一話・妹神と不思議なリモコン その1
突如として目の前に現れた電波な少女は謎のエネルギーで宙に浮いている。そのせいで頭のネジの外れ具合よりも先に非常識な存在である方に気が向かう。
「ふははははー、私は妹神。全妹を総べる神なのだー」
全体を通しての言葉の意味は全くもって理解できないけど、その台詞から部分的に拾った情報によるとどうやら彼女は神様らしい。
「えっと、どんな御用でしょう……か?」
我ながら普通過ぎる質問だなとおもったが、いろいろと理解が追い付いていない以上これ以上の言葉は思いつかない。普通過ぎて、仮に相手が本当に神様なら逆に異常かもしれないけど。
「うーん、そうだねー、その質問に対しての回答をクイズにしてもいいんだけど、おにいちゃんはそういうの求めてなさそうだし、さくっと回答するけど」
彼女はそういうと両手を腰に当てて胸を張る。
「おにいちゃんには妹を救って貰います!」
一瞬の静寂。蒸し暑いはずのこの部屋に、一瞬だけ冷気が満ちたようにも思えた。
「??????」
そして僕はというと、その言葉に自然と首を傾げてしまっていた。
自分のその行動に、オーバーアクション以外でも首を傾げるんだなーと思った。
「えっと、どういうこと……かな」
とりあえずまるで意味が分からなかったのでそうきいてはみたけど。
「うん? 言った通りだけど」
のぞんだような返答は返ってこなかった。
「いや、理解できていないんだけど……」
「まぁ、そっかー、やっぱり順序立てて説明しないとかー」
分かっているのなら最初からそうしてほしかったとは思うけど、拗ねられて口を紡がれても困るので黙っておくことにした。
「そうだねー、まず、おにいちゃんには妹がいます」
そう言って妹神が人差し指を立てる。
「いや、いないけど」
前提の時点で間違っていた。
僕に兄弟姉妹はいない。一人っ子だ。
「うーん、そうだねー……まぁ、そんなんだけどー……そうなんだけども、まー、いるんですよ、うん」
言葉を詰まらせながらいると伝えられても、こっちとしてもどう反応すればいいのか分からない。
「僕に妹はいないと思うんだけどな」
「そこはー、ほら、あとで説明するから、ね、とりあえずいるって事にしておいて」
「あ、うん」
ということで、今から彼女の話の間は僕に妹がいることになった。
ここで反発しても話が進まなさそうだし、しかたないよね。神様の言うことは聞いておこう。
「それで、二つ目」
そう言って中指も立ててピースの形にする。
「その妹ちゃんは今この世界に存在しません」
「やっぱりいないんじゃん」
つい、口を出してしまった。いや、だってさっきと言っていることが真逆だし。
「うん。そう、今は……でも、確かにこの世界にお兄ちゃんの妹はいたんです」
「うん?」
ここで強調して言われた『今は』という言葉が気になった。
「そう、おにいちゃんも忘れている、世界から存在を消されたその妹ちゃんを救うのがおにいちゃんの役目です」
ビシッ、決めポーズのように左手でこちらを指差す神様。しかしながら右手がピースサインのままだったので微妙に決まっていないように感じる。
「……え、えっと、どういうこと」
「うん、そうなるよね、だから……これが一番大事な三つ目です」
そう言って彼女は薬指を立てる。
「妹ちゃんを救うためにはおにいちゃんは、妹ちゃんたちを救わなければいけません」
「なにその頭痛が痛いみたいな言葉は」
またしてもつい口を出してしまった。
彼女の言葉から、なんとなく複数いることは分かったんだけど、内容を理解しきるには説明不足が過ぎる気がする。
「そうだね、ちょっと言葉が足りなかった」
ちょっとどころではなさそうだけど、今度はちゃんと心の中にその言葉をしまっておくことができた。
「お兄ちゃんはこの世界の、つまりはお兄ちゃんの妹を救う必要があります」
「うん」
「そして、それを成し遂げるためには妹力というエネルギーが必要です」
「うん?」
「そのために他の世界の妹たちを救う必要があります」
「ん?」
「なので頑張ってください」
「えっと?」
意味不明の情報を沢山受け取ってしまったため、どうしたものかと文字通り頭を抱えていると、彼女は服の中からなにかを取り出した。
「じゃじゃーん、はいどうぞ」
服の中から取り出されたなにかを賞状授与の時のように風にこちらへ差し出してくる。
何かわからないものを受け取るのには不安感はあったが、話を進めるためには必用そうだったので、とりあえず受け取っておいた。
正直どうやって服の中で落ちないように留めておいたのかは分からないサイズのものだった。隠し持っておくにしても、服が膨らんで分かりそうなものだが、取り出す前と後で外見の変化はない。
渡されたものは未だに少し温い。それは大き目なダイヤルが二つ付いている板状のものだった。二つのダイヤルの内一つは10個、もう一つは3つの指定が出来るようになっている。
この数の違いは何なのか考えながら眺めていると、横の方にボタンのようなものも発見した。
「えっと、これは?」
「リモコン」
「なんの?」
「世界のチャンネルを切り替える」
「どういう事?」
「あー、えっと、ちょっと待ってね」
彼女はごそごそと服の中から説明書のようなものを取りだしてそれを読み始める。
「えっとね、とりあえずは操作しないで説明を聞いてほしいんだけど」
よく分からないものを触ろうとは思わなかったけど、それを聞いて少し怖くなったので、彼女がリモコンと称したそれを窓近くのスペースにそっと置いた。
「まずね、その上の方にある大きい方のダイヤルはチャンネルの操作の奴で、それを回して世界……つまりはお兄ちゃんの向かう世界を切り替えられる。今は0番にセットされているでしょ、それはこの世界の事ねー、まぁ、別にダイヤルを0世界に合わせなくても、電源スイッチをオフにすれば帰って来られるから、あんまり使わないと思うけど覚えておくといいことあるかもね」
「良い事って?」
「さぁ?」
あ、これは恐らくだけど、流れに合わせて彼女が適当言っただけかも……なんとなくだけど、そう感じる。
「そういえば、電源スイッチはリモコンの横についてるボタンの事かな?」
リモコンを手にして、横に付いたボタンを指差してたずねてみる。
「うん、そうそう、それ。今はオフになってるから平らになってるけど、凹んでいる状態はオンの状態だから気を付けてね」
「気を付けるって?」
「うん、オンになっている状態でさっきのダイヤル動かすと世界を移動しちゃうから」
うわ、怖っ……。お手軽ワンタッチでそんな大それた事象が起きるのは怖すぎる。リモコンまたそっと元の場所に戻す。
「それと小さめのダイヤルの方はモード切替用のもので、えーと……説明書読むとね、①観察、②半介入、③介入ってあるけど、分かりやすく説明するとして……そうだなー、じゃあ、それぞれ非干渉、半干渉、干渉って呼ぶね」
説明書あるならそっちを読ませてほしいなぁ、とも思ったが、そんなこと言おうものなら、話しが脱線していく気配を感じたので、素直に彼女の説明を聞くことにした。
聞いた話を要約すると、3つのモードにはそれぞれ使い方があって、『非干渉』はあっちの世界をのぞき見ることはできるけど、物体に干渉することはできない覗き見専用のモードで、あちら側からこちらの存在を認識できないので情報収集には便利なモード。
次に『半干渉』は物に触れられるらしいが、あちらの世界の妹に相当する存在以外からは認識されないモードで、物とか下手に持ったり、足音を立てて歩くとまるで心霊現象のようになるから気を付けて使った方がいいけど、妹とだけやり取りをしたい時には便利なモードらしい。
そして最後に『干渉』のモードであるが、この状態だと普通にものに触れるし、あちら側の誰でも認識できるようになるらしい。要は完全に移動したような状態になるモードで、あっち側で妹以外の人物とやり取りをするときに使用するモードであるらしい。
これら3つのモードの話を聞いたあと、説明書あるなら読ませてほしいとダメもとで頼んでみたらあっさり渡してくれた。
まさか渡してくれるとは思っていなかったので、不思議に思いながらも開いてみると、その中身は一見すると日本語のような文字が書かれているように見えたが、いざ読もうとするとそれが何なのか分からなくなるという不思議なものだった。
何度か読もうとしたのだが、何度読もうとしても理解ができず、そのうちめまいがしてきて、気持ちが悪くなってきてしまった。
これは読めないなと彼女に返したら、「やっぱり読めなかった?」とくすくすと笑っていた。どうやら彼女にはこうなることが分かっていたらしい。
「さてと、ある程度説明したかな」
「まぁ、いろいろ足りてないけど、必要最低限は……多分」
その場に腰を下ろしつつ、吐き気をこらえながらなんとか言葉を返す。
「うーん、おにいちゃんも気持ち悪そうにしているし、次回レクチャーはおにいちゃんが試しにあっちの世界に行って帰ってきてからかな」
「誰のせいでこうなっていると……」
「おにいちゃんが説明書読みたいって言ったからじゃーん。じごーじとくー」
唇をとがらせてそういう彼女が微妙に憎たらしいが、体調が悪すぎてそれどころではない。
「そうだけど……分かっているなら止めてよ……」
「いやー、読めないことは分かっていたけど、まさかそこまで気持ち悪くなるとは思ってなかったから、ごめんね」
まぁ、確かに読みたいと言ったのは自分だし、そこまで責める気はないけど。
「さてと、私、妹神は今日のところは帰りたいと思うんですけど、何か質問ありますー?」
「うーん、聞きたいことは色々あるけど、まず、その妹神って何?」
とりあえずはそこだ。聞いた事もない神様だが、なにをする神様なのだろうか。
「海の神様は海神さま、軍の神は軍神さま、それと同じで私は全妹を総べる神、妹神さまだよー」
聞いて余計に分からなくなった。範囲が広いのか狭いの良く分からないあたりが絶妙に意味が分からない。
「それじゃあ、もう一つ、なんで僕の事おにいちゃんって呼ぶの?」
「それは私が妹神だからだよ、妹神は神様であると同時に全世界のお兄ちゃんお姉ちゃんの妹でもあるからね」
ふふん、と胸を張る妹神様。
「なんかニッチな神様である割に随分とスケールは大きいんだね」
「ふふん、妹神は最高の神様だからね。位はソコマデデモナイケド……」
聞いたことないだけにやっぱり階級そこまでもないらしい。
「まぁ、じゃあそんな感じかな……それじゃあお別れとなる訳だけど、アドバイスを一つ」
と口にしながらも半透明になり始めた妹神。こういった非現実的現象を見せられると、こんな馴染みやすいというか、あんまり偉そうにしないキャラクター性の割にやっぱり神様ではあるんだなと思わされた。
「えっとねー、世界を移動する際は非干渉状態で移動することをお勧めするよ、あと、最初は偵察にだけに収めてくるといいんじゃないかな、まぁ、そうじゃなくても非干渉状態で移動した方が何かと便利だとは思うけど、それじゃあねー」
それだけ言って、完全に姿が見えなくなってしまった。
彼女との邂逅は終わってみれば、あれは熱中症で見た幻覚か、白昼夢だと言われた方がいっそのことまだ真実味があるものだったが、手元に残されたリモコン(と彼女が言っていたもの)がアレは現実だったと強く証明してくる。
なにもない空き部屋を出て、隣の自分の部屋に入ると、部屋の中の空気は十分に冷やされており温度差で最初は肌寒くすら感じた。
ほんの少しだけ温度の上がった牛乳を飲みながらリモコンを眺める。
「リモコンという割にはなんというか、昔のテレビの横についていたダイヤルみたいだよね、これ」
もちろん実物は見たことないけど、なんとなくそれっぽい感じがした。彼女もチャンネルだとか電源だとかそういう言い方してた辺り、少なからず意識していそうなものだけど。
でも、そうだとしたら、彼女は意外と情報が古いのかも。神の世界の時間の基準が分からない以上、実際どうなのかは分からないけど。
とりあえず、言われたとおり世界を移るというものを試してみようとは思ったが、まだちょっと気持ち悪い事もあって、とりあえず夕食まで眠ることにした。




