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暗黒騎士と妖精の安寧生活  作者: スタイリッシュ土下座
8/23

引越しに追われ、宿敵に追われ、冥府に追われ

「引越しをしたい」


 朝の食卓を囲んで突然断言する俺の言葉に一同は聞いてないような素振りをし始める。


「いきなり何を言い出すかと思えば」


「フンガー!同士!何かこの生活に不満か?」


「ちょっと!私最近ここに転生してきたばかりなのに酷くない?」


 各々にクレームが飛んでくるが俺にとって気にする程でも無い。俺は話を続ける。


「常識的に考えてみろ。俺は魔王軍の裏切り者としてここにやってきたんだが日に日に増していく俺の捜索でこの村への被害が尋常じゃないんだよ。これ以上ここにいれば俺達が死ぬ、もしくは村自体が消滅するかもしれない」


「杞憂過ぎませんかそれ。あっソース取って」


「はいはい」


 全く俺の言葉を気にする様子もない彼らに俺は呆れた。流石に心配し過ぎな部分もあるが、念を重ねて損をするという事は経験上無い。


「いきなり言われても引越しなんかできないわよ」


「フンガー!今の所大丈夫だろ!心配すんな旦那!」


 俺は平和ボケする彼らを見かね、机を音が大きく鳴るように叩いた。驚いた一同に静寂が流れる。


「正気で言ってるのか?お前らいつ魔族に殺されるのかわからないんだぞ」


「でもわざわざ私達が出ていく必要ないじゃない。あくまで同盟なんだし」


「違う!奴らは100人単位だとか1000人単位だとかじゃないんだよ!戦力が違い過ぎる!このまま奴らが本気で殺しにかかってくれば俺達は即死だ!」


「でも今までそんな事無かったわよね、私達4人で100人倒せたし」


 言い切ってキサキは何事も無く白米をかき込んだ。俺は事の重大さを分かってもらうのに必死である。


「いいか、俺らがパーティーだと言っても無謀に立ち向かう事が勇敢な事じゃない。あくまでも勝てる見込みや作戦があってこその立ち向かう勇気だ。当たり前だろ?」


「でも騎士さんいっつも無謀な作戦ばかり立ててるじゃない。それについてはどうお考え?」


「それは……いつも迷惑かけてる」


 相変わらずこの妖精は事の核心を突くのが上手い。

 俺を1から10まで理解しているかのような封じ込め方に俺は黙りこくってしまった。


「まぁ言ってる事は間違いないわ。私達もそろそろ心機一転して新しい土地に向かった方が良いでしょ?」


「まぁ、こんな辺鄙な所いるより都会にいた方が材料も揃えられるし研究のしがいがあるわね」


「フンガー!旦那がそこまで言うならしょうがねぇ!早速とりかかろうぜ!同士!」


「お前ら……」


 どうやら俺の考えに納得してくれたらしく、それぞれに身支度を始めていた。一番移動に困っていたのは部屋に籠っていたキサキだったが。


「なぁ、まだ時間かかりそうか?」


「あれもこれも大事でバッグに入らないんですよ!この漆黒髑髏怖くて使えないんだけど捨てていい?」


「何言ってんだよ馬鹿!約束と違うぞ!コツコツコツ!」


 彼女と髑髏が何やら揉めている様なので俺がすかさず仲裁に入る。


「あのなぁ、俺がわざわざお前が欲しいからと思って気を利かせて貰ってきたんだ。有り難く使え」


「冗談じゃない!漆黒髑髏は欲しいって言ってもこんな不気味で偏屈な髑髏が欲しいとは一言も言ってない!」


「なっ……アナタ!随分とコメディアンに向かって物騒な事言うんですね!これでも私、魔界一の実力なのですよ!コツコツコツ!」


 二人の争いは終わる気配が無いので黙って俺達は家を後にした。彼らが気づいた時には急いで俺達の後を追ってきたが。


「俺達が目指すのはこのエルフの村から数百km離れたここだ」


「ここって……『怨霊住宅街ゴーストタウン』じゃない!趣味が悪いわ」


「すまん、そういやお前ら魔族じゃなかったな」


 魔族の身内としか関わりが無かった俺は普通の生物がどのような場所が住みやすいかという感覚が無かった。

 怨念や執念等と隣り合わせで日々を過ごす魔族にとって住みやすさという概念が理解出来てなかったのだ。


「まぁ私、人間と魔族のハーフなんでゴーストタウンに住むのもわからなくは無いんですけどね」


「フンガー!俺も魔族!」


「アンタ達はそうかもしれないけど、私妖精なの!」


 必死に抗う彼女の姿を見て俺は流石にそこに住まうのを諦めた。

 だが、俺としたことが代替案というものを考えていない。


「じゃあどうする?この物件以外に俺考えてなかったぞ……お前らどんな所がいいんだ」


「色々な非検体が揃ってる実験室みたいな家」


「石炭と燃料が頻繁に補給できる所なら何処でもいいっすよ」


「そんな物件ある訳ないでしょ!?」


 彼女のツッコミが村中に響き渡る。目的も無いまま歩く俺は頭を抱えていたが、一つだけ俺は名案を思い出した。


「あった」


「あるの!?」


「実験室みたいな所で燃料も腐る程ある所だろ?それなら」


 俺は走り始めた。彼らも訳が分からないまま俺の後ろに付いて走り出す。


「一体何処なのそれ!」


「決まってるじゃないか、『王立魔法学園並立都市マジック・シティ』だ!実験もし放題だし、燃料も沢山あるぞ!」


「え、ほんとなのそれ!」


「フンガー!最高だ!」


「本当に大丈夫!?」


 意気揚々に走る俺は急いで馬車に乗った。キサキも乗り込みラクモもしがみついたが、肝心のサヤがいない。


「どこ行ったアイツ」


「ちょっと……無茶し過ぎ……」


 彼女はバテながら馬車を追っている。流石に俺のペースで進みすぎて付いてこれなかったらしい。


「こっちだ!捕まれ!」


「何でいっつもこうなるの……?」


 彼女に手を伸ばし、馬車に引きずり込んだ。車内が少し揺れたが、構わず目的地まで進み続ける。


「もうどうなっても知らないからね」


「当たり前だ。元々そのつもりで乗った」


「お客さん、どちらまで?」


「魔法都市まで頼む」


 俺達を乗せた馬車は颯爽とその魔法都市に向かって進む。それ以上のプランは無い。行き当たりばったりには慣れている。


「高度な実験……研究……!」


「燃料があればより力を発揮できる!フンガー!」


 肩を揺らしながらノリノリで長旅を楽しむ彼女らは普段よりも楽しそうではあった。

 俺は肘をついて馬車の外を眺める。この先に待つその街で俺は真実を掴むことができるだろうか。今までずっと考えていた以上、答えは出てこない。


「騎士さーん?何気取ってんの」


「五月蝿い、さっきはどうなってもいいと言ったが流石の俺も不安なんだよ」


「面白い人」


「フン」


 横にいるサヤも常時俺をからかいながらニヤけていた。俺は腕を組み長旅に想いを馳せていたが──。


「止めて」


 唐突に馬車を止める様に指示する彼女の表情は緊迫していた。


「どうした、何があった!?」


「馬車から離れて!」


 彼女が俺とキサキを押して外に出したその瞬間、馬車は見るも無残に何者かの爆撃を受けた。ラクモとサヤが巻き添えを食らった。


「嘘だろ……!?サヤ!」


 俺は目の前の状況を理解出来なかった。煙が晴れるまで彼らの容態はわからない。

 しかし、俺は気付いていた。既にこの馬車一面を取り囲み、魔王軍が攻め込んで来ていた事を。


「クソ……何でこうなるのよ……!」


「キサキ!ここからは俺達の連携で窮地を乗り越えるぞ!奴らの死は無駄にしない!」


「アンタと一緒に生き残るなんて考えたくも無かった」


 四方八方に暗黒騎馬が次々と押し寄せてくる。まさに絶体絶命。


「お前フリーズとかファイア以外に何が使える」


「こんな非常事態に今更何言ってんの?」


「だから、以前お前に漆黒髑髏渡しただろ?アレがあれば魔力が高まるだとか何とか」


「おう、俺の出番か!師匠!」


「うっさいわね……何でこんなデカブツ騎士が師匠なのよ」


 荷物入れに無造作に詰め込まれた髑髏が名乗りを上げたが、不気味な実験を繰り返している彼女でも毛嫌いしている。


「そんな事は今はいいだろ!?とにかくそいつ削って、何か術を込めて発動しろ!腐っても"調合師アルケミスト"だろお前!」


 今の一言でカチンときたのか彼女は震え上がる。

 白衣が浮き、膨大な魔力がこみ上げ天地創造が起きるかの如く地響きが起こり、俺もその場から立ち退いた。


「誰がっ……!『腐っても調合師』だコノヤローーーーッッッッ!!!!」


 彼女が膨大な魔力を髑髏を通し地面に解き放った。あまりの衝撃にその近郊は耐えきれず、大振動が起こりマグマの柱が何本も噴出した。

 あまりにも大き過ぎる彼女の怒りに魔王軍も逃げ惑う程である。


「お前、無茶苦茶だよ!やり過ぎだ!」


「私は自分の職業に誇りを持ってるの!今更謝っても知らないわよ」


 確かに魔王軍の8割方は甚大な被害を受けるものの、彼らの中の勇敢なる者達はそれらを苦にもせず、俺達二人に襲いかかる。


「大砲、準備ーーーーッ!」


 遠くの方で攻撃準備をする合図さえも聞こえてくる。次、この付近に大砲を落とされれば俺達が勝つ事はほぼ不可能に近い。地獄絵図の様な戦場に俺は焦りを感じ始めた。


「ただでさえ俺が立っているのもやっとなんだぞ!お前、もう少し連携とか考えないのかよ!」


「わざわざ魔王軍の三下相手と協力するぐらいならアンタも含めて全員蒸発させた方がマシよ」


「畜生ーーーーッッッッ!!」


 軽くあしらった彼女の言ってる事も専ら正論に近いがどうやらそんな事を言っている場合でもない。

 この騒ぎを聞きつけ、次々と魔王軍の集まりが寄って来る。いくら衝撃が強かろうといずれは止んでしまい、俺達パーティーは本当に勝ち目を失ってしまうのだ。

 その隙を狙ったのか、一体の騎兵がその生意気な白衣の女に攻撃を仕掛ける。


「貴様の背後、貰った!」


「キサキ!危ない!」


「しまった!」


 彼女は目を瞑り、防御の姿勢を取っている。

 目を開けると彼女が目にしたのは剣撃を庇い灰色の血を肩から吹き出す俺の姿だった。


「暗黒騎士……なんで……?」


「お前が我儘ワガママ言おうが無茶苦茶しようが俺の仲間なんだよ」


「だからなんなの……?わざわざ私を庇う必要ないじゃない!」


 涙目になりながら訴える彼女に俺は微笑んだ。既にその一撃は胸まで達し、俺の口からはヒューヒューと息が漏れた。


「仲間って言うのはな、他の仲間を護る為に戦うもんだ。それに騎士として一人の女性を護れない方が恥だ」


「この……馬鹿!馬鹿野郎が!」


 俺は涙の止まらない彼女に再び微笑み、血を吹き出してその場に倒れ込んだ。その魔族はかつての宿敵を沈めたかの様に嬉しそうに剣を舌なめずりしている。


「裏切り者!討ち取ったり!」


「絶体許さない!フリーズ!」


 歯軋りし彼女は怒りを込めた凍結術式を魔族に放つも、全くもって効き目が無い。


「嬢ちゃん、馬鹿なのはおめぇの方じゃないのか?この鎧は既に炎や氷が効かねぇ様に作られてんだよ」


「何!?」


 魔族は彼女の首を掴み持ち上げた。息苦しそうに悶える彼女に魔族は告げる。


「それにわざわざアイツが連携して倒そうって言ってんのに単独で動いたんだろ?結果このザマだ」


「ぐっ……!苦しい……っ!」


 締め上げる力が強くなり、宙に浮いた状態で彼女は首を持つ手を退けようとする。だが、それは微動だにしない。


「自分勝手で愚かな"調合師アルケミスト"よ、さらばだ」


「ごめんね……騎士さん……!」


 彼女が力を尽くし告げた言葉が微かに聞こえていたが、既に俺は限界寸前の状態であった。

 これ以上身体を動かすことができない。無念の気持ちを抱えたまま、俺は意識を失った。


「──きて……騎士さん!起きて!」


「ん?お前は……サヤ!?生きていたのか!?」


 俺は目の前の光景が理解できていなかった。死んだはずのサヤとラクモがそこにいる。俺は目を疑った。


「あの馬車の爆発で二人を押し出したのも理由があったの」


「どうやって生き延びたんだ」


「私はテレポートの魔法を使ってギリギリ逃れる事が出来た。一旦別の場所に行ってから戻ってきたんだけど、今度はキサキちゃんがピンチで」


「落ち着け……あのガキはどうなった」


「敵の方は私の光霊魔術で倒した。だけど、キサキちゃんの方は貴方と同じ様に意識を失いかけてる」


「俺は大丈夫だ……まだ動ける」


「私が回復魔法を施したばかりだからまだ動かないで!」


「とは言っても……まだ敵は山ほどいるんだろ!?」


 そう、俺が身体を起こすと既にラクモが足止めに手一杯になっている所である。

 周りの魔族を蹴散らしてはいるが彼自身も相当なダメージを受けているはずである。


「あの子は馬車爆発を食らっても生き延びてた。だから今は回復して戦えるようになるまで──」


「無理に決まってるだろ!いくら頑丈でも魔王軍に1人で相手できる奴じゃない!」


 俺は仲間のピンチに奮起し、全身を痛めながらも彼の方へ向かう。


「妖精!お前はキサキを安全な場所に!ここは俺とラクモでなんとかする!」


「でも……」


「さっさとしろ!時間が無い!」


 彼女はうんと頷き彼女を遠くへと運び始めた。俺は急いで彼の所へと走って向かう。


「ラクモ!大丈夫か!?」


「ぐっ……これは耐えきれない!」


 遂に彼の巨体は飛ばされ、草原を引き摺った。次の彼らの狙いは絶対的に俺だろう。


「「「さっさとくたばれ裏切り者がァ!」」」


「知るか!こちとら生き延びるのに必死なんだよ!食らえ!」


 俺は力を振り絞り剣を掲げるも、余程の重症を負ったせいか力が入らない。愕然とし膝から崩れ落ちてしまった。


「地獄へ堕ちろ!」


 無数の狂気が俺に向かって降り注ぐ。俺は仲間の命運が何より心配であった。ここで犠牲になる運命だったと確信した時には何故か安心したような気にもなる。

 半ば諦めムードの俺の背中をポンポンと誰かが叩いた。


「その程度で諦めるつもりか?小童こわっぱ


「……ッ!貴様は……!?」


 瞬間、俺の目の前にいた軍勢は全て無残にも蹴散らされていた。

 と言うよりかは獰猛な何かに食い散らかされていたという方が正しい。


「騎士さん大丈夫!?」


「旦那ぁ!」


 俺を心配しキサキを抱えたサヤとラクモが寄ってきたが、俺は身震いする程の恐怖を覚えていた。

 恐らく始めてと呼べるほどの戦慄で寒気が俺の中を駆け巡る。


「何があったの!?騎士さん!?」


「見たんだ……敵に囲まれている時に、チラッと後ろを振り向いた……」


「フンガー!旦那……それってまさか……!」


「ラクモ、お前の言う通りだ……あれは『冥府王タナ』。」


「嘘も大概にしてくださいよ!早く次の街へ逃げるべきっすよ!急いで!」


 恐怖のあまりやたら混乱する彼を不審に思い、彼女は俺に質問する。


「冥府王タナって……?」


「名の通り冥府王だ。彼は魔王軍と反乱軍の中立派と謳っているが、実際はそうじゃない。気まぐれで無差別に破壊を楽しんでいるいわば"狂戦士バーサーカー"の類だ」


「そんな人が後ろに立っていたのに殺されなかったってどういうこと?」


「俺にわかるはずがない。とにかく嵐のように訪れて嵐のように去っていく。通称『掃除屋』だ」


「と言うことはこの残骸も……!」


 彼が訪ねたが、俺はその存在を認めざるを得なかった。


「そうだ。俺が倒しきった訳じゃない。全部彼が殺した」


「でも、中立派なら一番に狙われそうなのは騎士さんでしょ?どうして……?」


「だからわからないんだ。とりあえずキサキの容態が心配だ。馬車も壊れているが次の街まで徒歩で向かおう。しかし、今日はもう遅いんで野宿になるがな」


「嘘でしょ!?そんな用意してきてないわよ!」


「フンガー!冒険者家業も大変って事だ!諦めな!」


「いつその『掃除屋』が現れるかわからないのに野宿するの!?もう最悪!」


 悲観する彼女だが、確かに今まで俺と関わってからろくな事が起こっていない。その心中も察するばかりである。


「村に戻るか?今ならまだ中間地点だからな」


「いいわよもう!野宿すればいいんでしょすれば!」


 そう言って彼女は崩れかけた草原に気にせず横になった。魔王軍に対しての事実上の敗北に俺達のチームワークまでズタズタに引き裂かれていたのだ。

 幸い俺はテントを用意していたので良かったものの、今日の夜は騒がしくて眠れない。

 月明かりと星々の静けさに身を委ねたい気持ちを抑えながら俺はその不安な夜を過ごした。

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