5.カラ・パルト
カラ・パルトについたところで小鉄は剛とウェイターを変わった。剛は交代で梅爺の店番をしてもらう。剛は電気街の技術者になりたがっているが、いまいち才能と金が無く、カラ・パルトでバイトをしながら松爺の手伝いをしている。松爺曰く「才能がなくてもいつか使えるようになる可能性はある。努力をやめてしまってはそこで終わりだ。人の才能の伸びにはいろいろなタイプがあり、いつ伸びるかわからないものだ」ということだった。剛は理解も遅くカンも悪かったが、熱心で、とにかくガタイがいいので店番にはうってつけだった。
松爺と梅爺は店につくと店の親父さんに声をかけてすぐに飲み始めている。この時間はまだ客もちらほらだが、いるにはいた。
以前梅爺にマチの人間の分類について聞いた事がある。
----------------------
「最初にワクチン耐性を持ったインフルエンザが流行した時、人々はこの病気でみんな死んでしまうんじゃないかって恐怖に取り付かれたんだよ。病気の猛威は激しく、世界戦争も終わらせるほどだった。人々は病気を完全に隔離できるドームをつくって、そこに住もうとしたんだ」
「やがて今のファーストと呼ばれる最初のドームができた頃に、ワクチン耐性を持ったインフルエンザに非常にかかりやすい遺伝子があることが、研究でわかったんだ。その遺伝子を持っている人は非常に少数だった。本当は全員がドームに移れるはずだったんだけど、人々は法律をつくってその遺伝子をもっている人はドームから閉め出すことにしたんだ」
「その遺伝子をもっている人達、特に子供がいる親達は必死に戦ったんだけど、とにかく少数だったのと、全滅の恐怖が大きく、結局逆らえずにドームにはいれなかったんだ。この人達が第一グループ」
「そうした一連の国の非人道的な方針に反対したり、検査をいやがったり、ドーム暮らしをきらった人々が第2グループで、この人達が一番数が多い」
「それからどんどん変わっていくドームの生活に適応できなくて追い出されてしまったのが第3グループ」
「最後に遺伝子が偏らないように、時々国外から人を連れてくるようになったんだけど、なんらかの理由で入国検査ではねられてしまったのが第4グループで、大きくこの4つに分けられる」
「どうしてこの話はどこにも載ってないの?」
「誰が第1グループで誰が第2グループか、調べようとするのはタブーとされているんだ。だからどこにも載ってないし大人は誰も言わないんだ。それでもインフルエンザが多かった昔はトラブルも多かったらしいけど、ここ30年くらいは流行が起こっていないんで、みんな忘れかけているのかもしれないね」
「ジャンさんは第4グループだね」
「そうだね。」
ジャンさんは、なんとかかんとかジャンという名前で、南の島からつれてこられた人だ。「アンゼンでタベモノホショウするキイタからワタシキタのにコノクニウソツキ」と、飲み過ぎるとジャンさんは荒れる。だから周りはあまり飲ませないようにしている。ジャンさんは漁師という職業についてようやうく落ち着いた。勘定や困ったときは日本語がわからないふりをする。
「山本先生は第3グループだね。山本先生は表情や気持ちを隠せないので、シティの中ではうまく暮らせなくてマチの生活を選ばれているんだ。おまえ達先生をからかっちゃだめだよ」
「オレはからかったりしないんだけどね、他の子供っぽい連中がね・・・。」
小鉄から言わせれば、カラ・パルトに来る人は別の4種類に分けられる。最初はプライドを捨てた人とそうでは無い人。プライドをが無い人は、平気で人にたかる。隙があれば皿から食べ物を盗む。プライドを持っている人は、食べ物一つ一つ自分の金を払おうとする。
小鉄は松爺にもうるさく言われていた。「絶対配給で生活するようになってはだめだ。どんなのでもいいから、自分で金を稼いで食っていくんだ」と。小鉄にはその違いが未だにわからない。
第2は希望を持っている人とそうでは無い人だ。希望を持っている人は戸があくと目に期待を浮かべて振り向く。希望をもっていない人は何にも反応しない。
カラ・パルトに来る人は、ほとんどがプライドをもたないが、希望を持っている人だった。誰かが入ってくるたびに、何かたかれないか、みんな一度見る。そうした分類で言うと松爺と梅爺はプライドは持つが希望を持たないグループと言って良い。小鉄は大人になるまでにはその理由を聞きたいと考えていた。
----------------------
松爺がトイレに行ったので、早速、梅爺に話に行った。
「梅爺、スゲー情報聞いたんだ」
「小鉄、噂話はするなって松蔵さんにいつも言われてるだろ」
「違うんだよ、これは確かな情報なんだ。今マチにFSAから来た人がいるらしいよ」
「小鉄、情報のソースはどこからだ?」
「隼人が地下で反対派が話してるのを聞いたんだって」
「反対派だって、隼人には似つかわしくないな。参加してるんじゃないだろな」
「だから、たまたま違うフロアーにいたら、聞こえてきたんだって。梅爺この話聞いたことある?」
梅爺は小鉄をじっと見つめた。それは小鉄を通り越した遠くを見ているようだった。その時だった。
「さぼんじゃね!」と小鉄は松爺にうしろからスパーンと頭をはたかれた。
「イテー、梅爺後ろにいるなら言ってくれよ」
その時笑った梅爺は、ホントにうれしそうだと小鉄には思えた。
(つづく)