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二月に入ると、俺とひなは別行動を取る事が多くなった。
ひなが、バレンタインの準備で忙しいからなんだけど。
まあ、他の女子も似たような感じで、バレンタインの準備に余念がないみたいだ。
長谷川や野村その他、同じクラスの女子達は、雑誌のバレンタイン特集を読んだり、どんなチョコがあるのかネットや実際に店舗へ行ったりして、情報収集にしている。だがひなはというと、そんな女子の輪に加わる事なく、教室や部室でひたすら何かを縫っていたり、放課後は放課後で、猛ダッシュで教室から出ていってるんだよな
異世界へ、ひなは、一人で行ってる事があるみたいだ。
ミカンの話じゃ、苦手な飛行魔法の練習をしてるみたいだ。
バレンタインと関係あるのか、わからないけど。
とまあバタバタと日にちが過ぎて、今日はバレンタインだ。
朝からふわふわとしたような、気持ちで落ち着かない。
授業も半分聞いてない状態だ。それでも、板書だけはしっかり書き写してはいたけどね。
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放課後。ひなにび出されて来てみたら、いつも異世界へ行く時に使ってる場所だった。
「 仁、バレンタインには、チョコよりいい物あげるって、言ったの覚えとる?」
「 覚えとるよ、そりゃ。俺はずっと楽しみにしとったんじゃけ」
と俺の一言に、ひなは明るい笑顔を見せた。
その笑顔に俺は、不意にドキドキした。
いつものうひゃうひゃ笑いを伴う笑顔と違い、その笑顔はチープな例えばかも知れないけど、満開になる直前の桜の花のように美しかった。
「 良かった。じゃいつもみたいに、異世界へ行こう」
「 ああ、うん」
俺らはいつも通り、ゲートを開き、くぐると、異世界 アスール国 アルジェの町へ着いた。
だけど、町の様子がいつもと違うんだ。
アルジェの町中を花びらとも、雪ともつかない物がハラハラと舞ってるんだ。
「 綺麗じゃろ? 『花雪』って呼ぶらしいよ 」
「 へぇ、でも空は晴れとるし、だいたいこの町温暖じゃけぇ、雪降らんじゃろ?」
「 うん。そう。空見て」
ひなに言われるまま、上空を見上げると、巨大な桜にそっくりな樹が浮かんでるんだ。
それも一つじゃなくて、沢山浮かんでる。俺が数えた限りじゃ、十数本って
ところだろう。
「 スカイチェリーブロッサムって言うんだって。今の時期になると、この遥か先の海から花を咲かた状態で空へ浮かんでくるんじゃと。一週間くらいアルジェの町の上空を旋回したあと、『 花雪 』を降らせながら、徐々に海へ帰っていくみたい 」
「 へぇ~ 不思議な花じゃ」
俺は、ハラハラと舞い落ちる『花雪』を見ながら、そう呟いた。
日本で見る桜の花吹雪も綺麗だが、こっちの空の桜が作りだす花びらのタペストリーは、圧巻だ。
しばらく見惚れていたら、ひながこう言ってきた。
「 スカイチェリーブロッサムをね。空へ登って見た恋人達は、永遠の愛が叶うんだって!じゃけぇ、うちらも見に行こう」
「 ああ、うん」
ひなは杖を箒に変化させると、俺を乗せて飛び始めた。
飛行魔法は大の苦手だったのに、まっすぐ、空の桜目指してゆっくり上昇していく。
五メートル、十メートル。どんどん町が遠くなっていく。
そして、町の建物がオモチャみたいに見えるくらいになった頃、空の桜の目の前に、俺らはいた。
下から見た時も十分大きく感じたが、まさかここまで、大きいとは思わなかった。
空の桜の幹は直径五メートルはあるんじゃなかろうか。
樹というより、浮島と表現した方がいい。
そんな樹から、ハラハラと花びらが舞い落ちるんだ。
綺麗だけど、さっきと違ってダイナミックな光景にみえる。
「 ひなありがとう。こんな風景見せてくれて」
「 ンフフ。どういたしまして」
ひなは、いたずらが成功した子供のような笑顔で、そう言った。
ちなみに空から戻ったあと、桜の花の刺繍されたハンカチとチョコもらいました。これはこれで嬉しかったのは、言うまでもなかった。




