40話。【神喰らう蛇】街から追放される
「い、いくら何でも横暴というか、納得しかねますよ!」
ミリアに呼ばれて、屋敷の応接間に入る。すると、以前、冒険者ギルド【銀翼の鷲】で暴れていたふたりの冒険者がいた。【神喰らう蛇】の4番隊の連中だ。
彼らは切羽詰まった顔で、ミリアに話しかけている。
「あっ! お兄様! コイツラがね、【神喰らう蛇】のユースティルアでの活動許可を取り消すと言ったら、納得できないって!」
「あっ! こ、これはアッシュ様! お久しぶりです」
以前はあれほど横暴な態度を取っていたふたりが、手揉みして俺に頭を下げてきた。
「アッシュ様からも、どうかとりなしていただけやせんか? 俺たちは何も法に触れるようなことは、しておりませんぜ」
「エルフに雇われて、ユースティルアを攻撃するのに協力したって話だろう? お前ら信用できないから、とっとと出て行ってくれ」
俺がにべもなく突っぱねると、彼らは顔色を変えた。
「わ、我らはエルフに利用されただけです。アルフヘイムがルシタニア王国に侵攻することなどつゆ知らず、【世界樹の剣】の奪還を請け負ってしまったのです。それに神獣フェンリルの討伐は、元々、ルシタニア王国から依頼されていたことです」
魔法使いの小男が、いけしゃあしゃあと弁解する。
「悪いがサーシャからある程度、話は聞いている。敵国の幹部ディアドラと通じていたような組織の活動を認める訳がないだろう」
これはミリアと相談して決めたことだ。
「【神喰らう蛇】の存在が、ユースティルアの防衛や治安維持に役立つならともかく、俺たちの脅威にしかならないなら出て行ってもらうのは当然だ」
「その通りだわ。こともあろうに4番隊隊長ギルバートが私の命を狙ってきた疑いがあるわ。疑いがあるというだけで、【神喰らう蛇】を追放するには十分な理由たりえます!」
ミリアの目は怒りに燃えていた。
危険に晒された彼女にしてみれば、【神喰らう蛇】の存在など、もはや許容できないだろう。
「し、しかし、それでは我らは……」
小男は言葉に詰まる。
憶測だが、彼らは【銀翼の鷲】潰しに失敗している。ここでユースティルア支部が無くなったら、失態を犯した彼らはリストラされるのではないか?
【神喰らう蛇】は結果を出せなかった者に対して厳しい。
だから、こんな追い詰められた様子で、押しかけてきたのだろう。
だが、同情する気にはなれなかった。特に大男の方は、あの時ミリアに暴言を吐いた。
「アッシュ様、実は【神喰らう蛇】は剣聖ゼノス殿が失脚し、あなた様をマスターの後継者に推す声が高まっています。ここで、【神喰らう蛇】と敵対するような行為は、あなた様にとって得策ではないかと……」
「は? 今さら何を言っているんだ? それは親父がそう言っているのか?」
「はい、そのようにうかがっています……」
俺は呆れてしまった。
「そんなことが交渉材料になると思っているのか?」
【神喰らう蛇】に戻ったところで、親父に良いように利用されるだけだろう。
俺たちの故郷であるユースティルアを攻撃するのに加担し、義妹ミリアの命まで狙ってきた親父には怒りを覚えていた。
「俺たちはこれからアルフヘイムに攻めこんで、エルフ王を救い出すつもりだ。その前に後顧の憂いを断っておく必要がある。【神喰らう蛇】所属の冒険者には、全員ユースティルアから出て行ってもらおう」
アルフヘイムに攻め込んでいる間に、ミリアが暗殺でもされたら目も当てられない。戦略的にも背後を突かれては、兵站が滞ってしまう。
信用できない人間をユースティルアに滞在させておく訳にはいかない。
「い、いや、しかし……」
「問答無用! これ以上、グダグダ言うなら神獣フェンリルを使って、あなた達の支部を吹き飛ばすわよ!」
「ひっ! そ、それは……」
ミリアに恫喝されて、ふたりは縮み上がった。
「あるじ様! お風呂、気持ち良かった!」
その時、風呂上がりでホカホカのリルが、湯気をまとわせながら入ってきた。
「げぇ!? し、神獣フェンリル!?」
「うん?」
ふたりの冒険者は、リルを見て血の気が引いている。リルの正体については、もはや知らない者はいなかった。
「あるじ様、この人たち誰?」
「俺たちを攻撃した連中の仲間だ」
「うん? じゃあ、敵?」
「違います! 違います!」
ふたりは首をブンブン振って否定した。
「話し合いはここまでよ! 【銀翼の鷲】はアルフヘイム軍と戦ってくれたけれど、【神喰らう蛇】は私たちと敵対した、それがすべてです。さあ荷物をまとめて、すぐに出て行ってちょうだい!」
ミリアが一喝する。
「は、はひぃ!」
こうして、【神喰らう蛇】はユースティルアから追放されたのである。
ヤツらに嫌がらせを受け続けた【銀翼の鷲】の冒険者たちも、このニュースには大いに喜んでくれた。
これでユースティルアも、住み心地が良くなるだろう。
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