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最強ギルドを追放された《植物王》、実は世界樹に選ばれていたので植物の力で無双します  作者: こはるんるん
5章。ユースティルア攻防戦

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26話。サーシャ、アッシュの援軍に駆け付けたいと願う

「そんなバカなことがあるモノですか!?」

 

 サーシャの怒声が狭い室内に反響した。

 ここは【神喰らう蛇】が所有する飛空艇の中である。

 窓の外には、白い雲の海がどこまでも広がっている。

 サーシャ達一番隊は、次の任務のために空を飛んで移動していた。


「あらあら、ショッキングなことでしょうけど、事実ですわよ?」


 設置された巨大水晶玉には、今回の依頼主であるディアドラという女性が映っていた。


「あなた方の前隊長のアッシュ殿は、エルフ王国アルフヘイムの至宝【世界樹の剣】を盗み出した大罪人ですわ。あまつさえ、神獣フェンリルを討伐したと偽って、従えておりますのよ。

 闘神ガイン様は大変なお怒りようで、あなた方に【世界樹の剣】の奪還と、フェンリルの再討伐を命じたという訳ですわ」


「両方ともまったく信じられません! そもそもアッシュ隊長がフェンリルを連れていたら、大変な騒ぎになっているハズです」


 依頼主の言っていることが事実かどうか確認するのも、副隊長の任務のひとつだ。

 サーシャはディアドラに食ってかかった。


「フェンリルは人間の娘に擬態しているのですわ。信じられないようでしたら、私がユースティルアにおもむいて、化けの皮を剥いで差し上げてもよろしくてよ?」


「……なんですって?」


 神獣フェンリル討伐の現場にやって来るということだろうか?

 下手をしたら死ぬことになるのに、本気なのか?

 なにより、自信に満ちたディアドラの態度は、彼女の弁を裏付けているように思えた。


「心配なさらなくても、私にも錬金術の心得がありますわ。自分の身を守るだけでなく、あなた方の支援もさせていただきますわよ」


 ディアドラが事も無げに言う。

 天下の【神喰らう蛇】一番隊を支援するなど、不遜とも取れる自信だ。


「クククッ……おいサーシャよう、いい加減、気がすんだか? 神獣フェンリルを逃していたなんぞ、兄貴の野郎は【神喰らう蛇】を裏切っていたことが確定って、ことで良いよな?」


 一番隊隊長の剣聖ゼノスが、愉快そうに笑う。

 飛竜にやられた怪我は回復魔法で、すっかり完治していた。


「フェンリルは討伐。兄貴は制裁を加えて処刑だな。エルフ王国の至宝を盗んだとなれば、まっ、しゃあないわな。きっちり、ケジメをつけねぇと」


「ゼノスさん、実のお兄さんに対して、何てことを言うんですか!?」


 サーシャは怒りに震えた。


「はっ! これは親父からの命令でもあるんだぜ? そもそもルシタニア王国からたっぷり礼金をもらっておいて、フェンリルを見逃すなんざ、有り得ねぇだろう?」


「くっ……」


 神獣フェンリルが生き延びていたとなれば、いつ暴れ出すかわからない。

 サーシャとしてもアッシュの意図をはかりかねた。本当にわざと、フェンリルを逃がすようなことをしたのだろうか?

 しかも、エルフの至宝を盗み出した?

 にわかには信じがたかった。


 とにかくアッシュに会って話を聞きたいところだったが、隊長のゼノスがこの調子では難しい。


「それと、エルフ王国アルフヘイムは、ルシタニア王国に対して、侵攻を開始しますわ。私たちの兵である魔獣たちが、ユースティルアを襲うでしょうけど、手出し無用に願います」


「はぁ……?」


 サーシャは呆気に取られた。


「私たちの任務中に、戦争を起こすということですか? フェンリルもその場にいるのに?」


 一体、どれほどの混乱がもたらされるか、わかったものではなかった。


「ふふふっ。心配なさらなくても、私たちの兵は【神喰らう蛇】の皆様方を攻撃したりはいたしませんわ。どうか任務の達成に集中してくださいませ」


 ディアドラは微笑する。


「いいじゃねえか。アルフヘイムには、アルフヘイムの都合があるんだろう? 俺たちは、俺たちの成すべきことをすりゃあイイ」


 ゼノスが膝を叩いて賛同した。どんな不測の事態が起こるかもわからないのに、部隊長として有り得ない判断だった。


「……ゼノスさん、正気ですか? まさか……」


 サーシャは続く言葉を飲んだ。

 聞くところによると、アッシュはユースティルアを襲ったエルフの部隊を撃退したという。


 ユースティルアはアッシュの故郷でもある。アッシュはユースティルアを守るために、戦うつもりなのだろう。


 ディアドラはそのアッシュが邪魔で、【神喰らう蛇】に排除を依頼してきたのではないか?


(私たちを戦争に利用しようということですね……それはギルドマスターも承知しているということですか)


 サーシャは密かに歯ぎしりした。

 冒険者ギルドは国家間の戦争には介入しないのが原則だが、そのルールの隙間を突いて来たのだ。


(もし、アッシュ隊長を討たねばならないようなことになったら、私は……)


 サーシャの脳裏に、病気の妹の顔がチラつく。妹の治療費を稼ぐためにもサーシャは【神喰らう蛇】を抜けることができない。


 できれば、今すぐゼノスに攻撃魔法を叩き込んで、アッシュの援軍に駆け付けたかった。

 すでに一度、アッシュを裏切ってしまっている。もう一度、彼に刃を向けたら、二度と同じ関係には戻れないだろう。


「ヒャハハハッ! これで兄貴より俺様の方が上ってことがハッキリするな。俺様の手で兄貴には引導を渡してやるぜ!」


 ゼノスが高笑いする。

 彼は飛竜討伐の任務で失態を犯し、隊長としての株をかなり落としていた。やはりアッシュの方が優れていたという不満が、【狩女神アルテミス】のリズを中心に隊員から噴き上がっている。

 ゼノスはアッシュに勝つことで、名誉挽回したくてたまらないのだ。


 悶々としたままサーシャは、ユースティルアに向かうことになった。

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