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12月24日。待ちに待ったクリスマスイブだ。
終業式の後、車でひなのお母さん美紀枝さんが迎えに来てくれるんだ。
で、そのまま桃宮市内で、拓人と夕陽を乗せて、広島まで行く事になっている。
「 拓人くん、久しぶりね。今日は来てくれてありがとう」
「 いえ、こちらこそ、お招きありがとうございます」
拓人が車に乗ってしばらくしてから、拓人と美紀枝さんの間で、そんな会話が交われてる。
拓人の口から、一度も美紀枝さんや政治さんに会ったと聞かされてないんだけど。
「 いつの間に、美紀枝さんに会ったん?」
「 夕陽が再入院したあと、容態が急変する前くらいかな」
「 って、9月頃。なんで話してくれんかったん?」
「別に親友だからって、なんでも話さないといけない訳じゃないだろ? 話さなかったのは、夕陽と僕の事に、首をつっこんで欲しくなかったからさ 」
「 そうか」
ちょっと前の俺なら、あれやこれや言ってただろうけど、今は拓人の言う意味は凄く解る。俺も拓人の立場だったら、ひなとの問題に首つっこんで欲しくないと思う。
ちなみに、夕陽はひなと後ろの座席で仲良く寝てしまってる。だから今の会話は、聞かれてない。
そんな会話の後、しばらくの間、俺と拓人は黙ったままだった。
―――
「 雪じゃ」
「 本当だ。でも南部は、雨って予報だったよね?」
「 そりゃ、呉とか広島市内のど真ん中なら、雨じゃけど、ここらは北部の天気予報も気にしとかんとな。盆地じゃけぇ、降るときは沢山降るけぇ」
「 そうなんだ」
車から降りながら、拓人にそう説明してやる。ひなの実家の所在地であり、俺らの故郷であるこの街は、広島県のほぼ中央に位置するんだ。ひなん家は、市街地よりだから、さほど降らないけどね。それでも油断出来ないな。北部で雪なら、この辺も降るかなと思ってないといけない。
「 おーい。二人とも、早く入りんさい
お父さん達が待っとるけぇ」
「 わかった」
俺と拓人は、ひなに促されるまま、ひなん家へ入ると、用意された部屋に荷物を置いて、そのまま茶の間へと通された。
「 いらっしゃいー。仁くん、拓人くん。うひゃうひゃ」
と妙なハイテンションで、政治さんに出迎えられた。顔が赤いから、すでに酔っぱてるらしい。現にこたつ机の上には、ビール缶がいくつも転がってる。
「 あー。お父さん、もう飲んどるん?パーティーまだ始まってないんよ!」
「 ひっく。いーじゃない。だってきょーは、無礼講。気にしないー。気にしないー。うひゃひゃ」
「 もう」
ひなは、そう怒りつつ、持って来た料理を広げていく。
拓人と俺も、手伝う為に台所へ向かった。
台所では、夕陽が美紀枝さんやはなこばっちゃんと、盛り付けを手伝っていた。
俺と拓人は、盛り付けが終わったお皿を茶の間へ運んだ。
余談だけど、エプロンしてる夕陽に叱られながら、お皿を運ぶ拓人を見るのは、ちょっと新鮮だった。
五分後、茶の間には、唐揚げ、お刺身、ちらし寿司に、ポテトサラダと、ご馳走が並んだ。
乾杯をすると、パーティーが始まった。
クリスマスパーティーというより、忘年会の要素が強い、服部家のクリスマスパーティー。大人達は、飲めや歌えやのドンチャン騒ぎ。十代の俺らは、食べる事とゲーム( クイズ、トランプ)に夢中だった。
ちなみに、用意された料理の大半は俺と拓人の胃袋に収まった。
「 やれやれ、やっと落ち着いた」
俺は、おっさん臭い事を言いながら、ひいた布団の上に座る。
夕方から始まった文字通り無礼講のパーティーは、一時間前に終わった。片付けを手伝い、風呂からあがってきた所だ。
スマホで時間を見ると、十時になってる。
「 仁、プレゼント。服部さんに渡さなくていいのか?」
「 あっそうじゃた」
拓人にそう言われ、部屋の隅に置いた鞄からプレゼントを取り出す。
「渡しに行ってくる」
部屋を出ると、隣のひなの部屋に向かう。ガラス張りの障子戸の前に立つと、ひなが、気づいたらしく、ガラリと戸があき、パジャマ姿のひなが出てきた。
「 もしかして、プレゼント?」
「 うん、まだ渡してなかったけぇ」
「 そう、ありがとう。開けていい?」
「 勿論」
ひなの部屋の中では、夕陽がすでに寝てるので、自然と小声になる。
かさこそと、ひなが包装紙を開けると、白いリボン付のヘアゴムが出てきた。
「 もしかせんでも、昔、『けっこんのやくそく』で結んだリボンの事思い出して、買った?」
「 うん。ひな覚えてとったんじゃ」
「 当然。あの白いリボンは、夕陽の手に渡っとるけどね」
「 あっそうなん」
ひなは、ほらっと部屋の中を示す。
そっと覗くと、確かに夕陽の頭元には、白いリボンが置いてあった。
さっきひなも言ってたけど、小さな頃、『けっこんのやくそく』って言って、ひなの小指に結んだんだ。
その事を思い出して、買ったヘアゴムだ。
「 大切にするね。それとこれは、私から」
ひなが渡してきたのは、マフラー。透明なラッピングバッグに入ってたから、わかった。
「 手袋とお揃いにしたんよ。マフラーは思いの外時間かかったけぇ、渡すの遅くなっちゃった」
「 ありがとう。大事する」
マフラーと手袋。その後、俺が大学を卒業するまで、使い続けたのは、もう少し先の未来の話だ。




