異世界転生したら、ルンバだった件
”おい、動いたぞ”
”誰か衛兵を呼べ。隣国の戦術兵器かもしれんぞ”
”少し可愛らしいわね”
”いや、気を付けろ。何をしでかすか分からん”
ういん……ういん……
俺は体を動かそうとしたが、上手く動かすことが出来ない。
足を動かそうとすれば、地面を踏み抜けず、氷の上を歩くように滑ってしまう。
上体は全く動かすことが出来ず、まるで荒縄で縛り付けられたようだ。
自身の身体がどうなっているか覗こうとして、下を向いた。
しかし、舗装された地面が見えるだけである。
どうやら、俺は今寝転がってるらしい。
そんなことが、どうして分からなかったんだろう。
ういーん……
首を横に回してみる……うお、回り過ぎ。普段なら90度も回らない俺の首が360度回ってしまう。
怖い。首の骨が折れてるのか?
しかし、痛みは無い。検証の結果、足と首回りしか動かすが出来ないようだ。
顔を上げる……そして、俺は驚愕した。
巨人だ。
巨人どもが、俺を見てる。
奴らは俺の周りをぐるりと囲んでいた。
巨人どもは皆一様に、珍妙なものを見るような表情をしていた。
男の巨人も、女の巨人も、子供の巨人も、老いた巨人も皆。
「なんだ、お前ら」
”うわ、喋った”
”人の言葉で喋るなんて”
”魔法か何かか?”
俺が喋ったことが、相当な波紋を呼んだようだ。
どうやら、俺は喋るはずがないと思われていたらしい。
いやいや、姿形はお前らと一緒なんだから、喋るくらい想像がつくだろ……
ん、ちょっと待てよ。まさか、俺って人間の姿じゃないのか?
この体の違和感と、周囲の反応がそれを裏付けているように思えた。
ういん……ういん……
思えば俺は寝転がってるはずがないんだ。だって足を動かせばちゃんと前に進むんだから。
しかも、動く度に変な音がする。
知りたい。俺は一体何なんだ。
目の前に少女の巨人が居た。
少女は小学生くらいだろうか。赤髪で、頭の左右に髪の毛でつくったお団子を付けていた。
そして大きな青い瞳をキラキラと輝かせて、俺の方を見つめていた。
俺はその瞳の中に映る自身の姿を見たのだった
なんだ、これ。
少女の瞳の中、円形で銀色の物体がある。
見たことがある気がする。
そうだ、実家にあったぞ。
これは【ルンバ】だ。
俺は前後に動いてみた。
すると、少女の瞳の中のルンバも上下したのだ。
これにて確信。
俺はルンバだ。
どうも、ルンバです。皆よろしくな。
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その後、俺は色々なんやかんやあってこの世界に蔓延る【悪】を掃除していったのだが……
それはまた、別のお話。