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海6 エウディさん

 エラスノ万事屋は失せ物探し物、配達を主に仕事にしていた。各地に拠点と呼べるようなお得意様がいて、伝手を使って色々お仕事を受けている。が、不定期で拠点を回っているのだから、当然空振りになることもある。


 本拠地は帝都の外れにある宿屋と聞いたけど、そちらは本拠地を回す分しか収入にならないとの事。

 つまり、それだけでは食べていけないお財布事情。


 正直ものすごい能力があるんだから、違う仕事もすれば良いのにと思うけど、彼らは船からは降りれないのだそう。


 ひと月以上船に乗っても彼らの生活は謎だらけだ。


 私の一日は朝早く起きて、朝食と昼につまめる物を用意する事から始まる。盛り付ける直前まで下拵えしてから会議室兼リビングダイニングになっている中央室を片付け、掃除。皆さんが起きてきたら食事をして、今日の予定を確認する。

 仕事の見習いの合間に掃除と洗濯、時々頼まれた繕い物や修繕をやり、時間が取れる時に長年の怨み化した所を順番に掃除している。


 夜は陸に接している時は食べに行く事が多い。アルバートさんの女嫌いは筋金入りで、個室以外では女性がいそうな店には行かない徹底ぶり。クロノ様はどこでも美味しく頂ける派で、リードさんは食堂が好きだった。なのでアルバートさんだけクロノ様とリードさんと別行動になる事も普通だった。私はアルバートさんとご一緒した事もあったが、女性に間違われて絡まれる事があってからは二人きりは遠慮している。

 大きな体に浅黒く伸びやかな筋肉を持った鋭い目付きの、いかにも漢らしい彼の横に並べば私は小さく華奢に見えてしまう。子供が獲物かはたまた女かと見られてしまうのは仕方のない部分ではあった。

 

 お酒が一番強いのはクロノ様で、次がリードさん、アルバートさんは弱くは無いけど二人よりは普通の人だった。私は比べて弱い部類だったのだけど、リードさんは中程度アルコール度数では全く酔わず、クロノ様に至っては蒸留した高濃度な物も味付け水なのだそう。お金も酒も勿体無いから逆に飲まないらしい。


 日常が軌道に乗ってしばらく経ってから、初めて船の中で彼女に遭遇したのは依頼も何も無い日だった。廊下を拭いていると突然声をかけられたのに、何故か警戒心は湧かなかった。


「こんにちは。あなた、もしかしてサヤちゃん?」


 女性の柔らかくて可愛らしい声に顔を上げると、その声に相応しい可愛いらしい女の人が微笑んでいた。ピンク調の髪色の人は初めて見た。少しオレンジも混じった様な髪色と瞳は甘く、白い肌が輝くように映える。


「私、エウディよ。よろしくね」

「は、はい!」


 手を出されて思わず受けると、少し冷たいけど柔らかくて華奢な手だった。こんなにスタイルの良い美人はお目にかかった事は無い。


「ねぇさん!」

「げっ」


 リードさんの弾んだ声と、アルバートさんのヒキガエルを踏んだみたいな呻きを聞いてようやく、この人は誰?と思った。


「リンリン、久しぶりね。少しは成長していい男になったかしら?」

「なりましたよ。そろそろ抱かせてください!」

「おい!」


 アルバートさんは止めようとしたけれど、妖精のような美女とリードさんのやりとりは止まらず私は氷結する。


「あら、経験人数は増えてないでしょ。クロノからしばらく禁止されてるって聞いたわよ?」

「ちぇっ。プロの人がなんか本気になったとか言われて、ちょっとトラブっちゃったんだよ。それでしばらくは禁止って言われたんだ」

「そういうのが、まだまだなのよ。アルちゃんくらいの良い武器持ってるなら別だけど」

「……てめぇ。黙れ」


 ……この会話は何でしょう?物凄く綺麗で上品な作りの人の口から破廉恥な話題がスルスルと出てる?幻聴?むしろ、彼女が幻覚?


「一回くらい試してもいいじゃない。使わないと勿体無いわよ?」

「下らん妄想は耳が腐るわ。つーか、サヤが引いとるやろ。いい加減にしくさらせ。用件は?」

「こわーい」


 エウディさんは私の腕にすがりながら、後ろに回り込んで私を盾にした。清純な花のような良い香りがして、目が回りそう。


「これ、クロノに渡しといて」

「ねぇさん、クロノさんに会わないんですか?」

「んー、まだ寝てるんでしょ?力使いすぎで寝てるんだと思うのよね。こんな時に余計に体力使わす事させるのもなぁって。久しぶりだから一回戦じゃ終わらないだろうし?」


 封書をリードさんが受け取ると、アルバートさんは私をエウディさんから引っぺがす。


()ねや」


 しっしっと彼女を追い払っても彼女はころころと笑う。そして、「またね」と彼女は私の頬にキスをして帰っていった。


「イ、イマノカタハ?」

「……聞かん方がええ。ほべた洗ろてくるか?」

「イエ」


 リードさんはクロノ様に封書を持って行き、アルバートさんには心底同情的な視線でぽんぽん肩を叩かれ、それからちょっとしてから覚醒した時には、私は一人だった。


「掃除、しよ」


 今のは何??エラスノの人?それとも、そういう職業の人?いや、でも、アルバートさんがいるから、リードさんやクロノさんはそういうのは街で済ませてるだろうし……街?


 気がついて慌てて甲板に飛び出す。エウディさんは居ない。そして、記憶通り周りは一面の水平線だった。今日船はどこにも停泊の予定は無かった。


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