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一月二日。両親も三人の妹達も、初売りへ行ってしまい、俺とひなだけが残り、リビングで、テレビを視てる。ただ昨日の事で疲れたので、二人共に静かだった。
特にいつも騒がしいひなが、ずっとだんまりとテレビを視てるのはちょっと意外だ。しかも、ひなが大好きな大学生の駅伝の中継なのに。子供の頃だったら、大学生が繰り広げるデッドヒートに、一喜一憂してたハズ。
まあ高校生になったから、落ち着いて視れるようになったのかと、俺は思ったんだけどね。だけど、ここまで大人し過ぎるとな、なんか嵐が起こりそうなんだけど。
「 んにゃー、駅伝中継終わったねー。暇なね」
「 暇じゃけど、今日の夕方には向こうに戻るんでよ。明日は、渉達と新年会しようって話じゃったろ?」
「 そうでしたねー 。そういや、今日何の日か知っとる?」
ニンマリと、意味ありげな笑顔でそう訊いてくるひな。――何の日って、初夢を見る日だったっけ?イヤ違うな、ひなの顔を見ると間近な人間が関係するかな?
そういや、昨日は渉の誕生日だったな。
元日とかぶってて、忘れ去られると嘆いていたのは、記憶に新しい。
そうなると、誰の誕生日だろ? こうなりゃ当てずっぽうで答えてやる。
「 昨日が渉の誕生日だったから、今日は、長谷川の誕生日! 」
「ピンポン!ピンポン! 正解~」
ひなはうれしそうに、そう言う。
適当に答えたのにな。マジで当たったぞ。
それにしても、ひなのやつ何を企んでんだ?
「 んふふ。今、何を企んでるんだ?って思うたじゃろ? 」
「 うん。まあ」
「 これから、真央の家に行って、二人の邪魔するのだ 」
「 もしかして、昨日の腹いせにか?」
「 うん、あっでも、ただ邪魔するんじゃ、面白くないけぇ、プレゼントを持って行くんよ!」
と、ひなは傍らに置いていた紙袋を見せてくる。
別に今日じゃなくてもいいじゃないか。
思わずそう言いたくなる。
だけどよく考えてみれば、ようするに、ひなはサプライズをしに行こうと言っているのだ。回りくどくてわかりずらい説明ではあるが。
俺は、仕方ないとため息一つついて、両親達に帰る旨を伝えるメールをし、帰宅する準備を始めのだった。
―――
「 んふふ。二人共びっくりするかね?」
「 多分」
俺の実家から中島市の家へ戻ってきた俺らは、一度荷物を置いてから、長谷川の家に向かっている。
長谷川の家は、俺の居候先からも、ひなの家からも、歩いてすぐの場所にある。
「 ちなみに、今日のサプライズね、真央のお母さんは知っとるけぇ、大丈夫。さっき連絡したときに、玄関の鍵開いてるわよ~って言うとっちゃったけぇ」
「 あっそうなん」
物騒だな。まあそれはともかく、長谷川の家についた。そっと、玄関のドアを開けると、リビングから二人の話声が聞こえてくる。
「 ターゲットは、リビングにいる模様」
「 了解」
どこかノリノリな調子で、そう言うひなにあわせて、俺は返事し、リビングのドアを開けようとする。
「 ……本当さ、良かったのかな? 」
「 何を?」
「 イヤ、俺が生まれ変わってさ」
俺とひなは、顔を見合せる。会話の内容も然ることながら、長谷川が「 俺 」と言っている。
俺達は、何かいてはいけない。そう思い、プレゼントだけ置いて、長谷川の家をあとにした。
「 うーん。真央が、『俺っ子』だったんは知っとるけど。あの意味深な会話は何?」
「さあ?」
今日たまたま聞いてしまった会話が、長谷川の重大な秘密の事だと知るのは、もう少し先の事だ。




