準備
林間学校に向かうことになった三人は準備を始める。そして、1人の少女がこちらにやってこようとしていた。
彼女は1人いた。たった1人氷に覆われた空間に閉じ込められていた。
「もう、2年か・・・」
もう、2年前のことすら遠い過去の出来事のように感じていた。
そんな、なにもない。淡白とした日々に終わりがきた。
彼女の鼓動が少しずつ弱くなっていき、体が氷のように冷たくなっていた。
「やっと、終われる・・・」
瞳を閉じると同時に鼓動が止まった。
そうして、彼女の長いようで短い物語が終わった。
はずだった・・・
「貴女には魔王を倒す『フェイター』になってほしいの」
目を開けると氷の向こうで私と見たことない女性がいた。
「待って・・・?フェイター?って魔王を倒す!?」
突然の事に驚いた。が、はっと我にかえると慌てて氷の壁を叩いた。少しでもその話を止めたい一心で。
「嫌よ。嫌!止めて!私はもう魔王とは戦いたくない」
しかし、そんな悪足掻きも無駄だった。
「はい、分かりました」
もう1人の私は眉ひとつ動かすことなく返事をした。
「ありがとうね。それじゃあ、貴方の次の人生が素晴らしい人生であると願っています」
そうして、私は平行世界に飛ばされた。
「嫌よ。嫌よ。もう・・・彼を殺したくない」
頭を抱えてうずくまり彼女は涙をこぼれた。こぼれた涙は凍り足元で砕けた。
6月になり梅雨の真っ只中、今日だけは珍しく天気は晴れ模様で何か良いことがあるかもとウキウキしながら登校していた。
「皆さん。今日は来週の土日に林間学校で行われる宿泊体験学習について話していこうとおもいます」
「よっしゃぁ!!待ちにまった林間学校だぁ!」
翔大の雄叫びを合図にクラスのみんなが騒ぎ始めた。仕方がないことだ。高校生イベントランキングにランクインするくらいなのだから。が・・・
「へっ???」
そんなクラスメイトが喜んでいる中で私は変な声しか出なかった。
「どういうことなの。林間学校に行くなんて聞いてないよ!」
放課後になってすぐに茜音先生を呼び出し問い詰めた。
「あ、ごめん。忘れてた」
テヘッ。と全く悪びれず謝った。
「・・・」
智はあんぐり口を開けて唖然とした。
「諦めろ。そいつアホなんだから」
やれやれとクロは呆れていた。
「そ、それどころじゃないですよ。モンスターとの戦いはどうするんですか!」
「そんなの休めばいいじゃん」
「「はぁ?」」
天使の答えに三人は固まった。
「や、休むってそんなの無理ですよ」
「ホントに?ここ最近毎日のようにモンスターを倒してるんだからもうそろそろ一旦打ち止めかもよ」
「ですが・・・」
奈々はそれでもやっぱり納得はしてない様子だった。
「それにね」
「私がいるわ」
後ろから咲夜の声がした。
「か、会長!?」
「元々私は1人で戦っていたのよ。心配する必要はないわ」
「ほら、咲夜ちゃんもこう言ってるし大丈夫だって」
確かに智達が来る1年前から咲夜は戦っている。この中で一番強いのは会長で間違えない。でも・・・
「それでも、そもそも私達が参加する必要なんて・・・」
「あるわ」
茜音先生は遮るように答えた。
「あなた達をここに呼んだのはフェイターになってもらうため。そしてもうひとつ、普通の高校生活を送ってもらうためでもあるのよ」
「・・・・」
「あなた達はいろんな理由があって高校時代を楽しめなかった。だから、貴女達にも楽しんで欲しいの」
茜音先生ニコッと笑った。
「本当にいいのね」
そこまで言われては「行かない」なんて言えなかった。
「ええ、心配しなくても大丈夫よ。貴女達も楽しんできなさい」
「分かった。じゃあ、準備しなくちゃね。お姉ちゃん、智ちゃん、行くよ!」
「ちょ!?」
「ま、待ってよ!?」
二人はシノに引っ張られるように部屋を出ていった。
「三人共、行っちゃったね」
「ええ」
「まさか咲夜ちゃんからあんな言葉が出るなんてね」
「なんのことかしらね」
どの言葉の事を言ってるのが分かっていたがはぶらかした。
「さぁ、私も準備があるからそろそろ戻るね」
茜音先生はコップに残っていたコーヒーを全部飲み干して部屋を後にしようとした。
「あ、そうそう」
クルッと振り返り咲夜を見た。
「ごめんけど、智ちゃん達がいない間この町をよろしくね」
「ええ、元々1人で戦っていたのよ。心配しないで」
「あ、でももしかしたら、モンスターが現れないかもね」
「・・・それは、天使の持つ未来予知かしら」
「そんなのじゃないわよ。そんな力があればわざわざこんな機械なんて作らないわよ」
そう言うとポケットに入れてあった機械を投げ渡した。
「これは?」
「私がいないときでも大丈夫なようにレーダーを作ったわ。これがあればどこにモンスターが現れたか分かるから。それじゃあ、彼女達が居ない間よろしくね」
「ええ。分かったわ」
「咲夜ちゃんありがとうね。じゃあ、私も準備があるから戻るね」
そう言って職員室に戻っていった。
天使との話の後、特に用事もなかった3人は荷物をまとめて帰宅していた。
「それじゃあ、天使からの許可ももらったし早速準備しないとね」
「って言われても・・・。準備するものなんてあるのか?」
「私とお姉ちゃんは無いよ。でも・・・」
シノはいきなりピシッと私を指差した。
「智ちゃんの服!!」
なぜかデジャブを感じる智だった。
「ふぁ~」
目が覚めると朝になっていた。昨晩、天使に言われたことを考えいる間に眠ってしまっていたらしい。
今日は土曜日で学校も休み。1日ゆっくりしたい気分だった。が、
「ピーンーポーン」
玄関のチャイムが鳴った。
「って、もうこんな時間かよ。急がないと!」
ベットから飛び起きた友久はタンスから服を引っ張り出して着替えた。
「ピンポーン、ピンポーン、ピンポーンー」
「はいはい、分かったから」
着替えも終え、カバンを持って玄関を出た。
「すまん。待たせた」
「大丈夫ですよ。まだ時間にも・・・」
奈々は何故か表情が凍りつき固まった。
「どうしたんだ?」
「ふふっ。良い趣味してるねぇ」
その逆でシノはニヤニヤしながら写真を撮っていた。
「?????・・・!!」
はっと思いだし自分の服装を見た。最近は「智」として過ごしていたため主に女性服を着ていた。しかし、今は・・・
「あ、アアアアアー!!!!!」
俺は慌てて部屋に戻った。外からはゲラゲラと笑うシノの声が聞こえた。
「まさかそんな趣味あったなんて知らなかったよ」
「そんなわけないでしょ。起きたばっかりだから寝ぼけてただけなの」
さっきから必死に弁解しているがシノは全く真に受けてくれていなかった。それ以上に・・・
「だ、大丈夫ですよ。その・・・似合ってましたし」
「ちょ、な、奈々ちゃんもフォローしないで。違うからねぇ!お願いこっちを見て」
全く目を合わせてくれない奈々とそれにおどおどする智を見てシノは笑い転げていた。
「ねぇ、本当にこれ必要なの?どう考えても着る必要なくない?」
純白のワンピーとス少し長めのスカート、つばの大きい帽子を被って私は更衣室から出た。
「必要だって!!記念撮影の時に着ないといけないかもよ」
シノの無理矢理な理由にウンウンと奈々も肯定していた。
「やっぱり、智さんは何でも似合うね」
「やっぱり素体がいいからね。他の服も似合いそう」
「えっと・・・。もう買うもの決まってるから会計してきても・・・」
「ダメ」「ダメです」
「はい」
「少し待ってて下さい。また服を選んでくるんで」
「待っててね。逃げたら今朝の写真を天使に見せるから」
ということでまだ着せ替え人形は終わりそうになかった。
「女子が服を選ぶのにすごく時間がかかるって聞いたことあったけどこれが理由だったとは」
最初はすぐに終わる予定だった。というか、終わらせるつもりだった。中身は男の私が女性服売り場をうろつかないといけない状況で何処に目を向ければいいのか分からないのに、下着を買うというミッションはハードルが高すぎる。なのに・・・
適当なサイズを選んで買おうとしたらそれがシノに見つかり、なぜか驚き、腕を掴むと試着室まで引っ張られ、そして、今に至る。
「じゃあ、次はこれを着てくれる」
シノが持ってきたのは服とは言えないものだった。
「ねぇ、それは服じゃないよね。ただの紐だよねぇ」
「い、い、か、らー」
「いや、やめて。いやぁーーーー」
「あんな姿見られてしまって、もうお婿にいけないよ」
あの後も色々な店を転々と巡り、そのたびに様々な服を試着させられた。
「そこはお嫁にいけないじゃ・・・」
「その心配は大丈夫!これは私のコレクションとして大切にもっておくから」
スマホの画面に写っていたのはメイド服の私だった。
「あ!ちょ!消してよ」
「ダーメ。これはもう私の物なんだから」
必死にスマホを奪おうとしたがいとも簡単に避けられてしまう。
「ふふふふ・・・」
そんなやり取りを見て奈々は笑った。
「もー!笑ったないで奈々ちゃんも手伝ってよ!」
「いえ、その・・・二人とも楽しそうだったので」
「ま、まあね。一応!楽しかったよ」
「私も楽しかった。ならやっぱり楽しい思いでは残しておかないとね」
「それは別だろ!」
そんな仲の良い二人を見て嬉しさと共に何故かモヤモヤを感じた。こんな光景を昔見たことがある気がした。
自分もそばに居るのに自分の居場所が無いような・・・
「・・・?どうしたの奈々ちゃん。奈々ちゃん?」
「えっ?きゃ!」
奈々はいつの間にか目の前にいた智に驚いてよろけてしまった。
「よっと!」
そんな奈々の手を智が握った。
「大丈夫?さっきから上の空みたいだけど」
「す、すみません。考えて事をしてただけです」
智にゆっくりと引っ張られ立ち上がった。
「体調が悪いとかじゃないのね。良かった」
「何?私をおいて二人でイチャイチャしてるの?」
そんな二人を見てシノは文句を言ってきた。
「い、イチャイチャなんて・・・」
「そんなんじゃないよ。転びそうになったから助けてあげたの」
「ふーーーーん」
二人は誤解をとこうと言い訳をするが全く納得していなさそうだった。
「まあ、いいけど。そういや智は好きな人はいるの?」
「「はぁ!?」」
「ちょ!なんでいきなり」
「まあ、いいじゃん。今は周りにも人がいないし」
「いないに決まってるでしょ。たぶん・・・」
絶対に居ないはずなのに。何故か否定しきれなかった。




