エピソード5 = 日常の終わり
「そんな俺に何を訊く?」
ガラクタが山積みになった部屋の中、出された水にてをつけずに考える。
不審者の家の中、逃げ場はない。
…どうしてセレン姉ちゃんといたときは質問を受け付けなかったのに、子供3人相手のときは答えてくれるのか?
…もみ消すのが容易いからに決まっている。
違うと思いつつも最悪の想定に心が揺れる。
オレ達の勝利条件は一つだった。
行方不明者事件について触れないまま帰ること。
もちろんこれは難しい。
どうにかしてアルカに質問の番を与えずに質問を終わらせる。
アルカが一時的にでも行方不明者事件について忘れる様な何かを引き出せればいい。
ライズは耳が良い。
小声で話しても気付かれるだろうから、アイコンタクトでどうにかしないといけない。
隣を見るとソラと目があった。
どうやら同じ腹積もりらしい。
「アンタっt「今どうやって生活してるの?!!」
危なかった…突然質問を開始したアルカを上手くソラが遮る。
不機嫌そうな顔をするアルカ。
ライズは乗り気でなかったソラが真っ先に質問をした事に少し驚きながら答える。
「そうだな…水は言った通りだが、食料に関してはまあ秘密だな。…っと!犯罪は犯してねえぜ!保証する。」
何を持って保証してくれるのだろうか…?白い目で見ていて危うく目的が頭から抜けかかったその隙に、アルカの発言を許してしまった。
「アンタの身体はどうしてそうなったわけ?」
一瞬焦りはしたものの、この質問はセーフだ……少し安心して気を引き締める。
「…真っ先に訊かれるのは生活云々じゃなくこっちだと思ってたんだがな…。」
自分の体をしみじみと眺めるライズ。
その目は懐かしむ様でいて、悲しみや誇らしさが混じり合った難しい雰囲気をしていた。
「…俺がお前らよりもガキの頃…セルの外に出たい、と思っていたんだ。冒険心が強いガキだった。ハイヴからちらつく遺神体を見てはワクワクしていたもんだ。」
その言葉に、何か違和感を覚える。
「そしてその願いは叶った。偶然錆び付いて壊れていた鉄格子を見つけてな…ハイヴに入っちまった…。その先はお察しの通りだ、好奇心は猫をも殺す。出くわした遺神体に体を滅多刺しにされて死にかけた。見ての通り臓器も殆ど駄目、手足も引き千切られてしまっていたな。」
朦朧としていて、手足がどうなっていたかはそのとき気付いていなかったが、と付け加えながら自分の掌を見て握ったり離したりしているライズ。
「どうしてそんな体で生きて帰れたんですか?」
疑問に思ったソラが口を挟んでしまう。
「……………さあ?何でだろうな…?まああとはハイヴの入り口付近にこの前みたいに野ざらしになってるところを拾われてジャンクになった。…それだけだ。」
「そんな話聞いた事もないんだけど!それにジャンクって何?メンデッドとどう違うの?!」
我らが地雷のアルカがずけずけと質問する。
頭が痛くなってきた。
「……………そんなの、これが作り話だからに決まってるだろ…!?」
何事もなかった様に切り返すライズ。
嘘にしては語っているときの表情がとても鮮やかであったな、と思いつつそろそろ潮時だと感じ取る。
「何よ!やっぱり何も話す気がないんじゃない!!最初からおちょくっていたのね!」
憤慨するアルカを見ながら笑い出すライズ。
「世捨て人が俗世と関わっている時に真面目な話をするかってんだ、バ〜カ!」
「きいぃぃぃ…!」
アルカが怒りに我を忘れそうになっている。
……今だ!!
ソラと2人でアルカの肩を掴み、引きずる。
来た時とと立場が逆になったな、と思いながら、
「そろそろ時間なので帰ります!なっ!?アルカ!」
大分無理のある帰りかただとは分かっていた。
脱出経路は覚えている。
あとはアルカを引きずりきれるかだけだった、そんなとき、
「ああそうだった…!お前ら行方不明者事件についてちょっとでいいから教えてくれねえか?」
…間に合わなかった………。
それを聞いたアルカも思い出したようだ。
「そうよ!その為にここに来たんだった!アンタ達邪魔ばっかりして!」
アルカはグーでオレ達を叩く。
全てが上手くいかない。
そんなオレ達にフォローを入れたのは他でもないライズであった。
「俺が怪しいからコイツらはお前を守ろうとしてたんだろ、そんな仕打ちは酷だぜ。まあ無駄骨なんだがな。取り越し苦労ご苦労さんってな。報酬はお姫様のげんこつか…泣ける話だな〜。」
こめかみを抑えてうずくまるオレ達を煽る煽る。
なんだかとてもイライラしてきた。
しかし、ここに来るまでに抱いていた得体の知れない不審者に対する恐怖心はかけらも残っていなかった。
やはりオレ達の緊張を解こうとしているのか。
そう思うと、やっぱりなんだか憎めない人だった。
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行方不明者事件の詳細を知る限り話した……勿論メンデッド差別主義者のことも。
無言で話を聞いていたライズは最後まで聞くと、やっぱり俺は関わっていない話だ、と一瞥した。
「まあ、容疑者にされるのも嫌だしこっちでも調べてみるか。今日はありがとな。」
最初はどうなるかと思ったが、何事もなく解放してくれた。
家まで送ることを提案されたが断り、急ぎ足で帰る。
ある程度ボロ屋から離れてからアルカが立ち止まる。
なんだか嫌な予感がした。
「…ここならきっと聞こえないわね。」
あぁ…ここまでしてまだ懲りないのか…いや、そもそも一度たりともアルカは恐れていないのか。
ソラも似た思いなのだろうか、表情は疲れ曇っていた。
「あの話、変な箇所が多かったわよね。」
「そりゃそうだろ、作り話なんだから。」
ぶっきらぼうに答えると、アルカに鼻で笑われる。
「嘘だとしてもおかしなところがたくさんあるのよ、まず遺神体を見たって言ってたでしょ。ここ50年目撃されていない筈なのに。」
「見ても言わなければ目撃例にはならないんじゃ…」
「次にメンデッドの事をジャンクって言った。」
「適当に言ったんじゃねーの。」
「それにしては手が混みすぎてるのよ。作り話ならセルに戻るときの話を誤魔化すのは変でしょ!それに聞いたことがないってアタシが言ったときに、アイツ一瞬目を逸らしたのよ!!」
よく見ているなと少し関心してしまった。
……それがもう少し危機管理に役立てばよかったのだが。
ともかく、ここまで火がついたアルカを止めることは不可能に近い。
「きっとたくさん隠し事があるわ!戻ってバレない様に後を付けるわよ!」
嫌な予感は的中した。
「「嫌だ(よ)!!」」
オレ達の拒否は虚しく無視され、アルカは一人で来た道を引き返し始めた。
アルカを置いて帰る訳にもいかない。
仕方なくオレ達はアルカを追いかける。
どんな事があっても、例えアルカに絶交されようとも、この時に止めておくべきだった。
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…その結果、ライズがハイヴに侵入するところを、この目で見てしまった。
……後悔してももう遅い。
やっとストーリー紹介分が消化できました。
文章力が上がったと思い次第、最初の方も手直ししていきたい。