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3.隼人


 教室に戻ると”能面”が、表情を変えないまま、あわてた口調で言った。


「あぁ、戻ってきてよかったです。実は武雄君は学校にいたんです。突然、実験室に現れて、山本先生にバケツに入った水をかけたんです。影がとか悪魔がとか支離滅裂な事を言っているんです。困りました、困りました」


 小鉄が健太郎を振り返ると、健太郎は指をチョキチョキとしていた。小鉄達は「まぁ見つかって良かったです」とだけ言って席に戻った。さっの武雄とのやりとりを話すと小鉄は”スダレ”が水をかぶった責任を問われてしまう。それだけでなく、健太郎が外でタバコを吸っていたのも追求されてしまう。


 タケオも学校外で人に水かけなんてやったら事件も大きくなったろうし、学校内での水かけ事件でまだましだったんだ、と小鉄は思いこもうとした。だが、なにか胃のあたりに重いものを感じた。小鉄は、なぜこんなことに、巻き込まれたのか考えた。目が悪いので教室の前の方に座っているのが、第1の原因であることはわかったが、自分の胃のあたりに感じる罪悪感まで続く原因と結果のリングをすべて追うことはできなかった。


 授業が終わり、頭に何も入らないまま(いつものことなのだが)トボトボ帰り道を歩いていると、がっと腕をつかまれて手に何かを握らされた。顔をあげると健太郎が、ぐっと親指を立てていた。


 「だからタバコはきらいっていってるのに」と小鉄はつぶやいた。手の中には数本入りのタバコの箱が握らされていた。「あいつの価値基準はなぜタバコなんだ?」


学校帰りに大川へ寄ると、案の定、隼人が晩飯を釣ろうとしていた。隼人は小鉄より背が低く丸顔で、いつもなにか食べているせいか少し太っている。髪はいつものばし放題で、1っか所でまとめているので、閉じた唐笠を被ったようなおかしな髪型になる。


 時々学校の先生に捕まって丸坊主にされるが、そんな時大抵隼人は風邪をひく。小さい頃から、誰親切な人が引き取ろうとする度に、アウターに姿をくらましてしまい、大人があきらめるまでマチに帰ってこない。隼人はアウターだろうがどこだろうが、一人で生きていけるのだ。


 隼人は親がいないせいで一人でくらすはめになっているが、とにかく自由にこだわっている。学校からの自由、制度からの自由、マチからの自由など、なんでもだ。小鉄は自由を求めることと、隼人の親がいない生い立ちに関係があるような気がした。親がいないことの理由付けとして、自分が自由だからという理由に昇華させているような気がした。そんなところで、考えるのをやめた。友達の事をアレコレ考えるのはよくない気がしたからだ。


 隼人は「おまえも己が縛られてる鎖に気づく日がくる」と時々考えさせられる事もいったりする。

 小鉄は食い意地のにこだわることも好きだったが、こうしたわけのわからない哲学的な所も好きだった。


「隼人、今日学校さぼったろ」

 隼人は小鉄のタバコの箱で膨らんだ左胸を指さした。

「そのモクくれたら、イイコトおしえんぜ。食いもんあったら、それでもいいけど」

「イイコトってなんだよ」


 隼人は小鉄からタバコをひったくり、手早くマッチをすって一服した後、話を始めた。それによるとアウター近くの地下を通りぬけようとしたところ”反対派”の集会をみたという事だった。


「それで、うっかり聞いきいちまったんだが、どうやらマチにはFSAの人間がいることがわかったらしい」

「FSAの人間がなぜこのマチに」

「さぁ、しかもそいつは今の世界がひっくり返るような情報をもってるって。反対派の連中は『なんとか接触して少しでも情報を入手する』っていってたぜ」


FSAはファー・サウス・アメリカのことで、混乱の最初の頃に南極に建国された国であり、ニューテクを持ってる唯一の国でもある。マチの人間は”フサ”と呼び、シティの人間は正”エフ・エス・エー”と読んだり”新アメリカ”と呼んだりしている。


「その他は、なんか言ってたか?」

「まぁ、与太話だな。シティに侵入する為の警備の調査状況とか、マチがシティから隔離されてる陰謀の調査結果とか」

「よた話だな。陰謀ってなんだよ」

「それよりよ、17地区の先に新しい入り口をみつけたんだ。今度は深い。相当深い」

「深いのか、じゃぁ電池たくさんがいるな、どれくらいだ」

「オレの見積もりでは一人4本」

「てことは合計8本か。金ためる必要があるな、ってやべ、今日仕事だった」


 小鉄はまっすぐ帰れと、松爺に言われたことを思い出して、あわてて家に帰った。隼人は「明日学校でな」と言っていたが、おそらく来ないと思った。去り際に隼人が、川の中州近くの大岩の影ににでっかい魚影をみたとかなんとか言っていたからだ。



(つづく)


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