終わりと始まり
死んでしまった俺は天使からあることを頼まれる。それは、「フェイター」となって魔王を倒して欲しいという内容だった。
2人の少女と少年は人気のない丘で座っていた。
「ねぇ、僕達これからどうなるの」
少女は今にも泣きそうな声で少年に尋ねた。
少年は彼女を落ち着かせる為に手を繋いだ。
「大丈夫。何があっても私が守るから」
「ほんとぅ?」
少女は目に涙をためながら彼を見た。
「うん、絶対に守る。私ヒーローになるから!」
「約束だよ」
少女は彼に小指を出した。
「うん!約束」
そうして二人は約束を交わしたのだった。
俺が目が覚めると辺りは真っ白でなにもなかった。
「ここってどこなんだ」
俺はこうなった原因が何か思い出そうと頭をフル回転させた。
(俺は長瀬友久。18才で今は高校生。今日は学校が終わって家に帰って夕飯を食べて、そして・・・)
なぜかそこから記憶が飛んでいた。その時、
「やっと目が覚めたんですね。待ってました」
突如後ろから声が聞こえた。振り返るとそこに居たのは・・・
「初めまして"長瀬友久"さん。私は天使です」
天使の姿をした痛い女性だった。
「あ、今君、私の事変な人だって思ったでしょ」
天使(自称)は不満そうに頬を膨らませていた。
「はい」
「ちょ、少しは信じてくれてもいいんじゃない」
「信じるも何も初対面の変な人を信じれる訳がないと思うんですが」
天使は痛い所をつかれたのか、「うっ」と呻き声を漏らした。
「そんなことよりここは何処なんですか。真っ白で何もない空間なんて俺初めて来たんです」
その質問で天使()は不思議そうに首をかしげた。
「まだ、記憶の整理ができてないのかしら・・・」
すると天使()は真面目な顔になって俺を見た。そして、
「君は自殺したんだよ」
その一言で俺は全てを思い出した。
その日はまだまだ少し寒い冬の真夜中、俺はマンションの屋上に居た。乙女座や牡牛座を見るなんてロマンチックな事をするために来たわけでない。俺は下を覗いた。そこに広がっていたのは全てを包み込むような黒ではなく、全てを飲み込もうとする闇だった。俺は全く恐怖を感じなかった。次の瞬間、俺の体はその闇に飛び込んでいった。
それが俺を人生最後の瞬間だった。
「そうだった、俺は自殺したんだった」
「やっと思い出したようですね。そうです、貴方は死んで今天界に居るんです」
「なるほど・・、で俺は天国に行くの地獄に行くの」
「えっ!?それは一体・・・。あっ、そういう事ですか」
天使は頭の上に?マークを出したが何か分かったのか!マークに変わっていた。
「実は人は死後、天国にも地獄にも行きません」
「それじゃあ、俺はどうなるんだ」
「簡単に言うと、生まれ変わる。つまり、輪廻転生です。貴方の体と心は全てリセットされ新たな命として次の人生を送るのです」
天使は意気揚々と説明をした。まあ、それは俺にとってはどうでもよかった。
「そうか、それで俺はいつリセットされるの」
「まあ、普通ならすぐにリセットされるんですが。実は君にあることを頼む為にここに呼んだんです」
そして、天使は俺の方を指差して
「君には魔王を倒してもらう『フェイター』になってもらいます」
と言いはなったのだった。
「そんなの無理でしょ。だって、俺もう死んでるんだから」
「そこは安心して下さい。貴方にはこれから『始まりの世界』に行ってもらいます」
「なんだその『始まりの世界』ってのは」
「それの説明をするにはまず、平行世界について説明しなくちゃね。例えば・・・」
そう言って天使の両手にそれぞれリンゴとなしが現れた。
「ここにあるリンゴとなし、貴方はどっちを選ぶ?」
「じゃあ、リンゴかな」
俺はリンゴを選んだ。
「今、君はリンゴを選んだ。でも、もしかしたらなしを選んだかもしれない。その、"もしかしたら"が平行世界なんだよ」
「つまり、自分が選ばなかった方を選んだ世界があるって事」
「そういうこと。そして、『始まりの世界』はその平行世界の原点となる世界なんだよ」
「そしてそこに魔王がいるから倒し欲しいと」
「正解!だから貴方には『始まりの世界』に行って欲しいの」
「でも俺に魔王を倒すような力なんて持ってない」
「そこは大丈夫、他にも数人仲間がいるから。それに・・・」
天使は不敵に笑った。
「力なら持ってるでしょ」
「・・・知ってるのか」
「知ってますよ。だって私は天使ですから」
天使は笑いながら左手で小さな輪を作ってそここらこっちを見ていた。
「天使より悪魔の方が似合ってるよあんたは」
「そんな事ないですよ。これを受け取って下さい」
天使は指輪を差し出した。指輪には黒い宝石が嵌めてあった。
「これは一体・・・」
「これは天使の力が封じ込めている貴方に力を与える石です。これを嵌めていれば魔王に対抗する力を手に入れる事ができます。それに、貴方のその力のデメリットを軽減できるよ」
「そんな力があるのか・・・」
何気なく俺はその宝石を見ていた。すると、
「はぁーー」
天使は大きな溜め息をした。
「いつまでそのフリをするの?今、貴方はもう生きている時の貴方じゃないんだら」
天使は呆れた顔をしていた。
「やっぱり、バレてたのか」
俺は苦笑を浮かべた。
「分かった。じゃあ、俺をその『始まりの世界』に連れてってくれよ。倒してやるよ魔王を!」
「やっとやる気になりましたか。じゃあ、これから貴方を転生させます。あっちに行ったらパートナーがいるので彼からもう少し詳しく教えて貰って下さい」
「分かった。ありがとな天使」
すると俺の体が光り始めた。
「フフッ」
また天使は笑った。
「今度はどうしたんだ?」
「いや、君にはやっぱりそっちが似合ってるって思ってね」
「かもしれない。でも、これじゃ何も守れない」
(それにヒーローにはなれなった)
友久は少しだけ顔を曇らせた。
そして友久は姿を消した。次の世界に転生したのだ。
「それでは。
貴方の次の人生が素晴らしい人生であると願っています」
天使は祈りを捧げた。
俺はフワッと体がかるくなると共に意識が薄れていった。そして、天使の前から姿を消した。
「それにしても、君は本当に愚かなことをしたんだよ」
そう言って、天使が見ているのは友久の葬儀の風景だった。家族はもちろん、友達も涙を流し悲しんでした。
「あれ?彼女は何処にいる?」
天使は一人の少女を探した。すると、人気のない所に居た。
「駄目だよ。貴女はこっちに来ては」
しかし、その声は届くはずもなかった。
友久は一つの約束を胸に秘め新たな人生を生きていくと決めていた。今度こそ失敗しないために。
「ううん・・。ここは何処?」
俺は目が覚めて辺りを見回した。どうやら『始まりの世界』には行けたようだった。どこかの部屋のベッドで寝ているたようだ。
「って、ここ俺の部屋じゃねぇか!」
よく見ると生前の自分の部屋にそっくりな部屋にいた。
「まさか、俺今まで夢を見ていたのか?」
急に変な汗をかきながら俺はひきつった笑いをこぼした。
「いや、待て」
よく見ると家具の配置が違っていた。それに見たこともない物もあったり、あるはずの物が無かったりしていた。
「良かった。夢じゃなかった」
(まあ、前の俺ならそんな事すら考えてないはずだし)
俺は胸を撫で下ろした。その手にもちゃんと指輪があった。
「それにしてもこれからどうする?」
俺は途方に暮れていた。天使は忙しいからか聞くならパートナーに聞けと言われていたが、そのパートナーが見当たらなかった。
カーテンを開けて外を見ると景色は普通だった。
「てか、パートナーって誰なんだろ。全く想像できんなぁ」
色々と想像を膨らませていた。
「ガタッ」
突如自分しかいない部屋から物音がした。
「誰だ!?」
俺は警戒しながら辺りを見回した。しかし、特に変わった所は無かった。
「おい、どこ見てるんだ」
「うわぁ!!」
いきなり足元から声が聞こえて俺は驚いてベッドの上で転んで頭を壁にぶつけた。
「イテテ・・・」
頭を擦りながら前を見てみるとそこには一匹のただの黒猫がいた。
「いきなり転んでどうした?」
いや、ただの黒猫では無かった。喋る黒猫だった。
「ね、猫が喋ったぁ!!」
俺はこの日、人生で驚いた事ランキングが更新された。
「あの天使・・・。わざと説明しなかったな」
黒猫は天使への不満をぶつぶつ呟いていた。
「天使も忙しかったからだと思うよ。多分・・・」
俺は一応天使のフォローした。
「すまんないきなり悪態ついて。俺は今日からお前のパートナーになったクロだ。見ての通り、姿は黒猫だ。よろしくな」
「俺は長瀬友久だ。こちらこそよろしく」
俺はクロと握手を交わした。
「まあ、お前もこっちに来たばっかで色々分からんやろうし、分からん事があったら何でも質問してくれや」
「じゃあ、今この世界は魔王に攻め込まれているんだよね」
「おう、絶賛大ピンチって所だな」
「でも、外を見たけど特に変な所は無かったけど」
「それはまだ、お前以外のフェイターが被害を抑えてるからだよ」
「もう仲間達は来ていくのか!?」
「ああ、魔王の進行は約1年前から始まっている。その頃からフェイターが戦っているはずだ」
「い、1年前からって」
(味方が1年も戦っても倒せない敵なんて俺大丈夫なのか・・・)
俺はクロの話を聞いて不安になった。
「それで、1年たっても倒せない敵ってなんだ?」
「何言ってるんだ?倒してるぞ」
「ふぇ!?」
俺は驚きのあまり変な声が出た。
「お前、ゲームとかでいきなり勇者が魔王と戦うか?」
「いや、そんなの負けイベントでしかないし。普通なら魔族とか手下を倒していくストーリーだったはず」
「そう!つまり今は魔王の手下、こっちでは『モンスター』達を倒しながら、魔王の所に行って倒すって流れだ!」
「そんな簡単に言われても出来るのか?」
「だから『フェイター』には仲間がいるんだろ」
「なるほど、それで、今はこの世界に仲間は何人いるんだ?」
「分からん」
「んな!?」
想定外の答えに友久は口を大きく開けて唖然としていた。
「普通なら仲間同士で連絡するだろ」
「仕方ないだろ。俺だってこの世界に来たのは最近だし、仲間同士の連絡方法もないし、何よりあのクソ天使がどこ探しても居ないんだよ」
そう言うとまた天使の愚痴を言い始めた。
(どんだけ仲が悪いんだよ)
呆れて俺は何も言えなかった。
「まあ、あれはさておいて。実際『モンスター』達からの被害を抑えてるんだ?」
「それはだな、モンスター達はこの世界には現れないんだ。『歪みの世界』っていう簡単にいえばこの世界と繋がっている異世界みたいな所でそこにモンスターが現れるんだ」
「じゃあ、俺達はその歪みの世界にいってモンスターを倒さなくちゃいけないのか」
「そういう事だ。そして、制限時間もあって1時間だ」
「なんで1時間なんだ?」
「実はこの世界と歪みの世界では時間の進み方に違いがあって現実の1分が歪みの世界では1時間なんだ。それでさっきこの世界と歪みの世界は繋がったいると言ったが、ある条件が揃うとそれから1時間以上経つと歪みの世界で起きた事、例えば建物が破壊とかが現実世界でも起きてしまうんだ」
「だから1時間って訳か。そして、その条件がモンスターが現れる事か?」
「半分正解だ。モンスターだけじゃなくてお前達フェイターもその条件に入るんだ」
「まじか・・・。そこは気をつけとかないとな」
「まあ、今の所被害は0だからそこまで気にする必要はないぞ」
こんな風に俺は一通りフェイターについてクロから教えて貰った。
「なあ、そういやもう1つ聞きたい事があるんだか」
「なんだ?」
「俺ってフェイターでモンスターたちを倒していくんだろ」
「ああ、それがフェイターの仕事だからな」
「じゃあ、それ以外の時はどうするんだ?」
「そういや、それも説明しなくちゃな。お前はこの世界に馴染んでもらうために・・・」
クロは途中で言葉を濁した。俺は何を言われるか分からず緊張のあまり唾を飲み込んだ。
「今日からお前には高校生になってもらう」
「はぁ?!」
それは俺がもう二度となるとは思っていなかった事だった。