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午前中、メイド&執事喫茶の当番をこなした俺らは、午後からはフリーに動いていい事になっている。だけど、13時から三十分だけ、ひなは手芸部の当番があるんだ。
その後からひなと二人であちこち廻る事になった。
「 うひゃひゃ、お待たせ」
13時半過ぎ。妙にハイテンションなひなか、被服室から登場してきた。
――何かいいことあったな。
ひなは昔からいいことがあると、「 うひゃひゃ」と笑うんだ。
「 あのねー。私の展示品ねー。全部行き先決まったんよー。うひゃひゃ」
「 あっほうなん」
手芸部員が作った作品は、毎年無償で譲ってるらしいけど、ひなの作品は早々に行き先が決まったらしい。
それで嬉しさのあまり、ハイテンションになってるのか。
「 それにしても、ひなの作品。全部貰い手がついたって早ようないか?明日もあるのに」
「 ううん。なんかね。見に来た人の中にね、作品を写メを撮った人がおったん。
写メ撮ってた人に訊いたらね。お母さんに写メ送って、気に入ったのあったら、予約済みの札置くって言ってたん。そしたらその人のお母さん、全部気に入ったんだって」
「 あっほうなんじゃ」
ちょっと呆れるような気がする。ひなの作品はどれも実用的かつ可愛い物が多い。だからといって、全部気に入ったからともらっていかなくてもいい気がする。密かにブルーのチェック柄のブックカバーは狙ってたからな。参考書にかけるのに丁度良さそうなんで貰えないのは残念だ。
「 あっでも一つだけ、私がキープしてるんよね。ブルーのチェック柄のブックカバー。仁の為に作ったやつじゃけ、部長に頼んでキープしてもらっとる」
「 あっほうなんじゃ」
ちょっとだけ、ひなの気遣いに嬉しくなった。俺は、照れ隠しならぬ嬉しさ隠しに、ひなの手を引いて歩いた。
―――
「 そういや、部活の先輩から聞いたけど、お化け屋敷が凄いらしいで、行ってみん?」
「 ええ~?人がお化けとか嫌いなん知っとるじゃろ。それに仁、暗いとこ駄目じゃん」
「 残念。母さんの実家の蔵が駄目な岳で、お化け屋敷とかは平気なんよ」
「 なんなんよソレ!」
とツッコミを入れたひなをちょっと強引に連れていく。
嫌じゃーというひなの叫びを無視して、俺はお化け屋敷をやっている旧校舎へ向かった。
「うわ真っ暗」
「 うぇぇ。こあいー、いぬろうや(帰ろうよ)」
言い出しっぺの俺ですらにげたくなる位、凄い真っ暗だ。恐らく、真っ黒に塗った段ボールを窓に張りまくり、さらに暗幕で光が一筋も入らないようにしたんだろうな。徹底してる。
おまけに先に入ってる女子の悲鳴が聞こえてくるし。
そのせいか、ビビりまくってるひなは、俺の手をぎゅうぎゅうと握ってる。
若干痛いが俺的には役得だ。
これで抱きついてくれたらいいのに。
なんて邪な野望が、顔を出してくる。
だけどそこは、心を平常心にしてこらえた。
入って数分。俺らの顔にべちゃっとした物が当たった。感触からして多分こんにゃくだ。
お化け屋敷じゃテンプレだけど、ひなは驚いてる。
「 いっ、今べちゃっと物が当たった。ねぇ~仁はよう出ようや」
「 わかった。けど、先は長いでよ」
「あううー」
ひなの返事は、言葉にすらなってない。
もう半べそをかいてるのかな。
その後も、お化け役の男子に悲鳴をあげ、効果音を聞いただけで絶叫していた。
「 怖かったーってひな」
「 あうう。こあかっだー。うああ」
旧校舎から出たというのに、よほど怖かったのか、小さな子みたいに、涙と鼻水で顔がグシャグシャだ。
人目を気にせずに、あうう。あううと鳴き声をあげるひな。
さすがにかわいそうだったか。良心が痛んだ俺は、ひなが泣き止むまで胸を貸した俺だった。
ひなの泣き顔は、某海賊漫画のヒロイン達の泣き顔みたいな感じです。
ひなは、暗いだけは平気なんですが、お化けや妖怪という類いのものは大嫌いなんです。




