エピソード34 = 視点変更
対峙した男___ジルコは異様だった。
遺神体に直接生体を繋ぐ………嫌という程見てきた筈だったが、ここまで惨いものもなかった。
「その様子…頭脳中枢を破壊しないまま接続したな……!」
その末路はシンプルだ。脳を支配され、体と心の自由を奪われ、操られる。
俺たちフラグメント___つまりは遺神体パーツの接続に成功したものが現れた事で、自分の身を守ろうと知識のないジャンク達がこぞって遺神体のパーツの移植を始めた。
誰もが自分が生きるのに必死で止めるものもいなかった。
その結果、安全であったシェルターは内部から遺神体と成り果てたジャンク達自身によって破壊された。
………今回はそういう訳じゃねぇっぽいな…!コイツは明らかに外部から侵入して来ている。
破壊された扉の奥から見える廊下の遠くに外の光が見える。
コイツは明らかにシェルターの存在を知っていた。
………人様の知識と知恵を得たって訳か……。
「お前を排除する。」
ジルコはそう言ったままその場を動かない。
思えばここまで遺神体に操られたまま野放しになっていたジャンクはいないだろう。
俺の知識の中にある者たちは、皆錯乱し壊れた機械の様に“排除する。”と繰り返し発声して暴れるだけのものだった。
一方でコイツは何だ?さっきも流暢に会話をしていたし、不規則に暴れているわけでもない。
寧ろ効率よく他を無視して俺のみを狙っている様にも見える。
他の人々は通常の遺神体に任せれば良いのだから。
「ああ……そういう事か…。セル内に入り込んでいたお前のエラーチェックにオレが引っかかった訳か。」
府に陥った。セル内をスキャンする手段が無く、メンテナーは基本的にセルに侵入する権限を持たない。
コマンダーもその巨体では侵入する訳にはいかず、その結果人間であるコイツを差し向けた訳だ。
……蓋を開けたら俺というとびっきりの異物が入っていた訳でセルの廃棄を決定したってとこか。
デストラクションモジュールを起動して武器を出す。
シングルストライク____伸縮自在の棒。イマイチ使い方の分からない得物だが、今のところ不備なく使えている。
この間までのハイヴ探索でそこそこ腕に馴染んでいる。
いざという時にはシャットダウンモジュールもある。
コイツが積極的に攻撃しない限り、ここにいる人たちを守ることは出来るはずだ。
____人質をとる様な狡猾さを得ている可能性も十分にある。とにかくまずはコイツを無力化する。
話はそれからだ。
「…どうした?動かないようならこちらから…………!?」
何かが頭上で激突する音と共に、ゴリゴリと物を削る音が鳴り響く。
____まさか…!?コイツ自分ごと!?
思い当たることは一つしかない。
____ムカデ野郎を直接ここに仕向けて来やがった……!!
どちらかと言えば、ムカデ野郎の指示でここを特定したのちに獲物ごと犠牲になるって役割だろうが知ったこっちゃない。
このままだと全員巻き込まれて死ぬ……!!!
___クソッタレ!!
俺は一目散に部屋から脱出する。
俺だけを狙っているのならば俺がここから離れるのが一番だからだ。
……もし、俺が移動したあとも進路を変えずに到達した場合、俺は皆を見捨てて一人で逃げたことになる。
また、同じことを繰り返すことになる。
しかし、そのまま動かずに巻き込まれるよりかは、確実に全員の生存率が高い。
___チクショウ!!ちゃんと付いて来てくれよ!!!
助ける為に、見捨てて一人で逃げ出す様な動作をすることに胸が痛む。
ジルコはすれ違いざまに何もせず、そのまま俺を素通りさせた。
廊下に出る。
「来いッ!!!!ムカデ野郎!!」
……ドッカーーン!!!バリバリバリガギギギギギギギギギギィィィィィィ〜〜!!!!
願いは叶い、頭上からムカデ野郎が襲い来る。
地面を掘り進んでいる為に速さはそこまでではなく、移動している俺を捉える事は出来ない。
「へっ!ありがとよっ!」
ムカデ野郎はそのまま廊下の地面に激突し、更に深く掘り進む。
___ここでハングアップさせるか……?………__いや、ダメだ。コイツの頭脳中枢部は頭と尻の二箇所にある。無力化圏内に入る前に、Uターンした頭が下から襲い掛かる!
ふと芽生えた反撃の意思は、直ぐに理性に鎮静される。
「排除する。」
「ッ!?」
突然ムカデ野郎の影から銀色のアームが襲い掛かる。追って来たジルコだ。
そのアームに新しい血はついておらず、誰も襲っていない事が窺える。
未だに通路はムカデ野郎の直径が占拠しており、その隙間からギリギリアームを通しただけでジルコはこちら側に来ることができない。
「随分としつこいようで!モテモテだな?俺。」
こうやっておちょくるのは悪い癖か。
しかし、ムカデ野郎もジルコも俺を狙っている事が確定した。
これで心置きなくここを離れる事ができる。あとはここにメンテナークラス共を侵入させなければコンプリートだ。
「足の遅い俺にハンデをくれてありがとうな!先に地上で待ってるぜ!!」
無論、別に脚が遅くもないし、この足止めはハンデでもない。
しかし、煽っても煽ってもジルコは眉ひとつ動かさずに無言でそこを待機している。
___長時間遺神体と接続しっぱなしになるとこうなるのか…。
過去に見た者達は皆、煽れば激怒し、と制圧し易いものだったがここまで無機質な者には効果がなさそうだ。これ以上油を売る暇はない。
俺は地上を目指して走り出した。
不定期にする代わりノルマを増やす、そう言った割には然程増えていないという……申し訳ありません。




