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灯幻鏡  作者: 609
八咫烏編
4/5

灯幻鏡 第四話「訓練!訓練!!訓練!!!」

 次の日、榎木高校体育館。

昨日と同じ場所、同じフィールド。

そこで同じように、二手に分かれて訓練を始めていた。

零は、桃夜に弓の練習を行った後、


「今日は、これをやって貰う」


と、何本かのクナイを渡す。

桃夜は受け取ると、色んな持ち方で素振りや構えをしてみるが納得していない。

そんな扱いに困っている彼から、クナイを一本取る。

そして、近くの木に向かって投げた。

それは真っ直ぐ飛んでいき、木に突き刺さる。


「マジかよ……。リーダー、今のどうやったんだよ」

「ここをこう握って、投げる瞬間に素早く離す。真っ直ぐ投げるんだぞ」


投げる向きから、体勢まで教える。

やり方を覚え、軽く振る練習をしてから、


「こうだな………それ!」


投げたクナイは真っ直ぐ前ではなく、真後ろに飛んで来た。

零はとっさに、横に避けた。


「す、すまん……」

「……後ろだったが、真っ直ぐだった。今のは、投げえるタイミングが早いだけだ。もう一回やってみろ」

「お、おう」


だが、それはまた後ろに飛んで来た。

零もまた、同じように横に避ける。

これをしばらく続けたのだった…


 真琴と月乃は、最初にライフルを扱っていた。

月乃のライフルは、中遠距離型の固定型だが足を外せば、持ったまま撃てるようになっている。


「じゃあ、一時間はライフルを撃って、慣れようか。今日は、地面の固定型で」

「は、はい」


そして一時間、同じ場所に撃ち続ける月乃。

真琴は横に控え、望遠鏡で的を動かしながら見続ける。


『同じ場所から、少しずつ距離を伸ばしているけど、一ミリもずれないとは……凄いな』


真琴は望遠鏡を外し、彼女を見て思っていた。

今も、彼女は的に撃ち続けている。

彼女の放つ弾丸は、常にど真ん中を当てている。


「よし。じゃあ、ちょっと休憩してから魔術をやろうか」

「は、はい」


休憩の時間に、真琴は鍛錬をしていた。

柔技の型を何度も、何度も繰り返す。

時に、拳や蹴りを繰り出す。

そんな姿を、月乃は座ったまま見ていた。

ふと、疑問に思っていた事を聞いてみる。


「土御門君は、暁さんと仲がいいけど……お家が近いのです?」


鍛錬を続けたまま、


「あれ?遠坂さんは知らなかった?僕と零は、幼馴染みなんだ」

「そうなんですか……。もしかして暁さんは、土御門家の分家の方とかなのですか?それとも、他の五家の方の分家ですか?五家の一族の幼馴染ですし」

「違うよ。零は、土御門の血筋ではないよ。あと、五家で言うなら、他の分家でもない。うーん、なんて言えばいいかな……。小学校の途中から、零が土御門の運営する学校に転校してきてね。それで、一人だった零に話し掛けてから仲良くなってね。中学の時には、隣にいるのが当たり前になっててさ。まぁ、それからずっと一緒なんだ。それに僕は、土御門家があまり好きじゃないから……」

「え?」


深呼吸をして、型を終了する。

真琴は苦笑いし、鍛錬を止めた。


「さ、魔術の練習をしようか」


それから真琴は、話を変えるように言ったのだった。

真琴が行う魔術の練習と言っても、精神集中が主だった。


「そう、集中して手の中で、水を固めているのを思い浮かべて」


月乃は、真琴の言うように、手の内に水魔法を集中する。

小さいが、水の球体ができる。


「遠坂さん。ゆっくり、目を開けてごらん」


月乃はゆっくり目を開ける。

自分の手の内に、球体が出来ている事に、喜びを上げた。


「やった!私、ちゃんと魔法使えている!!」

「まって、遠坂さん。いきなり集中を乱したら……」

「きゃっ!!」


月乃の水魔法が弾けて、二人はびしょ濡れになった。


「……ごめんなさい。私……」

「いや。僕も、もう少し注意すれば良かった。今日は、ここまでにしようか」


落ち込んでいる月乃。

そんな彼女に、真琴は手を差し伸べる。

そして、優しく声を掛ける。


「魔法は結構難しい。遠坂さんは、自分の魔法についてもっと理解が深まれば、きっと上手くコントロールできるようになるよ」

「ほ、本当ですか?」

「うん。僕が保証する。でも、ここ以外で今の魔法練習をしては駄目だよ。今みたいに、魔法の暴走が起きる事があるから」

「は……はい」


立ち上がる月乃の顔は、やはり暗い。

真琴は、カバンからタオルを取り出す。

そのタオルを月乃に渡す。


「……実は、僕も昔は魔法が苦手だったんだ」

「え?土御門君が?」

「うん。それで、零や零のお兄さんに教えて貰ったんだ。それこそ、今みたいに。そのおかげで僕は、魔法をちゃんと使えるようになった。だから、遠坂さんがちゃんと努力し、自分を解ってあげれば、きっと結果は出るよ」

「…はい。私、頑張ります!」


真琴は微笑んだ。

そこに零と、疲れ切った桃夜が来る。

零は二人が濡れている事に気が付き、炎魔法をかける。

と、言っても熱風に近いものだ。


「まだ濡れているか?」

「いや。僕は、もう大丈夫」

「私も、大丈夫です。暁さん、ありがとうございます」

「これくらい構わないさ」


四人は、昨日と同じ中庭に移動し、昼食を取る。

そして当然のごとく、午後の授業は昨日と同じ結果だ。

それから二週間、同じ練習が続いた。

二人も大分、午後の授業での眠気も少なくなってきた。

ちなみに桃夜は、零の厳しい特訓のおかげで、弓とクナイを扱えるようになった。

桃夜の弓を分解式タイプにさせた。

これは分解する事で、短剣にもなるのだ。

それだけでなく、桃夜の魔法能力もアップしている。

その為、零は自身も仕掛けるようになっていた。

つまり、対人訓練も始めていたのだ。

これは、零にとっては嬉しい誤算だった。

予定では、ギリギリになると思っていたからだ。

月乃の方も、真琴との訓練が功をなした。

ライフル訓練と魔法訓練も上達し、真琴が仕掛けている。

月乃も、対人訓練を初めていたのだ。

無論、二人の訓練はフィールドを変えている為、色んな場所で戦えるようになった。

三週間という訓練練習も早いもので、残り三日となった日の昼食中の事だ。

だいぶ訓練にも慣れ、体力の着いた二人。

午後の授業で、もう寝る事はなくなっていた。

おにぎりを食べている桃夜が、これまでの事を振り返って聞いた。


「そういやリーダーは、何で俺らをこんなに鍛えたんだ?しかも結構な速さで」


ジュースを飲んでいた零は、彼を見て言った。


「……おそらく、今日か明日あたりに、担任から個人戦もしくは、チーム戦が始まる事を告げられるだろう。私達は、チーム戦の訓練をしていないが、個人としての能力は上げた。それに、対人戦をやり始めてからは、互いの攻撃パターンは大体覚えただろう?」

「それはまぁー、そうだけど……。本当に個人戦とか始まるのか?」

「それらしい事はおこるだろうな。……そうだな。明日からの残り三日間、真琴は桃夜と訓練しろ」


真琴は飲んでいたコーヒーをピックと止める。

零を見て、


「……また急だね。僕は、別に構わないけど……」

「俺も、構わないぜ。宜しく頼むわ、()()()()()()


桃夜は軽く笑う。

これは、明らかに桃夜は挑発している。

真琴は、それを軽く受け流す。

彼自身、こういう手には慣れている。


「五家は関係ないよ。明日から宜しく、緒川君」


だが、真琴の笑顔はどこか怖い。

桃夜も、嬉しそうに睨み返していた。

零に関しては無関心だが、月乃は内心ハラハラしていた。



 午後の授業前の事だ。

零は教室に行く前に、職員室に向かっていた。

それは、桃夜と月乃の休日外出許可書を発行する為だ。

二人の武器を本格的に作るにあたっても、以前から保留にしている月乃の目なども含めて話したいからだ。

この時期の外出許可は、それほど難しくはない。

こういう事は、よくあるからだ。

許可書を手に、教室に戻る途中で月乃を見つけた。

彼女は、クラスの女子達と居た。

いや、ほぼ絡まれている状態だ。

零は隠れて様子を見る。

下手に、問題を起こして目立ちたくはないのだ。


「遠坂さん。()()()()()()()()()()()()()()って、調子に乗り過ぎよ!」

「そうよ。()()()()()()()()()()!!」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「何か言ったらどうなのよ!!」


月乃は黙って、彼女達の言葉を聞いていた。

それは、彼女達が言っている事は、ある意味そうであるからだ。

()()()()()()()()()()()()()()()

だから、土御門君()には色々勉強、魔術、戦闘を教えてもらった。

その月乃の姿が気に入らなかったように、一人の女子生徒がペットボトルを投げる。

無論、キャップは空いている。

月乃は目を瞑ったが、目を開ける。

なぜなら、自分に水濡れなかっただけではなく、ペットボトルも当たらなかったからだ。

目を開けた月乃の前には、濡れてペットボトルを掴んでいる零がいた。


「あ、暁さん?」


零はすました顔で、


()()()()()()()()()に、何か用か」

「べ、別に。手が滑って、彼女に掛りそうになっただけよ!」

「そうか。()()()()()()()()()


彼女達は、急いでこの場を去ろうとする。

その彼女達に零は、


「それと……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


睨みながら言う彼女の目は、凄く怖い殺気がこもっていた。

彼女達は、急いで逃げて行った。

零は魔法で服を乾かしながら、


「いつからだ?」

「え?何が……ですか?」


零は月乃を見る。

彼女は俯いている。


()()()()()()()。すまなかった。気付いてやれなくて」

「い、いえ!そんな!……これは私の問題だったので……そのッ……!」


月乃はガバッと顔を上げ、手と顔を振る。

零はその姿に軽く笑い、


「そうか。では、教室に戻ろう」

「あ……はい」


月乃は、横を歩く零を横目で見て、


『暁さんでも、あんな風に笑うんだ……』


月乃がそう思っていた。

零が不意に立ち止まり、


「だが、一人で抱え込むなよ」


その姿は凛々しく、優しかった。

歩く彼女の姿を見て、


『……私、暁さんのチームに入れて良かった』


月乃は笑顔で、零の後ろについて行った。

 時同じくして、体育館裏の事……


「おい、緒川。お前、()()調()()()()()()だぜ!」

「いくら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

「今からでも遅くない、この学校やめろよ!!」


と、桃夜は囲まれていた。

だが、彼の顔には笑みが浮かんでいる。


「はッ!嫌だね。俺は、()()()()()()。いくら()()()()()()()()()って、拗ねるなよ」

「なんだと!」

「こいつ、痛い目に合わなきゃ、分からないんだろうぜ!」


彼らの一人が殴り掛かるのだが……


「ハッ、遅いな。リーダーの方が、早いぜ!」


桃夜は、逆に殴り返した。

他の者達も、それと同時に殴り掛かる。

桃夜は相手をするが、少し人数が多い。

最初の方は対処できたが、だんだん不利になってくる。

桃夜が足を滑らせてこけた所に、水魔術を出した者がいた。

流石に今の状態で、すぐに対処できないことくらいは、すぐに判断できた。

が、桃夜の前に岩が出てきたおかげで、水魔法は彼に当たらなかった。


「大丈夫、緒川君!」


真琴が、彼の傍まで駆けてくる。

彼は軽い怪我こそしているが、無事のようだ。

真琴は、彼らの方を向き、


「今の水魔法……彼に当たっていたら、災厄怪我ではすまなかったよ」


彼らはオロオロし始めた。

どうやら、冷静になって気付いたようだ。


「い、いや……そうだな。俺らも、少しやり過ぎたよ」

「少し?これのどこが少しなの?一対複数なんて」

「あ、いや……その……お、緒川、す、すまなかったよ」


真琴が、少しムッとしながら言う。

真琴自身、こういう事は好きではない。

と、彼らは慌てるように逃げて行った。

他の者達も、続々とそれを追いかけえるように逃げて行った。

真琴はため息を一つついた後、桃夜に振り返る。

彼に手を差し伸べる。

だが、桃夜は自力で立った。

そして、真琴を無視して校舎の方へ戻って行った。

真琴は手を戻し、ため息を一つついた。

彼は、しばらくして教室に戻った。


 今日の帰り、担任・時雨から連絡があった。

それは、零や真琴が予想していた通りの事が起きたのだ。


「えー、今日は皆さんに連絡があります。残り三日で、訓練練習が終了します。そこで皆さんには、クラス内対抗戦を行ってもらいます。チームは、全部で八チーム。チームメンバーを四人とし、勝ち抜き戦を行って貰います」


黒板(スクリーン)に絵を出す。


「まず、明日の放課後に、各リーダーには番号札を引いて貰います。次の日より、対戦番号のチームで戦ってもらいます。そして勝ったチームは、午後に他の勝ち抜きチームと戦って貰います。その日に負けたチームは、他の負けたチーム同士で。次の日は、勝ったチーム同士と続いていきます」


担任は笑顔になって言う。

黒板(スクリーン)には、担任の説明が絵で説明は続く。


「無論、四人以上いるチームの入れ替わりは自由です。ですが、それはこの結晶石を持っている者同士のみで行えます」


担任・時雨の手には、ひし形の透明な石がある。

これは、意志の形をした電子器具。

これを持っている者の武器や位置、身体状態などを管理している。

そして、記録装置もついている。

これによって、不正行為を防ぐのだ。


「では、残り三日間頑張って下さい」


担任・時雨は黒板(スクリーン)を消し、教室を去る。

その日の夕方、零達は喫茶店に来ていた。


「それにしても、本当にリーダーが言っていた通りになるとは……」

「よくある事だ。高校に入れば、遠征だってある。なにより、軍の要請があれば、高校生であろうが討伐や戦場に出る事になる。……と言っても、一年生の内にはそういった話はないけどな」


零は桃夜の言葉を聞き、カフェオレをかき混ぜながら言った。

隣では、真琴がコーヒーを見つめていた。

零は、それを横目で見ていたのだが……


「マスター。コーヒー、一つ」

「こちらにはカフェオレ二つ、お願いします」


甲高い声と落ち着いた声が、入口から響いて来た。

四人は、そこに目を向ける。

三人の女性軍人さんが入って来たところだった。

うち二人は、ハーフエルフだ。

甲高い声の女性は、金髪の髪を後ろでくくり上げている。

落ち着いた声の女性は、茶色の髪で眼鏡をかけている。

もう一人、同じ髪の色をした小柄の女性が居た。

彼女達は、入り口傍に座った。

零と真琴は、カフェオレとコーヒーを一口飲んだ。

それは今ここで、彼らに関わりを持ちたくないのだ。

だが、小柄の女性がこちらを向く。

零はとっさに、メニュー表で顔を隠した。

……のだが、甲高い声が響いた。


「お!!零と真琴じゃないか!」


と、こちらにやって来てしまった。

残りの二人も、こちらにやって来て傍に座った。


「いつまで顔を隠しているつもりだ、れーい(笑)」


零からメニュー表を取り、抱きつく甲高い声の女性軍人。

零は、これでもかってくらい眉を寄せていた。

真琴は、その姿に苦笑いして、


「離してあげて下さい、翠さん」

「えー、仕方ないな」


彼女は、真琴の言葉を素直に聞いて、零を離す。

零はカフェオレを拗ねたように、飲み始めた。


「でも、珍しいですね。皆さんが仕事途中に、ここに来るなんて」

「あー……気分転換だ。今日は隊長と副隊長は会議で、私達は書類整理。どうせ()()()()()()()、うちの隊長に、()()()()()()()()()()()無茶振りを吹っかけてくる頃だろうさ」


彼女は、運ばれてきたコーヒーを飲む。

というよりかは、ここを席にシレッとしたみたいだ。

二人も、静かにカフェオレを飲んでいる。


「と言っても、()()()()()()()()()()()()()、真琴」

「え、あ……はい……」


真琴は苦笑いをしている。

そこに眼鏡を掛けた女性こと未來が、二人と共に座っている学生を見る。


「そういえば、まだ自己紹介がまだだったわね。私は里見未來。こっちは妹の比奈よ」


小柄の女性こと、比奈は頭を下げた。

逆に、甲高い声の女性こと翠は、


「そうだったね、私は立花翠。私と未來は、零の兄貴の同期なのさ。比奈も似たもんだけどね」

「そ、そうなんですか。あ、私は遠坂月乃と言います」

「そっちの坊やは?」

「俺か?俺は緒川桃夜だ」


と、会話している。

そこでやっと、零が口を開く。


「……私のチームメンバーだ。兄さんにも、まだ紹介していなかったのに……」

「あっ!それで拗ねていたのかい?可愛いねぇー(笑)」


翠は零の頭を撫でる。

零はそっぽ向いている。

未来が苦笑して、


「零ちゃん。今日会った事は、朔弥君には内緒にしておくわ。だから機嫌を直して、ね?」

「別に、言うのは構わない。ただ……」

「「ただ?」」

「……どう言って紹介しようか、考えていたのに会ったから……」


零は、若干ムムッとした顔で言った。

その言葉と表情に、三人は笑った。

隣では、真琴も笑っていた。

月乃と桃夜は、不思議そうにしていた。

未來は眼鏡を外し、笑い涙を拭った。


「ふふ。()()()()()()()、ここまで成長するなんて……お姉さんは嬉しいわ」

「そうだね。()()()()()()()()()()……本当、良い成長したよ」


零は一気にカフェオレを飲んで、


「今日は、これで解散だ。明日は、私と月乃。真琴と桃夜で訓練を行う」


と、入口に帰って行く。

無論、お会計は端末で注文時に払っているので問題ない。

そして、真琴は慌てて立ち上がり、


「ちょっ!零、待って。じゃあ、また明日」


真琴は月乃達にそう言って、真琴は未來達に頭を下げる。


「これで失礼します」


そして真琴は慌てて、零を追いかけて行く。


「それじゃあ、私達もこれでお暇します」


残された月乃と桃夜も帰ろうとする。

が、それを翠が止める。


「ちょっと待った。二人とも」


二人は彼女を見る。

彼女は苦笑して、


「零は、結構無茶する子だからフォローしてやって。真琴も、()()()()()って事で、周りからは変な期待されているから……君らみたいな仲間が出来て、良かったよ」

「……けど、俺らはハーフエルフだぜ。俺ら二人、リーダーに声を掛けられてチームを組んだ。あいつ自身は、嫌だったかもよ」

「そんな事はないさ。真琴自身も嫌だったら、零に言っているさ。それに、あの子達はハーフエルフだからと言って、迫害しないさ。現に、私も、比奈も、ハーフエルフだけど普通に接している。何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「フーン、そう言うもんかね」


桃夜は出て行く。

月乃も再度頭を下げ、店を出て行った。


 次の日、いつもの訓練練習場所。

今日のフィールドは、岩を主にした所だ。


「さて、今日は真琴と桃夜は武器ありの組み手をやって貰う。詠唱魔法による魔法の使用は禁止。桃夜は、あれをしっかり使え。真琴も、今日はあれに近い物を身に着けろ」

「わかった。零、ちなみに僕は……」

()()()()()()()()()()。が、やり過ぎるなよ」

「リーダー。それ、俺の負け前提かよ」

「それは、()()()()()()()()()。桃夜、お前は本気で行け」

「……はいはい。ま、精々頑張りますよ。ほら、行くぜ。()()()()()()


桃夜は、さっさと歩いて行く。

真琴も、その後について行くが、どこか様子がおかしい。

それには、月乃も気が付いていたようで、


「あ、あの、暁さん……」

「何だ?」

「その……今の土御門君の様子が、おかしように見えました。今日の訓練、あの二人で大丈夫でしょうか?」


零は月乃に振り返り、どこか嬉しそうに言った。


「いや、()()()()()()()。性格が違うからこそ、相性はとても良いんだ。それに真琴も、桃夜も、お互いを分かり合っていないからこそ、ここで存分に喧嘩をして貰うさ」

「喧嘩……なんですか?大丈夫かな……」

「さ、こっちはこっちでやるぞ」


と、零はさっさと歩いて行ってしまう。

月乃も慌てて追いかける。

 真琴と桃夜は端末に触れ、武器を身に着ける。

桃夜は、短剣二本と腰にクナイをセットする。

真琴は、手足に鉄鋼を装着する。

彼らは中央で向かい合い、


「先行は君に上げるよ、緒川君」

「じゃ、遠慮なく」


桃夜は真琴に向かって、短剣を二本交差させて突っ込む。

真琴は重心を下げ、右手の鉄鋼で短剣を防ぐ。

そのままの状態で、真琴は右手を少し下げる。

少しバランスを崩した桃夜に、左手でパンチを打ち込む。

桃夜も左足を軸に、後ろに下がる。

その間にも、桃夜は短剣を弓に変え、矢を放つ。

真琴は後ろに下がる。

桃夜の矢が岩を砕く。

その土煙で、桃夜は姿を消す。

真琴は、いつでも防御できるように構える。

後ろから何かを感じ、振り返る。

クナイが、すぐ傍まで飛んで来ていた。

真琴はすぐに伏せる。

が、クナイが地面に刺さると同時に、背中を蹴られた。

桃夜が背後に来ていたのだ。

真琴は右手を着き、体勢を直す。

だが、桃夜の姿はない。


『……彼は元々、()()()()()。その速さにあった武器を、零が彼に与え、鍛えていた。あの時の彼の結果を考えると……()()()()()()()()()()()()()。彼にも素質はあったという事。()()、零だな』


真琴は一度冷静になり、構える。

その姿に隙はない。

岩陰に隠れて、桃夜はそれを見た。


『流石、()()()()()()……名門軍家の一員という訳だ。直にやりあって分かる。()()()()()()()()()()()。これで、詠唱魔法とか使われていたら……そく、負けていた。これは認めるしかないな』


桃夜は弓を構え、真琴の後ろを狙う。

が、撃つ前に真琴がこちらに気が付き、近付いて来る。

桃夜は構わず矢を放つ。

それと同時に、短剣に変え、彼に突っ込む。

真琴は、桃夜の矢を両手の鉄鋼で防ぐ。

突っ込んでくる彼を横に避け、蹴りを入れる。

桃夜は岩に当たり、膝をつく。

勝負はここまでだ。


「凄いね、緒川君。ここまで強くなっているとは思わなかった」


真琴は鉄鋼を外し、彼に近付く。

桃夜は座り直し、


「ハッ、そっちは、()()()()()()()()()()()()()()()

「別に、()()()()()()()()()()()()

「は、良い子ぶんなよ。家が、名門だが何だか知らないが、周りからチヤホヤされていい気になってんじゃないのか」

「違う。僕は……いや、そうかもしれないね」


真琴は表情を暗くした。

その姿に桃夜は、たたみ掛けるように、


「どうせ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……でも、リーダーが決めた事だから、文句が言えない。そもそも、五家の名を持つお前が、あいつの下にいる訳が分からない。……()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


最後の言葉を言う桃夜の顔は、笑っていた。

真琴は彼の胸ぐらを掴んで、


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。零に至っても、そうだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」


真琴は、桃夜を離した。

彼のその前に座り、


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()!!」


真琴は桃夜に向き合い、彼の目を見て言った。


「僕は、土御門家の末子として生まれた。でも、小さい頃から魔法も、実技も、全然駄目だった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。でも、()()()()()()()()()()()()()()。僕は、親にも、兄姉達にも、それこそ周りの分家の人からも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」


桃夜は黙って、それを聞き続けた。

真琴は拳を握りしめ、


()()()()()()()()()()。周りには、土御門と言うだけで、皆からは変な期待を持って近付いて来る。それが同い年の子でも……。でも、零だけは違った。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。でも……」


真琴は、零がいるであろう方を見て、


()()()()()()()()()()()()()()()()。彼女と彼女のお兄さんは、周りから存在自体を……五家の人間に消された。彼女は当時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


真琴は少し間を置いて、桃夜に向き直る。


「僕は……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。僕は、彼女に強さを貰ったのに……僕は彼女を危険にさらした。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


桃夜は、言葉に詰まった。

だが、彼は真琴に怒りをぶつけた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」


桃夜は一呼吸入れ、


()()()()()()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()()。だから改めて、宜しく頼むわ、()()


桃夜は、真琴に手を出した。

握手をしようという事だろう。

あの時差し出した手を、今出すのかと思うと面白くなってきた。

故に、真琴は思いっきり笑い出した。


「あははは!」

「てめぇ!やっぱ俺の事馬鹿にしているだろう!」


彼は、顔を真っ赤にして怒る。

真琴は首を振って、


「いいや、逆さ。僕も最初、君が嫌いだった。でも今は、君の事を知れた。……だから嬉しいんだよ。僕の方こそ、改めて宜しく、()()


真琴は桃夜と握手する。

その姿を、遠くの岩陰から零と月乃は見ていた。

なぜ二人が、ここに居るかと言うと……

月乃が、彼らの事が気になり過ぎて練習に身に入っていない為、零が早めに練習を切り上げたのだ。

月乃は丁度、彼らが和解している姿を見たのだ。

驚きと嬉しさが、一緒になってこみ上げる。

零の方を見て、


「あ……本当に、暁さんの言った通りに、和解している」

「あの二人に足りないのは、互いを知らなすぎる事。真琴は、桃夜をただのタチの悪い問題児かつ、五家としか見ていないということ。桃夜は、真琴を名門軍家の土御門……いや、五家の一員としか見ていないということ。だから、互いに反発しあっていたんだ。だが、今回の事で、互いの本音を言いあった。これでお互いを知った。おかげで、あの二人は晴れて仲間同士かつ友達の第一歩を取ったんだ」


零は、どこか嬉しそうに言った。

だが、それと同時に月乃は不安も出てきた。


「私は大丈夫でしょうか。その……」

「月乃は大丈夫だ。桃夜も、お前に対して反発はしてない。それに真琴も、お前には普通に接している」

「……緒川君は、同じハーフエルフ同士として仲良くしてくれるけど……土御門君には、迷惑ばかり掛けています。だから、土御門君は迷惑だったのでは、と……」


零は、月乃の頭を撫でた。

月乃は驚いて、零を見る。


「月乃は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。真琴としか見ていないからこそ、真琴は普通に接している。あいつは土御門と言う名が、苦手だからな」

「えっと、でも私……その、土御門君は土御門君だと思って……その……うーん?」

「月乃は、それを素でやっているから良いんだ。月乃のその性格があるからこそ、このチームは安定している」


零は、優しく微笑んでいた。

こんな姿を見たのは初めてだった。

月乃は上目遣いで、


「あの……じゃあ、暁さんは私の事を……その……友達だと思っていますか?」


月乃は勇気を出して言った。

ギュッと目を強く瞑る。


「……友達か。それは考えていなかったな。」

「え?」


驚いて目を開ける。

月乃は悲しそうな顔をする。

零はそれには気付かず、


「私は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう言った事は、考えていなかった。……月乃?」


零は、横ですすり泣く声を聞いて、月乃に振り返る。

零が月乃を見ると、彼女は泣いていた。

月乃は涙を拭って、


「いえ……その……嬉しくて。私、ハーフエルフだから友達もできにくくて……周りからは信用して貰いにくくて……だから、とっても嬉しかったんです」


零は、また月乃の頭を撫でていた。

月乃は笑顔に戻って、


「あの、暁さん。その……これから暁さんの事を、零さんと呼んでもいいですか?」

「構わない。そもそも、最初の時に好きに呼んでいいと言っていた」

「……そうですね。でも、私は友達として、零さんと呼ばせて貰います」


と、頭を下げた。

零はため息をついた後、


「分かった。友達として、そう呼んでくれると嬉しい。さて、真琴達の所に行くか」

「はい」


二人は、真琴と桃夜の所へ向かった。

 その日の昼休み。

いつもの場所で、彼らは昼食を取っていた。

いつものと違うのは、周りを包み雰囲気だった。


「それにしても、リーダーはこれを見越して、今になって俺と真琴をぶつけたのか?」

「当然だ。互いを知るにしたって、最初の頃だったら……お前はすぐに負けて、よけい反発する。だが、ある程度力を持ち、理解が出来れば、お前自身で気付けると思ったからそうした。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


零は、いつものカフェオレを手にした。

他の者達も、もう大体決まっているモノを手に取る。


「確かに、そうかもしれねぇーな。でもよ……そうなると、今日の訓練はチーム向上の為のものか?」

「ある意味そうだな。明日、明後日で、チームとしての戦術をやろうと思う。少しで良い、大体分かれば良い」

「でも、流石に大体と言うのは……」

「真琴。この二人に、沢山の戦術を言葉にしても伝わらない。かつ、明日にだ……必要以上に教えても、理解できずに混乱するだけだ」

「「「……そうかも……」」」


これには反論が無かった。

すぐに理解はできた。


「それと、月乃。お前に、これを渡しておく」


零は、月乃に眼鏡を渡す。

度の入っていない伊達眼鏡。

月乃はそれを受け取り、


「封具の掛かっていない眼鏡だ。明後日からの試合中は、それを付けろ」

「わ、わかりました」

「ま、今日決まる対戦相手にもよるがな。用心にこした事はない」


今日の昼食は、いつも以上に和やかだった。

真琴と桃夜が和解できた事もあるが、それ以上にそれぞれの信頼性が向上したからだろう。

午後の授業が終わり、教室には緊張が漂っている。

担任・時雨が教室に入って来て、あえて笑顔で言ってくる。


「では、皆さん。今から二日後に行うチーム戦の相手を決めます。各リーダーは教卓に集まって下さい。」


零は立ち上がり、教卓に行く。

担任・時雨が端末を教卓に置き、それぞれボタンを押していく。

零の番が来て、ボタンを押す。

番号は四番、場所は体育館北側、入り口付近。

担任・時雨は各リーダーを見て、


「では、この番号で対戦を決め、チーム戦を行います。場所が一緒だからと言って、その相手がそうとは限りません。他クラスの人もいるので、問題は起こさないように。対戦相手の番号は、当日にリーダーの端末

へ連絡を入ります」


席に戻り、座るリーダー達。

クラス全体を見て、


「では、残り二日。皆さん、精一杯頑張って下さい」


担任は出て行く。

教室に残る者は、ほとんどいなかった。

零達も、今日は集まることはせず、帰宅する。

零の家には、真琴が来ていた。

理由は、零の兄朔弥の帰りが遅くなるからだ。

そうなると、真琴の従兄翔馬も遅くなる。

こういう日は、真琴が零の家に来て、夕飯を作っていくのだ。

零は作戦を練っていた。


『私が前線に出て、狙って来る者達を月乃と桃夜に狙わせる。……それとも、真琴と桃夜で行かせるか』


頭の中で、何度も色々と考えている戦術をシミュレーションする。

そこに真琴が夕飯を作り終え、声を掛ける。


「零、できたから先に食べたら?」

「ああ、今行く」


席に着いて、手を合わせてから食事を取る。

今日の夕飯はカレーとなった。


「どう?作戦は決まりをそう?」

「ああ。何個かは決まっているが、相手が決まらない限りは何とも言えない。だが、パターンは多い方がいい。他と比べて、私達のチームは練習量が足りない」

「それは、そうなんだけど……。零、ニンジンもちゃんと食べて」


零は、カレーに入っているニンジンを退かしているのが分かった真琴が怒る。

零は渋々、ニンジンを食べる。


「零は、ニンジンが嫌いな訳ではないでしょ?ちゃんと食べる」

「兄さんは残していたが?」

「それはそれ、と言うか……朔弥さんのマネをしないの」

「…………」


零は黙って、カレーを食べ終えた。

そこに兄達が帰って来た。


「お邪魔しーまーす」

「あ、お帰りなさい。朔弥さん、カレーが残っているので、それを食べて下さい」


真琴はカレーを温め直す。


「ああ。すまんな、真琴」

「大丈夫ですよ。零に作らせるより、安全ですから」

「……本当に助かる」


軍服の上着を脱ぎながら、朔弥は礼を述べる。

零はソファーで戦術を考えていた為、聞こえていなかった。

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