第三話「チーム編成!そして結成!」
――翌朝、教室。
零と真琴が教室に入ると、既に黒板に結果が張り出されていた。
そして、教室に来た者から黒板に張り出されている結果を見ている。
零も、まずは自分の結果を見る。
――暁零
実技能力測定 柔技B・銃技B・剣技B+
魔術能力測定 魔量A・耐久力A・技量C
魔講学能力測定 知識A・応用A・指揮力A
零は自分の結果を見て、一先ず安心していた。
『まぁー、ボチボチか……。さて、真琴は……』
零は真琴の結果を目で探してみる。
彼も、それなりの結果であった。
――土御門真琴
実技能力測定 柔技A・銃技A・剣技B+
魔術能力測定 魔量A・耐久力A・技量A
魔講学能力測定 知識A・応用A・指揮力B+
零は真琴を見て、小さく微笑む。
「お前にしては頑張った方だ」
「零の方は、よくここまで抑えられたね」
と、お互い納得していた。
零と真琴は、あの二人の結果を見る。
そこには、劣等組と書かれていた二人の結果があった。
テストである以上、優劣はつけられる。
真琴は優等組、零は真ん中上ぐらいだろう。
そしてあの二人は劣等組、ようは落ちこぼれだ
劣等組通知
――緒川桃夜
実技能力測定 柔技A・銃技B・剣技A
魔術能力測定 魔量B・耐久力B・技量B
魔講学能力測定 知識C+・応用C・指揮力C
――遠坂月乃
実技能力測定 柔技C・銃技A・剣技C
魔術能力測定 魔量C・耐久力C・技量B
魔講学能力測定 知識C+・応用C+・指揮力C
この結果に、真琴は困惑した。
『え⁉僕も見ていたけど、ここまで低かったんだ……。零の読みが外れたのかな』
真琴は横に居る零を見る。
零は嬉しそうな顔をしていた。
『あ、当たりなのかな……』
彼の困惑は続く。
が、彼の困惑は打ち消される。
それは、彼が零から視線を外すと……
「土御門君、凄いね。私達もソコソコ、良い結果だったの」
「私達と組みましょう」
「俺らとも組もうぜ。リーダーは、お前でいいからさ」
と、畳み掛けて来るクラスメイト。
当然だ。
結果が出た以上、チーム編成を早く決めるのは当然だ。
そして、そのチーム編成は最低でも四人。
上限は無いとはいえ、人数が多ければ多い程ライバルは多くなる。
だからこそ、我先に五家の土御門に取り入ろうとしているのだ。
真琴は苦笑いをし、
「ご、ごめん。もう、組む人は決まっているんだ」
「……それって、暁さん?」
クラスメイトは零を見る。
特に、女子達は零を睨んでいた。
当の零は、それを完全スルーしていた。
他の女子生徒達は、表情を笑顔をに戻す。
そして、真琴にグイっと近づき、
「幼馴染みで、ほっとけないんだね。じゃあ、彼女も入れても良いから一緒に組みましょう」
「えっと、僕は彼女に入れて貰う側だから……」
そして、真琴は「ははは」と笑う。
だが、その言葉には怒りを露にする。
いや、彼らからしてみれば五家を下にする意味が解らないのだろう。
「それは可笑しいわ!」
「そうよ。土御門君の方が結果は上なのに!」
彼らの矛先は、零の方にもろにいく。
だが、それでも完全スルーを続ける零。
そんな零の方にグイグイ近づき、
「聞いているの、暁さん!」
「うるさい。お前達が何を言おうと、こちらの問題だ。関係のない者は関わるな」
零は不機嫌そうだった。
真琴は知っている。
零にとって、彼らは既に敵と認識している事。
自身の編成する仲間以外は信用に値しないと考えている事を。
それは、昔の彼女と何ら変わらない。
そんな彼女は不機嫌なまま、遠坂月乃の席に向かった。
零は遠坂月乃の席の前に来ると、
「……遠坂月乃、私のチームに入ってくれないか?」
「え?私、ですか?でも……その……」
「すでに組んでいる者がいるなら、諦めるが」
「いえ、そうじゃないです……」
月乃は立ち上がり、手と首を振った。
彼女からしてみれば落ちこぼれ組の烙印を押されればチーム編成に誘われるのも、誘うのも絶望的なこと。
だからこそ、こうして誘われている事が驚きなのだろう。
零はジッと月乃を見て、
「なら、組んでくれるか」
「……でも、私の結果は――」
月乃が自身の結果を言おうとした時だった。
月乃の机を「バンッ!」と思いっきり叩いた女子生徒。
「暁さん、その子はハーフエルフよ。しかも、落ちこぼれの‼」
「そうよ!そんな子と土御門君を組ませる気なの⁉」
「それだったら、私達の方がよっぽど良いわよ!」
他の女子生徒達が、また突っかかって来たのだ。
月乃は肩を落としていた。
零は、またイラついていた。
真琴は知っている。
彼女は、誰よりも感情的なのだ。
そして、仲間を貶される事を許さない。
大切なものを踏みにじる者を許さない。
そう、彼女は『あの暁家』の人間で、あの父を持ていたのだから……
零は彼女らを無視し、月乃を見たまま続ける。
「私は結果以前に組むのか、組まないのかを聞いている」
「……こ、こんな私で良いのであれば……く、組みたいです‼」
「では、決まりだ」
零は小さく微笑んだ。
今だ、何かを言い続けている女子生徒を無視を続ける零。
そんな零が、月乃の傍を離れる。
彼女は、次に緒川桃夜の所へ行く。
彼は相変わらず飴をなめ、足を机の上に乗せていた。
零が彼の机の前に行くと、彼は飴をなめながら零を睨んだ。
「……何だよ」
「私のチームに入って貰いたい」
零はその睨みに対し、何の反応も示さない。
だが、教卓にいる真琴は一瞬だけ「ムッ」とした顔になる。
それに気付いたのは零だけだ。
そして、零の行動に彼女達は眉を寄せる。
「また、あんなのと!」
「土御門君はいいの?」
「そうよ!そうよ!」
そんな彼女達に、真琴は笑みだけを向けた。
当の零と緒川桃夜は相変わらず睨みあっていた。
と言っても、彼の方はいまだに足を机に乗せたままだった。
「嫌だね。お前が、俺のチームに入るならいいぜ」
「……何故だ」
零は相変わらず無反応な表情で言う。
緒川桃夜は舐めていた飴を零に向け、口の端をニッと上げる。
「五家の人間が仲間にいるくらいで、調子こいているお前の下にいるのが嫌だからだ」
真琴は、彼の答えにまたしても「ムッ」となっていた。
零はそれを見て、小さく微笑んだ。
そして視線を緒川桃夜に戻し、彼を見る。
彼の自信満々の表情を見て、零はまたもフッと笑う。
「……成程、解った。なら、こうしよう」
零は、緒川桃夜をスッと見据え、
「……私と勝負をしよう」
「してもいいが、あんたの実技結果を見る限りでは……俺の方が上だぜ」
緒川桃夜は笑う。
だが、零は珍しく表情を変えて、
「構わないさ。私が勝ったら、お前は私のチームに入って貰う」
「俺が勝ったら?」
「そうだな……三年間、お前のパシリにでもなってやろう」
「良いぜ」
彼は立ち上がった。
二人は表面で見合った後、教室を出て行こうとする。
教室を出る前に、零は真琴と月乃に振り返る。
「……ついでだ。真琴、月乃、お前達も来い」
彼女はそれだけ言って、教室を出て行く。
月乃は慌ててそれを追いかけるように、
「えっ?は、はい!」
「あーっ、待って、零!」
真琴も、慌てて追いかける。
納得していないのは、その場にいたクラスメイトだけであった。
零は担任の時雨を見つけ、訓練用室の使用許可を得る。
チーム編成を行うに至って、こう言った事はよくある事だ。
「より強い者をリーダーにしたい」や、「どちらがリーダーとして優れている」か、などを勝負で決める事が多い。
本来、学内、校外においての戦闘行為は禁止されている。
これは軍に所属している者も、だ。
だが、任務や非常時のみ、それは可能となっている。
そして上記の事以外で、学生が戦闘を行える方法は一つ。
担任の許可を得て、ボックス内であれば使用をすること。
なので、今回の使用許可はすぐに取れた。
零は端末に触れ、個室を作る。
今回は訓練モードで作った。
この訓練用室のモードは三つ。
1、技のスキル上げや戦闘訓練する為の場所である訓練モード。
2、チーム同士や個人で闘う場所である戦闘モード。
3、魔獣討伐戦を想定した訓練場所である討伐モード。
どれも、色々な場所を創り出せる。
実技や魔術は人に向かって使える。
無論、ここでの戦闘ダメージも部屋から出れば治る。
が、それは肉体や精神に残る。
今回の件では、この3つの中でも戦闘モードの方がいい。
だが、零はあえてこの訓練モードを選んだ。
それは、これは戦闘ではなく訓練であると、零は考えているからだ。
緒川桃夜は、すでに零から距離を取り向き合っている。
零は緒川桃夜を見て、
「武器は得意な物を使え。後、魔法も使っていい。ついでに、私の武器は刀だ」
零は端末に触れ、刀を作り出す。
零はあえて中央に立っていた。
彼も端末に触れ、短剣を二本握る。
その緊迫にも近い雰囲気の中、真琴と月乃は少し離れた所で見守っていた。
月乃が恐る恐る、隣にいる真琴に聞いた。
「あ、あの土御門君……」
「何、遠坂さん?」
真琴は、この空気に慣れていない月乃に優しく聞いた。
と言っても、震えている彼女を落ち着かせる為でもあった。
「えっと、暁さんは大丈夫なのでしょうか……」
「大丈夫。彼女は、この手の事では手を抜かないから」
月乃には?マークが浮かんでいる。
真琴は、そんな彼女に小さく微笑む。
そして視線を零と緒川桃夜に戻す。
零は緒川桃夜の準備ができた事を確認し、
「先行はお前にやろう。ついでだから言っておく。私は、ここから動くつもりはないからな」
「随分と余裕だな。ま、いいや」
緒川桃夜は地面を蹴る。
二本の剣を零に向けて、突き立てる。
零は刀でそれを受け止め、彼の腹に蹴りを入れる。
緒川桃夜はすぐに体勢を整え、再び向かってくる。
今度は先程よりも速い。
『風魔法の加速と刃か……』
零は目を細めて、彼を分析する。
彼の体には風魔法による加護がかけられている。
そして彼の使う短剣にも、風魔法による強化魔法が施されていた。
『だが、まだまだ詰めが甘いな』
零は真っ直ぐ突っ込んでくる緒川桃夜を見据える。
彼女は自身が握る刃を裏返し、彼の左手首を叩いた。
すかさず、彼の右手首を掴んで地面に叩き付ける。
彼が体勢を直す前に、零の刃が彼の首に向けられた。
「私の勝ちだ。緒川桃夜」
その間、零の動きに無駄はなかった。
隙が無く、かつ鮮やかだった。
緒川桃夜は、その体勢のまま驚いていた。
「ば、馬鹿な……俺の方が実技は上だったのに、負けるなんて……」
それも当然だ。
何故なら、零は本当にそこから一歩も動かず、彼に勝った。
零は刃を彼から離し、端末に触れる。
個室が元の状態へと戻る。
零は座っている彼に、手を差し伸べる。
「さて……改めて、緒川桃夜。私のチームに入って貰いたい」
「はっ。勝負で勝った以上、お前に従うさ。だが何故、俺なんだ。他にも沢山、お前やあいつに合うのはいるだろう。わざわざ、落ちこぼれだと言われた俺らなんだ?」
零の手を取り、立ち上がる緒川桃夜。
そこに真琴と月乃がやってくる。
それに、月乃も彼の質問と同じ事を考えていた。
零は、桃夜と月乃を見て言った。
「確かに、お前達の結果は落ちこぼれ組だった。だが、それは個が偏り過ぎているからだ。チームを組む、作るにあたって、個より全にこだわる者は多い。だが、私はそうは思わない。個を伸ばせば、それは最強になる。それでも、それ以外は弱点に繋がる。なら、それを補えばいい。己自身の努力と仲間の力で。そして、お前たちは、その努力に向き合えると私は思っている」
真琴はそれを聞いて小さく微笑んだ。
今、この場において自分だけが知る彼女の秘密。
だからこそ、彼女はやはり『暁』の名を持つのだろうと。
いや、あの人の娘であり、彼の妹だからだろうと。
零は目を細め、小さく笑みを浮かべたまま、
「後な、お前達のその力は一つに絞れば、五家の一員である真琴よりも強いさ」
「お世辞は良いぜ。大体、そこのやつの結果は俺より上だったぜ」
「全体的には、な。だか、真琴は剣技が苦手だ。元々、真琴は柔技派だからな」
そう彼に言う零の目も、顔も、真剣だ。
だからこそ、それは嘘ではないと解る。
そして続けるのだ。
「剣技なら、お前は真琴に勝てる。だが、柔技では勝てない。月乃もそうだ。銃技なら勝てるが、それ以外では勝てない」
少し間をあけて、零は桃夜に手を差し伸べながら、
「それに、お前たちはまだ自分を生かせる方法を解っていなんだ。それを、私が生かしてやる」
「良いぜ。お前が、どんな風に俺を生かせられるか……見せてもらうぜ、リーダー」
桃夜は零の手を握る。
その顔は笑顔だった。
その後、零達はチーム編成書を提出しに行った。
「リーダー・暁零。副リーダー・土御門真琴。それと、緒川桃夜に遠坂月乃。これで良いんだね」
担任・時雨が確認を取る。
零は頷き、全員の端末を渡す。
担任・時雨はそれを受け取り、パソコンに入力作業を行う。
それがすむと、端末を彼らに返す。
そして、リーダーと副リーダーの証である腕章を零と真琴に渡す。
「では、チーム暁で登録しました。明日からは、この組んだチームでの訓練練習を行います。さて、今日はこれで終わりです」
担任・時雨に挨拶をして、帰宅を始める零達。
チームを組んだ際、一年生の間はリーダーとなった者の苗字がチーム名となる。
二年生に上がれば、仮入隊となるので正式にチームとして動ける。
なので、今後軍で活動するチーム名を作る事となるのは二年以降だ。
手続きを終えた零達は、解散する前に近くの喫茶店に来た。
零は端末をいじり、
「さて、まずは連絡先を登録するか」
そう言って、自分の携帯端末情報を二人に渡す。
二人も同じようにする。
無論、真琴もだ。
これで、いつでも連絡が取り合えるし、情報交換もできる。
零達は改めて、互いを見合う。
「では、改めて。リーダーとなった暁零だ。呼び方は任せる。使用武器は刀。得意魔術は炎」
「僕は土御門真琴。得意なのは柔技で、魔術は土魔法が得意だよ。僕は副リーダーとなっているけど、基本は彼女の後始末係みたいなものだね」
「わ、私は遠坂月乃です。えっと……得意なのは銃技くらいで……えっと得意とまではいきませんが、水魔法を使います」
「俺は緒川桃夜だ。よく使う武器は短剣系。よく使う魔法は風が主だ」
零は二人の情報を、端末にメモする。
今後の作戦を作り、彼らを生かす為にも必要な情報だ。
何よりも、仲間を殺させない、失わない為の……
零は二人を見て、
「……そうだ。お前達の住んで居る所は?」
「私は学生寮です」
「俺も」
「寮か。外出許可が面倒だな。まぁー最悪、何とかするか」
零は渋い顔になる。
学生寮は自宅から遠いもの、自宅を持たない者が集まって暮らしている。
それ故に、規則がとても厳しい。
かつ、他生徒や保護者の入館や外出の為の外館も、厳しくチェックされている。
零は眉を寄せて、考え込んでいる。
その姿を見て、真琴は静かにコーヒーを飲み始める。
それは、この手の事は彼女の方が得意分野だからだ。
何より、彼女の考えは大体把握している。
零は瞬きを一つすると、端末をいじる。
そして、彼らを見て、
「じゃあ、お前達の配置だが……」
零は携帯端末で、配置を映し出す。
そこには、顔写真がピンを立てて浮かぶ。
「前衛を私。後衛を月乃。中衛を真琴と桃夜だ」
「ぶっ⁉」
真琴は飲んでいたコーヒーを噴出した。
それは、自分が思っていたモノとは違ったからだ。
真琴は零したコーヒーを拭きながら、
「ゴホッ‼ぼ、僕、中衛なの?」
「ああ。真琴は状況に応じて前にも出て貰うが、基本中衛だ。桃夜は月乃の護衛も含めている」
「俺は月乃の護衛かよ」
「そうだ。これは足が命だ。だからこそ、この中で一番早い者を護衛に付ける。……それと確認だが、月乃。お前、目が良いだろう?」
月乃は肩がビックっと動く。
桃夜は笑いながら、
「リーダー。目が悪いから、眼鏡を付けているんだろう」
そして、桃夜は新しい飴をなめ始める。
零は目を細め、
「……いや。見え過ぎるから、眼鏡を付けているんだ。違うか?」
月乃はゆっくり頷いた。
桃夜は「マジかよ」と驚いている。
零はジッと月乃の眼鏡を見て、
「月乃の眼鏡は、光魔法と闇魔法が融合した封具の一つだ」
「そんな事まで解るのか⁉」
「……封具と言えば、光魔法と闇魔法が一般的だ。もしくは、自身の魔法を用いて封具とするか。だが、月乃の場合には、負荷が大き過ぎる」
「その通りです。私の目は、生まれつきこういう体質でした。なので、慣れていない頃はこの目で大変でした。……ですが、なぜ暁さんは分かったのですか?私の担当医をしている先生でさえも、最初は解らなかったのに……」
「当然だろうな。どんな優秀な医師でさえも、お前の目自体は特殊すぎる上に所有者も少ない。で、確信を得られたのは簡単だ。銃技の的当て……あれがもし、本来目が悪い場合ならば、遠くなればなるほど当たる率は低くなる。もしくは近ければ近い程、当たらない。この二パターン。そして、逆にその眼鏡が強化術具なら別の話だ。それでも能力強化、補助強化くらいしかない。だが、月乃はそのどれにも当てはまっていなかった。しかも、どれも真ん中を当てていた。なら、考えるのは封具で目を抑えているという事だ」
月乃と桃夜は感心していた。
中学で習う一般常識の知識。
だが、それでもこれを見極める事は軍人や隊長クラスの軍人にも難しい。
魔力操作に慣れているエルフ族なら別物だが……
零はカフェオレを一口飲み、
「さて、では月乃。本題に入る。お前のその目についてだ」
月乃も持っていた紅茶を置き、頷いた。
零は掌に小さな炎を灯す。
「月乃。私の得意魔術は炎と言った。……が、これ以外に何が見える?」
月乃は眼鏡を外し、炎を視る。
彼女の瞳には、零の灯した炎が映る。
しかし、そこに微かに別の何かが映る。
それをジッと見て、
「……氷?」
月乃は眼鏡を付け、零を見る。
零の炎が消える。
その掌には氷の塊が乗っていた。
「……零、もしてかして彼女の目って……」
流石に、これには真琴も驚いていた。
真琴も、彼女の目の事にはある程度何かあるとは思っていた。
だが、まさかそれを上回る結果が出たのだ。
それは、零もまた同じなのだ。
零は笑みを大きく浮かべた。
「ああ。私の想像以上だったな」
「結局、どういう事だ?」
一人ついていけていなかった桃夜の疑問に、零が答える。
「月乃の眼には、その者が使う重複魔法が解るんだ」
桃夜は腕を組んで、唸っている。
重複魔法自体は、そんなに珍しいものではない。
だからこそ、桃夜は頭を抱える。
零は机に頬杖をつき、
「つまり、私が炎魔法を使うと同時に、氷魔法を使う。これはよくある重複魔法だ。だが、問題はその先にある。桃夜には、炎の中の氷魔法には気付かなかっただろう?」
「え?あ、ああ。俺には炎魔法しか発動していないように見えた」
「そうだ。本来、魔法を発動すれば目には見える。だが、重複魔法にすると、一方の大きい魔法しか黙視できない。これが、重複魔法による難点であり、優位の点だ。そして私の場合、メインを炎にする事で、弱く発動している氷魔法の事は気付かれないと言う事だ。故に、魔法を向けられている相手の目には、大きい方の魔法に目がいくと言う訳だ」
「だから、重複魔法は基本トラップや奥の手として使う人が多い。けど、遠坂さんのようなタイプには、それ自体に意味がなくなってしまうんだ。重複魔法によるトラップや術の意味がなくなる。けど、それは逆に言えば、こっちは相手の手を読める事にもなる……けど、遠坂さんの眼は大きな魔法だけでなく、同時に弱く発動させている魔法も視えている。つまり、この目を使えば相手の属性だけでなく、奥の手も解る。味方としては、大きな強みとなる」
「お前、凄いんだな」
桃夜の言葉に、月乃は照れていた。
零は真剣な顔のまま、
「月乃の目の事は、なるべく秘密にしておいた方がいい。敵に知れれば、真っ先に狙われるからな。だから、こんな所で月乃の目に付いて詳しくは言えん。ついでだから言っておくが、今言っていたことは基礎中の基礎、だと言うのを忘れるな」
零は頬杖をとき、腕を組んで二人に言った。
二人は表情を硬くする。
が、そこである事に気が付いた桃夜。
「そういや、リーダーの魔法能力はコントロールかなり低いんじゃなかったか?」
彼の言う事は、その通りだ。
零は小さく笑い、口元に人差し指を当てる。
「結果上は、な。それはその内、話してやる。で、明日からの訓練練習だが、月乃はライフルメインの武器。桃夜は短剣の二刀流と何かを考えている……が、とりあえず今日はしっかり休め。以上、解散」
「零、それは雑なんじゃ……」
すでに席を立って、歩いて行く零。
それを苦笑してみる真琴。
そして零と真琴はアパートに、月乃と桃夜は学生寮に帰って行った。
翌朝の榎木学校にて。
今日からは各自、組んだチームの訓練練習が始まる。
昨日、零と桃夜が勝負に使った場所だ。
チームで別れ、担任・時雨の説明が始まる。
「では、今日から三週間は各自での訓練練習が主となります。午前中は訓練。午後からは魔学勉強となります。質問があれば、いつでも聞いて下さい。それでは皆さん、頑張って下さい」
この訓練練習に、基本軍人は手を出さない。
格チーム同士、チームメイト同士が乱闘にならない限りは。
これもまた、軍に上がった時の訓練でもある。
だが、彼らはまだ学生。
それ故に、質問やアドバイスは適度に行われる。
零達は部屋の隅の方で訓練を始める。
それは、一番目に入らない場所だからだ。
そう、軍にも、他のチームにも……
零は彼らを見ながら、
「今日は簡単にやるぞ」
「具体的には?」
と、飴を舐め始めえる桃夜。
零は、それに関しては気にしていない。
そう、零は……
「……見極めだ。お前達に合う武器を選ぶ為の、な」
「へぇー……で?」
零は端末に触れる。
辺りは森に覆われる。
この部屋を、森のフィールドとして訓練ができるように二つに分ける。
「真琴は月乃に付き合え。ライフルタイプの型を調べろ」
真琴は、零が何をしたいのかは理解している。
だからこそ、素直に受け入れる。
真琴は月乃を連れて、分けられた区域に移動を始める。
そして、訓練を始めていた。
残った零は、桃夜に振り返り、
「お前は、あっちだ」
「ヘイヘイ」
零は彼を連れて、もう一つの区域に移動する。
ついて早々、零は端末に触れて弓を出す。
それを、桃夜に渡す。
「弓?俺、やった事ないぞ」
「なら丁度いい。まずは近くの……そうだな。あの木にでも当ててみろ」
ここから十メートルくらい先の木を指す。
桃夜は弓使いの姿を思い浮かべる。
「……こうか?」
と、弓を構え、弦を弾く。
矢は存在しない。
この場合の矢は魔法になる。
自身の魔法量によって、その持続時間が変わる。
無論、武器による補修も存在する。
が、相性がある以上は己自身の方が扱いやすい。
桃夜は魔法陣を作り、矢を放つ。
が、木に届く前に墜落したのだった。
「「………………」」
桃夜は零を見た。
零は至っては、いつも通り普通にしていた。
視線だけを彼に向け、
「安心しろ。初めてで、当たるとは思っていない」
「そうかよ」
「とりあえず、今日はその弓を扱えるようになれ」
「へーい」
桃夜は弓を構え直し、再び矢を放つ。
これを繰り返した。
そう。
彼女の言う『扱うようになれ』は、扱えるようになれるまでは解放されないという事だ。
その事に気付くのに、桃夜は随分先となるのだった……
真琴と月乃の方はと言うと……
真琴は見晴らしのいい野原に来ると、
「じゃ、遠坂さん。とりあえず、この型からいこうか。うーん、狙うのは……あそこの木にしようか」
と、真琴は三十メートル先の木を指した。
それから真琴は端末に触れ、抱え式のライフルを渡す。
この場合の弾丸も、魔法によるモノだ。
「は、はい」
月乃は狙いをつける。
撃つと、反動が強過ぎて尻餅を着いた。
「きゃっ!」
「大丈夫?遠坂さん」
真琴は彼女に手を差し伸べた。
月乃はそれを支えに立ち上がる。
そして、真琴は彼女からライフルを受け取り、
「ごめん、ちょっと反動が強過ぎたね」
「いえ。私も、もう少し耐えられれば……」
真琴は銃を変形させる。
同じ型の違う銃を出す。
それを月乃に渡し、
「今度はコレにしてみようか。さっきのよりは、反動が少ないはずだよ」
「は、はい」
今度は問題なく、撃つ事ができた。
「これは大丈夫そうだね。でも、やっぱり距離が少ないな……」
真琴はもう一度、彼女から銃を受け取る。
これもまた、違うタイプの銃を出して渡す。
「今度はこれでやってみようか」
「は、はい」
今度のタイプは長距離タイプのライフルだ。
これも反動はなく、命中は簡単だった。
「うん。これも大丈夫そうだね。でも、距離はあっても弾数に限りがあるんだよな……」
真琴は銃をまた変える。
今度は地面に置くタイプである。
「横になって、撃ってみて」
「は、はい」
これも問題なく撃つ事が出来た。
「これもよし、と。後はどれが良いかな……」
と、銃の型を端末で見ている。
『……さっきから反動が少ない物ばかり。もしかして土御門君、そこまで配慮して銃を選らんでくれている?』
月乃は恐る恐る、端末を見ている真琴に聞いた。
「あ、あの、土御門君……えっと、もしかして……私が弱いから迷惑かけている?」
真琴はキョトンとして、端末から目を話して月乃を見る。
そして優しく微笑み、言う。
「そんな事ないよ。これからの事を考えると、武器は自分のあった物じゃないとね。真面目な話、命に関わるから。僕や零は、もう自分の武器を持っているけど、君たちは多分本当の意味でそう言うのはないと思う。だったら、この機会に専用の武器を作っておくのも悪くないからね。あ、もしかして遠坂さんにはコレあわなかった?」
「そ、そんな事ないです。むしろありがたいです。私、こう言った武器の見方は分からないし……」
「そう。なら良いんだけど……。もし、あわない物があったら言ってね」
「は、はい。お願いします」
この後も、月乃のライフル決めを行う。
午前の訓練が終わり、昼休みとなった。
中庭の椅子の所で、皆で昼食を食べる事にした。
桃夜と月乃はダウンしていた。
桃夜に関しては、眉を寄せて空を見ている。
仰向けになったまま、
「あー、疲れた。簡単にって言ったのに……リーダーがあそこまで厳しいとは……」
「そのおかげで、木に当たるようになっただろう」
「確かにそうだけど、よ。……流石に腕や肩が痛いぜ」
ガバッと起き上って抗議した。
そこに、大量の袋を抱えた真琴がやって来る。
「お待たせ」
真琴はそれを椅子に置き、中を漁る。
袋の中から、ジュースとおにぎり、サンドイッチを出す。
桃夜は一瞬、ムッとした。
そして、そっけなく言う。
「あー、腹減った。俺、昆布が良い。飲み物はオレンジで」
零は、彼の言うおにぎりとジュースを投げる。
隣に居る月乃を見て、
「月乃は?」
「わ、私はサンドイッチとイチゴオレでお願いします」
「……疲れているな、お前も」
月乃にサンドイッチとジュースを手渡す。
真琴は笑顔で、
「遠坂さん、頑張っていたもんね」
「はい。そのおかげで銃の型が決まりました」
月乃はジュースを飲んで、ほんわかと微笑む。
真琴は残ったモノを見て、
「零はどうする?」
「サンドイッチとカフェオレ」
真琴からサンドイッチとジュースを受け取る。
そして、ざっと今後の計画を頭で考える。
「月乃の型は決まったと言う事だから、そうだな……。月乃はそれを使って、ひたすら慣れろ。後、明日からは、それと同時に真琴から魔術の練習も受けろ」
零はジュースにストローを刺す。
横目で真琴を見て、
「真琴は、月乃がだいぶ銃に慣れた所で仕掛けろ。最初は魔術なしで行け。術の投入に関しては、お前の判断に任せる」
「了解。頑張ろうね、遠坂さん」
「は、はい!土御門君、しばらくお願いします」
月乃は頭を下げる。
零は桃夜を見て、
「桃夜は、明日は弓をやった後に違う武器を使うからな」
「マジかよ……。また弓か」
「続けなくては意味がない」
「へーい」
食後の後の授業と言うのは、大変だ。
特にそれが聞くだけの授業だと、よけい眠くなるものだ。
これが筆記なら、多少我慢はできるだろう。
だが、今の学校の授業はパソコンで行うのが一般的だ。
案の定、ハードな訓練をしたのであろう者達のほとんどが寝ていた。
無論、緒川桃夜もその一人だ。
遠坂月乃はコクコクしているが、何とか堪えている。
『……三週間しか時間がない以上、手緩いやり方ではついてはいけないしな。この辺は、私と真琴で何とかフォローするか……』
零は机のパソコンで、授業内容を彼らにも解るようにまとめ始める。
それは、真琴も感じていたらしく、同じように彼も授業内容をまとめていたのであった。
授業が終わり、零は月乃と桃夜に声を掛ける。
「……案の定、桃夜は寝ていたな」
「あー、やっぱり?」
「無理はよくないが、少しは体力を付けろよ。それでは、これから先の任務にもついていけなくなるぞ。後、お前達の端末に、今日の授業内容を簡単にまとめたものを送ったから、目は通しておけよ」
「へーい」
「暁さん、土御門君、ありがとうございます」
桃夜は投げやりだが、月乃は頭を下げた。
その日の夜、桃夜と月乃は爆睡していた。
零に関しては今後のプランを考えていた。
そして、彼らの武器構成も含めて。
真琴は真琴で、今後の事を考えていると胃が痛くなっていた。