エピソード24 = アポトーシス
「…………グッ!…ぜっ…たい……に!!…許さ…ねぇ!!!」
そう言って男は事切れた。
それと同時に、心の中のライラがまた少しだけ元の姿へと戻っていく。
遺神体を適当に撒いた僕は、パイプだらけの壁にもたれかかる。
これで4人目、慣れた物だった。
ライラに謝罪をさせるついでに食料を調達する。
無駄のない行動だと思った。
最近、腕の壊死が広がっている。
いつ傷口から侵入した雑菌で死ぬかもわからない生きているのが不思議な状態だ。
既に立ち続ける事すらも苦しく感じるほどになっていた。
「間に合うかな……?」
それだけが心配だった。
自分が死ぬことは受け入れられたが、ライラが元気な姿でない事だけは許せなかった。
「あと2人だ……もう少しで…。」
あの頃のライラに会える。
……それは本当なのだろうか…?
今まで気付いていたようで認識出来なかった疑問がふと浮かび上がる。
……誰が、そう言ったのか?
…僕はいつからライラを自分が救えると思っていたのか?
……そもそも何故ライラが心の中にいるという事を信じているんだ。
ライラは居なくなって、僕はそれを必死で探して……ここは何処だ?どうしてこんな場所に迷い込んでいるんだ?!
一つの目的のみに集中して見失っていたもの達に気付き、自分の中の事実と矛盾し錯乱する。
「…僕は…!?一体何をしているんだ……?」
すぐそばには人の亡骸。
「うわぁ!……………僕は………これを…さっきまでなんだと思っていた…?」
気付いてはいけないものに気付いてしまいそうで、必死に別の事を考える。
遺神体のパーツを移植してからだんだんと思考が明瞭になってしまった。
認識しきれなかったものや、目を逸らしていたものが、少しずつ確実に視野に入ってくる。
狂ったままで良かったのに…直視してはならなかったのに………!
「そうだ!彼処に行く必要があったんだ!!」
ふと思い出した用事に思考を傾けて僕は現実から目を逸らす。
これが時間稼ぎに過ぎないことは僕も分かっていた。
それでも、開けた扉の先の暗闇にあるものは僕が背負うには重過ぎて、扉を開けなかった事にしたかった。
「僕には深刻な不具合が発生していて、それの修正の待ち合わせにセル26ハイヴD-34まで行く必要がある。」
僕の言葉は一体誰が吐いているのか…。
自我はバラバラで訳が分からない。
遺神体とすれ違った。
それは僕に目を向けずに通常ルーチン通りの循環を続ける。
襲われなかった…?
……僕は何だ?
………………僕は…………
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目的の場所に着いた。
そこは標準的な太さの通路の袋小路で、壁のパイプも少なめな殺風景極まれりといった場所だった。
ここで待ち続けるのが僕の最期の行動だ。
…
…
…
………?!
思考をやめて楽になっていた意識が悪寒を覚える。
胸騒ぎがする。
久しぶりの感覚だ。
……ここにいてはいけない!?
そう思ったとき、行きに通っていた一本道の奥から物凄い形相をした何かがゴリゴリと音を立てて迫って来るのが見える。
まだ遠く具体的に何なのかはよくわからないが、それが自分が待ち合わせていた相手であることは理解できた。
「…ふざけるな!!」
こんなところで終わらせるのか!
これまで何度も思ったであろうその感情、それを今回は受け入れていた事に腹が立つ。
巨大な何かははっきりと見えるところまで迫ってくる。
その時、
『ブレインサポート終了-本機メンテナークラスS-247は当時刻をもって廃棄されます。』
唐突に脳内にナレーションが響く。
それと同時に、再び思考が鈍くなるのが分かる。
今まで動いていた遺神体のパーツからガクンと力が抜け、それに支えられていた身体が倒れる。
「なんでここで動かなくなるんだ!!動けよ!動けって!」
僕は必死に、唯一動くメンデッドの腕で脚の付け根を叩く。
その努力も虚しく、じりじりと巨大な何かが直ぐそばまで迫ってくる。
……ダメだ……もう。
………ごめんね、ライラ………僕は……君を……………。
元に戻す事は出来ない。
……………………………………………?
目の前でその巨大な何かは静止していた。
さっきまでこちらを破壊するために回転していた凶悪な刃の群れも動きを止め、ランプの類は光を止めている。
……あれ?
身体が動く……?!
動かなくなっていた遺神体由来のパーツは全て、さっきまでのことが嘘のように動かすことが出来るように戻っていた。
状況の把握は出来ないが好都合だ。
これでここを出ル事が出来る。
僕は壁をアームで削ぐように掘る。
パイプを容易く切断した切れ味はスコップのように使っても健在で、あっさりと壁が崩れていく。
遺神体のパーツは動くようになったのに、思考は明瞭には戻らない。
ぐちゃぐちゃになった意識に蓋をして、また再びシンプルな目的のみを認識してしまっている。
……でも、それは好都合だ。
…僕が、ライラの為に出来ることをやらずに死のうとする意識なんて、その方が間違っているに決まっている。
…どちらにしても猶予が伸びただけだ。
また思考が明瞭になる前に、この身体が朽ち果てる前に。
順調に掘り進んだ壁は、隣の路に開通した。
「置いてきた食料を取りに行かなくっちゃね。まだ残っているかな…?」
脳裏には霧がかかり、そして何よりも清々しかった。
行き当たりばったりで書いた為に、風呂敷を畳むのに苦労しています。




