表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
服部ひなさんは、厨二病が、治らないようです。  作者: ねこた まこと
8 秋から冬へ。寒いけど、二人はアツアツです。
51/70

5


12月24日。待ちに待ったクリスマスイブだ。

終業式の後、車でひなのお母さん美紀枝さんが迎えに来てくれるんだ。

で、そのまま桃宮市内で、拓人と夕陽を乗せて、広島まで行く事になっている。



「 拓人くん、久しぶりね。今日は来てくれてありがとう」

「 いえ、こちらこそ、お招きありがとうございます」


拓人が車に乗ってしばらくしてから、拓人と美紀枝さんの間で、そんな会話が交われてる。

拓人の口から、一度も美紀枝さんや政治さんに会ったと聞かされてないんだけど。


「 いつの間に、美紀枝さんに会ったん?」

「 夕陽が再入院したあと、容態が急変する前くらいかな」

「 って、9月頃。なんで話してくれんかったん?」

「別に親友だからって、なんでも話さないといけない訳じゃないだろ? 話さなかったのは、夕陽と僕の事に、首をつっこんで欲しくなかったからさ 」

「 そうか」


ちょっと前の俺なら、あれやこれや言ってただろうけど、今は拓人の言う意味は凄く解る。俺も拓人の立場だったら、ひなとの問題に首つっこんで欲しくないと思う。


ちなみに、夕陽はひなと後ろの座席で仲良く寝てしまってる。だから今の会話は、聞かれてない。

そんな会話の後、しばらくの間、俺と拓人は黙ったままだった。


―――


「 雪じゃ」

「 本当だ。でも南部は、雨って予報だったよね?」

「 そりゃ、呉とか広島市内のど真ん中なら、雨じゃけど、ここらは北部の天気予報も気にしとかんとな。盆地じゃけぇ、降るときは沢山降るけぇ」

「 そうなんだ」



車から降りながら、拓人にそう説明してやる。ひなの実家の所在地であり、俺らの故郷であるこの街は、広島県のほぼ中央に位置するんだ。ひなん家は、市街地よりだから、さほど降らないけどね。それでも油断出来ないな。北部で雪なら、この辺も降るかなと思ってないといけない。



「 おーい。二人とも、早く入りんさい

お父さん達が待っとるけぇ」

「 わかった」


俺と拓人は、ひなに促されるまま、ひなん家へ入ると、用意された部屋に荷物を置いて、そのまま茶の間へと通された。


「 いらっしゃいー。仁くん、拓人くん。うひゃうひゃ」


と妙なハイテンションで、政治さんに出迎えられた。顔が赤いから、すでに酔っぱてるらしい。現にこたつ机の上には、ビール缶がいくつも転がってる。


「 あー。お父さん、もう飲んどるん?パーティーまだ始まってないんよ!」

「 ひっく。いーじゃない。だってきょーは、無礼講。気にしないー。気にしないー。うひゃひゃ」

「 もう」


ひなは、そう怒りつつ、持って来た料理を広げていく。

拓人と俺も、手伝う為に台所へ向かった。

台所では、夕陽が美紀枝さんやはなこばっちゃんと、盛り付けを手伝っていた。

俺と拓人は、盛り付けが終わったお皿を茶の間へ運んだ。

余談だけど、エプロンしてる夕陽に叱られながら、お皿を運ぶ拓人を見るのは、ちょっと新鮮だった。


五分後、茶の間には、唐揚げ、お刺身、ちらし寿司に、ポテトサラダと、ご馳走が並んだ。

乾杯をすると、パーティーが始まった。

クリスマスパーティーというより、忘年会の要素が強い、服部家のクリスマスパーティー。大人達は、飲めや歌えやのドンチャン騒ぎ。十代の俺らは、食べる事とゲーム( クイズ、トランプ)に夢中だった。

ちなみに、用意された料理の大半は俺と拓人の胃袋に収まった。



「 やれやれ、やっと落ち着いた」


俺は、おっさん臭い事を言いながら、ひいた布団の上に座る。

夕方から始まった文字通り無礼講のパーティーは、一時間前に終わった。片付けを手伝い、風呂からあがってきた所だ。

スマホで時間を見ると、十時になってる。


「 仁、プレゼント。服部さんに渡さなくていいのか?」

「 あっそうじゃた」


拓人にそう言われ、部屋の隅に置いた鞄からプレゼントを取り出す。


「渡しに行ってくる」


部屋を出ると、隣のひなの部屋に向かう。ガラス張りの障子戸の前に立つと、ひなが、気づいたらしく、ガラリと戸があき、パジャマ姿のひなが出てきた。


「 もしかして、プレゼント?」

「 うん、まだ渡してなかったけぇ」

「 そう、ありがとう。開けていい?」

「 勿論」


ひなの部屋の中では、夕陽がすでに寝てるので、自然と小声になる。

かさこそと、ひなが包装紙を開けると、白いリボン付のヘアゴムが出てきた。


「 もしかせんでも、昔、『けっこんのやくそく』で結んだリボンの事思い出して、買った?」

「 うん。ひな覚えてとったんじゃ」

「 当然。あの白いリボンは、夕陽の手に渡っとるけどね」

「 あっそうなん」


ひなは、ほらっと部屋の中を示す。

そっと覗くと、確かに夕陽の頭元には、白いリボンが置いてあった。

さっきひなも言ってたけど、小さな頃、『けっこんのやくそく』って言って、ひなの小指に結んだんだ。

その事を思い出して、買ったヘアゴムだ。


「 大切にするね。それとこれは、私から」


ひなが渡してきたのは、マフラー。透明なラッピングバッグに入ってたから、わかった。


「 手袋とお揃いにしたんよ。マフラーは思いの外時間かかったけぇ、渡すの遅くなっちゃった」

「 ありがとう。大事する」


マフラーと手袋。その後、俺が大学を卒業するまで、使い続けたのは、もう少し先の未来の話だ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ