僕は、標識に書かれた文字を視界端に入れつつぼんやりとしながら扉を開いた。
「ただいまー」
いつもの癖でそう言ってしまってから気づく……先ほど視界端にあった標識に名前が四つだったこと、そして、自分の家では見ない靴。
そう、そこは、自分の家ではないことに。
長時間の散歩で完全にここが自分の世界でない事が頭からすっぽ抜けていた。
「おかえりー?」
僕の声を聞いてか、二階から誰かが降りてくる。女性のものだとは思うが、その声に聞き覚えはない。つまり、彼女は……。
その場を去るため急いでポケットに手を入れる……が焦ってリモコン落としてしまった。そして、拾って顔をあげたとき、彼女と目が……合ってしまった。
「えっと……」
言葉が詰まる。彼女は恐らく響香……この世界の僕の妹だ。
こんな不意のタイミングで、こんなふうに出会ってしまいなんと声をかければいいか分からない。
明らかにお互いにお互いを認識し合っている以上、今更リモコンを利用して逃げる訳にもいかない。
どうすればいいか、なんと言えばいいかそう思っていると、彼女がゆっくりと口を開いた。
「お兄……ちゃん……?」
震える声で彼女は僕を兄と呼んだ。
このまま無言を貫くのも、去るのもいけないだろう。なにか、早く何か言わなければ……。
「お、おじゃましてます……」
その結果、僕は苦し紛れにそんなことを言っていた。




