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エピソード2 = 生還

「お待たせ!その人が患者ね。」


 ウェーブのかかった栗色の毛の女性……セレン姉ちゃんはハキハキとした口調でバイクから降りる。

 乱暴な運転だったのだろう。必死にしがみついていたソラとアルカは顔が真っ青だった。


「ノーズさん。貴方が第一発見者ですか?」

「…いや。俺はコイツに電話を貸せとせがまれただけだ。事情を知ったのは電話の後だ。」


 ノーズさん…そんな名前だったっけ。今までは嫌いなおっさんとしか思っていなかったが、今、覚えた。


「……見ての通りのメンデッドだ。しかも、首から下ほぼ全て。…中身までそうなってるかは分からんが、医学の常識が通じるとは限らねぇな。」


 ノーズの言葉に、まじまじとライズの体を眺めるセレン姉ちゃん。

 僕たち3人は黙って見つめるしかなかった。

「………この人の義体部分…見たことのない形をしています。……まあ、とりあえず栄養剤注射しちゃいましょう!えいっ!」

「「「「なっ!?」」」」


 深刻そうな表情をしていた姉ちゃんは、そのシリアスを維持できずに無造作にも見える手付きで、首に注射をした。


「おい!?人の話聞いてたか!?通常の医療が可能かも分からなねぇって言ったばっかりじゃねぇか…!しかも…!そんな雑に打って大丈夫なのか…?」

 ノーズさんが慌てふためく。


 セレン姉ちゃんの現場での評価は手先の器用さにあった。どんな患者も一回で採血し、注射も痛くないと評判であった。

 唐突に注射をした事には驚いたが、その腕を見てきたオレ達3人はそこに不安はなかった。


 注射をされてからみるみる血色が良くなってゆくライズ。

 疑問に思ったソラが質問する。


「栄養剤ってこんなに素早く効くものでしたっけ?」

 …その場にいた全員が、セレン姉ちゃんのギクリとした反応を見落とさなかった。


「首の血管に直接打ったからってこんな早えぇ訳がねえよな!?セレンお前何を打ったんだ!?」

 ノーズさん。

「「もしかしてまた変な薬を作って使っちゃったの!?」」

 アルカとソラ。

「俺に体に何したの!?ねぇ!?凄い不安なんだけど!??」

 ライズさん。



 ……?ライズさん!?



 がばりと起き上がったライズは、手足の動作を確認しながら苦言を呈した。


「絶対変なもの入れたよね!?さっきまでの不調が嘘の様だけど、逆に元気になりすぎて不安しかないよ!?…勿論感謝してるんだけどさあ!?せめて何を注射したかぐらいは…………いや、どうせ死ぬ筈だったんだから文句は言えないか…。」


 ライズは直ぐに状況を把握し直したのか、冷静な口調になる。


 そのまま姿勢を改めて、

「…助けてくれて、ありがとうございます…!あのままでは俺は死んでいるところでした。

 それを忘れて、命の恩人に失礼な事を…。

 ……俺はライズ ピュアウォーターといいます。訳あって素性を話せませんが、この恩は一生忘れません。」


 ライズは無理して丁寧な言葉を使っている様だが、…一生、そう言ったときに僅かに表情が曇った様な気がした。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その後は特に何もなくノーズと別れ、一応念の為にライズをセレン姉ちゃんの家で確認をする事になって、そこからついでに皆で夕食を食べる流れになった。それだけだったのだが………。



「いやあ…!まともなものを食べるのは久しぶりで…!」

 ライズは盛られた端から凄い勢いでバクバクと食べていく。既に大人の5人前は超えただろう量が消費されている。


「良いねぇ!作り甲斐があるってもんよ!」

 セレン姉ちゃんはむしろ嬉しそうだった。

「あんた達、最近全然遊びに来てくれないからさ…。たまに客が来る方が、パァーッと出来て好きなんだけどね…。」


 そういえば、最近はあまり遊びに来ていなかったな…。少しだけ心が痛んだ。



「おかわり!」

 ライズは既に食べ終わったオレ達の前で、懲りずにまだ食事を続ける。

 命の恩人に食事をたかるってどうなんだろうな…?



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 …食事の後、ライズに風呂を貸してその隙に4人で相談する。


「やっぱり、普通の人じゃないわよね。」

「あんなに機械部分が多い人だったら噂になってもおかしくないのに、僕たちは一度もそんな噂聞いた事がないよ。」

「そうね…メンデッドの患者を見たこと自体は何度もあるけど、あんなデザインのものは見た事がないの…。…知ってるでしょ、メンデッドは柱央区内にある機械が作っているのよ。いえ、作っているというよりかは、被術予定者をそこにいれると、機械で補われて出てくると言った方が正しいかしら。…ともかく、柱央区内の機械でああなったとは考えづらいわ。」

「最近、人が4人もいなくなってるわ…実はその犯人だったりして…」

 3人がネガティブな方向に話を向けていく。


 …違う、あの人はきっとそんな悪い人じゃない。

 怖くなったオレを、自分も苦しいだろうときに気にかけてくれたんだ。



「あの人は悪い人じゃないよ!!」



 つい…口に出してしまった。


 それを聞いたセレン姉ちゃんが微笑む。

「分かっているわよ…!あんな風に美味しそうに料理を食べてくれるんだから、悪い人じゃないに決まっているわ!…でも怪しいのは事実なのよ。」


 ソラが、ライズの着ていた上着を軽く見て言う。

「こんな見た事がないものだらけな人…もしかしてセルの外、ハイヴから来たんじゃ?」

「…でも…ハイヴには…」



「ハイヴには遺神体(いしんたい)がいる。でしょ?」

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