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クリスマスパーティー兼忘年会の翌朝。
朝起きて、拓人を起こさぬよう、俺は、部屋から出て行く。顔を洗う為、洗面所へ向かう途中、縁側を通ると、庭が真っ白なのに気づいた。
昨日降った雪が積もってた。
積もったと言っても、1センチから2センチくらいかな。
この時期の積雪は珍しいけど、それでも、子供の頃から見慣れてる俺としては、珍しくとも何ともない。だけど、子犬のように、目を輝かせてる娘が一人います。
「 仁、雪合戦しよ? 」
夕陽だ。子犬だったなら、イヌミミをパタパタ、しっぽをブンブン振ってるかもしれないな。
夕陽はこの時期、病気のせいで入院してる事が多かった。だから雪を見た事がほとんど無いんだっけ。
だけどな、母さんから『 夕陽を無茶させないでね。あの娘、楽しい事に夢中になると、病気の事忘れるから気をつけてよ』というメールを頂戴したんだ。
可哀想だが、雪合戦は諦めてもらおう。
さてどう説得するかな。
「 雪合戦。寒いのにまた熱出るでよ。それに、雪合戦じゃのうて、泥合戦になる。服どろどろになるん嫌じゃろ?
小さな雪だるまなら、作れん事もないけど」
言った事は事実だ。この積雪量じゃ、雪玉は、泥混じりの物になり、雪合戦ならぬ泥合戦になってしまうんだ。
夕陽は、自分の服を見つめる。真っ白なタートルネックのセーターに、赤いチェック柄のスカートにタイツ。それが汚れるのを想像したんだろう。顔をしかめてる。
「 むう。わかった。仁の言う通りにする。ねっご飯食べたら、拓人さんと一緒と外に行ってもいい?」
「 いいけど、ちゃんと暖かくしてから、出んさいよ」
「 わかっとる」
夕陽はそう言って、昨日から泊まってるひなの部屋に戻った。ご飯の後、すぐに出れるように、コートや手袋を準備しに行ったに違いない。
その後、朝食を済ませた夕陽は、拓人を伴って、庭に出ていった。
本人に言ったら怒られそうだけど、雪を見てはしゃぐあたり、まだまだお子さまだなと思う。
夕陽の行動にほのぼのした気分になるのも、つかの間、夕陽以上に雪を喜んでいる人がいました。
「 ねっ雪! 雪合戦は無理でも、雪だるまを作りに行こう」
「 わかりましたよ」
ひなの言う通りに、俺は雪だるまを作りに外へ出た。
―――
庭に出てみると、雪だるまを作り終えたらしい夕陽と拓人が、家に戻るところだった。
「 もう入るん? 」
「 うん。十分だけだよって。時間決めてからね。短いけど。当の本人は、ご満悦みたいだけどね」
「 楽しかったよ 」
ニコニコな夕陽。白い毛糸の帽子に白いダッフルコート。足元は、ベージュのムートンブーツと防寒をしっかりした上で、外へ出てきたらしい。でも、この寒さが夕陽にとっては、命取りになるから、拓人の十分という判断は正しいのかも。俺もひなも、たった十分で満足させる事が出来なかっただろうな。
夕陽に甘いから。だけど、拓人の言うことは、きちんと守るんだ。いったい、どうやって、言うことをきかせるように仕向けたんだろうな。今度訊いてみるか。
そんな事を考えていたら、ひなが呼んできた。
「 仁、雪溶けちゃうよ。ビシャビシャになってきたし」
「 あっ本当じゃ」
気温が上がってきたんだろうな。足元の雪が踏む度に、ビシャと音を立てるんだ。
「 雪だるま作れんね。作れん事もないけど、ビシャビシャじゃけ、綺麗なん作れんね 」
「 魔法でどうにか出来るじゃろ?」
「 まあね。でもいいや 。この光景見れただけでも、満足せんとね」
「 あっそうなん」
今までなら、魔法で雪を再び凍らせてでも作ってたのに。魔法が使えない訳じゃない。今も発動中なのはわかる。
夕陽ほど、厚着をしてないのに平気そうなのは、ひなが、まわりの空気を暖めてるからだ。少し離れてる俺も、こたつに入ってるみたいに暖かいから。
言っとくが、雪が溶けてるのは魔法関係ないからな。純粋に気温の関係だ。
「 それにしても、魔法で雪だるま作らんて、どういう事なん?」
「 別に。いつまでも、子供じゃおれんって思ったけんかな」
「 そうだな」
ひなの言う通りだな。少しずつだけど、将来の為にと、色々な変化があったもんな。特に、俺らの婚約。
世間的にゃ早いのかもしれないけど、ひなの場合。服部工業の次期社長であると、宣言する意味でも必要な事だし。
俺も俺で、休みを利用して服部工業の本社オフィスへ、顔を出す事もあるんだ。
今は、美紀枝さんの雑用をしてるだけ。でも色々学ぶ事は多いな。
そうやって考えたら、子供のままじゃいけないんだな。
「 でも、今はまだいいんじゃないか」
「 そうだね。ちいと楽しむくらいなら、ええか」
そう言って、魔法で雪を固めはじめたひなは、楽しそうだった。
だけど、俺は、ひなの一言で色々考えていたから、あんまり楽しくなかったのだった。




