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エピソード23 = 復讐

 僕は逃げた。


 怖かった。

 さっきまでは不安と恐怖の取り除かれていた世界にいたのに、そのまやかしは粉々に砕け散った。


 そう思える程に、あの少女に恐怖していた。


 勿論原因はこれ(遺神体の脚)だろう。

 移植してから僕の精神や感覚に大きく影響を与えている。

 殺風景で迷宮のようであったハイヴの構造をだんだんと地図を覚えていたかのように理解しつつある。


 何度も迷った結果法則を見いだして学習した、なんて訳じゃない。

 ただ純粋にハイヴのマップが記憶に存在していることにある瞬間から気づいたのだ。

 知らないはずの記憶が混じっている状況だが、不思議と拒否反応の様なものはなかった。

 何故なら入って来るのは知識だけで、自分の感性が変化した実感は殆どないからだ。

 ……いや、自分の感情に疑問を持つ機会は増えたか。

 しかしそれはここに来て比較的最初からあったものだ。直接関係はないだろう。


「一番近いルートはここだな。」

 そうして記憶を頼りに進み、僕はあっさりとセルに帰って来た。


 時間は昼…13:35…ここまで正確に把握できることにもう驚きもなかった。

 鉄格子越しにセルを見るが、周りは人口の林となっており周囲を把握するには不都合があった。


「この身体を見られる訳にはいかないから、好都合っちゃ好都合なんだけどね……」…もう少しセル内の状況を確認したいな。


 路を引き返して別の高い位置に入り口がある路を目指す。



 ………?!

 また唐突に()()()()()


 フェーズ5以上の機械は生体直結でも動くように出来ている。

 ……つまり、遺神体のパーツ(フェーズ6)メンデッド部位(フェーズ5)をポートとしなくても直接身体に取り付けられる。

 なんて事はない、端子が神経に少しでも触れていれば良かったのだ。


 最早知らない筈だったなんて事はどうでも良かった。


 脚に取り付けた遺神体の攻撃用アームで壊死した腕に穴を開ける。


 ……ぐっ…!…。

 痛みは神経が生きている証拠だ。

 すぐさま脚の付け根からアームを取り外して、開けたばかりの穴に突き刺す。

 穴を開けた時よりも大きな痛みが衝撃となって身体を襲うが、それどころではなかった。


 ……動いた…!?…やった…!


 ただただコードの露出した基部を身体に埋めるだけで、遺神体のアームはポートも介さずに動かす事が出来た。

 五体満足には程遠いが、これで手足が帰って来たようなものだ。


 これまで使っていたメンデッドマニピュレータは蟹のように付け根から足と一緒に生えているためになかなか慣れず、使用感も足の親指にさらに5本の指が付いているかのような複雑怪奇なものであった。


 本来腕のある慣れ親しんだ位置に動かせるものがあるのは、重心的にも感覚的にも快いものだった。


 …でも、まだ片腕だね。

 もう少しだけパーツを貰おうかな。


 既に、遺神体を呼び寄せる警戒用アラート(不快な鳴き声)も自在に操れるようになっていた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「痛い!痛い……やめてくれ……あぐっ!………ァ…つッ…!……。」

 僕たちを貶めた者の1人は僕の前でたくさんの遺神体につつかれて痛めつけられている。

「痛い……ガァ!やめろ!謝る!いくらでも謝るからコイツらを止めてくれ…!」

 周りの遺神体は、男をすぐに殺してしまわないようにアームを破壊している。

 そのため、移動用の脚のそこそこ鋭い先端で突き刺すという古典的な方法で男の排除を試みる。


 遺神体の異物の排除行動には優先順位があり、僕のような混ざりものは優先度が低めに設定されているらしい。

 他の異物が存在しない状況では僕も牙を剥かれるが、一つでも何かがあればこの通り、まるでいないかのように放置される。


「コヒュー……コヒュー…………なンで……?…アやまったノニ……?」

 首を壊されたようで声に息漏れが混じっていたが言っている言葉は分かった。


 僕にはそれが何を言っているかが理解できなかった。



「…僕の中のライラはまだ元どおりになっていないんだ。」


 だから、


「あなたはまだライラに謝っていない。…それに、謝る気もないんだね?」


 男の目は生にすがるばかりで、反省の色などはかけらもない。


「……………ァ……ソんな………………………。」

 事切れた。



 そのとき、ライラが少しだけ、元に戻った気がした。


「……なんだ、やれば出来るじゃないか。」

 ……これで、1人目…。


 セルから直接攫ってきて、ハイヴで懺悔をさせる。

 陰惨な方法だとは分かっていたが、これもショック療法だ。

 それに、その甲斐はあってちゃんと謝罪してくれたじゃあないか。


 僕は誰に言うわけでもなく言い訳をしながら始めての復讐を終えた。



 異物を排除し終えた遺神体が、死体処理役以外此方を向いた。


「御苦労様。」

 片腕2本ずつ、合計4本のアームで遺神体を切り裂く。

 遺神体自体そこまで丈夫な材質という訳ではなかったが、それでも金属製のボディを容易く切断出来て、切れ味も落ちないこのアームの刃は知識が入った今でもやはり異常に思える。


 そうして男の死体を担ぐ個体に追いつき、その荷物を奪った。


 …これで数日は食料に困らないな。

 自分が本当は何をしているのか、理解してはいなかった。

物語を書き始めて3週間程。

読み返すと確かに文章力が上がっています。


ブックマークも非常に励みになっています。

ありがとうございます!


これら2つを燃料に、これからも頑張ります!

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