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暗黒騎士と妖精の安寧生活  作者: スタイリッシュ土下座
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呪われた一族の結集

「俺が勇者だと?大体初対面のお前に何がわかる」


 彼の言った言葉は妙に真実味を帯びていた。俺の名はヤイバ。魔界専属の暗黒騎士であった俺はエルフの村に住み、サヤ、キサキの他にラクモを家に入れ込んだ所だ。

 蒸気ゴーレムである彼は元々俺の仲間だと言い張るが、俺にそのような覚えはない。何かが妙だ。


「根拠なんて……元々旦那は……!」


 またもやヒートアップし背中から蒸気を吐き出した彼と同時に村の中央から大きな衝撃が響いた。慌てて外に出ると、村市場から黒い煙が立ち上っている。

 暗黒騎士である以上、自分の属する村の緊急事態である時に目を背ける訳にはいかない。


「……悪いが話は後だ!行くぞ!」


「旦那!話はまだ半分ですよ!」


 彼を押し退け、俺は家の扉から走り去った。

 俺が現場に着いた頃には既に村の主要部分は魔王軍の追っ手により崩壊が進んでいる。


「"ヤイバ"と名乗る暗黒騎士を探している。とぼけたら絞め殺すぞ」


「この村には悪い騎士なんかいないよ!良い騎士さんならいるけどね」


 周りの獄炎より先に首元を掴まれながら必死に抵抗するエルフの婆さんの姿が俺の目にはっきりと映し出された。

 その時、周りの地獄絵図より激しい炎が俺の中に宿った。


「おい、何やってんだお前」


「ん?誰かと思えば貴様が……目標確認!精鋭部隊集合!」


 魔王軍の彼はその婆さんを地面に振り落とし仲間を集めた。

 100人を超える軍勢は続々と彼の近くに集まってきたが、俺にはどれも死に損ないのゴミ虫に見えた。


「何やってんだと聞いている。答えろ」


「何やってんだと聞きてぇのはこっちの方だ!お前、魔王様に剣を向けたらしいな?」


「そうだが」


「こっちのルールでは死刑以上の重罪に値するって上司に教えて貰わなかったのか?常識知らずのゴミが」


 そう言うと彼は俺の鎧目掛けてペッと唾を吐き、嘲笑う。まるでこの軍勢相手に俺が勝てる訳が無いと断言するかの様に。


「言いたいことはそれだけか?」


「何だと?絶対絶命の時によくそんなデカデカとした態度取れるもんだな?ん?」


「口で言って伝わらない奴には容赦する必要は無い。覚悟しろ」


 それを聞き、魔王軍の連中はまた吹き出した。益々俺の中で闘争心が煮えくり返る。


「お前一人だけで格上の俺達を倒そうってか!?やっぱりお前正真正銘の大馬鹿じゃないか!ギャハハハハ」


 目の前の彼が大笑いし始めたその一瞬、彼の首は音を立てずすっ飛んだ。彼の首が地面に転がり落ち、周りが驚きの声を上げる中、俺は挑発する。


「言った筈だ、"俺は容赦しない"と」


「「「調子に乗るなぁぁぁぁ!!!」」」


 魔王軍との一騎当千が始まった。確かに敵は俺より二段程格上の者達ばかりであったが、俺には負ける気がしなかった。1体、2体と次々斬り殺していく。


「お、おい……俺達、圧されてるんじゃないのか」


「相手は1人だぞ!早く誰か倒して1杯飲みに行こうぜおい!」


 そう言って怖気付く2人も斬り殺す俺は、まるで修羅に取り憑かれたかのような形相で敵を睨んだ。


「お前らは"自分達が格上だから"という理由を盲信していたようだが、今度の俺はそう甘くは無いぞ」


 俺の周りを鬼神のオーラが包み込み、爆熱を帯びていた。

 裏切り者を殺す為だけに関係の無い村の人々までもが犠牲になっていくその光景が何より腹立たしく、許せなかったのだ。


「格上なのは変わりねぇ!強がるなこの糞野郎が!」


 俺は弓兵の撃ってきた弓を手で掴み、投げ返した。剛腕から打ち出されたそれは彼の胸を貫き、一瞬の内に屋根から崩れ落ちた。


「俺を止めれる奴はいないのか!格上だろうが格下だろうが関係無い!全員まとめて断罪してやる!」


「いい加減にしろよ……!手段は問わない!アイツを殺せ!」


 彼らは恐怖で震え上がったが、すかさず一斉攻撃を始める。

 俺はすぐさま建物の影に隠れて回避するものの、また別の追っ手が俺に剣撃を仕掛ける。

 流石の俺もこの剣撃をまともに食らったのは痛い。俺は深い斬傷を布で押さえた。


「台詞の割には弱えじゃないか、裏切り者が」


「五月蝿い、お前らの様な負け犬とは背負ってるものが違うんだよ」


「言ってくれるじゃないか。でもお前には荷が重すぎたな!」


 彼が言い放ったその瞬間、目の前の彼は建物を巻き込み吹っ飛んだ。

 尋常じゃない破壊力で巻き込んだ瓦礫によりまた数人を倒しながら現れたのは見慣れた面子が俺の前に現れる。


「ラクモ……!それにサヤにキサキまで!」


「旦那の為なら本人が知らなくても守るのが当然っすよ!」


「何か面白そうな事やってるわね。私も混ぜて」


「騎士さんはもう1人じゃない!私達も一緒に戦う!」


「お前ら……来るのが遅いんだよ……」


 駆けつけた仲間達に俺は少しだけ頬を緩ませたが、すかさず元の厳しい顔に戻し状況を確認する。


「俺が倒しきった所で残り80人程度……どうする」


「騎士さん、私にいい考えがあるの。他の皆も聞いて」


 俺達はサヤの言う作戦を聞き受けた。だがそれはあまりにも成功の確証が持てないものであった。


「フンガー!妖精!その作戦はクレイジー過ぎる!無茶だ!」


「私もそう思う。ただ、あれだけ無能な奴らが群がっててもなんとかなりそうではあるわね」


 彼らが口々に言ったが彼女は動じない。どうやら成功の確証があるようだ。


「何よ?それだったら他に倒せる手段があるって言うの?」


「もうそれで行くしかない。時間が無い!キサキ、ラクモも配置につけ!」


「「「了解!」」」


 じきに彼らがこちらの方にやって来ることも考え、俺達は森林の方に逃げ込んだ。ここなら軍勢の行動を大きく制限しやすい。


「あの4人を逃がすな!追え!」


「反逆者を許すな!」


「八つ裂きにしてやる!」


 彼らの殺意はMAXにまで到達している。こんな辺境の地まで軍を派遣させられて苛立っているのだろう。森林の深くまで追い込んだ所で俺は作戦開始の合図を出した。


輝光裂破ホーリーストライク!」


「ぐうっ!眩しい!全体止まれ!」


 サヤが光霊魔法を放ち、彼らの目くらましによる足止め、もとい攻撃を行う。

 進行方向を変えず進めていた為、光は魔王軍の目に焼き付き効果的に作用した。


「しまった、奴らを見失った!総員!あのクソ共を探せ!」


「了解!」


「そうはさせないわ、フリーズ」


 その隙に、キサキの魔法調合『フリーズ』を広範囲の地面に発動。魔王軍はたちまち足が凍結し、行動する事が不可能になる。


「おのれ、小娘!」


「馬鹿ね、そんな所で剣振り回しても当たる訳無いでしょ?計算済みだから」


「くっ……!」


「おい、空から何か降ってくるぞ!」


「やぁ久々だね!諸君!"過激ロック・岩石ロック・鉄槌ハンマー"!」


 袋小路になった彼らにすかさずラクモが飛びかかる。

 蒸気ゴーレムである彼は背中から蒸気を吹き出し、地面に向かって落下しながら氷を叩き割った。

 彼の生み出したあまりの衝撃に彼らは宙に舞い上がる。ここまで連携は完璧に進んでいた。


「何だとぉぉぉぉ!!??」


「後はやっちゃってくだせぇ!旦那!」


「行くぞ!これでケリつけてやる!」


 最後に暗黒騎士である俺の一閃が光る。舞い上がった彼らの急所となる所を狙い80体全員を薙ぎ払うのが最後の難所だ。


「食らいやがれ!殺戮魔閃デストロイデビルズスラッシュ!」


「うぎゃぁぁぁぁ!!!!」


 追手の魔王軍は俺の斬撃を食らい空中爆散。飛び上がり一閃した俺をゴーレムであるラクモが受け止め、戦いは決着した。"雑用クエスト"成功。


「俺の事、仲間にしてくれるか?」


「当たり前だ、別にお前に期待してる訳じゃ無いがな。ラクモ」


「旦那……!」


 涙ぐむ彼を横目に紅一点である2人が駆け寄ってきた。どうやら村のエルフ達も大多数が無事だったらしく、偶然にも死人はいないらしい。


「お疲れ、皆!」


「今日の戦いもなかなか過激でしたね……あの程度、私なら簡単に」


「わかったわかった、皆凄い活躍をしてくれた。感謝する」


 食い気味にキサキを黙らせると俺はメンバーを円状に配置した。焚き火を中央に置き、改まって俺は宣言する。


「よし、これから俺達はパーティーだ!勿論リーダーは偉大なる暗黒騎士様の俺だがな」


「貴方にリーダーが務まるとは思えないけどね、激情騎士」


「何だと?言ってくれるじゃねーか三十路ロリ」


「冗談よ。私は"魔法調合師マジックアルケミスト"のキサキ。見た目は小さいけど歳は30代。こんな所にお世話になるとは思ってなかったけど楽しそうだからいいわ。よろしく」


 若干不満そうに彼女は答えた後、少しだけ愛想笑いを浮かべた。


「フンガー!俺は蒸気ゴーレムのラクモ!旦那ともう一度旅ができて光栄に思う!なぁ相棒?」


「だから勘違いだって……痛てて」


 無理矢理肩を寄せ合おうとする隣のデカブツにキサキは呆れていたが、当の本人は全く気にしてない様子だった。


「私は妖精エルフのサヤ。あの時暗黒騎士さんに助けられてからもう一度だけ転生してやり直そうと思ったの。私がまた生き直そうと思ったのは彼のおかげだから」


「俺を祀り上げるな、お前の役割を言ってくれ」


 補足で俺は彼女に物申した。少し躊躇いながらもサヤは答える。


「私は皆を癒したり光の攻撃魔法や補助魔法で支援するよ。私に出来ることはこれだけしかないけど」


 焚き火を見ながら少し顔を下げる彼女に俺は納得した。彼女も"頼れるものが無いと駄目な生物”なのだと。


「"これだけ"じゃないだろ?」


「えっ?」


「"これ以上"だ……俺達が力を合わせれば無限の力を発揮できる。そうだろ?」


「そうだよ兄貴!俺達が合わされば最強さ!」


 そう言って彼は背中から蒸気を吐き出す。関係なさそうに本を読んでいた白衣を来た彼女も負けたのか名乗りを上げる。


「確かにね、1人で戦うよりかは絶対強いわ」


「お前はどう思う?妖精」


 彼女は自信が持てないながらも一瞬覚悟した表情を浮かべ、勇気を振り絞り笑顔で答えた。


「勿論だよ!どんな事があっても私達は負けない」


「よし!これより俺達4人で『正義の騎士団』を結成する!」


「ダサくない?」


「文句があるなら代替案を言ってくれたまえ」


「暗黒のロックンロールとかどうすか?ちょうど旦那いますし」


「お前に聞いてない!」


 俺達は笑い合った。俺が魔界にいた頃は笑うという事すら忘れていたが、いびつな仲間達と困難を乗り越えて今やっと理解した。俺の居場所というのは今確かにこの場に実在していたのだ。

 しかし、この時はまだ俺は知らなかった。俺達『呪われた一族』はまた数奇な運命に歩み出していくことを──。

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