野炊
野外炊飯を楽しんでいる智達。ふとしたきっかけで翔大と話すことになり親友の心の内を聞くことになった。その時、奈々の悲鳴が響き渡ったのだった。
「すみません。私がどじをふんでしまったばかりに・・・」
「別に大丈夫だよ。誰だってミスすることもあるし、それに奈々ちゃんのおかげでクラスの雰囲気もよくなったんだから」
「そ、そうかもしれませんが」
さっきから奈々はずっと私達に謝っており、気にしてくていいよと言っても引きずったままだった。
ことの発端は野外炊飯の最中に起きた。
「へぇー。永瀬さんって料理できるんだ」
「一応独り暮らししてるからね」
そういいながら手慣れた手つきで野菜をカットしていった。
野外炊飯では定番のカレーライスだった。私は他のクラスの子とカレーを作る係となり、奈々とシノはご飯を炊いていた。
「ということは、永瀬さんは彼に心のこもった手作り料理を振る舞っているんだ」
「はい。心のこもったぁ!?」
振り替えるとそこには翔大がいた。
「いやぁ、あいつも羨ましいよ。こんなに可愛い美少女のお手製料理を食べてて。一回ぐらい殴ってもバチは当たらないよな」
「あの、一応言っておくけど・・・。やめてあげてね」
これ程理不尽過ぎる暴力は久しぶりに聞いた気がした。
「それより、三井さんは別の班のはずだったけど離れてて大丈夫なの」
「ああ大丈夫。飯盒の火も安定してるし、それに他の奴が見てるから」
確かに彼の班は順調そうだった。
「それで、彼氏持ちの女子にさっそくナンパ?先生呼んじゃおっかなー」
あんまり翔大と関わるとボロがでてしまいそうなので早めに遠ざけようとした。
「いや、そのつもりはないよ。だいたい、親友の恋路を邪魔なんてしたくないしな」
「え?」
正直驚いていた。まだ会って間もないはずなのに翔大は俺のことを親友と言ってくれた。
「ただあのバカは本当に大丈夫なのか聞きたくってな。あいつ何も言わずどこかに行くからな。心配するこっちの身も考えて欲しいよ」
「・・・・・」
翔大は本当に心配していた。何も言わず居なくなった俺のことを。そんなことも気にも留めずに私は。
それはあの日も同じだ。
自分のことを大切に育ててくれた家族、子供の時からつるんでいた親友。そして・・・
「ちょ、永瀬さん!なんで泣いてるの」
「え?」
いつの間にか私の目から涙が溢れていた。
「ご、ごめんなさい。彼のことをこんなに心配してくれていたんだって知って嬉しくてね」
私はごしごしと目をこすって涙をふいた。せめてこいつだけには安心してほしかった。
「彼のことは心配しないで。今は遠くにいるけどきっと元気になって帰ってくるから!こっちに帰ってきたら真っ先に三井さんの所に向かわせるから」
「そうか。聞いて正解だったよ。ありがとう」
そういって自分の持ち場に帰っていた。
「ごめん、翔大」
本当は今すぐにでも変身を解いて謝りたかった。でもそんなことをすればあいつを混乱させてしまう。だから、今できるのは謝ることだけだった。
その時だった
「キャーーー!?」
野外炊飯場に奈々の悲鳴が響いた。
「たしか、火の番をしていたはず。もしかして何かおきたの!?」
慌ててかまどのある場所に走っていった。
「ご、ごめんなさーい」
かまどに向かってみると泣いている奈々がいた。
「ど、どうしたの!?な、何が」
「ご、ごめんなさい。永瀬さーん」
奈々がクルッとこっちを向くと更に泣きはじめた。
「わ、わ!とにかく落ち着いて落ち着いて。本当に何があったの?」
あたふたしている私を見てシノが答えを教えてくれた。
「これが原因」
シノが持っていたのは飯盒だった。
「これって・・・」
何もなさそうだったか中身をよく見てると・・・
「あ、こげこげになってる」
「そ、お姉ちゃんが水を入れるの忘れててね。その結果がこれなの」
「すみません。すみません」
「大丈夫だから。今から急いで作りなおせば間に合うから」
と言ったものの時間はほぼない。最悪ルーだけになるかもしれない。
「悲鳴が聞こえたが大丈夫か?」
私を追いかけてきたのか後ろから翔大の声が聞こえた。
「ああ、怪我はしてないよ。ただ、ご飯が焦げちゃって・・・」
私は飯盒の中を見せた。最初は顔をしかめていたが急にパッと何か思い付いたのか自分達の班に戻っていき、何かを話していた。
「よし、決まりだな」
話し合いが終わったのかこっちに戻ってきた。
「今、班のみんなから許可もらったから、ご飯を半分わけるよ」
「え!いいの?」
「当たり前だろ。困ってるクラスメイトをほっとくわけがないだろ!(キリッ)」
「良かった。ありがとう。奈々さん!三井さんの班の人達がご飯分けてくれるって!」
渾身のキメ顔を華麗にスルーし奈々を呼んだ。
「ほ、本当にですか?」
「当たり前だろ。困ってるクラスメイトをほっとくわけがないだろ!(キリッ)」
「すみません。ありがとうございます!」
翔大の渾身をキメ顔(2回目)はまたもや華麗にスルーされてしまった。
「おいこら!何か困ってるクラスメイトをほっとくわけがないだろだ!ここでポイント稼いであいつから彼女を奪おうって言ってたじゃないか!」
「ばか!それを今言うな!」
「あー。そうだったんだね」
さっきまでこいつに負い目を感じていたのが馬鹿らしくなってきたのを感じた。
「ち、違うんだ。あいつらが勝手に・・・」
「お前!ふざけんなよ一人だけ抜け駆けしやがって。それなら俺達もご飯を分けてやるぜ!」
「私たちだって!男子達ばっかりいい顔しないでよね」
翔大達のご飯を貰える予定だったがいつの間にか他の班からも貰えるようになっていた。
「そ、その貰えるのは嬉しいけどそんなにも食べないからみんなちょっとずつ貰ってもいいかな?」
喧嘩になりかける前にみんなが納得してくれる妥協案を提示した。
結局のところ、ご飯をみんなから貰ったおかげで美味しいカレーを食べることができた。奈々は最後まで泣きながら嬉しそうに食べていた。
なんというか・・・。みんなの優しさ(若干の下心)がこもったカレーは今まで食べた中で一番美味しく感じたのだった。
「あはははは。奈々の驚いた姿すっごく面白かった」
「そこまで笑わなくてもいいでしょ!」
「だって・・・だって・・・あはははは」
部屋に帰ってきてそうそうシノは部屋で笑い転げていた。
「まあまあ、そこまで笑ってあげないでよ。面白かったけど・・・」
「ちょっと!2人とも笑わないでよ!」
「い、痛い痛い。なんで私を叩くの!?」
目に涙をためながらほっぺを膨らました奈々がシノではなく私を叩いてきた。
なぜこのような状態になったかというとついさっきまで行っていた、クラス親睦会という名の肝試しで、お化けに仮装したシノ達に追いかけられ森中に響き渡るような悲鳴をあげながら逃げ回っていたからである。
「大体、お化けなんて迷信だよ。それよりもっと怖いやつらと普段戦っているんだかさぁ」
「それはそうですけど・・・」
「部屋である程度騒ぐのはいいけど迷惑はかけないようにね」
さすがに少し騒ぎすぎたのか茜音先生が注意しにきた。
「あ、あと、お風呂の時間だからさっさと入るように。分かった、永瀬さん?」
「な、なんで私が名指しされるんですか!」
「え?だって、『私は元男だからお風呂なんて入らなくてもいい』とか思ってるかもしれないと思ってね」
「ぐっ!」
私がこの林間学校で一番心配してたのはお風呂だった。一応入らなくてもいいように拭くタイプのボディソープを持ち込んできているし、頭については洗面台で済ませる予定だった。
「もし入ってなかったら先生一緒に入ってもらうからね」
「あ、じゃあ私も一緒に入る!」
先生の提案に乗るかのようにシノもてをあげた。
「わ、分かった!入るから。でも、一番最後に入らせてもらうから」
さすがに女の子になったとしても中身は男なのだから引け目がある。なんとか妥協案を認めてもらい三人は部屋を後にした。
「ふぅ、少しだけど1人でゆっくりできる」
1人部屋に残った私は肩の力を抜き、布団に倒れこんだ。
いくら仲が良いからといっても異性には違いない。それなのに2人はまるで気にしてないかのように接してきている。
「ほんと!私が男だって事忘れないで欲しいんだけど!」
「いやいや、今のお前を見て男だって思うやつなんていないだろ」
頭上から呆れた声が聞こえた。
「そ、それは仕方ないでしょ。今はこんな姿なんだから」
起き上がってクロの方を見て反論した。が・・・
「姿もそうだが、言葉遣いや仕草が女性ぽいんだよ!」
そういって指差された先を見ると女の子座りをしていることに気づいた。
「こ、これは仕方ないでしょ!こっちの方が座りやすいの」
顔を真っ赤にして慌ててあぐらをかいた。
「まあ、男だってばれる方がヤバいんだからいいだろ」
「それはそうだけどさ・・・」
最初は女子っぽく振る舞わないとって意識してしていたはずなのに今となっては昔からやっていた仕草に思えてきた。
「私って男なの?それとも女なの・・・」
この問いはいつか解決するかもしれないだろう。
「はぁ~。気持ち~」
その頃、奈々たちは露天風呂を満喫していた。
「ほんと、智ちゃんも一緒に入ればよかったのにね」
「ま、まあ一応異性ですし・・・」
「でも異性としてみてる?」
「・・・」
思い返してみればここ最近彼女を男性として見れてない気がした。というかむしろ・・・
「私たちよりも女の子っぽいとか思ってるでしょ」
「そ、それは・・・」
シノの言う通りかもしれない。まさか、ほんとは女の子だったり・・・
「そうだ、いいこと考えた!」
そんな想像をしていると何か思い付いたのかニヤリと笑った。
「用事思い出したから先上がってるね」
そう言うと温泉から上がりお風呂場を後にした。
「どうしたんだろう?」
不思議に思ったが特に問題ないと思いお風呂を満喫した。
お風呂からあがったシノはニヤニヤしながら部屋に戻っていた。
「お待たせ!ちょうど私達が最後だったよ」
「お、そうだったんだ。それじゃ、入ってこよっかな」
「あ、ちょっと待って」
お風呂セットを持って部屋を出ようとした時、シノに呼び止められた。
「どうしたの?」
「それがね、更衣室のロッカーなんだけど、何かの対策で一度使ったら他の人が使えないようにふたがされてるみたい。だから空いてる所を使ってね」
「そうなんだ。まあ、面倒だけと仕方がないか。教えてくれてありがとう。じゃあ行ってくるね」
「ごゆっくり~」
シノはニコニコしなが見送っていた。
更衣室に入るとシノが言っていたようにほとんどのロッカーにふたがされていて、一番奥に残っていたロッカーを使った。
その途中、入口に耳を当てて人気が無いか確認したが全くなかった。
「シノごめん。一瞬疑ったけどそんなことなかったみたい」
すっかり安心しきってドアをガラッと開けた。
「!?」
そこにはクラスの女子達が居たのだった。
「あ、永瀬さん。遅かったですね」
「あ、いや、その・・・」
あまりの想定外に体が動かせなかった。その隙にクラスメイトから両腕をガシッと掴まれた。
「さあさあ、私達がその魅惑のボディをを洗ってあげますから」
「シノちゃんから聞きましたよ。裸の付き合いは慣れてないと」
「そ、そうなのだから!」
「だから、私達で慣れていきましょう。女の子同士ですし」
私は必死に抵抗したがさらに後ろから背中を押されズルズルと引き込まれていった。途中先生と目が合い助けを求めだが親指を立てるだけで全く助けてくれなかった。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「へへへへ、作戦大成功!」
「ちょっ、シノ!?もしかして永瀬さんを呼んできたの?」
「そう、もう全員あがったよっていったら素直に入ってくれたの」
「でも、更衣室にはみんなの着替えが」
「それは魔術で見えなくしておいたの。ついににドアにも一工夫して誰も入ってないようにみせかけたって訳」
「それで今あんな風になってるの」
「にゃあー!やめて、一人でも体は洗えるから、ってそこは!」
二人が視線を向けた先にはまるで子猫のように暴れまわる智を三人が全身くまなく洗っていた。
「別に楽しんでるしいいんじゃない」
「ほんとに楽しんでるの?あれ・・・」
その後洗い終わった智はまるで借りてきた猫の様におとなしくなり、クラスメイト達から可愛がられていたのだった。




