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最強ギルドを追放された《植物王》、実は世界樹に選ばれていたので植物の力で無双します  作者: こはるんるん
5章。ユースティルア攻防戦

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31話。弟、剣聖ゼノスに勝利

「ごぉおおおおおお──ッ!」


 人間とは思えない声を上げて、ゼノスが剣を振り下ろしてくる。

 かろうじてバックステップでかわしたが、剣で叩かれた地面が爆散して石畳が抉れ飛ぶ。


「クソッ!」


 マヒクサのイバラをヤツの足に巻き付けて動き封じようとしたが、簡単に引き千切られる。

 その時、ふいに日が陰った。


 ギュオオオーン!


 幾つも重なる咆哮。見上げれば、飛竜の大群が空を埋め尽くしていた。


「なんだとっ……!?」


 飛竜の何匹かは、通常個体より身体が大きく、漆黒のオーラに包まれている。街のアチコチから悲鳴と怒号が響いた。

 これだけの数がいきなり出現するとは…… 


「【透明化インヴィジブル】の魔法ですわ。飛竜たちすべてに魔法をかけるのは、少々骨が折れましたけど。透明化して超上空を飛行すれば、索敵には引っ掛からないという訳ですわね」


 俺をなぶるかのようにディアドラが種明かしをする。

 王国正規軍が国境付近の砦にいるからと、油断していたようだ。

 おそらく王国正規軍も奇襲を受けているだろう。


「ああっ、一応、言っておきますけど、この飛竜たちはアルフヘイムの兵ですわ。【神喰らう蛇】のみなさん、手出しは無用ですわよ」


 ディアドラが笑う。

 【神喰らう蛇】とは、すでに話をつけているようだ。かなり周到に準備した襲撃のようだった。


「レイナ、兵をまとめてミリアのところに向かってくれ!」


 指示を飛ばすと同時に、狂戦化(バーサーク)したゼノスが突進してきた。

 ヤツの斬撃を神剣ユグドラシルで、かろうじて受け流すも腕が折れそうな衝撃が走る。

 ちくしょう、完全にパワー負けしているな。


「アッシュ団長は大丈夫なの!?」


「いいから行け!」


 正直、むちゃくちゃヤバいが、飛竜が火炎のブレスを無差別に吐いている。このままでは被害が甚大だ。


 さらに飛竜の背中に乗った敵兵たちが、街に次々に降り立っていた。

 ヤツらの狙いはおそらく、ふたつだろう。街を囲う城壁の門を内側から開くこととと、領主ミリアを討つことだ。


 まずミリアの安全を確保することが、最優先だと俺は判断した。城門は毒矢で武装した守備隊に任せるしかない。

 ミリアが討たれたら、士気が崩壊する。


狂戦化(バーサーク)ですって!? ディアドラさん、このような話は聞いていませんよ!?」


 サーシャがディアドラに詰め寄った。


「何か問題でも? 神獣フェンリルは討伐。アッシュ殿からは【世界樹の剣】を取り返す。そのために、必要な手段をこうじているだけですわ。あなたも義務を果たしたら、いかがかしら?」


「ご主人様、わたくしが援護します!【筋力増強ストレングスブースト】【倍加速ヘイスト】!」


 コレットが筋力と速度を倍加するバフ魔法をかけてくれた。ありがたい。


「ぐぉおおおおお──ッ!」


 ゼノスは雄叫びを上げながら猛然と剣を振るう。石畳が暴風のような剣圧で抉れ飛んだ。

 

 防御に失敗すれば、一瞬でひき肉にされてしまいかねない威力の斬撃だ。コレットのバフと神剣ユグドラシルが無ければ、受けることはできなかっただろう。


 俺はスキル【植物王ドルイドキング】で、ゼノスの足をマヒクサのイバラで絡め取る。すぐに強引に切られるが、何度も麻痺毒を送り込めば、そのうち動けなくなるハズだ。


「無駄ですわ。狂戦化(バーサーク)は、すべての状態異常バットステータスを無効化し、痛覚も感じなくさせますのよ」


 勝利を確信したディアドラの高笑いが響く。

 なんだと……?


 一撃を受けるごとに骨が軋み、身体がバラバラにされそうな痛みが走る。

 神剣ユグドラシルの自動治癒効果で、俺のダメージはすぐに癒やされるが、体力が持たない。

 徐々に押し込まれて、防御をこじ開けられそうになる。このままではジリ貧だ。


「ご主人様!」


 コレットの悲鳴が響いた。彼女が限界までバフを重ねがけしてくれるが、不利は覆らない。


「そうそうアッシュ殿、良いことを教えて差し上げますわ。あなたの義理の妹、ミリア様のところには、最強の暗殺者が向かっていますわよ? 護衛を送られましたけど、お生憎様、時間稼ぎにもなりませんわ。彼女が討ち取られたら、ユースティルアもお終いですわね」


「それはどうもご親切に…!?」


 コイツ、わざわざそんなことを知らせるとは、俺を焦らせて追い詰めるつもりか。

 さすがのリルも集中攻撃を浴びて身動きができなくなっている。リルの手を借りる訳にもいかない。


 その時、俺の脳裏に閃くものがあった。

 人間に必要な痛覚を感じなくさせる?

 狂戦化(バーサーク)とは、一種の状態異常ではないか?


「サーシャさん、先程からボーッとして、何をしていらっしゃいますの? ゼノス殿を援護なさい。契約違反を犯す気なら、闘神ガイン様に報告いたしますわよ?」


 ディアドラの苛立たしげな言葉に、サーシャは身を震わせた。

 もし契約違反で解雇などとなったら、サーシャの病気の妹は死ぬことになる。


「う、うあぁああああ──ッ!」


 サーシャが絶叫と共にファイヤーボールを放った。俺を狙ったモノかと戦慄する。

 だが、それはゼノスの背中に命中し、ヤツは前のめりになって攻撃が一瞬、途絶えた。

 チャンスだ。


「あなた、何を……!?」


「アッシュ隊長を殺させはしません!」


 驚くディアドラに対して、サーシャは雷撃の魔法を放つ。眩い輝きが視界を焼いた。


「いい加減、正気に戻れゼノス!」


 俺はコレットからもらった試作品のエリクサーをゼノスに叩きつけた。

 エリクサーはあらゆる状態異常を回復させる効果を持つ。

 これは賭けだ。

 狂戦化(バーサーク)も状態異常の一種であるなら、エリクサーで解除できるハズだ。


「ぉおおおお……」


 ビンゴだった。

 ゼノスの身体が萎み、地面に崩れるように倒れる。そして、ピクリとも動かなくなった。

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