エピソード22 = 変化
遺神体が外から開けてくれたお陰で廃棄モジュール内部から脱出出来た僕は、当てもなく彷徨っていた。
やはりちゃんと歩き回るのは良いようで、この脚にもだいぶ慣れてきた。
「まずはセルへの行き方が分からなくっちゃね。」
辺り一面パイプだらけの殺風景な景色、紛れもなくここはハイヴであり、自分は禁足地にいるということを肌で実感する。
やはり恐怖心はなかった。
大人複数でも敵わないと言われる遺神体をあっさりと撃破出来たからだろうか?
ライラと再会したときから少しだけ自分の心に違和感を覚える事が増えた。
「こういう立体迷路は、壁に沿っていけばゴールに辿りつけるんだったっけ?」
その壁が孤立部分でなければ、同じ壁に沿って歩き続ける事で必ずゴールへ行けるという法則。
ゴールが孤立部分であった場合にも通用しない訳だが、セルに繋がるハイヴは1つどころではない。
いずれ辿りつける自信はあった。
脚に不格好に取り付けた遺神体のアームで壁のパイプを引っ掻く。
バターを切るかのように滑らかに切断されたパイプに驚く。
運が悪ければこのアームで斬られていたと思うとゾッとする。
……次に遺神体と遭遇したときは、もっと慎重にしなくっちゃな。
壁を何度か斬りつけて分かりやすい目印をつける。
これでこの壁が孤立部分であったときは一周して気が付けるだろう。
…あんまり規模が大きいと気付けないかもしれないけど……。
一周する前にアクシデントが起きたり、はたまた長すぎて餓死したり……どちらも有り得ない話ではなかった。
僕達はハイヴについて知らな過ぎる。
「思い悩むにせよ、まずは動かなくっちゃね。」
僕は壁に沿って歩き始めた。
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ある程度歩いたところで自分の身体の異変に気付く。
時間感覚が精密になっている。
ライラと閉じ込められている間は3日か何週間かもはっきりとは分からなかったのに今は1分2分と正確に理解できる。
原因となるものが遺神体から移植した脚であろうことは薄々理解できた。
「すごいな…。メンデッドのパーツは脳からの運動命令の一方通行だったのに……!」
脚からの情報命令を脳が受信している。
神の遺したと言われるだけはあるな…と感心していたとき。
曲がり角の先に動く物を見る。
そこには遺神体がいて、僕がさっき付けた壁の傷を修理しているようだった。
…ちぃ!
右手法は徒労に終わり、少しの工夫が墓穴となった。
遺神体は既に僕を視野に捉えたようで、三つのランプを赤く光らせてこちらに駆けてくる。
「……ギキィィ…キィィギ…キィキィキィ…キィィキィィ…ギキィィ…ギキィィギギ…キィィギキィキィ…!」
あの耳障りな鳴き声が聞こえる。
その時。
「ギキィィ!キィィギ!キィキィキィ!キィィキィィ!ギキィィ!ギキィィギギ!キィィギキィキィ!」
「なっ!?!!」
なんで?!
呼応するように同じ鳴き声が響いた…………その音の源は僕の脚であった。
「……ギキィィ!キィィギ!キィキィキィ!キィィキィィ!ギキィィ!ギキィィギギ!キィィギキィキィ!」
「クソッ!!馬鹿……!!」
自分の脚からのものは大音量で、それに誘われて遺神体が増えてくる。
……まずいまずいまずい!!
こんなところで終わってたまるかよ…!
全力で逃げながら音を止めるように努力する。
大小様々な遺神体を掻い潜りながら逃げ回ると、急に音が止まった。
「…ッハァ…!ッハァ…ッハァ…ッハァ………ふぅ…。」
死ぬかと思った。
ふと逃げ回る間のことを思い返すが、緊張や焦りこそあれど、はっきりとした恐怖は感じていなかった。
……恐怖心や悲しみが麻痺している…?
ここに来る前に頭をなんども強く叩かれた、辛いことも……あったっけ?…まあ精神的におかしくなっていても不思議ではなかった。
第一、それは瑣末ごとだ。
僕はどうせ長くはないからどうでも良かった。
ライラさえ幸せに戻ってくれればそれで良いんだ…。
その為に、あの人達に謝罪をして貰わなければならないんだ。
自分の思考の矛盾には全く気づけなかった。
「……あなた。…なに……?」
突然目の前に真っ白い人が現れる。
疲れのせいか注意が秋刀魚になっていたようで、全く気付かなかった。
歳は16〜17くらいだろうか?肩程までの綺麗な白い髪をした少女で。
ボロ布と遺神体のパーツで作ったであろう服を着て、目の位置には遺神体のパーツとも違うバイザーを付けている。
右腕が肩の付け根から無くなっており、ハイヴを駆けるには不釣り合いな裸足が目立っていた。
「…どうして、めんてなが混ざっているの…?」
少女の言っている事は理解できなかったが、このハイヴで単独で行動できること……異様な風貌…遺神体を容易く破壊できる膂力…そのどれをとっても危険だと思った。
…また知らない知識が混ざった。
僕は彼女が遺神体を破壊出来ることなど知らないはずだった。
明らかに両脚は僕の脳に影響を与えている。
……本来なら彼女に事情を話す選択肢もあっただろうが、ここに落ちてから始めて感じる恐怖に耐えかねて僕は逃げ出す。
「ギキィィ!キィィギ!キィキィキィ!キィィキィィ!ギキィィ!ギキィィギギ!キィィギキィキィ!」
その動作と呼応して、止めたはずのアラートが鳴り始める。
音につられて再び押し寄せる遺神体の大群。
今度の群れは、僕を素通りして白い少女の元に襲いかかる。
その隙に、僕は逃げおおせた。
正直これほど回想が長引くとは思っていなかったので作者も困惑しています。
日常パートや戦闘パート、探索パートもこれくらい長く書けると良かったのですが…。




