42話。王女を守るために【闘神】と戦う
「今さら、戻ってこいだと? 親父の跡を継げだと? お断りだ!」
「ほう? なぜだ?」
俺が断ると、親父はおもしろそうに顎を撫でた。
「修復中の城門をぶっ壊しておいて、何を言ってやがる!? それは端っから俺に喧嘩を売っているってことだろうが!?」
「【神喰らう蛇】所属の者は、街に入れぬなどと抜かしたのでな。強行突破させてもらった。必要とあれば、3番隊の連中を呼び寄せて、もっと立派な城門をこしらえてやっても良いぞ?」
親父は大声で笑った。
3番隊は守り専門の部隊で、城壁作りや陣地構築のスペシャリストなどもいる。
「そいつは是非とも、そうしてもらいたいが。親父の手の者は、絶対にこの街には入れねぇぞ。ミリアの命を狙ったこと、俺は許さないからな!」
「ハハハハッ! お前も言うようになったな。よかろう、よかろう。では最初の話に戻るが、お前を俺の後継者にするのが、俺の決定だ。異論は認めん」
なんとも傲慢な物言いで、親父は断言した。
「人の話を聞いていなかったのか?」
俺は親父を睨みつけた。
「悪いが、俺にはもう新しい家族や仲間がいる。それに【神喰らう蛇】は、邪魔な冒険者ギルドを潰して回ったり、戦争に介入して暗殺まで請け負っているようじゃないか? 俺はそんな悪徳ギルドの親玉になるつもりはねぇ!」
魔獣殲滅部隊の仕事に没入するあまり、俺は【神喰らう蛇】の組織全体に目を向けて来なかった。
外に出て、ようやく古巣の悪辣さに気づいた。
「ふんっ。青いな。この世は弱肉強食。弱者を食らってより力を増すのが強者の理。清濁併せ呑む気概がなくては、海千山千の強者が集う【神喰らう蛇】のトップは務まらぬぞ!」
「知るか。跡目はゼノスに継がせれば良いだろう?」
「ゼノスだと? ふんっ、アイツは戦闘能力は高いが、お前よりはるかに心が弱い。正直、使い物にならんから、鍛え直すために【奈落】のダンジョンに放り込んでやった。生きて帰ればよし。死ねばそれまでよ」
「……やっぱ、息子に対して、なんの愛情も感じてないんだな」
俺はゼノスに同情を覚えた。
アイツもアイツなりに親父に認められようと必死だっただろうにな。
「俺が子としての情を感じるのは、強い息子だけだ。誰よりも強くなければ、この俺の息子とは認められん。敗者、弱者に用はない!」
「ハッ……それで俺は合格ってか?」
俺は静かな怒りこめて親父を見据える。
「そうだ。聞けば神獣フェンリルを完全に支配しているそうだな? フェンリルはアルフヘイム軍だけを攻撃したと聞いた。これは驚くべきことだ。
それにサーシャとリズもお前に寝返った。強者を従えるのも強者たる証。弱者にはできん芸当だ。誇るがいい!」
親父は両手を広げて、満足そうな笑みを浮かべた。
「お言葉ですが、闘神ガイン様。リルやサーシャさん、それにわたくしがご主人様の元に集っているのは、ご主人様が強いからだけではありませんよ?」
エルフの王女コレットが、果敢にも親父の前に進み出た。
「困っている弱い人に手を差し伸べずにはいられない……そんなアッシュ様の心根のやさしさに惹かれて、みんな集まっているのです!」
「そ、そうよ……っ! コレット王女の言う通りだわ! アッシュ団長はハーフエルフが差別されない国を作ろうとしてくれているのよ!」
ハーフエルフの魔法剣士レイナも声を震わせながら、コレットに続く。
「おい、ふたりとも危ないから下がっていろ!」
闘神ガインは女子供であっても容赦しない。俺は慌ててふたりを制止した。
「ほう。お前の女と部下か、よく躾けてあるようではないか」
親父は声を上げて笑う。
「だが、残念だな。俺はディアドラからコレット王女を抹殺するように依頼を受けてきた。
この俺に意見するとは、なかなか気骨のある娘だが。受けた依頼は必ず達成するのが【神喰らう蛇】の誇りなのでな」
「なんだと……っ!? 完全にアルフヘイム側につくってのか?」
国家間の争いには介入しないのが、冒険者ギルドの不文律だ。それをこうもあからさまに破るとは、思わなかった。
「アルフヘイムとルシタニアは今や戦争状態だ。俺がエルフを殺すことは、ルシタニアの法には何ら抵触せん。
ごたくはいらん。この俺を止めたければ、力尽くで来こい。今のお前の力を、この俺が見極めてやろう!」
親父は神器【雷槌】を振りかざす。槌よりバチバチと紫電が発生して、周囲の地面で激しくはねた。
「くっ! レイナ、コレットを連れて逃げろ!」
「わかったわ!」
「ご主人様!?」
俺も【世界樹の剣】を抜き放つ。
レイナはコレットを抱きかかえて、馬に飛び乗った。
「勝負だ、親父。ここで、てめぇをぶっ倒す!」
「おもしろい、この俺を退屈させるなよ!」
親父が突っ込んできた。
ブックマーク、高評価をいただけると、執筆の励みとなります!





