表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

第14話

   第14話




 俺の名前は今野良樹、ごく普通のありふれた高校2年生だ。

 1年の頃良く遊んだエロ本仲間のひとりは引っ越してしまったけれど、残った熟女好きの丹羽修平とは今でも変わらず遊んでいる。

 そしてもうひとり紹介したいのが、こう言っては恥ずかしいけれど、俺の大切な人、神谷七葉という子だ。

 俺達はこの3人で良く遊んでいた。

 修平には明らかに好きな女子が居たけど、こいつは頭が固くてなかなか告白しないし、相手の女子も修平が好きなくせに、最初から自分を諦めてるというか、家族のような関係で満足だと自分に言い聞かせている。

 そのくせ、七葉に修平が取られやしないかと、たまに俺達にちょっかいを出してきた。

 そういう分かりやすい女子だった。

 早く付き合えばいいのにと茶化せば、決まって修平は俺と七葉こそ早く付き合えと言ってくる。

 俺達は互いに好意を確認し合っているけど、なんとなく今のままで良いというか、ずっとこんな関係が続くと思っていた。

 人の事は言えないんだ。

 その七葉は、人に変なあだ名を付けてくる。

 俺はヨッシーで、修平はシュウちゃんだ。

 恥ずかしいからやめろと言っても聞かないし、なんだかんだ呼ばれ続けていれば慣れてしまった。

 しかし、改めて思えば、ヨッシーはないだろう、ヨッシーは。

 七葉にそう文句を投げかけると、笑いながらこんな言葉を返してくる。

「だーって、ヨシキって顔じゃないし、ヨッシーの方が絶対似合うよ」

 こいつはいつもこんな感じで生意気だ。

 でも俺は七葉のそんな性格や、笑った顔、優しい顔、怒った顔、全部が好きだった。

 それを本人の顔を見ながらだって言えるぞ。

「七葉、その、なんだ。い、いい天気だよな」

「あっれー。もしかしてヨッシー、今恥ずかしいこと言おうとしちゃった?」

「ち、ちげーよ」

「じゃ、私が代わりに言ってあげる。大好きだよ、ヨッシー」

「お、おお。分かってるっつの」

「顔真っ赤にしちゃって、かっわいー」

 ……やっぱり言えなかった。

「何を公衆の面前でやっているのですか。そういう事は、付き合ってからにして下さい」

 そう言って来たのは修平だ。

「うるせーな、俺達は良いんだよこのままで。だろ、七葉」

「そうだねー。ヨッシーが私に告白するとか、それこそ天地がひっくり返っても無理だよ」

「なんだそれ、すげームカつくぞ」

「やれやれ。ところで良樹君、今日もまたゲームセンターに寄って行くのですか?」

「ッたりめーだ、お前に勝ち逃げなんかさせるかよ」

「もう3日も同じゲームをしているじゃないですか、あなたは本当に、地面を舐めるのがお好きな様ですね」

「お? 上等だ、砂利の味が忘れらんねー体にしてやるよ」

「おや、あなたはその味をもう忘れている様ですがね。全く、豆粒みたいな脳みそで良く言えたものです」

「ンだとコラ、この熟女野郎が」

「熟女の何が悪いッ!」

「はーい、はーい、ケンカしないの」

 七葉はケンカと言うが、これは俺と修平のいつものやり取りだ。

 思った事をそのまま口に出来る相手、というのも、なかなか悪くはない。

 まあ、言ってみれば、親友ってやつだ。

 俺と、七葉と、修平。

 こんな関係はずっと変わらないと思っていた。

 そう、思っていた。

 

 * * * * *

 

 それは、川沿いに造られた、わりと大きな公園まで足を運んた時だった。

 この真冬の時期にそんな寒い所行きたくないと言ったが、七葉がどうしてもと言って聞かなかった。

 しかも休みの日にも関わらず、なぜか制服を着てくる様にとのお達しだ。

 なぜかついでに言えば、修平はせっかくだからとカメラを持ってきている。

 この公園は確かに景色もいいが、花が見頃という訳でもないし、何を撮るというのだろうか。

「あなた達ですよ」

 俺の疑問に修平が答えてくれた。

「俺達?」

「ええ、ここはデートスポットですからね。あなた達を写真に収めて、恋人の証拠を作ろうかと思いまして」

「はぁー?」

「いいじゃないですか。あまり無いでしょう、そういった物が、あなた達には。僕達も来年は受験で忙しくなりますし、今のうちにと思いましてね」

「……全く、お前は」

「おや、感銘を受けてしまいましたか?」

「いや、大きなお世話だ」

「なんだとォ!」

「なーにやってるの。こっち、景色すごくいいよ」

「今行きますよ、七葉さん」

「こっちにカメラ向けたらレンズ割るからな」

 とか言っておきながら、七葉が俺の腕に絡みついてポーズを撮ると、その場から動けなくなってしまった。

 修平がニヤつきながらシャッターを切る。

 こいつらもしかして、最初からグルだったんじゃないだろうか。

 ……やられた。

「現像したら学校に持って行きますよ」

「いらねー! つか、今時現像て」

「いいじゃん、いいじゃん」

「……お前の注文だな?」

「へへー、紙の写真好きなの」

「ったく。もういいか、帰るぞ」

「あっ、待って、ヨッシー」

「ん、なんだ?」

 強い風が吹いて、七葉の髪と制服を乱していった。

 一度顔をそむけた彼女は、髪をかきあげながら、俺に笑顔を向けてこう言った。

「ねえ、告白して」

「な、なんでだよ!」

「いいじゃん減るもんでもないしー」

「……減ると言えば腹減ったな、ラーメンでも食いに行くか」

「ええー、いくじなしー」

「うるせー」

 告白をするべきだった。

 ちゃんと、付き合って下さい、と、言うべきだった。

 七葉は俺との関係を、それを証明する物が欲しかったのかもしれない。

 このおかしな写真撮影会も、そんな気持ちの現れだったのかもしれない。

 足を止めて、七葉に向き合っていれば、世界はもっと、笑顔で満たされていたのかもしれない。

 このままの関係でいい。

 七葉もそう思っている。

 俺は、勝手にそう思い込むだけの、子供だった。

 その事に俺は、気付けなかった。

 だから足を進めてしまった。

 もう二度と、七葉の笑顔を見られくなると、知りもしないで。

「危ない!」

 その言葉が聞こえた時、俺の知っている世界は、壊れてしまった。

 

 * * * * *

 

「やはり、ここに居たのですね」

 言葉をかけてきたのは、修平だった。

 ここは、七葉の部屋だ。

 今この部屋の主は眠っている。

 普通は起こさないよう静かにすべき所だが、俺は真逆の事を望んでいた。

 だからだろうか、修平に言っているのかも分からない言葉をつぶやいた。

「俺の……せいだ」

「違いますよ」

「俺のせいだ!」

「あなたは悪くない」

 俺があの時、歩き始めなければ。

 俺があの時、七葉に告白していれば。

 こうは、ならなかったかもしれない。

 あの日、公園に行った帰り道、七葉は俺を突き飛ばした。

 何をされたのか理解できなかった。

 何が起きているのか理解できなかった。

 隣に居たはずの七葉が居なくなり、代わりに車が突っ込んできた。

 七葉の姿を目で探すと、はるか向こうで倒れていた。

「好きだ、七葉……付き合ってくれ」

 俺はバカか。

 今更それを言って何になるんだ。

 もう遅い。

 もう間に合わない。

 もうこの言葉は七葉に届かない。

 あの日七葉は、俺をかばって、車にはねられたのだから。

「俺が死ねば良かった」

 そう口にした瞬間、修平が俺の胸ぐらをつかんだ。

「もう一度その言葉を吐いたら……許しませんよ」

「何度でも言ってやる。俺が、死ねば良かったんだ」

「ふざけるなッ! 大体あなたは、諦めるのですか。七葉さんの命は消えていない、ここにちゃんと居るのですよ」

「でも、起きねーじゃねーか……」

 七葉が事故に遭った時、医者は意識が戻るのに数日か、数週間か、あるいは数年かと口にしたらしい。

 その数年の内、1年が経とうとしていた。

 七葉は意識不明のまま、目覚める事はなかった。

 あの笑顔を見せてくれる事は、もう、なかった。

 それから更に数ヶ月が過ぎた頃、俺は進学をせずに就職していた。

 ある目的のために。

 七葉の治療には金がかかる。

 七葉を救うには金がかかる。

 だからそれを、稼ぐと決めた。

 俺が七葉を救うと決めた。

 でも七葉の両親は、やっと貰ったその給料を、受け取ってはくれなかった。

 必要ない。

 自分のために使いなさい。

 そう、言われた。

 ……ふざけるな。

 この金は七葉の物だ。

 七葉を救うための物だ。

 俺と七葉が繋がっていると、証明するための物だ。

 それをお前達は、否定すると言うのか。

 絶対に許さない。

 そんな事はさせない。

 俺と七葉の関係を証明する物は、もう、1枚の写真しか残っていないんだ。

 それじゃ足りないんだ。

 10枚でも、100枚でも、作るから、証明するから。

 繋がっていると、思わせてくれよ。

 頼む。

 ……頼むから。

 それでも受け取られない七葉の金は、あの日彼女が持っていたカバンに貯まっていった。

 いつか受け取られるその日まで。

 いつか彼女がこの金で救われると信じて。

 俺にはもう、それしか無かった。

 俺は働き続けた。

 寝るのも、食うのも、人に会うのも、要らなかった。

 そんな物は厄介なだけだと思った。

 だって、そうだろ。

 七葉は寝たくも無いのに寝続けている。

 食いたい物も、食えていない。

 早く起きてもらうために。

 早く一緒に飯を食うために。

 俺は要らない。

 友も、金も、時間も、自分も、要らない。

 その全ては、七葉、お前のために。

 ……笑っていた気がする。

 君が、笑ってくれないから。

 

 * * * * *

 

 2018年。

 あの事故から、4年の月日が経っていた。

 俺は唐突に理解した。

 目覚めない彼女を見て。

 痩せていく彼女を見て。

 忘れられていく彼女を見て。

 七葉はゆっくり消されていると。

 この世界が、七葉を消そうとしていると。

 許さない。

 そんな事は、絶対にさせない。

 この世界が七葉を消すと言うのなら。

 俺はこの世界を壊してやる。

 許さない。

 金を受け取らない、七葉の両親を許さない。

 許さない。

 俺と七葉の関係を、それを作るための俺の人生を、否定した修平を許さない。

 許さない。

 あの日告白をしなかった俺を許さない。

 子供だった俺を許さない。

 七葉を好きになった俺を許さない。

 俺を許さない。

 俺が居たせいで、七葉は消えていく。

 消されていく。

 俺のせいだ。

 俺のせいだ。

 俺のせいだ。

 俺は俺を許さない。

 消えてしまえ。

 お前が居なければ、七葉は今も笑っていたんだ。

 俺が居なければ。

 七葉と出会っていなければ。

 あの日の七葉は、今も、ここに居たんだ。

 七葉。

 俺はこれから、願いを叶えに行くよ。

 忘れないようにしないと。

 俺が今から何をするのか。

 七葉。

 俺は今から消えるから。

 この世界から居なくなるから。

 そうすれば、お前を消そうとする、この世界をきっと壊せる。

 お前を救ってみせる。

 携帯も、財布も、必要ない。

 必要なのは、お前だけだ。

 ……君を願う。

 そう、これは俺の、願いだ。

 さあ、世界よ。

 七葉を消すなら、俺を消せ。

 その代わり、七葉を返せ。

 あの日の出来事を、無かった事にしろ。

 俺なんて最初から居なかった事にしろ。

 それが出来ないなら。

 こんな世界……要らない。

 俺は、柵を乗り超えた。

 

 ――ダメだよ、ヨッシー。

 ――ヨッシー。

 ――私はね、

 ――キミが自分を失っていくのが、

 ――耐えられなかった。

 ――私のせいで。

 ――私のせいで。

 ――ヨッシー。

 ――私を忘れて。

 ――自分の人生を生きて。

 ――キミはそこに居ないと、

 ――ダメだよ。

 

 空が、見える。

 真っ暗な、空が。

 七葉。

 俺は俺を消して。

 お前を。

 

 …………。

 …………。

 

「うるさーい、もう誰ぇ? ブツブツと……」

 

 良かった。

 あの日のままだ。

 戻ってきたんだ。

 おはよう。

 七葉。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ