41話。闘神ガインから、後継者になれと言われる
次の日──
「アッシュ団長! 朗報よ!」
ハーフエルフの魔法剣士レイナが、下馬して俺の前に立った。
ここはユースティルアの城門前広場だ。街を出入りする人で賑わっている。
俺は破損した城門の修復工事を見学するために、ここに来ていた。先の戦いでは外から城門を壊そうと、エルフたちの魔法攻撃が加えられていた。
「アルフヘイムでは、アッシュ団長を王に推す勢力がクーデターを起こして、大変な騒ぎになっているわ!」
野盗だったレイナは気配を絶つすべに長けていたので、アルフヘイムの偵察を頼んでいた。なにより、遠目にはエルフとハーフエルフを判別することは難しい。
グリフォン獣魔師団を使うことも考えられたが、彼らは裏切り者としてマークされているので、レイナが適任だった。
「ご苦労だったなレイナ。しかし、俺を王にね……」
「なんでも、アッシュ団長はコレット王女と深く愛し合っているという噂が飛び交っていたわ」
「ぶっ! ど、どこから、そんな噂が……って、グリフォン獣魔師団が流したのか」
アルフヘイムの結束を乱すことが狙いだったので、その点については計画通りと言えるが。
コレットとのことは、頭の痛い問題だった。
「ああっ! アルフヘイムにちゃんとした真実が伝わっているようで、安心しました! お父様を救出したら、そのままわたくしたちの結婚式を上げましょうね、ご主人様!」
コレットが両手を頬に添えて歓声を上げている。
「いや、やらないって……エルフ王にはならないって、何度も言っているでしょうが!?」
コレットのことは好ましく感じているのだが、まだ出会ったばかりだし、結婚して欲しいと言われても困る。
なにより、俺は王なんて器じゃないと、何回言えば……
「とにかく敵が内部崩壊しかかっているのはチャンスだな……」
「ご主人様の知略のおかげですね! さすがは、わたくしたちの頂点に立つお方です!」
「これで、いよいよ打って出るわけね。先陣は任せてちょうだい!」
レイナが胸を叩く。
ハーフエルフのレイナは、エルフである親から捨てられた復讐に燃え猛っていた。
その感情を利用するのは、あまり好ましいこととは思えなっかたが、致し方ない。負ければ俺たちの故郷ユースティルアが戦火に滅ぶことになる。
「その前にギルバートの所在は掴めたか?」
「……部下たちを使って調べさせているけど、それについてはサッパリだわ。アイツは変装の達人だしね」
レイナが首を振った。
元【ベオウルフ盗賊団】のメンバーには、【神喰らう蛇】4番隊隊長のギルバートを探させていた。
ミリアの暗殺に失敗したヤツは、そのまま姿を消していた。
サーシャとリズにも尋ねてみたが、ギルバートがどこに行ったかは、見当もつかないらしい。
【神喰らう蛇】がアルフヘイムと契約しているなら、ヤツが再びミリアを襲ってこないとも限らない。
「ギルバートは父さんの仇、見つけ出して叩き殺してやりたいところだけど……アッシュ団長との対決を見て、思い知ったわ。私じゃ、アイツに勝てない」
レイナは悔しそうに唇を噛んだ。
「そうだな……ユースティルアの防衛には、サーシャとリズを残していこうと思う。多分、あのふたりなら、ギルバートともなんとか渡り合えるハズだ」
ギルバートは正真正銘の化け物だ。この前、俺が撃退できたのは、ヤツが深追いを避けてくれたからだ。
正直、サーシャとリズのコンビでも不安は残る。アルフヘイムに攻め込んだら、すぐにエルフ王を救出して、この戦いを終わらせる必要があるな。
「うん……?」
その時、何やら言い争うような声が聞こえてきた。
どうやら、城門の守備兵が誰かと揉めているらしい。
ドォオオオオオン!
次の瞬間、城門が爆音と共に木っ端微塵に吹き飛んだ。
破城槌のごとき凄まじい一撃が、城門に叩き込まれたのだ。
巻き添えになった守備兵たちが、悲鳴を上げて転げ回っている。
「戦の話か、楽しそうだなアッシュ」
もうもうと立ち込める粉塵の中、神器【雷槌】を担いだ闘神ガインが姿を見せた。
「親父……!?」
「お前は俺の見込んだ猛者をしりぞけた。俺の跡目を継ぐ資格有りと認める。【神喰らう蛇】に戻ってこい!」
親父は傲岸不遜に言い放った。
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