特殊兵装
あちこちで建物が崩壊し、人々が逃げ惑う中、悠馬は空中で身動きが取れないまま突如現れた球体状の謎の物体を呆然と見つめていた。
球体状の物体はどうやら自身から細かい破片を飛ばし攻撃をしているようだ、こころなしか攻撃するごとに少し小さくなっているような気がする。
「皆さん! 落ち着いて下さい! 誘導に従ってシェルターに向かって下さい!」
辺りの警察官達が叫びながら救助活動を始める、このままでは次の一撃で甚大な被害が発生するだろう。
3人のディーを装備した警官が遠くから向かってくるのが見える、恐らくは市民を守る為に攻撃を仕掛けるつもりだろう。
悠馬は警官たちに向かい警告を発する為に声を出す。
「やめろ! 下手に手を出すな! コイツはあんた達の手におえるものじゃない!」
悠馬の叫びを聞いた警官の一人が加速する、己を鼓舞するように大声で叫びながらカーボンロットを振り上げ突撃する!
「ディーは一機で軍隊と戦える性能があるんだろ? やってやる! やってっやるぜぇぇぇぇ!」
ゴォォォォォォ!!
凄まじい車輪の回転音を出しながら高速で目標に迫る、僅かな時間で目標に到達したTMI-01は勢いよくカーボンロットを振り下ろす。
グシャァ!!
と、球体が殴られた衝撃でひしゃげる。
その間に空中から地面に降り立った悠馬は例の馬鹿げたハンドガンを素早く用意して追撃を仕掛ける。
ズガァァァァンン!!
鼓膜が破れるかと思うほどの爆音を発しながら弾丸が射出される、その弾丸は目標をたがえることなく見事に球体に直撃する。
直撃した弾丸は球体を貫通し球体の行動を不能にする。
はずだった……
直撃した弾丸はまるでゴムを棒で押したかのように球体をへこませるが戦車の装甲をも貫く弾丸は貫通すること無く……
悠馬に向かって跳ね返された!
悠馬は驚きの余り反応できずに呆然と立ち尽くす。
「ジャンプホッパーを左部分のみ作動します」
女性の機械的な声が聞こえた瞬間に左足が爆発と共に宙に浮く、側転と言うには余りにも不恰好な形で悠馬は転がりながら跳ね返された弾丸を避ける。
一体何が起きたのかと周りを見渡すと恐らくカーボンロッドの衝撃を返されたであろうTMI-01が地面に横たわりピクリとも動かなくなっていた。
「オイ! 近藤! しっかりしろ! 何、寝てんだよ……早くおきあがれよ~~!」
動かなくなった同僚の名前を悲痛な声で叫ぶ警察官がフラフラと立ち上がり球体に銃口を向ける。
「オイ! 止めろ! 撃つな! そいつは」
ガァァン! ガァァン! ガァァァン!
悠馬が叫ぶが、言い終わる前には警察官は発砲していた。
跳ね返された弾丸が着弾し、動きが止まったところに追撃をうけ警察官はその場に崩れ落ちる。
残された最後の警察官がヘナヘナとその場にへたり込み動く事が出来なくなる。
球体がへたり込んだ警察官に照準を合わせるように動いた。
悠馬は救出のために無我夢中で走り出す。
「あ~! クソ! 何とかなんのかぁ? 早く助けないと!」
悠馬が独り言を呟きながら走っていると、また機械的な女性の声が聞こえて来た。
「それが貴方の望みですか? 余り合理的ではないですね。ですが、可能な範囲です」
「え? 誰?」
突然聞きなれない声が聞こえ悠馬は唖然とする。
「目標達成の為に一時的に全機能を掌握。スピードリミッター解除。ガード姿勢準備。突貫します、衝撃に備えてください」
機械的な女性の声がそう告げると機体は制御不能となり、悠馬の意思とは関係なく動き出した機体は今までに見たことのない猛烈なスピードで走り出す。
「え? 何? ちょ! こんなの死ぬってぇ!!!」
「問題ありません。対象の性質を考えると体当たりでダメージはありません。跳ね返された後に大変な事になるでしょうが生命活動は可能な範囲です」
「ひぃぃぃぃえええぇぇぇえぇぇ!!」
TMI-01AIVは悠馬の声にならない叫びを発しながら球体に突撃する。
「入射角を調整、突入。データ解析を開始します」
凄まじい勢いで突撃された球体が少しずれ射出された攻撃が警察官の機体をかすめGTEが中破し胸部辺りから女性と断定できる特徴が露になる。
「やはり、突破できませんね。受けた衝撃をそのまま反射していると推測。故に推進を無理矢理続ければいずれは突破可能と思われる。実験を続行」
ミシミシと機体が悲鳴を上げながら徐々に進んでいく。
が、悲鳴を上げていたのは機体だけではなかった。
「いたたたたたたた! ちょ! やめてぇぇぇぇ!」
「問題ありません。後5秒ほどは人体に大きな影響はありません。やはり、突き破るには鋭利な武装が必要ですね。人体への影響を考えると速度も3倍は必要。データベースにバックアップします」
機械的な女性の声が終わると同時に機体が凄まじい勢いで押し戻される。
「救助用ロープで中破した機体を回収。このまま後方の建築物に突っ込みます」
悠馬の機体から救助用ロープが射出され後方に吹き飛びながら女性警察官を回収する。
そのままの勢いで幾つかの障害物を吹き飛ばしながら壁に激突して停止する。
「あ、あぁぁぁ。」
救助した女性が呻き声をあげながら下腹部から黄色い液体を流す。
幸い、彼女に怪我はないようだ。
もっとも、悠馬の方は相当なダメージを負ったようで最早動けない。
「くっそ! 無茶しやがって! 何なんだよお前は! ふざけんなよ!」
「一度に質問が3つですか。やれやれ騒がしいマスターですね」
怒り狂う悠馬に機械的な女性の声が答える。
「先ず、最初の質問は貴方の意志を尊重しただけです。二つめは私はこの機体に搭載された擬似人格OS美空シリーズです。そして、最後の質問ですが私にはふざけると言う機能はありません」
悠馬は言葉が出ずにパクパクと口だけを動かす。
そんな悠馬の意など解さずに美空シリーズと名乗ったAIは淡々と語る。
「そんな事より敵が近づいてきますよ。無駄に相手の興味を引いてしまったようですね」