エピソード1 = 勇気
「いい食べっぷりね!!どんどんおかわりして良いわよ!」
「ふぁーい!」
……どうしてこうなったんだっけ?
つい1時間ほど前まで今にも事切れそうな様相であった男が、オレの目の前で素っ頓狂な声を上げてメシを食っていた……。
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……ッ!
走った。生まれてこのかたこれ程本気で走った事はないと思うくらい、全力で。
………逃げる為ではなかった。
「アルカとソラじゃ間に合わない。」……オレなら間に合う!!
…勇気とも表現できるその感情がオレの心に火を付けた。
自分が助けるんだ…いや、助けられる人を呼ぶんだ。
子供のオレが何でもできるとは思っていなかった。
だが当てはあった。セレン姉ちゃん……オレ達の姉貴分で医療機関に勤めていたこともあった人だ。
あの人に伝えるのが最善だ……!それしかない。
通りに出ると人を見つける。いつもオレ達を怒鳴りつける大嫌いなおっさんだ。
しかし、そんな事に構っていられる状況ではなかった。
「ゲッ!ランド!!また何か悪さしようってんじゃないよなぁ………ん?珍しく1人か、どうしt「電話を貸して!あとでいくらでも怒られていいから!!」
ギョッとした直後怪訝な顔をされる。しかし、尋常でない様子からすぐにイタズラでないことに気づいたらしい。
「…!?どうした!!?アルカとソラに何かあったか!?」
…なんだ、心配してくれんじゃん。心の隅でおっさんの印象を更新しつつ、本題に入る。
「違うんだ!…とにかく早く電話を貸して!セレン姉ちゃんを呼ばなきゃ!」
急がなきゃ。絶対に間に合わせるんだ!
「待て待て。何が何やら……ああ分かった、分かったって!だが後で理由位は説明しろよ…!」
電話を受け取り、そこで重大な事実に気付く。
……セレン姉ちゃんの番号を知らない。頭が真っ白になる。緊迫感と涼しさ、どこか自分を傍観しているかの様な感覚。
「…ったく!貸せっ!どうせ連絡先を知らないってだけだろう…!……………ホラっ!」
おっさんが電話を繋いでくれた。現在おっさんの株がうなぎ登りだ。どうでも良い事だけど。
「あっ、ありがとう…!……………姉ちゃん!?オレ!ランドだっ!人が、ハイヴの近くで!何も食べてなくて!倒れていてっ!えっと…」
結局のところ、説明が的を得ない。これが現実だった。
焦りが焦りを呼び、とうとう口ごもってしまう。
「ん〜、大体分かった!栄養失調者ね、栄養剤とか持ってすぐ向かうね!場所は?」
セレン姉ちゃんは察しが良かった。そして、聞きなれた声がしたお陰でオレの心は落ち着いた。
そこからはぼうっとした様な感覚で質問に答えた。大丈夫だ、…まだ何とかなる筈。
セレン姉ちゃんはバイクで大急ぎで来てくれるらしい。
自分も現場に戻ろうと思ったとき、おっさんが、
「俺もつきそうぜ。人ひとり倒れてんだ、流石にお前らだけに任せて去るのは寝覚めが悪い。力仕事役は必要だよなぁ?」
株がストップ高ですよ。おっさん。
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……男……ライズはうつ伏せで倒れたまま、変化が無かった。
「ちょっと失礼。」
おっさんが、仰向けに転がして心音を確認する。
「…なッ?!何だコリャ!???」
突如驚愕の声を上げたおっさんが、信じられない様な顔をしながらライズの服を脱がせだした。
ゴツゴツした上着を脱がせたその胸は、……殆どが金属だった。
「メンデッド…しかもこんな広範囲に……!信じられん……。」
軽くコツコツと叩く様に、ライズの身体を調べる。
その打音は、首から下は殆どが機械である事を示していた。
『メンデッド』…先天性/後天性問わず、身体的な不具合を持ったもののその欠点を機械で補う技術だ。
被術者はそのままメンデッドと呼ばれ、健常者と変わらない生活が送れる様になる。
能力的には、健常者に全く劣らないところまで回復するのだが、機械に頼った半端者、人間じゃない、などと声高く差別する人も多い。
しかし、この技術はあくまで腕だけだけだったり臓器一つだったりを補うだけのものだ。
ほぼ全身…そんな話は聞いたこともない。
……遠くからエンジン音が聞こえてきた。
「ソラくん、アルカちゃん、案内ありがとう!」
……エンジン音と共にセレン姉ちゃんが到着した様だ。
予想以上に進行が遅い…。
ストーリー紹介になかなか追いつかないですね…。