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11月の終わり。12月を目前にして、世間はイルミネーションがキレイだのクリスマスだと騒がしいけど、その前に期末テストが待っている。
今日は休みだし、ひなと二人で勉強の約束してんだ。
――だけどさ、約2名程、君らなんでいるのって人がいるんだよ。
「 拓人。お前学校違うじゃろ、なんでおるん?(いるの?)」
「 妹と妹の彼氏に、勉強教えてくれって言われるのが、嫌で避難してきたんだ。僕も期末近いからね。仁のとこならゆっくり勉強させてもらえるかと思ってさ」
「 あっほうなん。で、夕陽はいるの?」
「 俺は、雫ちゃんから逃げてきたの……勉強してて、わからない所を教えてもらおうとしたら、お礼にゴスロリの服を着ろって言われたから。それが嫌で勉強道具を持って、避難してきたん」
なるほど。そりゃ逃げて正解だ。
雫の事だ、夕陽を着せ替え人形にして遊ぶだろうな。遊びに行く予定の無い休みは、勉強に当てたい夕陽としては、たまったもんじゃないよな。
だからじゃないけど、四人で勉強会という形になった。
ちなみに、俺の部屋には真ん中に折り畳み式のテーブルと俺の学習机があるのみ。だから、俺の学習机には、俺とひな。折り畳み式のテーブルには、拓人と夕陽を使って勉強をする事になった。
俺とひなは、お互いにわからない場所を教え合い、拓人と夕陽は、拓人が時々夕陽の勉強を教えるという形になったんだけど、まあなんというか、この空間やたらめったら、空気が甘い。
第三者が見たなら、口から砂を吐きまくりそうだと言われても、仕方ないかもしれない。
「 拓人さん、ここ教えて」
「 ここは、この公式当てはめるんだ」
「 わかった。ありがとう」
拓人と夕陽を観察してたら、二人のほのぼのとした光景に、思わずほわんとしてしまう。
特に、拓人が終始和やかな笑顔なんだ。
普段はクールなイメージだから意外に感じてしまった。
こっちはこっちで、
「 ねー、仁。これ何ていうんじゃったっけ?」
「 あん、日本史の教科書見いや」
「 わかったって、日本史の教科書忘れたけぇ、見して?」
「 しゃあないの。ほれ」
「 わーい。仁ありがとう」
ひながめったに見せない、可愛い反応が見れた。
そんな感じで、勉強会は進んでいった。
「お前ら、ラブラブな空気を醸しながら、勉強するのもええが、頭に栄養与えるの忘れなや」
とノックもせずに、部屋に入ってきた朝陽兄さん。スーパーで買ってきたらしいピザと、ウーロン茶のペットボトルを提げてる。
どうやら、お昼ご飯を持ってきてくれたらしい。
めったに、こんな気を使わないのに、珍しい。――槍が降ってきそうだな。
最もそう思ったのは、俺だけじゃないらしく、夕陽がこう言った。
「 兄貴がこう事するなんて、珍しい。明日、台風来るかも」
「 そんな訳なかろう。俺だって、ちいたあ(ちょっとは)気きかすわい」
心外だと言うような顔で、朝陽兄さんは、ウーロン茶のペットボトルを床へ置く。
拓人と夕陽が勉強道具を退けて、朝陽兄さんから、ピザを受け取り、容器を開けた。
「 俺は下におりるけぇの。足りんかったら、冷蔵庫から好きな物出して食べぇや」
「わかった、ありがとう」
朝陽兄さんは、部屋から出ていった。
意外な光景に驚いて、呆けてた俺らだったけど、ひなが、ピザのトレーの蓋を開け始めた。
「 冷めん内に食べようか」
ひなが、そう言ってウーロン茶を紙コップに注ぐ。
我に返った俺は、あわててそれを手伝った。
ピザを食べながら、ひなが思い出したように、口を開いた。
「 急な話じゃけど、クリスマス。私の実家でクリパやるんじゃけど、林原くんと夕陽も来ない?」
「 えっ、僕が行っても大丈夫なやつ?」
「 勿論。パーティーって言っても、身内だけの無礼講。じゃけ大丈夫」
「 じゃ、お邪魔させてもらおかな」
「 良かった。うちの親に伝えとくね」
ひなは、早速スマホでメールした。
「 そいや、なんでひなのお母さん、クリパに拓人や夕陽を呼ぶ事にしたん?」
「 んー。母さんや父さんからしてみりゃ、夕陽って娘も同然じゃん。あの家族が亡くなった後、しばらくは、家の親が面倒みてたからね」
「 あっそれで」
「 そっ、娘に彼氏が出来たら、絶対家に呼ぼうって決めとるって言ってからね。じゃけ、林原くんを呼んだんじゃない」
ひなは、クールに答えた。ひなの両親。特に政治さんは、娘に彼氏が出来たら、ものすごく喜ぶという珍しいタイプだ。
だから、娘も同然の夕陽の彼氏にちゃんと、会っときたいという気持ちがあるのかも。
でも、政治さんはかなりの変わり者だから、拓人がどんな目に会うのかと思うと、今から楽しみじゃない、心配な俺だった。




