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暗黒騎士と妖精の安寧生活  作者: スタイリッシュ土下座
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感情的な魔法調合師

 俺の名はヤイバ。魔王軍から逃れ、現在はエルフの村で日々を過ごしている。

 この村では何も変わったことは無い。他の農村と同じ様に普通に暮らしを営み、祝い事があれば祭りを催す。

 強いて言うならば、彼らの主食である米に似た穀物が凄く不味いと言った程度だ。食文化の違いは致し方ない。


「仲間が欲しい」


「急にどうしたの、また癇癪?」


 彼女は平然と昼飯を続ける。癇癪を起こしていたのであれば俺はもっと態度を変え憤怒していただろう。


「違う、これは切実な願いだ」


「仲間なんて増やして結局何すんの?今の生活で十分じゃない」


「確かにここに住まわして貰っている事には感謝する。ただ俺は魔王軍の反逆者だ。全面戦争を起こすにしても起こさないにしても最低限の武力は持っておきたい」


 俺の真摯な訴えに目の前の妖精はキョトンとしている。いきなり真面目な話されたら誰でも困るのは当然だ。


「でもそんな急ぐ必要ないんじゃない?いつかでいいのよ、いつかで」


「違う。前もあの追っ手がやって来た。この村にこれ以上被害を及ぼす訳にもいかない。」


「備えあれば憂いなしって事ね、気に入ったわ」


 彼女は話に乗ってくれた。俺は卓上のコップに入った水を一杯飲み干すと彼女に告げた。


「この村のギルドという所へ行ってくる。少なからず仲間と呼べる誰かは出てくるだろう」


「行動早いね、私行かなくてもいい?」


「今回はお使いでも戦闘でもない。今日は引っ込んでいろ」


「相変わらず口調荒いんだから」


 この村のギルドは北方向に設置されている。何故なら北方向には俺の住んでいた魔王城が設置されており、魔物が湧きやすいのだ。

 その為ここを訪れる冒険家は構わずこのギルドに集合する事が多い。一番多く湧く場所に拠点を置く事で突然の襲撃にも対応しやすいという話だ。

 キャンプの中に入り、受付に行く途中にも俺は注目の的になった。


「すまない、俺は仲間を探している。募集申請したい」


 ギルドの天井を突き破りそうな体格を持つ俺を見に野次馬冒険者達が群がってくる。


「あ……あれって魔王軍の手下じゃないのか!?」


「しかし何故パーティー募集を……そうか、引っかかった冒険者達を魔王軍の手下にしようって魂胆だな」


「そんな卑怯な事を試みるとは魔王の奴、絶対許せん。今ここで断罪してくれる!」


 多くの下っ端冒険者達が俺を悪者に仕立て討伐しようと襲いかかったが、俺は冷静に暗黒騎士の覇気でそれを退けた。

 吹っ飛んだ者の中には恐怖でチビっていたのもある。あれだけ威勢のいい声を張り上げていたのに呆れた。


「よく聞け、俺はお前らの敵でも味方でもない。中立だ」


「どういう事だ!魔王軍の連中が冒険者達のギルドに入る事自体おかしいだろ!」


 ギルド内に彼らのクレームが大声で張り上げられる。冒険者は確かに敵ではあったが、人間に対して寛容であった俺でもたちまちその反応に苛立ちを感じ始めた。


「お前らは種族や外見でものを語るのか?」


「その通りだ!アンタはどう見ても魔王軍の手下じゃないか!言い逃れはできないぞ!」


「五月蝿い!俺はこの村を守る為の仲間を探しに来ただけだ!既に戸籍も取ってある!ましてはお前らを攻撃しよう等という感情は1mmも無い!」


 野次馬に激を飛ばした俺に冒険者達は恐れ慄いたが、それでも怪しさや恐怖のあまり彼らの苦情が収まる事は無かった。


「暗黒騎士がこの村にいるだと……冗談じゃない!」


「どうしてこいつを住民にしたんだ!もしかしてこの村は魔王と密接な関係があるんじゃないか」


「だとすればここは魔族の温床だ!俺レベル低いからもう近づけねぇ!」


 次々と出てくる信憑性の無い噂の数々に流石の俺も怒り心頭だった。

 一体人間というものは本当に正しき考え方ができる存在なのかと疑心暗鬼するレベルではらわたが煮えくり返る。


「そこまで言うのならばもういい!勝手にお前らだけで魔王でも何でも倒してやがれ!善悪の区別もつかない愚の骨頂である冒険家野郎共が!」


 俺は集まった人並みを押し倒しながらギルドの外へ駆け抜けた。出口まで歩き、俺は深いため息を吐いた。

 俺が求めていた真の正義とはこんなにも下らないものであったのか。

 種族や境遇だけで人やものを判断するあまりにも愚劣な思想を俺は追い求めていたのかと思うと薄ら寒い。


「帰ろう」


 冷静になった俺はギルドを後にしやるせない気持ちのままサヤの家へと戻った。


「お帰りなさい」


「ただいま」


 何も話そうとしない俺に彼女は尋ねる。


「どうだった?」


「どうだったも何も1日2日で仲間が見つかる訳がないだろう」


「そうよね、でも騎士さんには人徳あるから大丈夫だと思うな」


 彼女の意外な一言に流石の俺も遺憾だった。


「人徳があるだって?人でも無く大量殺人を繰り返した俺を徳が高いって言うのか?笑わせるな。それに」


「でも私を斬り捨てなかったじゃない。だから私は貴方の仲間になったんだし」


「それもそうだが……」


 若干食い気味で引っかってきたサヤに俺は戸惑った。

 俺はあの幼子を助けたあの時良心というものを考えては無かった。

 むしろここで始末してしまった方が良いという意見には賛成である。しかし、あくまで命を奪う行為自体が絶望と苦痛を与えるだけで無意味なだけだ。


「俺に徳というものがあるはずがない、光より闇だ」


「ふーん」


 彼女が興味無さそうに背伸びをすると家の扉がコンコンと鳴った。

 どうやら今日の牛乳配達がやって来たのだろうと思い、俺は扉を開けた。

 そこに立っていたのは、ごく一般的な幼稚園年長程度の身長や体格をした白衣を来ている黒髪の美しい顔立ちをした幼女であった。


「どちら様だ」


「貴方がギルドにいた暗黒騎士さん?」


 俺は剣を取り出し彼女の首筋に当てた。いくら幼女とはいえ、白衣を羽織り俺の存在を知っているというのは明らかに怪しい。

 魔王軍の手下が幻術で化けて来ているという事も考えられる。俺は変に慎重になった。


「お前は誰だ、名乗れ」


「騎士道って簡単にレディーに剣を振っていいのかしら」


「うっ……」


 痛い所を突かれた俺は咄嗟に剣を首元から外した。ある程度敵意を無くした所で彼女は名乗った。


「私はキサキ。貴方に雇われに来たの」


「申し訳ないが俺は人を雇っている訳じゃない。仲間を募集しているだけだ」


 即答した俺に彼女は頭を抱えるが続けて言う。


「なら仲間でもいいわ、貴方の戦力になる」


「何が目的だ」


 見た目の割に大人ぶる彼女の反応に俺は一種の気味悪ささえ感じていた。

 だが、どうやら俺に悪い影響を及ぼすといった奴でもない。


「目的ね……強いて言うなら私も魔王軍に反感を覚えててね。あそこのアルバイターみたいなものよ」


「何だと!?」


 俺は耳を疑った。どうやらこのキサキという奴は小さい見た目の癖に魔王城でアルバイトをしていたという。


「でも給料も安いし、教え方も悪いしで諦めちゃって。元々悪いイメージは持っていたから辞めるのも致し方ないんだけど」


「バイトって言った所でお前、そんな年齢でもないだろう」


 冷静に突っ込む俺に彼女はムッとした表情で答える。


「あら、私こう見えても30代なんですけど」


「はぁっ!?」


「魔族って案外非常識なのね」


 身長が幼稚園児程しか無いのにまさかのアラサーであった。

 流石の俺も何を何処から突っ込めばいいのか分からなくなってきたのだが。


「単刀直入に言うわね、私のジョブは"魔法調合師マジックアルケミスト"。魔法や物質を合成させる事ができるわ、こんな風に」


 彼女がそう言うと突然俺の地面から謎の渦巻きが出現し、重い甲冑を着た俺でさえ天井までのし上げた。


「痛ぇ!何だこれは!?」


「貴方の足元に『サイクロン』の術式化合物を置いたの。後はトランプのJがあれば完璧になるんだけど」


「早く戻しやがれ!俺の鎧が家の天井をゴリゴリ削ってるんだよ」


 彼女が指をパチンと鳴らすと俺は急速に地面に激突した。激痛で無い鼻を押さえている俺に彼女は続ける。


「どう?十分戦力になるかしら」


「なるほど、良くわかった」


「凄いでしょ?私のこの若さも魔法調合師の能力で保たれてるのよ」


「さっき天井がゴリゴリいってたけど、何の騒ぎ?」


 一番タイミングの悪い時にサヤが玄関口に駆けつけた。

 俺の新しい仲間に志願する者がこの偏屈化学ロリババアであるという事は口が裂けても言えない。


「というかこの娘だれ?」


「いやぁ……最近親戚にこの子を預かれって言われてるんだ。ハハ……」


「妖精さん、お世話になります」


「そう?何も無いところだけどゆっくりしてってね、それじゃあ」


 バレバレの嘘をついてしまったがどうやら彼女の方も嘘であることに気づいていない。


「おいどうするんだよ……"妖精アイツ"この家に受け入れる気満々じゃねぇか」


「ですから、戦力として貴方のパーティーに入れてくれるだけでいいのです。私はあの妖精と暗黒騎士さんの連携プレーも見てました」


 一向に心変わりしない彼女に俺は悩んだ。確かに物質を錬成して未知の可能性を持つアイテムを生み出すジョブはこの街を探してもなかなか現れないだろう。

 だが、俺が求めているのはあくまで魔王軍に対抗できる戦力としての人材だ。具体的に言えば戦士やら魔法使いやらのそれなりの役割を持った奴が欲しい。

 "調合師アルケミスト"は確かに上位職ではあるのだが扱い方も不安定である為、起用はし辛いのだ。


「悪いが答えはNOだ、また別の機会にしてくれ」


「それでも私を貰ってくれないのですか……?」


「え?」


 急に涙目になる彼女に俺は嫌な予感がした。直ぐに空は曇り始め、雷鳴や地震、ポルターガイスト等の超自然現象が次々と発生し始めたのだ。彼女は遂に泣き出した。


「だからお願いしますよぉぉ!!」


「おい、一体何が起こっている!?早くなんとかしろ!お前!」


「仲間にしてぇぇぇぇ!!!!」


 地割れも起こり、その内隕石でも振ってくるのでは無いかというレベルの災害が次々と発生し始めた。

 耐えきれなくなった俺は荒れて自暴自棄になっている彼女を慰めた。


「わかったから!仲間にしてやるからこの村だけは壊すな!そもそもお前三十路だろうが!しっかりしろ!」


「ほんと?」


「あぁ、間違いない!十分お前を戦力にするし大切にしてやるから!」


 俺すらも若干半泣きになっていたが彼女はスッと顔色を元に戻し、俺に抱きついてきた。


「ありがとう、暗黒騎士さん!」


「本当はエレメントマスターとかの方が良かったんじゃないのかお前」


「あいつら無駄に気取るから嫌い、天才科学者の方がいいわ」


「自分から言うのかよ」


 崩れかけたサヤの家に問答無用でキサキという女が仲間に加わった。

 サヤの方はあまりの出来事に呆然と立ち尽くしていたが、それは多分俺も同じだ。


「しかし場合によってはお前の昔のバイト先を潰す事になるかもしれないがいいのか?」


「私魔族嫌いだから。親は人間と魔族のハーフだけど」


「驚いたな、聞いたこともない。そんな話」


「でも暗黒騎士さんは嫌いじゃないかな。この村で一番可愛いエルフさんと同棲してるしむしろ羨ましい」


「言い方を考えろ……もう俺は疲れたから寝る」


 考えるのが億劫になった俺は布団で休む事にした。

 この村の布団は魔界に住んでいた時の寝床よりも一段とふわふわして居心地が良いが、騒々しい今日という日はまた一段と寝心地が良かったのだった。

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