強襲
「警戒レベル5だって!いきなりMAXとは穏やかじゃないですね」
悠馬は驚きの余り叫び気味に返す。
彼が驚くのも仕方無い事だ、警戒レベルとは5段階からなる危険度を表す指標の事である。
レベル1 根拠はあるが想定される被害が軽微と考えられるもの
レベル2 武装集団による一斉蜂起に相当するもの
レベル3 都市レベルに甚大な被害が想定されるもの
レベル4 国家間における戦争行為に相当するもの
レベル5 国家の存亡に関わる重大な事象
悠馬が要請を受けて出動した時の警戒レベルは1、彼が現地に到着してから画像を送るまでに要した時間は約30分。
警戒発令から1時間以内のレベル1からレベル5への移行は過去に例のない事態だ。
「そうね、穏やかじゃないわ。あんなものが出てくるなんて……アルマゲドンでも始めようとでもいうの?」
美麗は涼やかな顔をしているが内心では叫びだしたくなるほどの恐怖を感じていた。
悠馬はそれには気付かず腑に落ちない声で質問をする。
「美麗ちゃん、だからと言ってまだ何かしてきた訳でも無いのにレベル5は過剰なんじゃないの?」
美麗は悠馬の態度に苛立ちと不快感を覚えたが何しろ今はそれどころではない。
彼女は呆れた態度を隠すことなく悠馬に告げる。
「貴方は事態の重大さに気付かないの? 仕方がないから分かり易く説明してあげるわ。あのサイズの雲をジャンボジェット機が通り過ぎるのにどの位の時間が掛かると思う?」
悠馬は少し気圧され気味に答える。
「いや……10秒くらいですかね?」
「10秒あればジャンボジェット50台分くらいの距離を進むわね」
「50台ってどれくらい進むんですか?」
「そうね、距離が離れているから正確な数値はこれから試算するけれどもザッと計算しても4キロ程度はあると思われるわ」
「よ、4キロだって! そんなでかいものが飛んでるなんて常識はずれにも程がありますよ!」
「だからさっきもそう言ってたでしょ! あんたは本当に馬鹿ね! 理解出来た? じゃぁ、よく効きなさい」
「イエス・マム!」
「私はこれから応援要請を出して付近の警察官に避難勧告を出させます。あなたは有事の事態に備えて待機、但し状況に応じて自己の判断で動けるように準備はしておきなさい」
「イエス・マム!」
ここにきて事態の重大さに気がついた悠馬は慌てて腰に装備された拳銃を取り出す。
TMI-01に装備されたその銃は拳銃とは思えないほどの大きさと破壊力を誇っている、技術武官から聞いた話では戦車の装甲を軽く打ち抜く威力らしいが生身で扱える物ではない。
GTEで使う事を前提にしたネタのようなものらしいがその威力は間違い無く拳銃では最強。
但し、あんなものと戦うには何の役にもたたないだろうと思い他の武装が無いか確認する。
「特殊装備試作機だろ? 通常と同じ物しか無いってどういう事だよ?」
悠馬は追加武装が無い事に舌打ちしながら武装以外の機能を再確認しながら有事に備える。
暫くすると白いカラーリングのTMI-01が3機ほど現れ勧告をしながら避難誘導を開始する。
「皆さん、警察からのお知らせです。現在、上空に有毒性のガスが発生しました。安全の為に指示があるまで避難シェルターへ誘導に従いご非難下さい。繰り返します」
白のカラーリングは各警察署に非常用に置かれるタイプだ。
特定の使用者が決まっていないもので装者の練度は低い、故に緊急事態でも無い限りは武装の許可は下りないが今は腰にリボルバーが装備されている。
「有毒性ガスによる避難? まぁ、未確認飛行物体が出ましたとは言えないよな……」
悠馬が独り言を言いながらその光景を眺めていると美麗からの通信が入る。
「五十嵐2等装士応答できますか? 現場の状況報告をお願いします」
「こちら五十嵐2等装士です、現在は避難が進み人通りはまばらになりつつあります。詳しくは映像をリンク致します」
「了解、確認します。現状を把握しました、各待機隊員に連絡します。状況は極めて危険、通常装備からA型装備に変更後、指示が出るまで待機。繰り返します状況は極めて危険」
悠馬は事の重大さを自覚したつもりだった。
しかし、美麗の発令した指示の内容を聞きここに来て自分がどれだけ危険な状態にあるのかを実感し恐怖で汗が頬を伝う。
A型装備とは対テロリスト戦において殲滅戦を展開する時に使用する過剰兵装である。
悠馬は他の者がそれだけの重武装で配備される中、自分が通常武装で対応しなければならない状況に陥った事を後悔し始めたその時だった。
「おい! 空を見ろよ! 何かが降ってきたぞ、不味いんじゃないか?」
誰かが叫ぶ声がして思わず空を見上げる、最初は小さな点だった物が近づくにつれてその形状が徐々にハッキリとしてくる。
それは、球状の物体で人間程度のサイズのものだった。
悠馬は思わずそれを固唾を呑んで見守る、動けずにいる悠馬に対して美麗が叫ぶ!
「悠馬! ボサッとするな! 緊急回避、ジャンプホッパーを起動しろ!」
悠馬は反射的に指の動きで操作し、足から噴出するジェットの勢いで空中にジャンプする。
その直後に後ろにあった建物が崩れ落ち逃げ遅れた人々が叫び声をあげながら逃げ惑う。
悠馬は上空に回避したまま謎の球体をただ呆然と見つめる事しか出来なかった。