挿話 ひなさんから重大発表です。
九月一日。きょうから二学期だ。
朝飯を食べて制服に袖を通して、歯磨きを済ませた。まだ時間があったから、ぼんやりとニュースをチェックしてたら、インタホンが鳴った。
相手は確かめなくても分かる。
ドアを開けるとひなが立っていた。
一学期は駅で合流する事が多かったけど、今日からはひなが俺ん家に寄ってから、一緒に行く事になっているんだ。
「 お早う、仁」
「お早う、ひな 」
挨拶を交わすと自然と手をつないでしまう。お互い顔を見合せて真っ赤になりつつも歩いて、駅を目指した。
――渉と長谷川にバカップルって冷やかしてたけど、今の俺らって渉と長谷川以上だよな。
とそんな事考えてたらいつの間にか、駅に着いていた。
ホームには、一足先に来ていた渉と長谷川がいた。
「お早う、渉、長谷川」
「「 お早う、バカップル」」
――いつぞや“バカップル”て言った仕返しだろうか? まぁいいか。
少ししてやって来た電車に乗り、俺達は一学期と変わらずバカな話をしながら学校へ向かったのだった。
―――
俺達が学校へ着くと、教室には人だかりが出来ていた。それも女子ばかりだ。
その中から野村が這いずり出てきて、
ちょっと来てと、俺とひなを引っ張っていく。そのまま黒板の前に立たされた。
黒板には、『 中島中の嫌味姫こと、服部ひなが、ついに婚約した!』
って書いてあるんだよ。
スポーツ新聞の一面かよ!
とか頭ん中でツッコミ入れていたら、ショートカットの女子がひなに詰め寄る。
ひなと仲いいやつの1人で名前は信田圭という。
「 服部。音無くんと婚約したというのはマジ?」
「マジじゃけど、何?この騒ぎ。私が婚約するんがそんなに変?」
「変!ねー皆」
と信田がそうふると、一部の女子が頷いた。ひなや長谷川と中学から一緒の連中だ。
「 服部は、男いなくてもやってけるでしょ? なのに急に婚約なんてするなんて、おかしいでしょ」
信田が言った端から「そうだ」と言う声や力づよく首肯く奴ら。
長谷川や野村以外は事情知らないから、勝手な事言ってんだろうな。
服部ひなは強い。だから男なんかいなくていい。中学からの同級生達は、自分達の勝手なイメージをひなに押し付けてるんだろうけど、ひなにはひなの事情ってものがあるんだ。
「 服部は男にすり寄るなんてあり得ないんだ。それを幼なじみというくそ羨ましいポジションにいた音無が、かっさらいやがった! 音無ん家はあの音無総合病院だからな!実家の力を使って、服部をものにしたんだろ!」
今度は俺に渉を除く男子全員から怒りの矛先が向けらたんだけど。
「 俺の実家関係ありゃせんわ。それに実家の病院の跡取りは、残念ながら、俺の妹じゃ。じゃけ、俺が実家の力を使ってどうのなんて出来んわ。広瀬!お前その事知らない訳がないじゃろうが」
さっき俺に言いがかりつけてきた奴。広瀬にそう言った。
俺とは違うクラスだったけど、雫のやつと同じクラスだったから雫が音無総合病院の跡取りだって知らない訳がないんだ。
「 …‥そうだよ。知ってるよ。あの破天荒女が言ってからな。服部を取られて悔しいから言ってみただけだよ」
「 あーほうかい」
呆れて何も言う気にもならん。だけど、ひなは今のにキレたみたいだ。
「 あんたらねー。さっきから好き勝手な事言うてくれとるけどねー。私にはねー、服部工業という大企業のあとを継ぐっていう大事な使命があるわけよじゃけぇ婚約者の一人や二人おってもおかしくないじゃろ!」
さっきまでと売ってかわってし~んとなったよ。
そうりゃそうだな。ペロッと重大な秘密をしゃべらちゃな。し~んってなるわ。
「 服部、今の本当?」
「 えっうん。本当。母親が社長。ついでに言うと、民自党副総裁の服部政治。あれ父親ね」
もうどうでもよくなったのか、ひなのやつトップシークレットまでぶっちゃけてるよ。
渉、長谷川、そしてつい最近知った野村を除くクラスメイト全員が驚いてるよ。
ちなみにひなは、絶対信用出来る人間にしか自分の事情を明かしてないみたいだな。
「 マジか?」
「 服部がお嬢様。あり得ない」
担任が来るまで騒がしかった教室。まあ事実を知ったところで、皆の態度は変わらなかったけど。




