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暗黒騎士と妖精の安寧生活  作者: スタイリッシュ土下座
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"水晶髑髏の反対"を追え

 俺の名はヤイバ。元暗黒騎士だ。新しく仲間に加わったキサキという奴が実験室を欲しがるのでサヤと相談した結果、家の一室を分け与えることに決めた。

 数日経過し部屋を覗いたが、怪しげな薬品や実験器具や資料集、オカルト本が敷き詰められていて驚いた。


「何作ってるんだ」


「兎と戦車の科学実験ですよ。こいつらなかなか合致率が高いみたいで」


「何処かで聞いたことが有るような無いようなマッドサイエンスだな……ところで先日言ってた頼みとは何だ」


 俺が聞くと彼女は実験の時にしか掛けない眼鏡を光らせた。


「"水晶髑髏クリスタルスカル"って知ってますか?」


「人間界では分類上"古代遺産オーパーツ"と呼ばれている透明な髑髏だろ?中には特定数を一定の場所に集めないと世界が滅ぶという噂もある。常識だ」


 考古学はそれなりの知識がある俺は難なく答えた。彼女は知識欲が刺激されたのか段々熱くなり話に食いついてきた。


「実はアレには裏の存在があるのよ」


「それは知らないな……それも常識なのか?」


「常識中の常識よ!"漆黒髑髏シャドウスカル"って言うんだけどね……あれに含まれる漆黒物質が有れば戦闘中でもサポートできるワンランク上の魔道化合物が作れちゃうってワケ」


 彼女の説明する謎の物体について俺は何も知らなかった。この世界に存在しているのは"水晶髑髏クリスタルスカル"だけではないのか?

 ただでさえ先に発見されている方が人間界において研究段階なのに対し、俺はイマイチ"漆黒髑髏シャドウスカル"の存在を理解出来なかった。


「その漆黒髑髏とやらは何処にあるんだ?よく分からんが」


「あれはまだ発見されていないわ。でも私の持つ極秘書物やデータによるとこう書かれている。"魔に呑まれろ"と」


 俺は息を飲んだ。だがよく考えてみてほしい。まだ発見や観測すらされていない物体について書物やデータが詳細に書かれているだろうか。

 彼女の発言には全くもって根拠が無かったがそれ相応の謎の"重み"があった。


「話はわかった。お前はその漆黒髑髏が欲しいんだな?」


「これさえあればこの先貴方の戦闘でも活躍できる調合が期待できる。騎士さんも戦力が欲しいんでしょ?」


「お前の言う事が正しければそうだが……何か隠してないか?」


 目の前の三十路の幼女は変に大人びたため息を吐いた。


「疑い深い人ね、でも私のデータや資料は全て真実よ」


「お前がそこまで言うなら信じる。騎士道とはそういうものだ」


 彼女は少し頬を上げた。若干の静寂があった所で彼女は口を開いた。


「"悪霊湿地エビルスワンプ"」


「え?」


「その漆黒髑髏があるとされる場所よ。魔王城から数kmしか離れてない場所だけど、騎士さん行ける?」


 どうやら彼女の狙いは俺をお使いに行かせてその漆黒髑髏とやらを手に入れるという事らしい。段々と嫌な予感がしてくる。


「待て、俺はお前の言うことは信じると言ったがお前の為にお使いに行くとは一言も言ってない」


「トルネード」


 彼女の手元から高速の風が吹き荒れ、目の前に立っていた俺を扉口から押し出した。


「何しやがる……うおぉああああ!!!!」


「お使いから戻って来るまで家に帰れないと思っておいて、話は終わり」


 そう言って彼女は扉を閉めた。吹き飛ばされた俺は家の窓ガラスを突き破り、村の中央付近まで飛ばされていた。


「クソっ……アイツ、俺より強い事を知ったが故にいい気になりやがって」


 紳士的に振舞っていた俺にも流石に怒りが立ち上る。

 彼女が家にいる限り帰ることすらままならなくなったので俺は鎧に付いた砂をふるい落とし、彼女の言っていた悪霊湿地まで向かうことに決めた。

 悪霊湿地までの道は確かに遠かったが、敵襲が無かった為に目標よりも早く辿り着いた。


「こんな所だったのか……。気味が悪い」


 悪霊湿地。魔族の中でさえ行ってはならぬと教えられていた超危険地帯である。

 しかし、最近になって悪霊の数が減ったのか今や解放地区も多くなっているのが現状だ。

 とはいえ悪霊が元々住んでいたとされる地区にわざわざ行こうと思う者も少なく、開拓はまだまだ施されていない。

 俺を追っている魔王軍の手下も見かけなかった為、相当危険な場所であることが考えられる。


「静かすぎる……。幾ら危険だろうと、敵襲の1つや2つはある筈なのだが」


 瞬間、後ろの草むらがゴソゴソと鳴った。俺は咄嗟に大剣を取り出し構えたがそこには誰もいない。


「落ち着け……日が無いとは言えどまだ夜も更けてない。慎重にだ」


 また後ろの草むらがゴソゴソと蠢く。やはり誰かがつけて来ているのか。俺の額に冷や汗が流れる。


「お前……!次は無いと思え」


 誰もいない所に忠告したが、遂に草むらが動きを見せた。咄嗟に俺は戦闘態勢に入り、その"何か"を斬ろうとしたその時だった。


「わー!ストップ!騎士さんストップ!」


「お前は……サヤか?」


「いきなり知らない人を斬ろうとするなんて酷いよ騎士さん」


「何故俺の後を追ってきたんだ。ここは危険だしお前にこの案件はまるで関係無い」


「だって、窓ガラスまで割ってこんな所まで出るって絶対おかしいじゃん!ちゃんと弁償してくれないと……」


「心配するのそっちかよ……」


 俺は若干恐怖心が無くなったのと同時にどう説明すればいいのかわからないまま気まずい空気を味わった。今までの事情を簡単にだが彼女に説明する。


「えっ!?あのキサキちゃんにお使いに行けって?負けた貴方も貴方だけど、あの女ろくな奴じゃないわね」


「確かにヤツのやり方は酷いと思うが、俺は元々その漆黒髑髏にも興味がある。頼まれなくてもここに来ただろう」


「そんなオカルトじみた話、簡単に信じていいの?悪霊とかに取り憑かれちゃっても知らないよ?」


「さぁな、何度も言うが俺は暗黒騎士だ。呪いだとか悪霊だとかそんなものの扱いには手慣れている。」


「そんな無茶な……あれ?」


 彼女は俺の後方を見て顔色を変えた。どうやら俺の後ろ数m先に何かが見えるのだと言う。


「信用していいのか?」


「えぇ、エルフの基本視力は5を超えるのよ。良すぎて近くも見れない」


「本当にいいのかそれ」


 俺はあえて後方を振り向かずにいた。後ろからの禍々しい何かの前兆を少しだけ感じ取っているからだ。


「どんな様子だ、その影は」


「恐らく金髪で軽そうな鎧を着ている。手に持ってるのはレイピアみたいな細い剣。体格はスマート。騎士さんとは正反対だ」


「どさくさに紛れ俺を侮辱するのは止めてくれ。一応ここは悪霊の巣だぞ?」


「待って、今私達を見つけてこっちに向かってる。早く逃げないと!」


 緊迫した彼女の顔を横目に俺は大剣を構えつつ振り向いた。

 金髪を棚引かせる彼を確認し、俺も彼の方に走り込んだ。


「何やってるの!?相手は誰かもわからないのに!」


「悪ぃ、俺はこいつを倒して先に進まないといけないんだ。それに暗黒騎士が背中を向けるもんじゃない!」


「フン、目標……5m」


 俺に焦点を合わせ軽く呟いた彼には何処かで見覚えがある。

 だが今はそのような事を気にする暇は無い。手に持つ剣に力を振り絞り縦一直線に斬った。


「ぐぁぁぁぁ!!!!」


「や、やったか!?」


 俺が斬った金髪の青年は縦から真っ二つにされ、地面に崩れ落ちた。あまりにも呆気ない幕切れだった。


「騎士さん!大丈夫?」


「あぁ、しかしあれだけ腕に自信のありそうな彼が俺に攻撃すら出来なかったのは妙だ、何かある」


「フフフ……流石ヤイバ様。私が接待している事に気付くとは中々やりますね」


 俺は声のした方向を向くと、そこには黒いドレスを着た陽気で不気味な骸骨が無気力そうに椅子に座っている。


「あ、悪霊ぅぅ!!??」


「落ち着けサヤ!貴様、名を名乗れ!」


「名乗る必要もありません、私は貴方が今最も求めていたそのものです」


「何!?」


 俺の目の前に立っているその悪霊こそ、漆黒髑髏だと言う。


「でも本当の名前は違いますねぇ、私の名前は"髑髏不死者スカルデッド"ミーネ。ま、生前は女性してましたので、こんな名前なのですがね」


「お前を倒せば漆黒髑髏は手に入るのか?」


 彼女は吹き出した。どうやら思っていた通りの返答が来て滑稽に思ったのだろう。


「私を倒せば漆黒髑髏が手に入る?とんだご冗談を!貴方様が見ている私は言わば幻影に過ぎないのですよ」


「幻影って……暗黒騎士さん!早く逃げないと!勝ち目は無いよ」


 恐怖に怯え困惑を隠せないサヤはひたすらこの"領域テリトリー"から逃れる事を俺に言ってきたが、俺にはそのつもりは無い。

 ここまで来ればむしろこの"領域テリトリー"を汚してまで漆黒髑髏を手に入れるつもりだ。


「幻影って言っても物理攻撃が効かない訳じゃないんだろ?元から幻影のような貴様には分からないと思うがな」


「面白い事を言う、試してみます?」


「上等だ」


 俺は力を込めた剣撃を気取った骸骨に食らわせるはずだった……が。


「ぐっ……!」


「試すも何も、貴方は既に呑まれているのですよ。その限り無い"魔の領域"に」


 骸骨に攻撃を当てる事無く、俺は奴の術式にハマっていた。意識が朦朧とし、身体が段々と軽くなっていく。サヤが心配そうな顔をしてこちらへ向かい、骸骨を威嚇した。


「お前……何をした!?」


「フフフ……無知な妖精さん、"ドッペルゲンガー"ってご存知?」


「ドッペルゲンガーって……まさか……」


「気がついたようね。暗黒騎士さんは私と出会う前"過去の自分"を斬っていたのよ。今に頭からパックリと引き裂かれて死に悶えるわ」


「そんな……!目を覚まして!騎士さん!」


 涙目で俺を揺さぶる彼女を尻目に俺は考えていた。過去の自分?もしあの時俺が斬ったのが過去の俺だとしたらあの人形は……。


「その"魂"貰っていくわね」


「やめろ!輝光裂破ホーリーストライク!」


 決死の抵抗か、サヤは俺の前に立ち閃光を放った。だが光霊魔法の威力は溜め時間が無ければ強さを発揮しない。


「ぐゥッ!目が焼けたわ!この忌々しい小娘が!」


「きゃぁっ!」


 サヤは骸骨に吹っ飛ばされ、木の幹に身体を強打した。当分アイツは動ける状態ではない。


「さぁ、次は貴様だ!暗黒騎士!」


「ぐっ……!」


 半分消えかかっている俺は、もはや抵抗する力さえも残っていなかった。間もなく消滅する、その時だった。


「フンガーーーッッッッ!!!!」


 突然、何者かが巨大な腕で骸骨を粉砕しぶっ飛ばす。しかし、その黒い何かの影が見えつつも俺は意識を失いかけていた。


「オレ、オマエヲタスケル」


 彼はその薄汚い小瓶を取り出し、俺に何かを飲ませられた。すると一瞬のうちに身体の裂けは元に戻り、再生を遂げた。

 目を開けると茶色いレンガで構成された、腕が異様にでかいゴーレムの姿がハッキリと映し出されている。


「これは……?」


「呪イヲ解ククスリヲ飲マセタ。ハヤクトドメヲサセ、アイボウ」


「わ、わかった!これでも食らいな!悪霊!」


 俺は骸骨の方に走って行き、その暗黒に満ちた大剣の一撃を食らわせる。

 鋭いその一撃は骸骨の頭目掛けて突っ込んでいく。


「この私が……。こんな"呪われた一族"に……!畜生ーーッッッッ!!!!」


「あの世で詫びろ、同胞」


 俺の刃は脊椎を貫通し身体を開きに変えた所で炸裂。彼女の身体は燃え上がり、塵一つ残らず消失した。


「倒した……!」


 突然の強敵の襲来で愕然としていた俺は苦しくも撃破に成功した。ここでようやく俺は気がかりなことを思い出す。


「そうだ、サヤ!大丈夫か?」


「う、うん……少し身体の節々が痛いかも」


「重症じゃないか……早くエルフの村へ運ばないと」


 俺は彼女を担ごうとしたが、途端に力が出ない。すると、俺より図体のでかい彼が名乗りを挙げる。


「オレ、ソイツ、ハコブ」


「運んでくれるのか?」


 彼は背中から蒸気を吹き出し、お安い御用と答えた。緊急時の為、俺は仕方無く彼女をエルフの村へ戻してやってくれと告げた。

 俺が漆黒髑髏の回収に戻ると、既にそれは消滅していた。それもそのはずである。

 あれだけの衝撃を与えれば骸骨程度なら普通に砕け散るだろう。俺は渋々傷口を押さえながら帰る事にした。"雑用クエスト"失敗。


 後日、キサキに漆黒髑髏の事について報告すると彼女は残念そうな顔を浮かべた。


「取って来れなかったの!?漆黒髑髏」


「馬鹿、俺は死にかけたんだ。早々簡単に取ってこれるような代物じゃ無い」


「フリーズ」


「ちょ待て……」


 俺はまた彼女の術式で凍らされた。この女、扱いが難しい。


「でも私の為にあんな所まで行ってくれたのは嬉しかったよ、ファイア」


 俺の周りの氷が彼女によって溶かされた。まだ冷たさで痺れている口を俺は開いた。


「新手のツンデレか何かか」


「今回は本当に感謝してる。あの巨大な実験材料も持ってきてくれたし」


 彼女の指したそこには身体で作り出した熱を蒸気をとして噴出する上半身のアームが強靭で太く、下半身が異様に小さいアンバランスなゴーレムの姿があった。俺はすぐに彼の方に行き、事情を尋ねる。


「お前は誰だ」


「蒸気ゴーレムのラクモさ!俺は元々暗黒騎士である旦那の仲間だったんだ」


「そりゃどうも」


「おい、信じてないのか?もしくは忘れちまったのか?」


「初対面よりも随分ハキハキと喋るなお前」


「あの時は緊張してて……」


「ゴーレムも緊張するものか……まぁいい、お前どういう風の吹き回しだ?」


 俺が厳しい口調で尋ねると彼は床に這いつくばり頼み込む。


「頼む!俺をお前らの仲間に入れてくれ!あの時と同じく冒険したいんだ」


 彼の突拍子もない言葉に俺は耳を疑った。


「仲間は常時募集中だが……俺は冒険なんてした覚えはないぞ」


「もう忘れてしまったのか?過去の栄光を!昔の己自身を!」


 嘆く彼を不審に思ったが、俺は彼の言い分を聞き続ける。


「過去の栄光だって?俺に残っているのは忌々しき騎士の記憶だけだ。後は何も無い」


「違うんだよ!俺も旦那も、元々は同じパーティーだったんだよ!」


 背中から蒸気を吐き出しながら訴える彼の言葉を俺は受け入れられずにいた。


「だからどういうことだ」


「俺はパラディンで、旦那は勇者なんだよ!そうだろ?」


 彼のそれは全く出鱈目で信じられる話では無く鼻で笑ったが、思い直した俺は驚愕の表情を隠せなかった。


「俺が勇者だと?冗談は顔だけにしておけ」

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