加藤兄弟
銀色に輝くTMI01を見据えながら加藤昌は思い出を振りかえっていた。
その動きはまるでスローモーションで見てるかのようにゆっくり動いていた。
頭の中で鮮明に思い浮かぶ過去の記憶、彼はゆっくりと口角を上げると自嘲気味に笑う。
「まいったな……走馬灯って奴か?」
思えば、自分は弟より優れた所などあったのだろうか?
兄である事が自分にとっての最大のアイデンティだったような気さえしてくる。
最後の間際なのかも知れないこの時に感じているのがコンプレックスとは自分はつくづくどうしようもない奴だと思う。
子供の頃はさほど気にならなかった。
意識し始めたのは思春期の頃だったと思う。
同じ顔なのに何故弟だけが女性から好意を寄せられる事が多かったのだろうか?
自分も同じようになりたいと同じ格好、同じ話し方、同じ趣味。
あらゆる事を真似て来たが結局、弟を越える才能は身につく事は無かった。
実を言えばこうやって命を懸けて戦っているのも、ただ弟に流されただけにすぎない。
そう考えると実に自己と言うものを持たない人間だと言わざるを得ない。
が、そんな自分を弟はきっと愛していたのだろう。
言動だけ聞いていれば彼は粗暴で、自分を馬鹿にしているように見えただろう。
だが、彼の自分に対する思いは言葉では無く心で感じる事が出来た。
あれは二人で天部衆に入隊した時の事だった。
当時の俺は訓練で他の練習に後れを取り周りから馬鹿にされていた時の事だ。
「おい! 昌、弟が優秀だからって勘違いすんなよ。お前なんか一人だったらとっくに落第してんだからな」
「しかし、スゲぇよなぁ。見事なまでに成績がトップとビリ。正に奇跡のコラボレーションって奴?」
常に弟に及ばす2.3番目の成績に甘んじていたこいつ等は事あるごとに俺に絡み自らの鬱憤を晴らしていた。
「チッ! 兄貴、こんなクズ共相手にすんじゃねぇよ。兄貴の質が落ちる」
その後、弟は2対1で殴り合いを始め。
後から自分が加わって相手を撃退した事を思い出す。
「ハ! 雑魚が、毛が生えたらまたきやがれってんだ!」
あの時、強がってたアイツは確かに震えていた。
才能があって度胸があって無敵なアイツ、でもそれは実は只の虚勢で俺にとっては手のかかる弟でしかないのだ。
「ハ! なんだよ、結局。俺もお前が大好きだって事かぁ!」
かなりの時間がたっていたように思えたがきっとそれは一瞬だった。
銀のTMIはまだ目の前にいて自ら作り出したスパイクで昌を串刺しにしようとしている。
ギリギリ反応が間に合う距離だ、間一髪危機を免れた昌はそのスパイクをかわす。
事は無かった!
「うおらぁ! かかってこいやぁ!」
ズブゥゥゥ!!
昌はそれを避けることなく自らの体に深々と刺し貫かせた。
もはやまともに戦って勝てる見込みがない事は分り切っていた。
一か八か最後の賭けに出ることにした。
「D型装備ってのはな。お前等デーモンを倒す専用装備って分けだ」
昌は腹に突き刺さった腕をしっかり抱え込むと指を動かし何かのプログラムを起動する。
「リミッター解除……これが、本当の秘密兵器だ」
昌は右腕からスパイクを出し目にもとまらぬスピードで相手に突き刺す。
バキィ! グチャァァ!!
と、骨が折れ肉が潰れる音が鳴り響く。
安全装置を外した最後の捨て身の一撃は相手の守りを軽く貫き表面の銀の輝きはドロリと地面に落ちた。
昌は残った左腕を後ろで気を失っている弟に見せるかのように高く掲げる。
「どうだ……見てるかぁ……お前に勝てるものは無くてもな……兄貴は……弟の……英雄なんだ……ぜ……」
壮絶な最後を遂げたその男の顔は晴れやかなものだった。