美月
瓦礫が散らばる都市部の中で京極一輝は水のようになったセパルを触ってみる。
ぷるんとした感触に銀色の液体、どうやらこれは水銀のようだ。
「これが、美空が話していた地球外生命体か?」
一輝は半壊したバイクに向かって話しかける。
「つうか……壊すなって言ったよね? 何やってくれてんのよ!」
バイクに搭載されたOSである三雲は一輝に向かって非難の声をあげる。
「仕方ないだろ? 他にアレを破壊する方法は無かっただろうしな」
さも当然と一輝は言い放つ。
「それより、質問に答えてくれないか?」
「そうだよ、姉さんが伝えてた脅威はコイツの事だよ。もっとも、データによれはこれはその一体の破片に過ぎないみたいだけれども」
「破片? そいつは如何いう事だ?」
「一輝、空を見てみなよ、あいつ等まだまだ降ってくるみたいだよ。まぁ、ここに来る前から複数体は既に地上に降り立っていたみたいだけどね」
「そうか、こんなのがまだいるって事か。早くアレを回収しなければいけないようだな」
一輝は倒れたバイクを起こすとそれに跨る。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
走り去ろうとする一輝を止めようとする人物がいた。
それは、所々が破損したディーを装着した悠馬だった。
「ん? 何か俺に用事かな? 坊主」
「坊主って……俺は来れでも機動隊の装士ですよ。名前だって五十嵐悠馬って名がちゃんとあります!」
「そいつは悪かったな。だが、俺は坊主の方がしっくりくるんだよな。で? 用事は何かな?」
悠馬は渋面を作りつつも質問をする。
「貴方は何者ですか? それにそのバイクのOSって…… そもそもどうして此処に」
まくし立てる悠馬に笑みを返しながら京極は語りだす
「質問が多い奴だな。何者かって? お前はそれを知っているが忘れているだけ。バイクのOSはお前の思うとおり、お前の機体のOSの姉妹機だ。此処に来たのはアレを破壊する為さ」
それだけを伝えると一輝は返答を待たずに走り去っていった。
「忘れてるって? どういう事だろう……」
呆然と一輝を見送る悠馬の機体から呼び出し音が鳴り響く、其処には美麗からの着信があった。
悠馬はこの先の展開を想像し、一頻り言い訳をシュミレーションしてから応答する。
そこには、不機嫌な顔の美麗がいた。
「で、何か言う事は?」
「現場判断にて最善の行動を取ったと自負しております!」
「最善ねぇ? どこから指摘したらいいか分からないくらいなんですけど?」
悠馬は冷や汗を垂らしながらゴクリと唾を飲む。
「取りあえず、大事な試作機を危うく壊すところだったわね。何にせよ現状はまだ予断を許さない状況である事は確かよ。直ちに本部に帰還しA型装備に変更しなさい」
「イエス・マム!」
悠馬は勢い良く返事をすると救助した女性警察官を背中に背負い本部に向かって走りだした。
「はぁ……帰ったら大目玉食らうな……」
悠馬が溜息をついていると機械的な女性の声が話しかけてくる。
「疑問があるのですがよろしいですか?」
「なんだよ? 今は世間話とかする気分じゃないんだけどな」
「今の発言が理解しかねます。何の目玉か分かりませんが大目玉を食べるのですよね?生物の目玉には豊富な栄養素が含まれています喜ばしい事の筈ですマスターは嫌なようですね何故ですか?」
「いや……。それは意味が違うんだけど、お前のデータにはことわざとか無いのか? それに全く空気読まないし、そもそもお前ら美空シリーズ固有名称はないのか?」
「また一度に複数の返答を求める会話ですか? 相変わらず騒がしいマスターですね。まず、最初の返答ですが言語データは揃っています。マスターが正しく言語を利用できていないだけです。
次の返答ですが空気は読むものでは無く人間が生存する為に呼吸と呼ばれる方法で摂取するものです。最後に長くなりましたが私の固有名称は美月です。美空シリーズ第3号量産型試作先行モデル美月です」