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翌日。学校が終わると、ソッコーでいつもの場所に俺達は向かう。
校舎の裏。使わなくなった椅子や机がしまってある倉庫しかないこの場所は、めったに、人が来ないから、いつもあちらへの移動する時に使ってる。
帰る時は、俺の家の庭かひなの家の庭だ。
俺とひなは、右手を掲げてこう唱える。
「「 ゲートオープン!」」
俺達の右手の甲に、魔法陣が浮かび上がり、目の前にあちらとこちらをつなぐ門が出現する。
俺達は、出現した門をくぐる。短いトンネルを抜けるような感覚の後、異世界 アスール国 アルジェの町に着く。
日本では夕方だけど、こっちはお昼みたいだな。
「 ヒナさーん。ジンさん。こっちです」
俺とひなを手を振りながら、迎えたのは、一人の小柄な女性だ。明るい茶色の髪をショートにし、眼鏡をかけている。服装は、黒いハイネックのカットソーに白い膝丈のスカート。名前は、リリス・アルバートさん。今回、タヌキモドキの駆除について説明してくれるらしい。
ただ、見た目からして冒険者ぽくない。
むしろOLにしか見えないな。
実際、普段はギルドで事務員してるしね。
「 お二人供、ヴァネッサさんから、お話は聞いてます。タヌキモドキの駆除だそうですね 」
「 そうなんです。熊くらいの大きさなんですよね?」
と俺の質問に、リリスさんは提げてる鞄から、タブレット端末を取り出した。
端末を起動させ、慣れた手つきで操作する。ちなみにこの世界。こういう現代的なアイテムがあるんだ。
「 これが、タヌキモドキです。このように見た目は、タヌキそっくりです。だけど、大きさは一メートルから三メートルくらいなんです」
「 確かにタヌキだけど。これ、日本で見るタヌキさんの置物じゃろ!」
うん、ひなのツッコミ通り、信楽焼のタヌキだ。笠かぶって徳利を提げたタヌキの置物の写真が映し出されてる。
正直、このタヌキが動くところが想像出来ないんだけど。
とか思ってる間にも、リリスさんはタヌキモドキの説明を続けてる。
「 タヌキモドキは、大きいですが、倒す事はそう難しくありません。ただ踏みつぶされないようにして下さいね」
「わかりました。でタヌキモドキは、どの辺りにいるんですか?」
とひなの質問に、リリスさんは端末の別のアプリを起動させる。言うまでもなく、某会社の地図アプリそっくりだ。
「ここから北へ四キロ先の森にいます。ここですね」
リリスさんの端末の地図アプリには、アルジェの町と四キロ先の森。その名も「人外の森」とこちらの言語で表示されてる。ちなみに俺とひなは、魔法取得の為にこちらの言語は読み書き出来るし、言語チートが備わってるのか話す事にも、困らない。
「よし。行くで、ひな」
「うん」
「 お気をつけて」
俺は、学ランのポケットから、ペンのサイズまで縮めてる魔法の杖をとり出す。
「 変換 モード 箒」
そう唱えると、杖が箒になった。この魔法の杖は、モードチェンジする事で、標準なら、1メートル程の長さになり、筆記具なら手のひらに収まるくらいの長さになる。飛行魔法で使用するなら今のように、箒になる。
俺はひなを後ろに乗せて、森を目指した。
「 到着、って、早速!」
「 ひとまず、後退!」
森に到着するなり、俺達の目の前に、体長三メートルはあると思われるタヌキが現れた。
写真で見た通り、信楽焼のタヌキが徳利を提げて立ってる。こんだけデカイと正直怖いな。
ジーッとタヌキモドキは、俺らを見ている。なんか心なしか、ヨダレ垂らしてないか?
このままだと俺達はタヌキの餌になりそうだ。
ヨダレをたらしながら、タヌキモドキは、俺達に向かってずんずんと迫る。速さは、時速30キロくらいなんだけど、バカでかい体してるから、重機に追っかけられるようなもんだ。
魔法を使いたいが、俺が最も得意とする属性魔法は炎系だ。こんな森の中で、考えなしに使えば、それこそ、火を見るよりも明らかに火事になるぞ。
言うとくけどギャグじゃないからな。
結局逃げる事を選択した俺とひなは、全速力で森の中を走る。杖は、箒から筆記具まで戻して学ランのポケットにしまってる。全速力で走りながら、ひなが話しかけてきた。
「 ねぇ、仁。このまま逃げても、あのぶち( 凄い )でかいタヌキに食い殺されるか、踏み潰されるだけ。なんかいい方法思いつかん?」
「 思いついとったら、逃げとりゃせん!そう言うお前は、なんかアイデアでもあるんか?」
「 んー? 無くもない」
絶対絶命な状況なのに、ひなは、にたりと余裕な笑みを浮かべてる。
「 その為には、仁には、囮になってもらわんといけんけど、それでもいいなら」
「……わかったよ。囮になっちゃる。はよ
そのアイデア話せ!」
「 タヌキモドキに攻撃をして。方法は、任せるけぇ。そりゃあ!」
「 待て、ひな! 」
俺が止める間もなく、ひなは、高さ五メートルくらいある木に向かって、ジャンプすると、手短な枝を掴み野生の猿のごとく登り始めた。
「 あっほうじゃ仁、私が合図したら、逃げんさいよ!」
「わかった!」
ひなからの呼び掛けに答えると、足を止
め、 俺は、右手を掲げて詠唱する。ちなみに、他の魔法使いのように杖は使用しない。俺にとって杖は、飛行魔法を使用する時の道具でしかない。
「 風の刀、水の散弾!」
ドォン!
俺が立て続けに放った魔法がタヌキモドキに命中する。
「 ウオォ」
「 やっぱ、怒るよな。」
ひなからの合図を待たずに、俺は、一目散に逃げる。タヌキモドキは、タヌキの癖に、猪突猛進。俺を目指し突進をする。
さっきまでよりヤバい。速度が上がってるから、普通に走ってると確実に追いつかれるな。
俺は、そう判断すると、足に力を込めて跳んだ。
十メートルくらいの高さまで、ジャンプすると、さっきひながやったみたいに、木の枝をつかみ、猿のごとく枝から枝へと飛び移った。
普通の人間なら、まずは出来ない芸当だ。訓練すれば出来る人間もいるかもしれないが、俺やひなは、生まれつき持った身体能力のお陰で、訓練なしにこんな芸当が出来る。これは祖先から受け継いだ力の一つだ。
俺が、安全圏内に入った事を確認したのか、ひなが、攻撃態勢に入った。
「 タヌキさん。悪く思いんさんな。雷よ!敵を屠る華となれ!雷ノ華」
ひなは、木の上から、タヌキモドキに雷魔法を放つ。本来の雷ノ華なら、かわいらしい名前とは、裏腹に、派手に花火のように雷が降り注ぐ魔法なんだが、威力を抑えてあるのか、線香花火のようにパチパチと雷がおこってるだけ。雷を浴びたタヌキモドキはしびれてるだけだ。
「 ほいじゃ、ひないっきまーす。 出でよ。サムライソード」
ひなは、そう言って、得意の武器魔法己の魔力を武器に変換させる魔法で、サムライソード要するに刀を出現させると、ひらりと、しびれて動けないタヌキモドキ目掛けて落下していく。
グサリと刀が、タヌキモドキの脳天に突き刺さるとタヌキモドキは消滅した。
残っているのは、タヌキモドキがドロップした徳利と笠。それとひなだ。
「 お疲れ様! 作戦成功!」
「 めちゃくちゃじゃったけど、まあええか」
俺は、木から降りてひなの元に戻った。
お互いの無事を確認しあってると、パンパンと拍手が聞こえてきた。
俺らが振り返ると、一人の少年がフワリと、優雅に箒から降りた。
ショートカットの栗色の髪。一瞬、少女かと思うほど美しい顔立ち。服装こそ、赤のチェック柄のシャツにジーパンとごくありふれた服装だけど、立ち振舞いは、町で見る冒険者にしては洗練され過ぎてる。優雅に歩く姿は、王侯貴族っぽい。見たことないけど。
「 いやぁ、楽しい物を見せてもらったよ」
「 誰ですか?あなた 」
訝しんだ俺は、少年にそう訊いた。
「 んー。元が付くけど、この国の第二王子。トマス・アスール」
「「 はああ?!」」
なんで、王子がいるんだ? ヴァネッサさん、一体何を考えているんだ?




