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海13 カジノにて 1

 カジノは帝都に比較的近い島にある。一体がリゾートに特化されていて華やいだ島だ。

 前のご主人様にに付き従って行っていた町の賭博場は、元々宿屋兼酒場だってはずなのに、謎改築を繰り返して妙にギラギラしていた。あれはこのカジノを目指していたのだと分かった。

 本物はきらびやか、真似っこはギラギラ、少しの差はセンスがかけられた費用か、多分両方。


 私はアルバートさんの腕に手をかけて、なるべくキョロキョロしないようにとのエウディさんの教えを守ろうとした。が、船を降りると同時に降り注ぐ視線でむしろ下を向かない様に歩くので精一杯になる。


 色々な感情をのせた視線を三人は気にする事なく進んでいるけど、三人が気づいていないはずは無い。時々、好奇心や羨望以外に強烈な嫉妬や憎悪が向けられてくる。やっぽど賭け事で毟られた人がいるのか?


「サヤ、気分悪ないか?」

「大丈夫です。ありがとう」


 言葉遣いも、なるべく親密そうにとオーダーされたので少し崩しながら、アルバートさんに微笑みかけた。心配そうな彼の表情は演技ではなくて、いつもと変わらない事に安心する。


 みんなもいる。大丈夫だ。深呼吸して、エウディさんに言われていた通り背筋をピンと伸ばした。


 入場口のゲートでカードを検められる。軽くカードをチェックされる人達はほぼ顔パスのようだ。初めての私も特に時間はかからなかったが、直後後ろの人達が取り押さえられた。


「今日は人出が多いですからね。入場制限でしょう」


 クロノさんは涼しげにそう言ったけど、その後の人達は入れている。入れる集団にもグレードがあるのだろうか?システムが謎だ。取り押さえた人達からは管理とか鎖とかの単語が聞こえてくる。


 クロノさんとリードさんは最上階にあるVIPルームで予定があった。そこは派手な賭け金のゲームをする事もあるらしいが、個室という利点から接待しながらの商談にも使われるのだそうだ。予定より早く着いたので、初めはクロノさんの時間つぶしの勝負を見学する事にした。当然私のお隣にはアルバートさんがいる。

 リードさんは少額でスロットスペースに行ってしまった。スロットではトラブルにはならないのだと言われたけれど、スロット以外はトラブルになるかもしれないってどういう事ですか。


 対応チップを説明されて、クロノさんが興じるカードゲームを見る……四人の五日分の食費が一瞬で消えるようなゲームだった。


「面白そうやったらサヤも参加してええで」

「いえ、私は小心者だと知りました……」


 クロノさんが数ゲームで二ヶ月分の食費に増やして、ほっとしている私にアルバートさんが吹いた。


「船のメンテ代知ったら、サヤは倒れてしまうな。あっち行くで」


 腰を引かれながら、バーのあるスペースに向かう。アルバートさんがいる目配せしてきたので、私達に興味津々な観客も付いてきたのが分かった。


 バーには自分達以外にもノンアルコールカクテルを注文している人は多かった。お仕事で連れてこられた使用人なのかもしれない。しきりにフロアの特定の方向を見守っているので、主人にあっちへ行けと追いやられたのだろう。呼ばれたらすぐに行かなければならないから、あれはあれで大変だった。懐かしさを感じる。


「面倒くさい奴が張り付いとる。気にし続けるんも気ぃわるいさかい、ちょっと釣り上げよか。サヤ、三分程離れる。すぐ戻るし、魚は適当にあしらってくれ」


 ぐいと引かれて耳元でそう囁かれた。行為に驚いていて返事に戸惑っていると、「ほな」と言って彼はどこかに歩いて行った。先は……ああ、リードさんのところね。


「ねぇ、ちょっと?」


 少しアルバートさんが離れた辺りで声がかかった。私や彼の視力では『少し』だけれど、ちょうど他の人からすると視界から人混みに紛れてしまったくらいだ。


「あなた、彼の何かしら?」


 声をかけてきたのは妙齢の女性だ。美人だけれど少しきつめの目元で意思が強そう。彼女はカードを鳩尾のあたりで見せている。プテラ……一座?自分のものより良いらしいグレードのそのカードには色々書いてあるけれど、プテラ一座という文字は1番大きく真ん中に書いてあった。


「ちょっと!あなたもカードくらい見せなさいよ。最低限のマナーでしょ。バカにしてらっしゃるの?」

「あ、すみません。ここには初めて来たもので」


 慌てて見せると彼女は鼻を鳴らした。


「ふん、田舎者ね。……一応エラスノの一員ではあるのね。クロノ様、また奴隷集めの趣味を再開したのかしら」


 視界の端々にこちらを伺う女性達が見える。プテラ一座の人だろうか。それにしては目の前の彼女たら毛色がだいぶ違う。目の前の彼女の声は決して大きくなく、その声を周りの子達は必死で聞いているようだった。


「アルバート様から、手を引きなさい」

「え?」


 静かに威厳たっぷりに宣言された。


「アルバート様に近寄るなって言ってるのよ」

「いや、無理です」


 仕事が一緒なのにどうやって?と呆れてしまった。それは彼女に伝わったらしく、顔を真っ赤にした彼女は私のグラスをはたいた。

 咄嗟に避けたけれど、手にかかる。ドレスを汚してしまって退場するよりマシ、か。

 流石に頭からかけられなかったのキャットファイトを始めたら二人とも放り出されるからだろう。この程度なら粗相で倒した、で通る。


「世間知らずにはいい経験ね。クールで硬派な彼の手を煩わせてる自覚、ないんでしょ?」

「お気遣いありがとうございます」


 アルバートさんが、クール?むしろ人情派なような。

 心の中で突っ込んで冷静さを保つ。取り乱したら相手の思うツボ。でも、どうすれば?


「なんや、サヤ、倒してもうた?」

「アルバート様!」


 きゃあっと言う黄色い声は目の前の人からだけでなく、何故か見守ってた女子からも飛ぶ。


「アル、ごめんなさい」

「ええよ、怪我ないか?」

「大丈夫」


 プテラ女子をガン無視して、アルバートさんはボーイを呼んだ。プテラ女子の表情は恋する乙女になっていて、ようやく事態が飲み込めた。


「アルバート様、今日は女狐は?」

「おお、プテラ座長殿、気ぃつかへんかった。すまんな。エウディは留守番や」


 気がつかない訳がない。明らかに無礼な返事に対して、乙女は嬉しそうな顔になった。何が嬉しいのやら、摩訶不思議。


「それで……今日は子供のお守りですか?でしたらうちの子達に任せて少し遊びましょうよ」

「触んな。俺、女嫌いやゆーたやろが」


 アルバートさんの腕に伸ばしつつあったプテラ乙女の手が止まる。ただでさえ刺すような目付きのアルバートさんに冷たくあしらわれているのに、この状態のアルバートさんに本当に惚れたの?ドM?声とかちょっとドスが効いてて普通にめちゃくちゃ怖いですやん。


「で、でも、こちらの方は……」


 潤んだ目でアルバートさんに媚びる姿は、不覚にも可愛いと思ってしまった。普通の相手なら陥落できるんじゃなかろうか。無性の私ですらきゅんと感じるんだから相当の可愛さじゃないか。しかし、アルバートさんには通じない。


「惚れた相手の性別がたまたま女やっただけや。こいつ以外の女に価値はあらへん。特に馴れ馴れしい奴は虫酸が走る。サヤ、次は何飲む?」


 プテラ乙女はワナワナと震えている。アルバートさんは睨む以外に彼女の方を向いていないけれど、多分周辺視野で観察している状態のはずだ。ここは彼女を無視するのが正解か?


「さっきのが美味しかったから同じのを。勿体無いことしちゃった」


 片付けに来てくれたボーイさんに会釈しながら、タオルを受け取ろうとしたけれど、アルバートさんが代わりに受け取った。ラブラブ演技?と思って拭いてもらおうと手を出して出すと……


「ほんまやな、甘もうてうまい」


 とびきり甘い声を出して、アルバートさんが私の指を舐めた。


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