52話。敵総大将を罠にはめる
グリフォン獣魔師団が、南の城門前に勢ぞろいしていた。
「ご主人様と離れ離れになってしまうなんて嫌ですが、これもアルフヘイムの未来のため。コレットはルシタニアの王都に向かって出発します!」
悲壮な顔で告げるのは、コレットに変身したギルバートだ。
うーん、この可憐な美少女の正体を知っていると微妙な気分だな……
「陛下、お任せあれ! 姫様は我らが必ずお守りします!」
エルフの師団長が剣を掲げて重々しく宣言する。彼らには、護衛する王女が偽物だとは伝えていない。
悪いが、敵を欺くにはまず味方からだ。
「頼むぞ。全速力で王都に向かってくれ。おそらく敵の追撃があるはずだから、援軍を送る」
「かたじけのうございます! では、脱出は一刻を争いますゆえ、これにて!」
師団長らは別れのあいさつもそこそこに、慌ただしくグリフォンにまたがった。
「ご主人様! ご武運を! すべが終わりましたら、わたくしと盛大な結婚式をあげましょう!」
「お、おう……」
グリフォンの背に乗った偽コレットが俺に手を振ってくる。
うーん、ギルバートのヤツ、迫真の演技だ。どこに敵の斥候の目があるかわからないので、俺も手を振り返した。
さて……敵はどう出るかな。【植物王】で出現させたリンゴを噛りつつ、報告を待つ。
「アッシュ隊長! 敵スレイプニール騎士団、グリフォン獣魔師団を追って進路を変えました! 2割ほどの狂戦化兵が本隊から分離して、その後に続いています」
「よし、狙い通りだな」
俺の通信魔導端末に、サーシャからの通信が入った。
サーシャには風魔法で上空に飛んで、敵の動きを観察してもらっていた。
敵の軍勢は、国境の砦にいる王国正規軍を無視して、一直線にユースティルアに向かって来ていた。
背後を突かれる心配などお構いなしの玉砕戦法だ。かといって、敵は1万近い狂戦化兵、あなどることはできない。
敵を分散させ、その力を落とすのがこちらの作戦だ。できれば、もうちょっと多くの敵が偽王女を狙って分離してくれれば良かったが、この際、贅沢は言うまい。
「スレイプニール騎士団は、キースの直轄部隊です。彼らはキースにしか従いません。おそらく、キース自らがわたくしの追撃の指揮を取っていると思われます」
フードを目深に被り、従者の服装をした本物のコレットが俺に耳打ちした。
スレイプニールとは、八本足の肉食の馬だ。軍馬としては最強最速を誇るが、性格が荒いため飼い慣らすのが難しい。スレイプニールを騎獣にした騎士団とは、恐ろしいな。
いや、それよりも……
「まさか総大将自らが、前線で危険な役目を?」
「キースはアルフヘイムの守護者として常に前線で戦ってきました。特におかしいことではないと思いますが?」
「いや……総大将になっても前線に立つタイプの人間なら、前回のユースティルア攻略戦にも加わっていたハズだ」
何かおかしい感じがした。
狂戦化兵による特攻といい、アルフヘイム内部で大きな異変が起きた可能性がある。
だが、それを探るには時間が足りない。
「……とにかく敵の頭を討つチャンスだな。レイナ、【ベオウルフ遊撃隊】の騎馬隊を率いて、スレイプニール騎士団を追撃してくれ。ギルバートの部隊と挟み撃ちにする」
「アッシュ団長! あたしにギルバートの手助けをしろって言うの!?」
魔法剣士レイナは、俺に食ってかかった。
「足の速い部隊にしかこの任務はこなせない。それに、敵総大将を討ち取るチャンスなんだぞ?」
「くっ……でもっ」
レイナは悔しそに唇を噛んだ。
「ギルバートを助けるためじゃなくて、ユースティルアを守るためだと考えてくれ」
レイナの気持ちもわかるが、俺たちは数が少ない。人材を適材適所で、うまく使う必要があった。
「わかったわ……あたしはユースティルアを守る兵士だものね。流浪のあたしたちを受け入れてくれたアッシュ団長のためにも……やってやるわ!」
迷いを断ち切るように、レイナは頬を叩いた。
よし、この作戦がハマれば、敵総大将を討てるハズだ。
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