エピソード20 = 回想
「………………?」
仕事を終えて帰宅した僕は、真っ先に異変に気付く。
玄関の鍵が開いたままになっている。
「珍しいな…?ライラらしくもない……。」
扉を開けて目に映った光景に驚く。
靴が荒れて廊下には土の汚れがある。
「…?!ライラッ!?!」
妻の名を呼び家に走り込む。
返事はなく、そこには誰もいない。
妻が、攫われた…?
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既に妻がいなくなってから一週間が経過しようとしている。
警備官にや近所の人に捜索を掛け合っても、皆あまり積極的に協力をしてくれる訳ではなかった。
無理もない、セルはあまり広くはないのだ。
僕を含めた皆が、「どうせ直ぐに見つかるだろう。」とどこか楽観視していた。
しかし現に発見されてはいない。
こうなっては、誰かに捕まって監禁されているのか、ハイヴの中にいるのかの2択だった。
前者は警備官の協力を得られなければ捜索できないが、後者であれば僕でも………。
そ思いつめていたとき、あの同僚が珍しく真面目な表情で話しかけてきた。
「キミの妻について知っている事がある。人のいない場所で話したい。あとで廃棄モジュール区画まで来てくれないか?」
有無を言わずに同僚は去っていった。
疑うことを知らない僕は、これで少しでも妻の居場所に近づく、と酷く喜んでいた。
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待ち合わせ場所についた。
廃棄モジュール区画とは、簡単に言えばゴミ処理場だ。
ごうごうと音を立てるそこで待っていると、僕は突然、後頭部を殴られ昏倒した。
朦朧とする意識の中で見えたものは、ニヤニヤと笑っている同僚と、その同僚と仲の良いメンデッド差別者たちであった。
脚に何かの衝撃が走り、急に軽くなる。
メンデッド化部位には神経が通っていないために、なにをされたのかは分からない。
すると次は腕をべきりと折られた。
あまりの痛みにもがくと、再び頭に衝撃が加えられて意識が完全に途絶えた。
ライラ…まさかキミもこんな目に…………?
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朦朧としていた意識が戻った。
……ここはどこだ…?
目を開けても薄暗くてよく見えない。
脚が動かせない…動かそうとしても何の手応えもない。
腕ならばかろうじて動かせるが、折られたから鈍くも鋭くもある痛みが全身に響く。
「……ぐぅ…ぁあ…。」
手探りで周りを調べると、硬いものに手が触れる。
一つではない、まばらではあるが、似た手触りのものが周りにもたくさん落ちている。
…これは、機械?
手触りを確認したそれは、機構が組まれている機械部品のようだ。
そして、そのどれもが人間の身体の一部を模した形をしている。
…メンデッド!?!
ここにあるのは全て、メンデッドの廃棄部品か!?
ということはここは、廃棄モジュール内部………ハイヴの一部だ。
大声で助けを呼ぼうとして、やめた。
無駄だ、ここの音がセルにとどかないことくらいは、職員であった僕が一番分かっている。
助けを呼ぶ事を諦めて、転がるように周りを調べる。
折れた腕が下敷きになるたびに激痛に呻き、鋭利なパーツが体に刺さっては痛みを堪えて耐え忍ぶ。
そんなとき、周りとは手触りの違ったものに身体が触れた。
直感で危険を感じた。
見てはいけない、それを理解したら僕はおしまいだ。
認識してはならない、受け入れては駄目だ。
……それが何なのかを理解したとき。
僕の中で、何かが壊れる感覚がした。
「……ここにいたんだね。…ライラ……!」
そこには妻が転がっていた。
僕と同じく四肢を折られてここに落とされたのだろう。
その手足は曲がるはずのない方向にひしゃげていた。
「ずっと探してたんだよ…!……見つかって良かった!」
言葉は自然と紡がれるが、何故だか何か間違っているような気がした。
しかし、心の中は幸せで満ち溢れていた。
何故多福感を覚えるのか…?
いや、何故そこに疑問を持つんだ?ライラが見つかったから幸せに決まっているじゃないか。
疑問を解決して、ライラの身体を慈しむ。
大切な事を見失っているような気もしたが、もう重要な事ではなかった。
…そうだ!ここには廃棄されたパーツがあるんだ。
壊されてしまった脚の代わりなどいくらでも落ちていそうだ。
両腕の痛みはダバダバと流れ出るドーパミンの前にかき消され、苦しくはない。
幸せだった……本当に。
僕の足は綺麗に切断されていたようで、断面から何本かコードを引っ張り出す事が出来た。
そのコードに周りの部品をつないでは動くかを確認する。
トライアル&エラーで動かしているうちに、動くパーツが集まった。
「こんなところかな…?どうかな…?ライラ。不恰好だけれど様にはなってないかな…?!」
…もちろん返事など返ってくるはずもないが、そんなことはどうでも良かった。
幸い食料もある。
このまま動き回れるようになったら、ここを出ることも難しくはないだろう。
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…あれから何日経ったのだろうか?
セルと違い24時間薄暗いままのここでは時間の感覚が曖昧になるが、短く見積もっても3日は経っているだろうか。
なにもない分時間は長く感じるだろうし、2週間以上経ったような気もするけど食べ物の減りを考えるとその辺が妥当か。
ここは一辺25メートルほどの広さの正方形の地面で、壁は一箇所だけハッチのようなものがある。
僕らが入るときに通ったダクトは高さ5メートルほどの位置にあって、何の凹凸もない壁を登れない僕らには通る術はない。
壁を壊そうと余ったパーツで槌のようなものを作ったが、この腕では力一杯叩くのも難しかった。
正に八方塞がりだったその時、今まで開かなかったハッチが開いた。
そこから一機の銀色の蜘蛛のようなダニのような機械が入ってくる。
これが話には聞いていた遺神体なのだろう。
………いい脚をつけているね。
何故回想が長引いてしまうのか…。
まだ回想が続きます。




