7.反対派
シティ見学の騒動からしばらくして電池が8本集まったので、小鉄と隼人は17地区にサルベージに向かった。
昔このあたり一帯は大きな建物で覆われていて、人が無数に住んでいたが、今はシティのドームとそこにへばりつくようなマチしか人は住んでない。それ以外は人が管理していないアウターだ。地上は廃墟のような建物が並んで、地下は無数のトンネルやら、洞窟が広がっている。昔は人が乗れるデバイスがトンネルを行き来していたらしい。アウターは危険が多いが、何か役に掘り出し物が見つかれば金に換える事ができた。
二人は隼人が見つけた新しい地下の横穴から進んだが、電池の1/4を消費した所で大きな裂目が広がって先に進めなくなった。それ以上進むのは危険と判断して帰ることにした。今回は、何も得られなかったが、裂目の向こうに横穴が続いている様だったので、次の楽しみが増えたとも言えた。
時間があったので、帰り道に隼人が見つけた反対派の集会所に行ってみることにした。幸いというか、その晩も反対派は集会をしていた。小鉄と隼人は集会場の上の穴から漏れてくる声を聞いた。
「今の我々だけでは、シティを倒すには人数も予算も圧倒的に足りない。シティの不正や陰謀を暴き、それをテコに民衆を導いていくしかない。当面は、やはり、そのFSAから来た男と接触して情報を得るか、その情報を得るきっかけをつくるしかないと考えられます。誰か提案はないですか」
「シティに一市民として正面から問い合わせて、情報を入手してはどうか?」
「いや、シティもFSAから来ている男の情報を知っているかどうかわからないし、まず、シティ側が我々が知っている事を知らないと仮定して、優位に立つ戦略をつくるべきと思われます」
「シティ側が知らない可能性もあるのか?」
「その可能性はあります」
「そうすると、確かに、我々が知っていることをシティ側が知らない事を利用できるかもしれない。いっそ、我々が知っていることをシティ側が知らない事をそれとなくシティ側に情報を流して、その状況を利用するのはどうだろうか?」
「ちょっとすまん。その場合、我々が知っていることをシティ側が知らないという事をシティが知っていて、そのことを我々は知らないという状況だな」
「違います」
「どこがだ?」
「最後、最後」
「ちょっとまて、良いことを思いついた。シティ側が知らない可能性があるならそれを利用しよう」
「アホか、それが議論の出発点だろうが」
「みなさん、私は議長として我々は知っているが、我々が知っている事をシティ側が知らないことを利用するという観点で議論を勧めていただきたいと思います」
「だめだ、我々が知っていることをシティ側が知らないという事をシティが知るようにして、そのことを我々は知っているという状況に持っていくべきだ」
「あのー、論点をまずFSAから来た男に接触する方法に変えてはどうでしょうか」
小鉄は声を出して笑いそうになっている隼人の腹をドンとたたいた。小鉄は「真剣なんだよ」と小声で隼人に言った。
それから一通り知らせる知らせない議論が続いた後に、ようやく接触方法に話が移り、結局最初から接触方法を提案している男の案が実行することになった。小鉄はその声に聞き覚えがあった。電気街のネットの障壁プログラムを仕事にしている安吉さんだった。FSAからきた男だけにわかるようにマチの掲示板サイトに暗号文で出すというものだった。秘密を守るためにその男(安吉さん?)と議長だけに情報の範囲を絞ると言うものだった。そこまで聞くと二人はマチへ帰ることにした。
「掲示板サイトに暗号文で出すってどういうことだ?」
「そのFSAからきた男にはわかって、他の人にわからないように情報で出すって事だろ?」
「こういうのはどうだ。”FSAから来た男へ、絶対配給所に12時に現れるな、ねらわれてる”って書いて、逆に配給所に来た男に絞るのは」
「でも、知らせる、知らせないであんだけ騒いでたんだから、FSAの事は書かないんじゃないかなぁ。安吉さんも絡んでるみたいだし、数学的な暗号にするんじゃないかな」
「電気街の人がからんでる?じゃあ難しい話かもな。なぁ、この話は面白いんだけど金にならないか」
「何いってるんだよ、もし安吉さんが絡んでるなら情報売れないよ」
「それじゃおれもう興味無いぜ」
「隼人が始めたんだ最後まで責任とれよ。とりあず明日からしばらく俺の家で掲示板監視だ」
「おまえんとこ恐い爺さんが二人もいるからやだよ」
「夜まで店いってるから大丈夫だよ」
小鉄と隼人は金にする可能性最後までは捨てないという事で、ミスターFSAの捜索を行う事を約束した。そこで隼人と別れてその日はシフトが入っていたのでカラ・パルトに向かった。
ウェイターの合間にカラ・パルトの裏口にゴミを出しにいったら、未可が降りてきた。
「珍しいな」
「何言ってんのここ私の家よ。さぼってんじゃないよ」
「ゴミ出しにきてんだよ。おまえこそ最近何してんだよ。店手伝えよ」
「私はやることがあるからいいの。それより聞いた?大井君が委員長に告白したって」
「俺そういうのに興味ないよ。あれ?あいつ今停学じゃね」
「それが、学校での帰り際に、委員長につきあってくれってタバコ20本渡したらしいの」
「それでなんで停学に?」
「委員長は告白はOKして、先生には通報したんだって、二人ともらしいね」
小鉄はなんとなく話がおかしい方向に進んでいるのを感じた。
「健太郎は何も考えてないんだよ」
「そんなことないよ。あの事件の後に告白するなんて、大井君は男らしいって、みんな言ってるよ」
話の流れが、市場で偽物を買わされている時と似た感じが強くなってきたので、小鉄は店に戻ろうとしたが、未可をみると普段と雰囲気が違うのが気になった。少し迷ったがどうしても気になったので言葉を止められず聞いてみた。
「なんかいつもと違うな」
「鈍いくせに変な事はわかるんだから。さっき洗ったんで髪が濡れてるの」
小鉄はうやむや言って、その辺で話を切り上げてホールに戻った。一方、未可は当初の目的は遂げられなかったが、小さな勝利感をもって部屋に戻った。小鉄は疑問の解消の為によけいな事聞いたなと少し後悔したが、ホールに戻った後に未可とのやりとりを忘れる事が起こった。
(つづく)