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灯幻鏡  作者: 609
八咫烏編
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八咫烏編

第一章 八咫烏編

第一話「暁の灯」


――それは少女が微かに覚えている記憶……

少女の瞳には、虚ろげに自分の周りを映しだす。

辺り一帯は炎が燃え上がり、家々を、木々を、草花を、人を巻き込んでいく。

人々は逃げ惑い、悲鳴を上げる。

瞳を閉じる。

誰かが自分を呼んでいる。

彼女は薄っすら目を開け、少年の謝る声が聞こえる。


「ご…ん…ごめ…ごめん…」


少女はそれを微かに聞き、再び目を閉じた。


のちに、語られる。

この街を覆う炎は一週間以上燃え続けた、と。

残ったモノは何もなく、更地となった。

この時の事件について、詳しい事は記されていない。

ただ、これを『災禍の炎』と言う事件として処理された。



ここは三国大陸の一つ帝都。

五家という五つの家の名を持つ者たちが、軍を通して治めている。

季節は春。

桜が風に乗って舞い散る。

桜の木々の間に、青く透き通った髪を持つ少女が立っていた。

少女は桜の舞い散るのを静かに見ていた。

少女の名は、(あかつき)(れい)

今日、軍が運営する『榎木(えのき)高校』に入学する。

それ故に、彼女の着ている制服も軍服に近い。

そこに、零と同い年くらいの少年が走ってやって来た。


「ごめん、待った?」


と、少年は息を整えながら、笑顔で零に言った。

彼女は桜を見るのをやめ、少年を見る。


「いや。お前がこういう時、忙しいのは知っている。両親に会ってきたのだろう?」

「うん……僕としては会いたくなかったけど……土御門としての務めとしてね」


と、零の頭についた桜の花びらを取った。

少年の名は、土御門(つちみかど)真琴(まこと)

零の幼馴染みで、今現在の唯一の友である。

真琴は、彼女から取った桜の花びらを見ながら、


「零は相変わらず桜が好きなんだね」

「ああ……何故だろうな」

「でも、桜を見ている時の零は、いい感じの空気を出しているよね。だから、僕は好きだよ。やっぱり、僕は君がとても好きだ」

「………………」

「あっ、あ!べ、別にそういう意味じゃないから!あ、や、でも……」


と、顔と耳を真っ赤にして口ごもる。

零は小さく笑い、


「私も、お前のそういう裏表がないところが好きだ」


そう言って、歩き出す。

その横に、真琴もついて行く。

二人は校舎の方に向かう。

広い二階建ての講習部屋に入ると、長椅子が半円状のように並べられている。

二階は保護者席となっている。

周りの先生達は軍服を着ている。

二階にも軍服を着た人が多い。

当然と言えば、当然だ。

二人は入学リボンを貰い、お互い隣同士の椅子に座った。

長い学校の説明や来賓のお祝いの言葉が終わり、理事長の終わりの話となった。


「それでは生徒の皆さん。これから三年間、互いに競い合い、よりよい成果を出せる事を期待しております」


生徒達は、各々教室へ向かった。

皆、自分の番号の席に着いた。

そこに、軍服を着た男性の担任がやって来た。

先も言ったが、ここの教師は軍より派遣されている。

当然、軍での官位を持っている。

彼は教卓に立つと、


「私は、皆さんの担任となった帝都軍第三十五隊所属、(ひいらぎ)時雨(しぐれ)三尉と言います」


今度は担任の長い説明が始まる。

それが終わると、一層笑顔になり、


「では、窓際の君から自己紹介をして下さい」


と、名簿の名と顔を交互に見出す担任・時雨。


「あ、はい。僕は……」


振られた最初の人物は緊張した面持ちで立ち上がり、自己紹介を始めていく。

そんな中、零は窓から見える桜をずっと見ていた。

そこに担任・時雨が声を掛ける。


「今度は君の番ですよ。聞こえていますか、暁さん」


少しの間が流れる。

そして零は、担任・時雨を見る。

ため息を一つ付き、静かに立ち上がった。


「……暁……零」


名を告げ、座る。

そしてまた、外を見始めた。

教室は少し騒めいたが、担任。時雨が呆れたように次の者に繋げた。

教室は再び明るく、緊張めいた自己紹介が続く。

だが、しばらくして今度は机に脚を乗せた少年が、


「俺の名前は、緒川(おがわ)桃夜(とうや)だ。精々、宜しく頼むわ」


と、飴をなめながら言う。

彼の髪の間から見える耳が少し尖っている。

彼は人間ではない。

だが、エルフにも見えない。

つまり、彼は人間とエルフとの間に生まれた子供、『ハーフエルフ』。

彼らは、人間にも、エルフにも、よくは思われてはいない。

ギルドの中立地帯では、そうではない。

が、ハーフエルフはまだ迫害されている事が多い。

このクラスにも、何人かのハーフエルフがいる。

無論、このクラス以外にもいる。

だからこそ、クラスの中には彼らのような存在を忌み嫌う。

その空気も含めて、担任・時雨が表情を変える。

何より、彼の制服の着方について懸念した。

彼は腕まくりをし、着崩している。

本当は、最初に教室へ着た時から気付いていた。

だが、ある程度は生徒の自由にしたいと言う自分の意見。

しかし、今はホームルーム中。

それ故に、その姿も含めて叱る。


「緒川君。教室で飴をなめない。それと、制服はしっかり着なさい。緒川君、聞いていますか?」


が、当の彼は無視を続けていた。

担任・時雨は諦め、「次、お願いします」と言った。

中間まで来た所で、零は視線だけを次の発表者に向ける。

その人物は、朝自分()と供にいた少年、真琴が立ち上がった。

真琴が零を見る。

その瞬間は、零は視線を再び外に向ける。

その為、真琴は彼女()が相変わらず外を見ていると思っている。


「僕は、土御門真琴と言います。僕の事は、気軽に『真琴』とでも呼んで下さい」


彼は軽く笑顔を作り、座った。

教室では、「土御門だって」「五家の土御門かよ」と、言う騒ぎ声が聞こえる。

零は教室の騒ぎを無視して、外を見続けていた。

だが、彼女はまた視線を教室に向ける事となる。

それは、唐突だったのだ。

その後の自己紹介はゆっくり続いた。

のだが……

一人の少女が慌てて立ち上がり、尻餅をついた。

その姿に、笑いが起きる。

それは彼女がドジを踏んだからだけではない。

彼女もまた、ハーフエルフだったからだ。

少女は顔を赤くして立ち上がり、


「わ、私は……と、遠坂(とうさか)……月乃(つきの)、と言います。よ、宜しく……お願いします」


彼女は椅子を戻して座った。

その後の自己紹介は、逆に早く終わった。

当然と言えば、当然だった。


「では、十分間の休憩とします」


と、言って担任・時雨は教室を出て行く。


零はその間に、机に搭載されているパソコンを起動した。

学校の机や家にある机などには、全てパソコンが備えられている。

透明な画面が浮かび、文字がズラッと出てくる。

キーボードは机の所に出ている。

その中から、授業内容と行事日程の内容を見ていた。


『……やっぱり、実技が多いな。後……目ぼしいモノは、実践演習や合宿くらいか』


零は斜め後ろの方で、騒いでいる生徒を見た。

そこには土御門真琴の席を囲むように集まっている。

彼は苦笑いしながら対応している。


「ねぇ。土御門君もやっぱり、術系統とかは凄いんでしょ」

「い、いや普通だよ。僕よりも、強い人は沢山いるから」

「土御門も、やっぱりお兄さん達みたいに上を狙っているのか?」

「え、いや、僕は行ける所までかな……」

「土御門君は彼女とかいるの?」

「いやいや、いないよ(・・・・)。アハハ……」


と、質問攻めにあっていた。

彼が解放されたのは、担任・時雨が来てからだ。

彼は周りに気付かれない程度に、ぐったりしている。

零はそれを、少し面白そうに見ていた。

担任は黒板(スクリーン)に今後の予定を映し出す。


「それでは皆さん。今後の予定について説明します」


と、そこに身体測定を催した絵が出てくる。


「まず、明日から三日間は皆さん個人の能力を測定します。内容は、実技・魔術・魔学です」


スライドしていく絵を生徒達は見入っていた。


「また、皆さんも知っているとは思いますが、当学校は軍と並行して成り立っています。それ故に、一年生にも魔獣討伐の要請がかかります。ですが、一年生の内はそうそう命懸けの事はないですよ。ですが、二年に上がれば、実際の軍に仮入隊と言う形になります。そして三年生となれば、本格的に軍と同じ扱いになります。ですので、本校は一年生の内から最低四人のチーム編成を行います。このクラスは三年間一緒ですが、二年の時には他クラスの方と合併や新たに編成する事も可能です。ですが、二年後半からは編成ができなくなります。卒業まで、そのメンバーです。ですが、一年生の間は、まずこのクラスで編成を行います。その為の身体検査を行います。ですので、今回の身体検査の結果を元に、よく考えて決めて下さいね」


―-この世界には、魔獣と呼ばれる生き物が存在する。

獣・神霊・邪霊・精霊・妖精・天使・鬼・ドラゴン・妖・魔霊・悪魔などと種類は多い。

だが、全ての魔獣が人間に害がある訳ではない。

魔獣は理性がある。

それ故に、同じような存在でありながら、人に協力的な魔獣もいる。

それらは式神・契約獣・守護獣などと存在がある。

が、魔獣の力は強い。

なぜなら、魔獣は魔術も使う。

その為、戦闘訓練を受けていない一般人には対処が難しいのが現実だ。

特に厄介なのが、魔獣界最強のドラゴン。

他の魔獣と違い、内に秘めている魔術を形成する魔力が桁違いに多い。

その為、ドラゴン一体で部隊一つが全滅した事さえある。


担任・時雨は黒板(スクリーン)を消し、


「それでは皆さん。また明日」


と、教室を出て行った。

生徒達は片付けを始め、何人かは帰って行った。

零も片付けがすみ、土御門真琴のもとへ歩く。

彼は、またも囲まれていた。


「ねぇ、土御門君。一緒に帰りましょう」

「そうだぜ。明日の事についても話してみたいし」

「それに魔学について、少し教えて欲しいな」


生徒達は、我先にグイグイと彼に近付く。

当然だ。

真琴は土御門の末っ子である。

それは次期当主候補でない彼であっても、その『土御門』という名は強い。

五家の者と関わりを持てば、それなりの地位や自分の名は世に知れ渡る。

さらに、チームを組めれば出世間違いなしだ。

真琴は立ち上がり、


「ごめん。僕は、これから用事があるから駄目なんだ。それに――」


彼が続きを言う前に、彼らの後ろから少女の声が聞こえる。


「おい、邪魔だ。どけ」


と、彼らを押しやった少女()

その声は少しイラついているのが解る。

そんな彼女は、そのまま真琴()を見て、


「真琴、帰るぞ。こんな所で、時間を潰している暇はない」


だが、彼女の言葉に反発するかのように、何人かの少女達が零に向かって来る。


「ちょっと!いきなり来て何なの!」

「土御門君を呼び捨てにするなんて!」


零は、その反発をしてくる彼女達を面倒くさそうに見た。

そして、やっぱり何かにイラついていた。


「私が、こいつを呼び捨てにしようが勝手だろう。お前達には関係ない」


それでも、彼女達の変な闘気は上がっている。

零は人差し指で真琴を指し、逆に真琴は収めるように一歩前に出て、


「私は、こいつの幼馴染みだ。お前達より理解しているつもりだが?」「か、彼女は僕の幼馴染みなんだ」


ほぼ同時に、二人は口にした。

その言葉に、まだ納得いっていないようだ。

が、真琴は零がこれ以上怒り出す前に、彼女を連れて教室を出て行った。

それ故に、彼らはさらなる追及はできなかったのである。



昇降口の所で、真琴は口を開いた。

その真琴はどこか嬉しそうだった。


「零が、僕の事を幼馴染みって呼んでくれたのは、中学の卒業式だけだったのに……なんか嬉しかったな」

「……違うなら言わないが?」

「えー、嫌だよ。前はいくら僕が幼馴染みって言っても、反応するどころか無視していたくせに」


と、明るく言っていた真琴だが、表情を変える。

視線を落とし、


「その……零。さっきはごめん」

「全くもって、その通りだ。大体、自己紹介の時に『気軽に呼んでくれ』と言うから、こうなったのだろう」

「いや……まさか、ここまでとは思わなかったんだよ。中学の時は、こうじゃなかったもの」

「……あの時は、話す間がなかったからだろう。まぁ、五家の一員なんだ、諦めろ」


と、話しながら門の所まで二人は歩いて行った。


――五家。

五家とは、帝都を治める軍家の一族を指す。

そもそも、我々が暮らしているこの世界は、三つの国で構成されている。

一つ目は、自分達の隣国で、今も戦争を続けているエルフ族が納める『王国』。

この国は王の命令の元、騎士達が国を守っている。

二つ目は、ギルドが納めている『中立地帯』。

ここは、自分達がいる帝都とエルフ族が治める王国と隣接している。

いわば中心的な場所に位置している。

あそこは、唯一種族関係なしに暮らせる場所でもある。

そして、ギルド領地は王国・帝都と供に、争う事を禁じられている。

なお、先も言ったように、自分達の所は五家が存在し、軍に指示して国を治め、守っている国『帝都』。

その五家は、『土御門(つちみかど)家』・『黒風(こくふう)家』・『雷門(らいもん)家』・『青峰(あおみね)家』そして強い権力を持つ『神木(かみき)家』である。

この学校も、神木家の権力が使われている。

また、彼らは本家と呼ばれている。

それは、彼らの家には同じ血が流れている分家と呼ばれる者達がいる。

その分家も多くいる。

そして彼らは、軍の中でもかなり出世している。

彼とチームを組む、組まないにしても取り入る事ができれば、出世も夢ではない。

なので、彼らは自らの名を上げる為にも、『土御門家』の名を持つ真琴に取り入ろうと寄って来るのだ。


零はため息一つ付き、


「ま、どちらにせよ……そう言うのに頼る者は、上に行けたとしても早死にするだけだ。それに、明日からの能力測定もそうだ。結果次第で(・・・・・)何人残れるか(・・・・・・)

「そ、それは手厳しいお言葉で……」


と、門まで来た所で零の携帯端末が鳴る。

零はそれを取り、内容を見る。

零はどこか嬉しそうに小さく笑い、


「……兄さんがもう支度できたって。だから早く帰って来てくれって」


今度は真琴の携帯端末が鳴る。

真琴も内容を確かめ、表情が固まる。


「うん……僕の方は写真付きで来たよ。しかも……未來さんが、厨房で何かを焦がしている」


と、真琴はその写真を零に見せる。

そこには、茶色の髪で眼鏡を付けた軍服女性が、プライパンを持っている姿が写っている。

その女性の持っているフライパンからは、黒い煙が出ている。

零は無表情で、


「これ以上、我が家の厨房が破壊される前に帰る」

「だね」


真琴は苦笑して、先に走っている零を追いかける。

彼らは急いで家へ帰るのであった。


 

零は、兄とマンションで二人暮らし。

真琴は同じマンションに暮らしている。

しかも、お隣さんである。

そして真琴は、従兄の兄の居候させて貰っている。

つまり、帰る場所は一緒だ。

彼らの住むマンションは、最新の技術を多く取り入れている。

彼らの持つ携帯端末には、色々な情報が収縮されている。

この帝都は現在、携帯端末で全て管理されている。

その為、これさえあれば、ある程度の事はこと足りるという訳だ。

真琴は、入口にある機会に携帯端末を当てて、扉を開ける。

二人の住んでいる階は六階。

零は携帯端末を当てて、家の扉を開いた。


「ただいま」

「お邪魔します」


真琴は、そのまま零の家に上がった。

リビングに入ると同時に、「パパーン」とクラッカーが鳴った。

「高校入学おめでとう‼」と、言う明るい声が響く。

真琴は笑顔で、


「あ、ありがとうございます。ほら、零も」

「……ありがとうございます」


真琴は頭を軽く下げる。

逆に零は、頭や服に着いた紙を取りながら言った。


「さ、荷物を置いて、席に着いてね」


と、茶色い髪で眼鏡をかけた軍服女性が二人を促す。

その女性は、真琴の携帯端末に送られてきた写真の女性だ。

彼女は、里見(さとみ)未來(みく)

零の兄の部下である。

そして、高校時代から付き合っている兄の彼女である。

零は部屋に荷物を置きに行った。

真琴はソファーに上着と荷物を置いた。

真琴は、未來に気付かれないよう茶色い髪の軍服男性に近付く。


「翔馬兄、未來さんのあれは……」

「大丈夫。君らが来る前に、朔弥が対処したよ」

「そうですか……安心しました」


と、囁いていた。

彼が話し掛けた男性は、御門(みかど)翔馬(しょうま)

彼は土御門家の分家に当たる。

真琴とは従兄弟(いとこ)同士であり、彼が居候させて貰っている相手である。

そして、零の兄が編成している隊の副隊長を務めている。


「確かに、お姉ちゃんはコーヒーを入れるのはプロ並み。だけど……料理の腕は、得体のしれない物だから……。それさえなければ、完璧なんだけど……ホント」

「「っ‼うわっ⁉」」


彼らの背後から、小声で囁かれた。

二人はビックと飛び跳ねた。

振り返ると、未來と同じ髪の色をした軍服を着た少女が立っていた。

左側をカチューシャで、くくり上げている。

彼女は未來の妹の里見(さとみ)比奈(ひな)

彼女も、零の兄の部隊に所属している。

彼女は配属されたばかりの新人さんだ。

そんな彼女の髪の間からは、耳が少し尖っているのが見える。

彼女は人間とは違う。

が、エルフほど長くない。

そう、彼女もまた、人間とエルフの間に生まれた子供、ハーフエルフなのである。

が、ここの人物達は違う。

ハーフエルフだからと、差別することはない。


「ひ、比奈さん」「比奈ちゃん……」


と、二人は声を揃えて言った。

簡単な服装に着替えた零が、そんな彼らの光景を見て、


「何をしている?」

「えっと、何でもない。たださっきの写真の話をしただけだよ……」

「ああ、成程。あれは食べられないからな」

「それは零も……」


真琴は小声で囁いたが、どうやら彼女には聞こえていないらしい。



 机の上には、豪華な食事が並んでいる。

そこに、最後の料理を運んで来た二人組。

一人は、零と同じ髪の色をした軍服男性。

そしてもう一人は、金髪で後ろをくくり上げている軍服女性がやって来る。

女性の方の名は、立花(たちばな)(みどり)

彼女もまた、兄の編成する部隊の仲間であり、部下である。

そんな彼女も、ハーフエルフである。

男性の名前は、(あかつき)朔弥(さくや)

彼が、零の兄にして、若くして軍の上層部へ上り詰めた隊長格の一人だ。

兄の暁朔弥は、帝都軍第六十番隊『暁月(あかつき)』という隊の隊長。

そして、ここにいる御門翔馬、里見未來、立花翠、里見比奈は、朔夜()の高校時代からのチームだ。

無論、比奈は高校時代の後輩である。

本来、下級生を同チームに加えることはできない。

しかし、先輩後輩としての指導や任務で一緒になることはある。

それ以前に、姉である未來から紹介もされている。

能力こそ強くても、人見知りであった比奈は、それを発揮できないでいた。

そして、それを知る者も少なかった。

だからこそ、朔夜は彼女が高校を卒業してすぐに、チームに誘った。

それ故に、彼らとは付き合いが長い。


朔弥は零の隣に座り、


「さて、食事を始めようか」


彼らの食事会(お祝い)が、始まる。

最初は、クラスの雰囲気がどんな感じか、など話した。

中でも、今日のクラスでの真琴の話が、あるある話で進んでいった。


「そう言えば、兄さんが高校だった時にも、五家が居たんだろう?」

「ああ、居たな。本家が二人に、分家がちょくちょく」

「あの時は、色々(・・)あったもんね。特に君が」

「うるさい。あれは仕方がないだろう」


と、二人だけで話し始めた。

その会話の間も、二人の酒の量は増えている。

二人以外はソファーの方へ移動した。


「明日は仕事が溜まりそうね」

「そうだね……。今日は、いつも以上に殺気立っていた(・・・・・・・)からね」


と、未來と翠は顔を見合わせて言った。

ソファー組はソファー組で話が盛り上がっていく。

しばらくして、未來と翠は酔った二人にコーヒーを入れに行く。

二人が離れると、零は比奈を見ながら聞いた。


「比奈さん。今日の兄さんは、そんなに凄かったんですか?」

「それはそうですよ。朔弥隊長、今日をとっても楽しみにしていましたから。その為に、この数日は休憩なしで仕事していたもの。昨日なんか……普段、仕事場で見せない笑顔まで出して」


比奈は、ここ最近の隊長朔夜の姿を思い出しながら言う。

零は、それを聞いて嬉しそうな顔をしていた。

と、そこに洗い物を済ませた真琴がやって来る。


「零が照れてる。朔弥さんのこと聞いて、嬉しかったんだ」

「……洗い物、私もやろうと思ったんだが――」

「いや、君はやらないで。仕事が増えるから……」


後半は小さい声の為、零には聞こえなかった。

だが、真琴は今朝の事を思い出しながら、


「でも、朔弥さんがあそこまで飲むのも分かるな。今朝になって、いきなり任務が入っちゃったもんね」

「全くですよ‼そのせいで、朔弥隊長のドラゴンを見る目……これまで見た中で一番怖かったです」


比奈は身を縮めながら、震え上がる。

零も、今朝の朔夜()の姿を思い出す。


「兄さん、連絡が入ってからの剣を見る目が凄かった。翔馬さんは苦笑いで、後ろついて行ったし」

「ああ。端末見て、何か言っていたもんね。あれ、作戦考えていたんだろうなぁ……」


三人は沈黙した。

零の兄・朔弥は、高校に入ってからの成績は過去最高だったと言う。

それは天才と言われていた、五家の土御門家次期当主(真琴の次兄)を上回る程に。

その成績と、実戦における能力が大きく出た為、若くして隊長クラスまで上り詰めた。

その沈黙を消すかのように、未來の携帯端末が鳴る。


「比奈、タクシーが来たから帰るわよ」


内容を確かめた未來が、比奈に言いながら帰り支度を始める。

翠も、そのタクシーに乗るので帰り支度を始めている。

比奈も急いで、帰り支度を始めた。


リビングの扉に手をかけた未來は、零と真琴に振りかえる。


「じゃ、零ちゃん、真琴君。また今度会いましょう」

「はい。気を付けて」


真琴は、軽く頭を下げて言った。

零も、真琴の隣で軽く頭を下げた。

上着を着た三人は玄関へ向かっていく。

その三人を、朔弥が見送りに下まで付いて行く。

その間に、翔馬と真琴が大量にカラとなったお酒の瓶を片付ける。

零に至っては、その片付けを手伝うことを拒まれた為に、ソファーで若干拗ねていた。


 アパートの下まで、見送りに行った朔弥。

入口には、四人乗りのタクシーが来ている。

そのタクシーは宙に浮いて、静止している。

この車は、蓄積された魔力と電力さえあれば自動で動く。

この蓄積されたエネルギーが交互に働く。

使われていないときは、太陽光で電力が溜まる。

魔力は災厄常用者によって補給できる。

さらに、電子技術が発達している為、運転手もいらない。

完全に自動運転式のタクシーなのだ。


「比奈、私らは先に乗っていようか」

「あ、はい」


翠と比奈は先にタクシーに乗った。

それは二人だけの時間を少し作らせてあげようという配慮。


朔弥は未來に近付き、


「今日は、色々と迷惑を掛けたな」

「別に良いわよ。貴方が、あの子を大切にしている事も。何の為に(・・・・)頑張っているのか(・・・・・・・・)も、知っているから……。私も、あの子の事はもう一人の妹として大切に思っているから」


二人は、そっと抱き合った。

それは次第に強く、抱きしめ合う。

そんな二人の姿を、陰からそっと……

いや、思いっきり写真に撮っていた者がいた。


「翠さん。姉さん達に、怒られますよ」

「大丈夫。こう言う一枚一枚は、後で思い出の一枚に変わるから」


連写を続ける翠。

その顔はとても、嬉しそうである。


数分後、抱き合った未來は、朔夜に別れを告げてタクシーに乗った。

未來の端末を向けえると、目的地が登録されて動き出す。


朔弥が家に戻った所で、翔馬と真琴も帰った。


「じゃ、俺らも帰るわ。また明日」

「お休みなさい、零。朔弥さん」


零は二人に手だけ降る。

二人が帰ると、零はソファーで横になったまま呟く。


「フェンリル、九尾」


すると突如、子狐と子狼が姿を現す。


「ほい、ほーい。何かな、零ハン」


子狐の方は明るい甲高い声で、こちらに寄って来る。

対して子狼の方はブラシを持って、こちらに寄って来る。

それを見た零は、起き上がる。

ソファーの下に座り、子狼からブラシを受け取る。

子狼を膝に乗せ、手入れを始める。


「あぁ⁉若造‼何、ワイより先にブラシして貰ってんねん!」


子狐は子狼に突っかかる。

が、子狼は無視をしてブラシを受けていた。

零にブラシして貰っている子狼の尻尾は嬉しそうに振っていた。

一方、子狐はふて腐れて丸くなっていた。

そこに朔弥()がやって来て、零の斜め後ろのソファーに座る。


「今日は、すまなかったな。入学式に出てやれなくて」


と、優しく零の頭を撫でる朔弥。

零は小さく微笑み、


「別に構わない。兄さんが忙しいのは知っているし。それに、兄さんは祝ってくれた……それで十分だ」


朔弥は、そんな彼女を見て瞳を揺らす。

そして朔弥は、苦笑いをして話を続ける。


「明日から、能力を調べる測定が始まる。なのに呑気だな。中学の時より厳しくなるぞ」

「それに関しては理解しているよ。だからこそ、落ち着いて対処する」


ブラシが終わった子狼は、零と朔弥の間に丸くなる。

零は、ふて腐れている子狐を抱き上げる。

そのまま、膝に乗せる。

ブラシを掛けると、ふて腐れていた子狐は気持ちよさそうに仰向けになる。

そんな子狐を見て、


「明日からは、少しかまってやれないからな。だから、今の内に遊んでおくんだ」


と、朔弥()を見上げる。

朔弥は小さく笑う。

が、その言葉に、子狐が反応した。

子狐はガバッと起き上った。

そして零の膝から降り、彼女の前に座る。


「何でや、零ハン!学校の勉強程度、零ハンなら簡単やろ!」

「……高校は中学と違ってな。実技が主になるんだ。それに、軍の要請があれば出る事もある。その為のチーム編成は、しっかりして決めないと、命に関わるからな。慎重になるのは当然だ」

「えー!いやや、いやや‼」


と、再び仰向けになって、短い手足をばたつかせる。

それを、近くで丸くなっていた子狼は横目で子狐を見て、


「……仮にも、大妖怪・九尾(・・・・・・)が、こんなんで良いのか?」

「それと、これは、別や」


子狐はバッと起き上り、お座りをして言った。

そして、子狼の方を右前足で差し、


「大体、若造も何か言わんかいな。ええんか、主人が構って貰えんのだぞ!」


子狼は目を細めた。

だが、顔を上げると、無表情で子狐に言った。


「……俺は別に構わないが?」


その声は、子狐の甲高い声に比べてとても低い。

子狐は頬を膨らませて、


「それでも、妖魔・フェンリル(・・・・・・・・)かいな!フェンリル言うたら、冷徹無二の妖魔やろうが!時には主人さえも、氷漬けにするので有名な‼」

「それを言うなら、お前もそうだろう。大妖怪・九尾と言えば、人間を喰らい力をつける。時には、人を化かすと言うのに……腑抜けもいいところだ」

「なんやと⁉」


と、互いに睨み合う。

朔弥は二匹を見て、苦笑する。


「それにしても……やっぱり、お前の『式神』は面白いな」

「兄さんの式神ほどではないよ。」


朔弥と零は、お互いに見合って言った。

それは、どちらも肯定しているからだ。


――式神。

式神とは、名のある妖や精霊と言ったモノ達と契約し、彼らの主になるのである。

更に実体化し、話せる事が出来るモノは数が限られている。

それは、契約したモノ達の能力、生きた年数など数多くある。

これ以外にも、『式』と言うモノがある。

式神とは違い、力が弱く実体化はできても、喋れない。

又は、主が召喚しないと実体になれないのである。

これが、最初の頃に説明に出てきた魔獣との違いに入る。

前にも言ったように、この式神になったモノと魔獣は少し違う。

基本は近いモノである。

だが、簡単に違いを言えば、契約できるか、できないか。

つまり、人との共存ができるか、できないかと言う事にも関わる。


零は朔弥()と、これからの事を少し話す。

その後も、しばらく子狐は子狼に文句を言っていた。

だが、子狼はあくびをして眠り始めていた。

零は、この状況はいつもの事なので、二匹を置いて部屋に戻って寝た。

朔弥も、後片付けを済ませて、部屋に戻って行った。

その間も、二匹の……もとい、子狐の文句は続くのであった。

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