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楽観主義の転生令嬢生活  作者: 桔梗
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転生先は乙女向け小説の世界らしい

俺は黒髪黒目の至って普通な男子高校生だ。

それなりに勉強は出来るし、友達も一定数いたからいじめは受けていなかった。

ちなみに恋人はおろか、女友達はいない。

何故なら俺の通う高校は男子高だからだ。付近に高校が他に無く、やむを得ず入学したとはいえ悔いが残る。



そして俺には、世莉という親友がいた。

大人しく気の弱い世莉は、幼稚園の頃からよく俺の後ろを雛鳥のように着いてきた。

一人っ子の俺だが、弟が出来たようで嬉しかった。

小中高も同じで、何をするにも二人一緒だった。




そんなある日、大規模な地震が発生した。

俺達の住む地域は海に面していたせいで、幾つもの家が、命が流されていった。


俺も流された者の1人だ。息が出来ず、苦しんだ。

鼻に、口に、至る所に水が入った。水と泥が混ざり合い、流された家の1部が体にぶつかった。


沈んでいく体と意識の中で俺は思った。

どうせこのまま死ぬのなら、第二の人生というのを歩んでみたい。

あわよくば魔法も使ってみたいし、俺TUEEEE状態にもなってみたい。

前、世莉に薦められて読んだラノベ小説。

『令嬢は世界の癒し手』というタイトルで、可愛らしい令嬢が様々な男性と関わっていく乙女向けの内容になっている。

しかし魔法力という特殊な能力や、しっかりとしたストーリー。そしてなにより美麗なイラストが他の乙女向け小説とは一線を画していた。


あーあ、ゲーム化が楽しみだったのに…


それを最後に、意識を手放した。






それから俺は、どこまでも続く暗闇の中をずっと漂っていた。右も左も無いこの空間を、ふわふわ、ゆらゆらと。



ここが何処なのか分からない。考えることが出来ない。ただぼんやりと意識があり、緩やかな波のように睡魔が優しく訪れる。

でも、それでいい。俺は目を瞑り、心地よいこの感覚に身を委ねた。






…………………………………………………………………………………………







「無事お産まれになりました!」



「神父様!この子の名前は…!?」



「なんと愛らしい…女神に愛されし金髪緑眼。お子に相応しいその名は_」



頭上で飛び交う複数の話し声に、意識が段々と覚醒してきた。それにしても、人の真上で何を話しているのだろう。

耳を澄ますと、『神父様』『女神』やら聞き慣れない単語に、知らない大人の声。


それと同時に、ふわりとした浮遊感。



「申しあげます。お子の名は、リーケ様。ヴィルト・リーケ様でございます!」



大人達が歓声をあげた。俺を抱き上げた大きなベッドに横たわる若い女性は、瞳に薄らと涙を貯めている。


現状把握が出来たからか、俺はたった今産まれたばかりの赤ん坊で、この女性は母親なのだと急激に理解した。

転生したいと最後に願ったから、神様が叶えてくれたのだろうか。太っ腹だな。

とりあえず、今世の母親に挨拶をしようと重すぎて回らない首を動かす。しかしやはりというか、重すぎて自分では支えきれず首を傾げる風になってしまう。

うっ、この体制地味に痛い…



「あう!」



何はともあれ、これからよろしくとの挨拶は必要だろう。

実の親ともなれば、付き合いも長くなると思うし。。

しかし悲しいかな、あうあうと言葉にならない。

…そうだ、赤ん坊は話せないんだった。

仕方なしに、にっこりと笑っておく。




「リーケ様が微笑まれた!」



「目元が奥様に瓜二つでございます!」


「ややっ、笑った姿はヴィルト公爵似でございますな!」



うん、笑顔一つでこの騒ぎ。というか公爵といえば、五爵の最高位の偉い立場だよね。

ワオ、俺ってばお貴族様なの?

というか、リーケという名前聞いた事あるな。

うーん、何だったけ…

って、眠気が邪魔して何も考えられない。



とりあえず、今はこの睡魔に身を任せて寝るね。ほら、寝る子は育つって言う、でしょ…



再び目が覚めると、俺は真っ白な空間にいた。



「ん…あれ、ここは……」



確か俺は転生して、公爵家に生を受けた筈。

それから寝ちゃって、それから、それから…

駄目だ、寝てからの記憶が無い。となると、ここは夢の中か。

陸の姿だし、まず確実に現実ではない。



「リーケ、起きましたか?」



凛とした女性の声。そうだ、俺はこの声に聞き覚えがある。そして、リーケというこの名前は…



「藤橋 陸。貴方には私、『ヴィルト・リーケ』の代わりにこの世界で生きて頂きます。私の魔法力、癒しはご自由にお使いください。それでは、良い人生を。」



そうだ、ヴィルト・リーケは『令嬢は世界の癒し手』の主人公だ。癒しという魔法力を持っていて、どんな傷や病をたちどころに治してしまう。



魔法力というのは誰でも必ず一つだけ持っている魔法のこと。魔法力が癒しならば回復しか出来ないというように、1人が複数の魔法力を持つことはない。。

スキルレベルなども無く、どの程度まで回復出来るのかも最初から決まっている。

つまり、弱い魔法力を持って産まれた場合一生弱いまま。

遺伝などもしなく、国王がクソ弱かったりする時代もあったと公式ファンブックに載っていた。

癒しを自由に使っていいという事は、俺の魔法力は別にあるのだろうか。



10歳になれば魔法力の鑑定をしてもらえる。

その結果次第では、この世界最強になれる可能性もあるかもしれない。

しかし、そこは特に問題ではない。

むしろ念願の俺TUEEEEが出来そうで楽しみなくらいだ。



…問題というのは、 俺がヴィルト・リーケだという事だ。

リーケは女性だ。即ち、リーケになってしまった俺も女性という事になる。

となると、俺は女の子と健全なお付き合いが出来なくなってしまう。

それに将来色々と目のやり場に困ると思う。




「こうなったら好きなようにやらせてもらおうじゃないか!」




本来のリーケが消えた空間で俺は叫んだ。



俺は『令嬢は世界の癒し手』について隅々まで知っているのだ。

勿論生きてる時に発売されなかったゲーム版は知らないから、小説に限るんだけど。

それでもこれから起こることを知っているということは大きい。



とにかく、第一目標は男キャラとの恋愛フラグを木っ端微塵にしてやることだ。



そして唯一の女の子キャラ、ギーセ・エリカちゃんととだけ仲良くしていよう。

仲良くなる王族は男、神父の所は皆男、交友関係も男、男、男。

さすが乙女向け。エリカちゃん以外の主要キャラが全員男とは恐ろしい。



真っ白だった世界が徐々に暗くなってきた。ここは1種の仮想空間という事なのだろう。

ならば、この現象は俺が目が覚めようとしているのか。



といっても、起きても10歳までは何もすること無いんだよな…

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