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9話。【植物王】で街を食糧難から救う

「小麦が、小麦がこんなに大量に!? ど、どうなっているんですか、お兄様!」


 ミリアが目を白黒させている。


「俺のスキル【植物王ドルイドキング】は、植物を召喚できるんだけど……まさか、こんなに出てくるとは思わなかった」


 スキルが強化されて、一度に召喚できる植物の量が10トンになったようだ。これはまた、すさまじい量だった。


 しかし、疑問が湧く。これだけの量の小麦が、一体、どこからやってきているんだ?


『【植物王ドルイドキング】によって喚び出される植物は、【世界樹】によって生み出されたモノです』


 システムボイスが俺の疑問に答えた。

 なに? どういうことだ? 確か世界樹は、この世界の植物の繁栄をつかさどっていると伝説にあるが……

 わざわざ【世界樹】が俺のスキルのためだけに植物を生み出してくれているのか?


 さらなる疑問が湧くが、それに対する返答はなかった。

 システムボイスは、あくまでスキルの使い方を教えてくれるモノだからだろう。


「ご主人様、すごいです! これなら、誰も飢えずにすみます!

 ああっ! 早くご主人様をエルフ王として、みんなに紹介したいです!」


 コレットが大興奮していた。

 いや、エルフ王にはならないって……


「まさか、このような奇跡が……無から小麦を生み出すなど、神の御業ではありませぬか!?」


「おおっ! これだけの量があれば、冬を越せる! 腹いっぱい食うことができるぞ!」


「アッシュ様、ばんざい!」


 領民たちも、大喜びしていた。抱きあう若者や、踊り狂うおじさんなどもいる。

 こんなに喜んでもらえるとは思わなかった。


 【植物王ドルイドキング】は戦闘向きではない外れスキルだと、最初はガッカリした。

 だけど、このスキルのおかげで、俺の故郷の人たちを救えたし、【植物王ドルイドキング】を獲得できて良かったと思う。


「お兄様! お兄様は、やっぱり私のヒーローです!」


 ミリアが俺に向かってダイブしてきたので、慌てて抱きとめる。

 うわっ、柔らかい。ミリアも意外と大きく成長しているんだな……って、何を考えているんだ、俺は。相手は妹みたいなモンだぞ。


「あっ、ずるい。リルも!」


 リルも俺にタックル──というか、抱きついてくる。


「ぐぇっ!?」


 神獣フェンリルのバカ力に、思わずよろめく。筋力が80%も落ちている俺には、リルのスキンシップは強烈すぎた。


「えっ!? あなた何? 私のお兄様と、どういう関係なのよ!?」


 ミリアがリルに問いただす。


「リルは、あるじ様の配下。あるじ様のバナナを食べるのが好き!」


「はぁ!? な、何を言っているの? まさか、まさかぁ……お兄様、違いますよね!? お兄様は、清らかな身体のままですよね!?」


「違う! 変な誤解をするな! てっいうか、お前ら俺に抱き着きながらケンカするのは止めろ!」


 俺は仲裁しようとするが、ミリアがさらなる火種を見つけてしまった。


「はっ!? こ、この娘、マントの下は何も身に着けていない……!? ちょ、ちょっとそんな格好で、お兄様に抱き着くなんて。何を考えているのよ、変態!?」


「変? あるじ様から、リルはこの格好でいろと言われた!」


「だぁあああっ! もう余計なことは言うな! 誤解だぁ!」


 俺が社会的に抹殺されかけた時だった。


「は、離してください!」


 コレットが騎士たちに手錠をかけられているのに気づいた。


「お、おい、何をしているんだ!?」


 俺は慌ててミリアとリルを振りほどいて、コレットの元に駆けつける。


「アッシュ殿。申し訳ありませんが、お連れ様には【魔法封じの手錠】をかけさせていただきました。領民たちを安心させるためです」


「このお方はエルフの王女を名乗られました。エルフの王族は、例外なく強力な魔法の使い手です。事情を聞くにも、その強大な魔力を封じなくては、とても安心できません!」


 騎士たちはコレットに対して、強い警戒心を抱いているようだった。


「だからって……コレットはこの街を守るのに協力してくれたんだぞ」


 無論、彼らの言い分も理解できた。

 昔からエルフと小競り合いを繰り返してきた歴史的背景に加えて、エルフが侵攻してきているのだ。

 コレットを信用しろと言っても、感情的に難しいだろう。


「ご主人様、大丈夫です。エルフたちがこの街を襲ったのは事実。わたくしを見て、不安に思うなという方が無理でしょう」


 コレットは、ミリアに対して殊勝に頭を下げた。


「ミリア様……わたくしをどう扱っていただいても構いません。その代わり、先程、連行されたエルフたちには人道的な扱いをお願いします!」


「むっ……あなたがエルフの王女というのは、本当なの?」


 ミリアもコレットのことを警戒しているようだった。

 エルフの王女と聞いて、街の人々のコレットを見る目も厳しくなっている。


「わたくしはコレット・アルフヘイム。世界樹の加護を受けし、誇り高きエルフ王家の者です。嘘偽りは申しません」


 あくまで毅然とした様子で、コレットは名乗る。そこには犯し難い威厳が感じられた。


「ミリア、悪いのはエルフの王座を奪って、ルシタニア王国を侵略しようとしているキースって、ヤツなんだ。コレットに罪は無い。そこは理解してやってくれないか?」


「ご主人様!」


 コレットが感激に目を潤ませる。


「お兄様が、そうおっしゃるのであれば……ただ、しばらくはコレット王女には【魔法封じの手錠】を付けていただきますし、監視の騎士も置きますが、よろしいですか?」


「構いません!」


 間髪を容れずにコレットが答える。


「事情があってこの場では申し上げられませんが。後ほど、罪滅ぼしのご提案をさせていただきたく思います。なにとぞ捕虜たちには、無体をされませぬようお願いいたします」


「……わかったわ」


 ミリアは頷いた。

 コレットの王女としての振る舞いには、感じ入るものがあった。この娘は、いろいろとアレだけど……良い女王になれそうな気がする。

 俺は続けて提案した。


「小麦の次は、怪我人の治療だな。エリクサー草を出せるだけ出したいと思う」


「えっ? 小麦だけでなく、エリクサー草まで出せしてしまえるんですか!?」


 ミリアが愕然としている。


「アッシュ殿! 籠を用意いたしましたので、できればこの中に!」


 兵士たちが小麦を入れるために用意したのか、大きな籠を持って走り寄ってきた。

 エリクサー草は貴重品だから、丁重に扱う必要がある。


「よし。いでよエリクサー草!」


 俺はエリクサー草で籠をドカンと満たした。

 すると、またもや大フィーバーが起こった。


「え、エリクサー草が、こ、こんなにいっぱい!」


「すげぇ! みんなこれで助かるぞ!」


「こ、これ、本当にタダでもらって良いんですか!?」


「もちろん。好きなだけ使ってくれ」


「「おおおおおっ!」」


 俺が許可すると、みんなの興奮は最高潮に達した。


『スキル熟練度を獲得しました。

 スキル【植物王ドルイドキング】、Lv3の解放条件を満たしました!

 【植物の効果無効化】能力が、使用可能になりました!』


 その時、システムボイスが、さらなるスキルの進化を告げた。

 小麦とエリクサー草を大量に召喚したことで、スキル熟練度を一気に稼ぐことができたようだ。

 

―――――――


植物王ドルイドキング

植物を支配するスキル。

代償として筋力ステータス80%低下。


Lv1⇒植物召喚(触れたことのある植物を召喚する。最大出現量10トン)


Lv2⇒植物を武器化できる


Lv3⇒植物の効果無効化(任意)


Lv4⇒????


―――――――


 『植物の効果無効化』か……

 具体的にはどんな能力なんだろうか?


『【植物王ドルイドキング】Lv3は

常時発動系パッシブスキルです。任意でスキル効果のオン、オフの切り替えが可能です。

 毒草などの効果を無効化できます。

 反面、発動中は薬草などのポジティブな効果も無効化してしまうので、ご注意ください』


 システムボイスが説明してくれた。

 毒のほとんどは植物由来のものなので、毒草を無効化できるのはありがたいな。

 とりあえず、今のところはオフにしておくか。


「お兄様! 何もかもお兄様のおかげです! ユースティルアの街はこれで救われます!」


 ミリアが感激を口にする。


「いや、俺だけの力じゃない。敵を撃退できたのは、コレットとリルがいてくれたからだ。そこんとこヨロシクな」


 実際、あの黒いグリフォンにはヒヤッとした。

 あの個体については、後で捕虜にしたエルフたちに尋ねてみたいと思う。


「わかりました! では、お兄様、歓迎の宴を用意させていただたいと思います。

 ぜひ私の屋敷にいらしてください。コレット王女と、そちらのリルさんもご一緒に」


 ミリアはスカートの裾を摘んで優雅に一礼した。


「宴? リル、ご飯、いっぱい食べられる!?」


 リルが宴という言葉に反応して、寄って来る。

 俺は苦笑しつつ、その頭を撫でてやった。


「パンなら死ぬほど食べられると思うぞ」


 何しろ材料となる小麦なら、いくらでもあるしな。


「やったぁ!」


「ミリアと夕飯なんて、久しぶりだな……楽しみだ」


「はい! お兄様! いっぱい、いっぱい、お話しましょうね!」


 ミリアが花がほころぶような笑みを見せた。

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