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妹ちゃん☆ねるダイヤル  作者: 塩鮭 亀肉
第一の世界
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妹神と不思議なリモコン その2

 昨夜は仮眠してから適当に夕飯を済ませ、週末向けの宿題をやるだけやってすぐに眠った。

 土曜日の朝……もとい昼前。仮眠の時間が思ったより長かった事やプリント二枚だし終わらせてしまおうと思っていた宿題の文字が小さめで問題がびっしりあったこともあって、目覚めたらこんな時間になってしまっていた。


 朝食兼昼食を軽く済ませて、自分の部屋に戻って机の上になげだしてあるリモコンを手にとった。


 全体的な大きさはテレビのリモコンと同じくらいだが、ダイヤルが付いているせいで妙に立体感がある。

 昨日、というか、寝る前に宿題を全部終わらせたのは、手に持っているこれを試すためだ。あの説明書みたいになったら、寝込むかもしれないし。

 とりあえず、最初は昨日聞いた通りに動かしてみよう。


 小さい方のダイヤル動かし、ツマミの先の矢印を1を指している事を確認する。これが非干渉の対応する番号だったはず。次に大きなダイヤルを矢印の指す番号が⓪から①になるように動かす。


 これで後は横のスイッチを押しこめば別の世界に行けるらしい。にわかには信じがたいところだけど、このリモコンを手に入れた経緯からするとある程度その性能を信頼できるのが困る。


 どうなるか分からないので押すのは怖いのだが押さないことには何も始まらない。

 思い切ってリモコンを握る手の親指に力を入れる、すると視界は一転する。


 体に浮遊感を覚え、風景は某子守用ロボットに登場する時間移動装置での移動経路のような不思議空間さながらの物となった。そんな時間もわずか数秒。ほんの三秒にも満たない僅かな時間だった。


 またしても視界が一転する。目に入って来た風景はまるで女の子の部屋のようだった。いや、これは事実女の子の部屋な気がする。だって、部屋のハンガーにはうちの近くの中学の女子制服がかかっているし……


 埃が積もっている様子も見えないので、この部屋には今も住人がいるはずだ。今はたまたま不在だったけど鉢合わせする可能性もある。これは非干渉状態で世界を移ることを妹神がお勧めするはずだ。


 しばらく部屋の観察をしてから思ったが、女の子の部屋をじっと観察するのはあまり良いことではないのではと思ったのと、ここがどこなのかも分からないというのもあって、とりあえずは部屋から出ようと思ったのだが、この部屋に既視感を覚えた。


 当然ながら別の世界であるこの部屋へ一度も訪れたことはないし、この部屋の風景を見たこともないはずだが何か既視感を覚えたのだ。

 少し考えて、その既視感の正体に気づいた僕は扉の外の廊下に出ようと足を進めた。


 ドアノブを掴もうとするもすり抜けてしまいドアを開けられなかったので、どうしようかとも思ったが、よく考えたら、すりぬけられるならドアもすり抜けてしまえばいいことに気づき、試してみるとあっさりすり抜けることができた。


 ドアを抜けた先で、想像通りの光景が目に入る。視線を左右に向けても予想通りの光景だ。

 もしかしてと思い、となりの部屋に入ってみるとそこには、自分の部屋があった。


 ここは僕の家だ。この世界における僕の家だ。

 つまり、最初に見た部屋はこの世界における僕の妹の部屋ということだろうか。


 自分の世界では空室だったが、この世界では誰か女性、それも中学に通っているであろう女性が住んでいる。こうなってくると妹神が言う『いないことになっている妹』の存在も嘘ではない気がしてくる。


 少しして冷静さ取り戻してから、これからどうしたものかと廊下に出る。


 落ち着くために今の状態やこれからどうするかなどを考えていたら、ふとあることに気づく。


「そういえば、ドアはすり抜けられるのに、なんで床はすり抜けないんだろう」


 そう頭で考えたのが不味かったのか、とたんに視線が急に落下し始める。そう、身体が床をすり抜けたのだ。


「まずい」


 早口でそう一言呟いているうちに一階の光景が目に入る。このままで落ち続けると思い、止まれと心の中で念じたら、身体が宙にあるにもかかわらず落下は停止した。


 どういうことかとも思ったが、この世界の物に一切干渉できないなら、身体を思い通りに動かせるという事なのではないかと考えた。

 試しに上に向かうように考えてみると身体は徐々に上へ登り始めたので、これは間違いないだろう。


 これは便利な状態かもしれない、覚えていたら活用していこう。まあ、慣れないし、普段から使って日常生活でおかしな施行になっても困るから、普段はこういったことは意識しないで地面を歩く感じでいこう。


 床に足をつけ、これからどうするか考えるが、結局のところこの世界で何をしたらいいか詳しい事が分かっている訳でもないので、とりあえずは元の世界に帰った方がいい気がしてきた。


 妹神を名乗る彼女は、次に会うのは行って帰ってきたあとというようなことをいっていた気がするし、もしかしたらなにかしら説明を貰えるかもしれない。


 大きいダイヤルを回して、別世界に来たとき同様に謎空間を経由して元の世界に戻った。戻った先は先ほど見た部屋と瓜二つの自分の部屋だった。


 特に何かしたというわけではないが、疲労感を覚えベッドに腰を掛ける。


 とりあえずは無事に帰って来られたという安心感からか大きく息をついたところで、吐いた空気を吸うよりも先に部屋の中央のなにもない場所が白く輝く。これは間違いない、彼女が現れるのだろう。


「やっほー、おかえりなさーい、おにいちゃーん」


 昨日同様に何の威厳も感じられない様子で光の中から彼女は現れた。


 いまさっき戻ってきたというこのタイミングで彼女が現れたということは、なんらかの力か作用でリモコンを使ったことを察知できるのかもしれない。


「さて、おにいちゃんは基本的な非干渉モードでの体の動かし方を覚えたかな、それとも分からず慌てて戻って来たかな?」


 僕をとりあえずあの世界に向かわせたのは、口で言うよりまずやってもらってということだったのかもしれない。


「最初はびっくりしたけど、なんとなくは分かったよ」

「うん、それは良かった。ものに触ることはできないけど、意識は大事だから何かに腰を掛けたり、寄りかかったり、床の上歩いたりとかはそういう風に考えることでそうなるように体を動かせるから上手く活用してね」


 まるでゲームのチュートリアルのような口調で彼女が説明する。


「そ・れ・と、とりあえず妹ちゃんに会えたかどうかは分からないけど、たぶん妹ちゃんの存在はある程度信じてくれただろうし、今日はその辺りの事情やらの説明を詳しくしていくね」


 ごく自然な様子で妹神は隣に腰を掛ける。


「さてと、まずはおにいちゃんの妹ちゃんに付いて説明しようかな」


 なぜ体面にあるイスではなくベッドに腰を掛けたのかは知らないが、それについてたずねて話の流れを変えるのもあれなのでそのまま会話をすることにした。


「僕の妹について?」

「うん、この世界の妹ちゃんについての話。どうして消えたのか、そして、おにいちゃんが思っている、もしくはこれから思うかもしれない、なんでおにいちゃんが動かないといけないか、とかね」

「そういえばそれもそうだね」


 胡散臭いけど一応は超常的存在らしい神を名乗るものに言われたのでその通りに動いたけど、確かになんで僕がリモコンを使って別の世界に移動しないといけないんだろうか。


「あはは、おにいちゃんのおっひっとよしー、まぁ、今日はそんなお人よしのおにいちゃんのために、私が色々と説明してあげる日だよー」


 ニコニコとした表情で彼女が話し始める。


「えっとね、まず、お兄ちゃんの妹ちゃんのおはなしからね」

「うん」

「昨日話した通り、今はこの世界にはいません。存在も消されています。なのでお兄ちゃんも全く覚えていません」


 彼女は非常に不思議なことを話しているが、リモコンの特異性、別世界の存在、そして目の前の彼女自身がそもそも不思議そのものと呼べる以上、ファンタジックだからスピリチュアルだからという理由で、いまの僕はその言葉を否定できない。


「それで、もちろんですが妹ちゃんがそうなったのには理由があります」


 大事な事を伝える為か、一区切りするようにフッと息を吐き、ある種の決め台詞かのように続きを口にした。


「彼女はある日死んでしまいました」


 少しだけ僕は戸惑った。今はいないし、実感もそこまで持ててはいないが、身内が死んだと聞かされてほんの少しだけど、僕は動揺しているらしい。


「死んだ? 僕の妹が?」

「うん、そう。あっさりと、彼女は物すごくあっさりと死んじゃったの」


 じゃあ、彼女は僕に妹を生き返らせろと言っているのか? だとして、今話した事と存在が消滅している事との繋がりも見えてこない。


「でも、彼女はまだこの世界にいたかったと強く願ったの、だから妹神はその願いを叶えることにしたの。ふふん、私ってやさしー」


「余計な茶々はいいから、続きをお願い」


 いたであろう僕の妹が死んでいるというのにおちゃらける彼女を見て、なんだか馬鹿にされているような気がして少しだけとはいえ、つい語調が強めになってしまった。


「むー、もうちょっとほめてくれてもいいのにー……とはまぁ、言わないよ。ただじゃないんだし」


 わざとらしい拗ねた様子を見せたかと思えば、彼女はすぐに真面目な表情を作った。


「ただじゃない……どういうこと」


 さっきの僕の言葉のせいで機嫌を損ねたのかもしれないと恐る恐るそう声をかけてみる。


「昨日言ったでしょ、妹力(いもうとりょく)を集めてもらうって。それは妹ちゃんを復活させるのに必要なエネルギーなの。そしてそれを集めてもらうために様々な世界の妹を救う必要があるんだよ」


 そこまで言うと彼女はニコリと笑う。どうやら機嫌を損ねたわけではないらしい。その様子を見て少しだけ安心した。彼女の言っていることはよくわからないけど……


「でもなぜ僕が救う必要があるの? もしかして、そうしないといけない理由があるとか……」

「その通り!」


 妹神はそう言いながら勢いよく立ち上がると僕と向き合った。


「まずね、妹ちゃんが消えた理由から説明するとね。妹力を生み出すために自分の存在を燃やしたからだよ」

「それは……どういうこと?」


 それが何なのかはともかく妹力というものが必要なのは分かったけど、それを生み出して自分が消えたら意味がないような……


「うん、まぁ、そういう反応しちゃうよね。でも、もうちょっと先まで聞いてくれると嬉しいな」


 彼女が僕の手からリモコンを取り上げると、それを目の前に突き出してくる。


「このリモコン……簡単にパラレルワールドに飛べるすごい機械だと思わない?」

「それは、そうだけど」

「そんなものがただで作れるわけがないんだよ。だからね、それを作るために妹力が必要だったんだ。だから彼女は自分の存在を燃やして妹力を発生させたっていうことだよ」


 そこまで話すと、じゃあ返すねといってリモコンを手渡される。

 僕の妹が存在を燃やして作ったと言われると、これが形見を通り越して、妹そのものなのではないかとも少し思えてくる。

 僕の妹はこのリモコンと引き換えにこの世界からいないものにされたということは、とりあえずのところ理解できた。


「もしかして、僕がこれを使って妹力を集めないといけないのって」

「うん、彼女自身が妹力を集められない状態にあるからだね。でもね、この契約は私と彼女との間に結ばれたものだから、本当は妹力集めも一人でしないといけないんだ。でも彼女はそれができる状態にない。だから、温情として最も彼女に近い人物一人だけは特例として協力させてあげることを許可したんだ」

「だから、僕が選ばれたって事?」

「せいかーい、だから、お兄ちゃんは妹の意志を汲んで、最後まで頑張らないといけないんだよ」


 あまりにも唐突で、あまりにも多い情報だ。それを頭の中で処理しきれていなかったが、なんだか僕がやらなければいけないことである気がした。


「ふふーん、やる気だねー、やっぱりお人よしなうえ流されやすいおにいちゃん。そんなおにいちゃんのこと、私は好きだよー。無駄に頑固で意地っ張りなおにいちゃんよりも何倍も好きだよー」


 これは、からかわれている気がする。からかわれているのは分かるが、それとなく好意も感じてはいる為、嫌な気持ち半分嬉しさ半分といったところだ。


「だから、お兄ちゃんが妹をよみがえらせるまでは、特別に私が色々とサポートしてあげるよ」

「サポート?」

「うん、相談に乗ったり、そのリモコンについて色々とやってあげたりとか。まぁ、規定があるから別の世界には付いて行ってあげられないけど、この世界で出来る分にはいろいろとね」


 神様のサポートが得られるなら、と思ったけどこの世界から離れて付いて来てくれるわけではないらしい。でも、神様というくらいなので期待してもいい気がする。


「その他には何かしてくれるの、救うための手伝いとか……って、そういえば聞きそびれていたけど、救うってなんなの。具体性に欠けるというか……」


 救うという単語は、単語としての力が強すぎる。それでもって、目に見えてピンチに陥っていたりしている状況ならともかく、チラッと見ただけだがさっき行った世界は戦争を行っているようにも思えなければ何か大きな事件が起きているようにも思えなかった。


 いや、実際そんな世界だったなら救うと言う事自体が困難だから困るといえば困るのだが、こうも分からないのは困ったものだった。


「んー、そんなことー、それは、まぁ、ほら、人によると思うよー、その世界の妹ちゃんの抱える悩みとか解決していけばそのうち救ったことになるはずー」


 しどろもどろな返答をしながら、急に視線を泳がせ始めた彼女は2、3歩後ろに下がった。


「なんでそんな適当なのさ……」


 彼女の言うサポート自体がなんだか不安に思えてきたんだけど。そう言えば、結局サポートって何をくれるんだろう。こっちも聞いておかないと。


「あのサポー……」

「さて、それはともかく、これから何ヶ月になるか分からないけどよろしくね、おにいちゃん」


 僕の言葉を遮るように早口でそう言ったあと、ニコッと笑みを浮かべ、

「あ、ちょっと、まっ……」


 僕の静止の言葉を最後まで聞くことなく、彼女は光の中に消えてしまった。


 なんだか言いたいことだけ言って帰って行った、そんな感じの印象を覚えた二回目の不可思議存在との邂逅だった。


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