44話。神獣フェンリルの召喚
「やったか……っ?」
衝撃波に地面が抉れ飛び、もうもうと視界をさえぎる砂埃が舞う。俺は親父がどうなったか確認すべく、目を凝らす。
今の俺にできる最大最強の技を連続で叩きつけた。【闘神】と呼ばれていても生身の人間だ。これで倒しきれているハズ……
「……見事だ。この俺に血を流させるとはな。これほどの痛み、かつて【奈落】でヨルムンガンドと戦って以来だな!」
やがて、【雷槌】を盾のように構えた親父が姿を現した。
皮鎧のアチコチがひび割れ、口から血を流している。
思ったより軽傷だった。
「……【雷槌】で【天羽々斬】(あめのはばきり)を防いだのか?」
「その通りだ。武器としての格は、お前の【世界樹の剣】と並ぶ攻防一体の神器だ。例え、神の一撃であろうと弾き返す」
親父は自慢げに【雷槌】を肩に担いだ。
【雷槌】は、かつて雷神トールが使っていたという伝説の武器だ。雷神トールは【奈落】のダンジョンに最強最悪の神獣──『神喰らう蛇』の異名を持つ【ヨルムンガンド】を封じ込めて死んだという。
「ふんッ、今の一撃を放つには、かなりの代償が必要なようだな。だが、この程度のダメージと毒であれば、俺は自力で回復できる」
親父は【雷槌】で雷撃を発生させ、それを全身に浴びだ。
「おぉおおおおっ! 実に心地良い!」
ふつうの人間なら感電死するハズだが、親父は傷が治り、肉体の活力が増していく。
「クソッ、相変わらずの反則だな……」
親父のスキル【雷帝】は、全ステータスを2倍にアップさせ、雷属性攻撃を吸収するというものだった。親父に雷撃は通用しない。
雷属性の魔法などを受けると、そのエネルギーを吸収して、肉体が活性化するのだ。
常に雷を放つ【雷槌】は、【雷帝】のスキルを持つ親父にしか使えない。ふつうの人間が手にすると、雷撃に全身を焼かれてしまう。
俺のスキル【植物王】と【世界樹の剣】も相性抜群だが、それと同じようなものだ。
「攻撃、防御、回復。あらゆる面において、完璧。このシンプルな強さこそが、 俺が【闘神】と呼ばれるゆえんだ。やりあってみてわかったが、この3点のいずれも、お前はまだ俺に一歩及ばぬな!」
親父は傲慢に言い放つ。
「アッシュ団長、た、大変よ!」
その時、馬に乗ったレイナがコレットを連れて引き返してきた。
「おいっ! なんで戻ってきた!?」
「この先に見えない壁ができていて、どうしても進めなくなっているの!」
「申し訳ありません、ご主人様! 魔法的な力ではなく、どうやっても突破できませんでした!」
ふたりが切迫した様子で告げる。
「見えない壁だって? ……まさか、ミュシャか」
俺は嫌な予感がした。
「あはっ! 御名答、久しぶりだねぇ、アッシュ」
木陰から日傘をかざした美少女が歩み出てきた。ビスクドールのような整った顔立ちに、ゴスロリ衣装を身に着けている。【神喰らう蛇】2番隊隊長のミュシャだ。
今まで気配を消して潜んでいたらしい。
「ホントは陽の光の下になんて出てきたくはなかったんだけどさ。2度も失敗なんてしたら、【神喰らう蛇】のメンツに関わるって言うんで、私も出張ってきたんだ」
ミュシャのスキルは【黒い聖域】(ダーク・サンクチュアリ)。一定領域を見えない壁で包む能力だ。そして、この壁はどんな力や魔法でも破壊できない。
「やっぱり、お前か……【黒い聖域】(ダーク・サンクチュアリ)を、他人を閉じ込めるために応用しったてことか」
ダンジョン内で絶対安全な休息スペースを作り出すための能力だと思っていたが、こんな使い方もできたんだな。
「そうだよ。って、おや。しばらく見ないうちに、ますますイイ男になったみたいじゃないか! これはもう辛抱たまらないね。あーっ、アッシュの血が飲みたいな! ねぇねぇ、飲ませてよ?」
ミュシャはそう言って、淫靡に舌なめずりする。
「絶対にお断りだっての!」
半吸血鬼であるミュシャは、血を吸うことで自らに忠実な奴隷を生み出す種族特性を持っている。それで気に入った者を何人も支配下に入れては、使い潰していることで有名だった。
【神喰らう蛇】の中で、関わりたくない奴ランキングナンバーワンだ。ホントにかんべんして欲しい。
「つれないなぁ。アッシュが跡目を継いだら、この先もずっと仲良くやっていくことになるのにさ。それにアッシュだったら、私の精神支配にも対抗できるじゃない?」
「……お前まで出してくるとは、親父は本気ってことか」
さすがに、親父とミュシャのふたりからコレットを守りきるのは至難の業だ。
レイナとコレットでは、ミュシャの相手は荷が重すぎる。
「あーっ、大丈夫だよ。私はあくまで、邪魔が入らないように。なにより、お姫様が逃げないように閉じ込めておくのが役目だからさ」
「そうだ。ミュシャには手を出さぬように言い含めてある。もし俺に勝つことができれば、コレット王女にはもはや手出しせぬと約束してやろう。心置きなく全力を出すが良い!」
親父に快活に笑った。
ちっ、どうやら依頼達成は二の次で、俺の力を試すのが最大の目的らしい。
コレットは俺に全力を出させるための生贄ということか。
ミュシャのせいで、コレットを連れて逃げるという選択肢が無くなった以上、俺ひとりでトコトンやるしかないな。
勝ち目はほとんど無いがな……
「ひとつ良いことを教えてやろう。お前が真に神獣を従えているのなら、神獣はどこにいようとお前の召喚に応じる。例えミュシャの【黒い聖域】(ダーク・サンクチュアリ)であっても、それを阻むことはできん。
【世界樹の剣】と【植物王】の力は見せてもらった。今度は神獣フェンリルの力を見せてもらおうか?」
「リルを召喚? そんなことができたのか……」
悔しいが俺ひとりでは、まだ親父にはかなわない。コレットの命がかかっている以上、どんなことでも試してみるべきだ。
俺はコレットを守り抜きたい!
「頼む。来てくれ、リル!」
『うん、あるじ様!』
俺が叫ぶと、脳裏にリルの声が響いた。
地面に巨大な幾何学模様の魔法陣が出現する。魔法陣から紫電が放たれ、まばゆい光の柱がそびえ立った。
光の中より、威風堂々した白銀の巨狼──神獣フェンリルが出現する。
オォオオオオオン!
フェンリルは、身震いするかのような威圧的な雄叫びを上げた。
「これが神々すら恐れた神獣フェンリル! まさかホントにアッシュの呼びかけに応じるなんて。あはっ! すごいね、ぶったまげたよ」
ミュシャが驚嘆の声を上げた。
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