59話。王座の間での最終決戦
「ふん、世迷い言を……それでは、ごきげんよう。次期、国王陛下。王座の間で、お待ちしておりますわ」
「ご主人様!」
ディアドラは優雅に一礼すると、コレットと共に消えた。空間転移をしたのだ。
わざわざ行き先を告げてくれるとはありがたいが。十中八九、罠が仕掛けられているだろう。
「あるじ様、すぐに行こう、リルに乗って!」
「おうっ!」
俺は神獣フェンリルの背中に飛び乗る。
ゼノスを弔ってやりたいが、すべてを終えてからだ。
それに弟の最期の言葉は、こんなクソ女ごときに負けんじゃねぇぞ、だったからな。そのエールに応えるためにも、ディアドラの復讐をなんとしても阻止しなくてはならない。
「世界樹のマスター殿、どうか、どうか、我が娘を……!」
エルフ王が声を詰まらせて、俺を仰ぎ見た。
「コレットは必ず助け出します。でも、ディアドラについてはお許しください。手加減をして勝てる相手ではないです」
「それは無論っ! ただ、ワシはディアドラとやり直したかったのです。あの娘を殺すように強要した王妃は亡くなり……ワシは償いをしたかった。それがこんな悲劇を生むとは……」
エルフ王は、その場に泣き崩れた。
ディアドラを王宮に入れてしまったばかりに、国を滅亡寸前まで追い込むことになった。
「ワシは愚かな王であり、親としても失格です。だが、コレットには罪は無い。どうか世界樹のマスター殿、コレットとこの国をお頼みします!」
「国王陛下、懺悔は後にして、とにかく森の消火活動にかかってください。残ったエルフたちは、あなたの言葉なら聞くハズです」
「はっ!」
エルフ王は片膝をついて承諾した。まるで君主に対するような態度が気になるが……
今は、それどころではない。
「リル、行くぞ! これが最後の戦いだ!」
「うん! あるじ様!」
リルは火に侵食されつつある森を疾風となって駆ける。
やがて、大樹が絡みついた神秘的な石の城が見えてきた。自然との調和を何よりも重視するエルフの王宮だ。
はっとするほどの美しさだが、あいにくと見惚れている時間はない。
「リル、コレットの匂いがわかるか?」
「うん、あるじ様、この城からするよ!」
やはり、コレットはここに連れ去られたようだ。
神獣フェンリルの巨体では、王宮の中に入れない。リルには獣人少女の姿になってもらった。
すぐさま白花の鎧を生み出して、リルに纏わせる。
「突入するぞ! 敵が近くにいたら、教えてくれ!」
「うん!」
リルと一緒に王宮内に踏み込む。
コレットの匂いをたどって走れば、迷わず王座の間に着けるハズだ。
意外というか、案の定というべきか王宮内は人の気配がまったくなかった。戦に出るか、避難しているのだろう。
時間が経てば、この城も火に飲まれるのは確実だった。
「誰の許しを得てここに立ち入ったか、下等種族……!」
突然、廊下に並んだ戦士像が声を発して動き出した。その手には大剣が握られている。
「魔法によって動くゴーレム兵か!?」
「あるじ様は、リルが守る!」
リルが突進して、ゴーレム兵たちを殴りつけた。彼らは一瞬で砕かれて、床に散らばる。
「どうやら城の侵入者迎撃システムみたいだな。下等種族って、俺のことか……?」
コレットには人間に対する差別意識は見られなかったが、これが大多数のエルフの価値観だとすると、ゾッとするな。
……ハーフエルフが嫌われる訳だ。
エルフ王の不義の娘であるディアドラは、想像もできないような地獄を味わったに違いない。
だが、同情するつもりは無い。多分、アイツは死ぬまでエルフに対する復讐をやめないだろう。
自らが破滅するか、エルフを破滅させるか。ディアドラにあるのは、このいずれかの道だけだ。
ここで悲劇の幕を閉じなければならない。
「こいつら、匂いがしなかった。ごめん、あるじ様……」
リルは犬耳をペタンとさせて、しょんぼりしている。
事前に敵の存在を知覚できなかったことに、責任を感じているようだ。
「気にするな。この程度の敵なら、問題ない」
俺はリルの頭を撫でてやった。
「うん!」
リルは安心して頷く。
俺たちは再び、廊下を走った。
途中、何度かゴーレム兵に襲われたが、難なく突破する。他に魔物などは待ち伏せしていないようだ。
「あるじ様、ここだよ! ここにコレットがいる!」
荘厳な門が俺たちの前に現れた。神々の精緻なレリーフが刻まれた石門だ。
ここが王座の間か?
突入前に息を整えようとしたところ、門が自動的に開いた。
ブックマーク、高評価をいただけると、執筆の励みとなります!





